八神ゆとりの日常   作:ヤシロさん

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とりあえず今は5話まで出来ています。
一日一話は制作速度的に無理ですが、一週間に二話はいけるように努力していくつもりです。

あ、ちなみに無印からのスタートです。


第一話 基本的な彼女たちの朝

一人の少女が運命の出会いを果たす。

赤い宝石を手に、彼女は全ての始まりを告げる言葉を紡ぐ。

 

 風は空に 星は天に

 

 不屈の心は この胸に

 

『レイジングハート、セット、アーップ!』

 

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

「・・・・・・変な夢や」

 

まどろみの中、先ほどまで見ていた妙な夢の感想と共に目が覚めた。

 カーテンの開いた窓から差し込む日差しが眩しい。思わず目を細めながら辺りを見渡せば、ここが見慣れた妹のはやてちゃんの部屋だとすぐに思い出す。

 

 ほぼ毎日、昨日の夜も一緒に寝ていたはずのはやてちゃんの姿は既になく、それを確認して寝起きで気だるい体を起こし、寝ぼけた目を擦りながら、いまだ脳裏にこびり付く奇妙な夢を思い浮かべた。

 

黒い化け物に立ち向かう、一人の少女と一匹の……ねずみさん?

少女の叫びと共に天を貫く光の柱が現れ、少女は魔法の力を手にした。

 

 ・・・・・・変な夢やー。

 

「ゆめ、見て、でも夢が、はやてちゃん朝やし・・・・・・」

 

そんな意味の無い言葉を呟いているが、その間にも重い瞼は徐々に下りて、再び夢の中へと迷い込んでいきそうになる。

 

 八神ゆとりの朝は遅い。

 虚弱体質のせいか、もともと朝に弱いのか。寝付きの良さに比例して寝起きはかなり悪く、言動に統一がないのもそのせいで、おそらく夢の内容もすぐに忘れてしまうだろう。

 現在の時刻は午前十時を半刻ほど過ぎており、一緒に寝ていた妹はとっくの昔に起きて朝食を食べ終えている頃だ。

 

本来なら二人の年齢を考えると、今は小学校で授業を受けている時間のはずだ。

しかし、病弱であまり外に出れないゆとりと、足に障害を持つはやて。

両親が生きていればまた違っただろうが、大人の力を借りずにようやく普段の生活を送れるようになった二人にとって、学校に通う余裕などあるはずもない。

 

「・・・・・・もう、寝よ」

 

 一、二分ほど眠気と格闘していたが、結局自分の睡眠欲には勝てないらしい。

 眠いからしょうがないよね、我慢は体に悪いから仕方ないよねと言い訳を並べて、あっさりと再び眠りに落ちて行く。

 そして―――

 

 ガツンッと痛そうな音を立てながら、ベッドに落ちた。

 

「あ、うぅ・・・・・・痛い」

 

 ぶつけた鼻を押さえながら起き上る。

 眠気は完全に吹き飛んだが、代わりに鈍い痛みが鼻を刺激して涙目になる。

 幸いにもベッドはそれほど高さが無かったし、鼻血が出るという事にはならなかったから、まだ痛む鼻を押さえて部屋を出る事にした。

 

 

「・・・・・・おはよふ」

「あ、お姉ちゃん、やっと起きてきたんや。おはようさんって、どないしたん!?」

 

 鼻を押さえて涙目になって起きて来た姉の姿に、ソファーに座って寛いでいたはやてちゃんが目を丸くして驚いていた。

 

「ベッドからおちた・・・・・・」

「え!? 大丈夫なん? 鼻見せて」

 

 素直にベッドから落ちた事を話すと慌てるはやてちゃん。

 大丈夫やよーと答えて、はやてちゃんも私の鼻が少し赤くなっているだけだと知り、安堵のため息を漏らした。

 

「姉ちゃんお寝坊さんやから、きっと神様が罰を与えたんやなー」

「そんな意地悪な神様なんて、私はいらへんよ」

「もう、そないなこと言うとると本当に罰が当たってまうよ?」

「それは勘弁や。神様ごめんなー、私は大好きや」

「姉ちゃん、いくらなんでも調子良すぎやない?」

 

 そんな他愛のない会話をしながら、はやてちゃんが用意してくれた朝食を食べる。

 

 白米に味噌汁、おかずにはさんまの塩焼きと小学生が用意するには、なかなか豪華な和食料理を前に私のお腹が空腹を知らせてきた。

 さっそく朝食を味わうために、箸に手を伸ばす。

 

「今日のご飯は自信作やけど、どうや?」

「めっちゃ美味しいわー。これはもう免許皆伝を渡してもええレベルやね」

 

 小食の私でも、箸が進むくらい美味しい。

 魚の焼き加減も味噌汁の濃さも文句のつけどころが無いし、味付けもちゃんとしてある。

 わずか九歳の少女が作った料理だと考えれば、充分過ぎる出来前だ。

 

「ほんま? でも、まだまだ姉ちゃんの料理には敵われへんよ」

「そんなことないと思うけど・・・・・・」

 

 今でも充分美味しいのに、はやてちゃん的にはまだまだ満足のいく出来ではないらしい。

 頑張るのはいいけど、すごく応援するけど、さすがにこのままだとお姉ちゃんとしての威厳とか立場がなくなってしまう。

 ・・・・・・頼れるお姉ちゃんを目指す身として、それはちょっと困る。

 

「んー、このままやとすぐに追い抜かれてまうかも。私も頑張らんとあかんなー。・・・・・・というわけで、今日の夕飯は楽しみにしとってな。新しく覚えた料理を食べさせてあげるから」

「ほんなら、お腹すかせて待っとるね」

 

普段食事を作ってくれる人がいないため、料理以外も洗濯に掃除と身の回りの事を自分達だけでやってきた二人の家事能力はかなり高い。

 もともとゆとりが一人で家事をしていたが、体が弱い事とちょっとした事件があって、今でははやてに家事を教えつつ、二人で協力して生活している。

 

「私はこれから図書館に行こうと思うんやけど、姉ちゃんはどうするん?」

「んー、今日はおじいちゃん達とゲートボールする約束あるから、一緒には行かれへん」

「そうなんや。大丈夫なん? 一人でちゃんと行ける?」

「当たり前やん。はやてちゃんは心配しすぎや」

「お願いやから、一昨日迷子になった事を思い出してほしいわ」

 

 どうやら今日の予定はバラバラになってしまうらしい。ちょっと残念。

 

仲の良い姉妹といっても、常に一緒にいるわけではない。

いろいろな本を読むのが好きなはやてはよく図書館に行くし、ゆとりは体が弱いが基本的に行動力があって体を動かすことが好きなため、体調が良い時はよく散歩に行ったり、近所のおじいちゃんおばあちゃん達と遊んでいることが多い。

もっとも、その次の日に筋肉痛&熱に高い確率でなるため、月に数度と自重しているが。

 

「まあ、今日はお爺ちゃんお婆ちゃん達も一緒やし、大丈夫やよね。うん、大丈夫のはず」

 

自分に言い聞かせるように言う妹の姿に、信用ないなーとちょっと凹みつつ、それでも一応自覚はしているので苦笑するしかない。

 

「あ、そろそろ出かけんと、約束の時間に間に合わへん」

「そうなん? それなら、私も出かけようかな。でも、その前に・・・・・・」

「ん? どないしたん?」

「姉ちゃん、お願いやからその格好で外に出んといてな」

 

 格好? と自分の姿を見下ろすが、いつもの寝巻き姿で特に問題はないはずだけど。

 

「いやいや、お願いやから首傾げんといて。そんな不思議そうな顔せんといてーな。今の姉ちゃんみたら、みんな鼻血出してまうわ」

「そ、そんな、大げさな・・・・・・。はやてちゃんかて、鼻血出しとらんやん」

「いや、私は慣れただけで、今の姉ちゃんってめっちゃエロいんよ? 裸ワイシャツとかめっちゃエロいわー」

 

そんなこと言われても、これがいつもの格好なので困る。

寝る時はラフな格好が好きな私にとって、父の残したワイシャツは寝巻きにはぴったりだった。通気性とか、服の軽さとか、あとお父さんの匂いとか。

大きすぎてワンピースみたいになっているけど、逆にそれが気に入っていたりする。

だから、寝る前に閉めたはずの前のボタンが全部開いていたり、そのせいでワイシャツの隙間から見える白い肌や、小学四年生にしては発育の早い胸がちらちらと見えていたとしてもあまり気にした事がない。

別に子供なんやから、大丈夫やないかなとすら思っている。

 

そんな姉の心情が手に取るようにわかるからこそ、はやてとしては困りものだった。

正直、同姓兼妹のはやてから見ても、今の姉の格好はエロい。

 

姉の容姿と合わせれば、鼻血を出してしまうほど萌えなんだろうが、屈んだ時とかちょっとした動作で見えるさくらんぼとか、指についた塩を舐める姿とか、けっこうドギマギさせられることが多い。

 

恋愛小説やいろいろな本を読んでそういう知識を持つ耳年増なはやてと違い、生々しくない夢物語のような恋愛小説を好み、同い年の異性と交流がないゆとりには、そういう知識も皆無に等しければ、異性に対する羞恥心も殆どないと言ってもいい。

 

その純粋さが姉の魅力なのだとわかっているが、妹としてはそろそろ羞恥心を持ってもらわないと危ない気が、でも(ry

 

「あ、寝癖も直さなあかんよ。ほら、髪梳いてあげるから座って」

「うん、ありがとなー」

 

 言われた通り椅子に座って、はやてちゃんに身を委ねる。

 自分の髪に櫛が通される感触が気持ちよく、自然と口が緩んでいた。

 

「相変わらず、姉ちゃんの髪はきれいやなー。さらさらやし、雪みたいに真っ白できれいやし。ちょっと羨ましいわ」

 

 そう言いながら、はやてちゃんが私の髪を撫でる。

 初雪のような真っ白な髪にはやてちゃん手が触れる度に揺れ、朝日に反射してきらきらと舞った。

 

 丁寧に慎重に。

 まるで乱暴にすれば壊れてしまう。そう思わせるような手つきで、寝癖を直していく。

はやてちゃんに髪を梳いてもらうことが人生のベスト5に入るほど好きな私にとって、今の時間はまさに至福の時だった。

 

「でも、この前男の子に変だーって言われたんよ?」

「なんやて? 誰や、そないなこと言ったんわ!? 私が絞めたる!」

「暴力はあかんよ。それに言ったのはやてちゃんより小さい子やし、私はあんまり気にしてないから大丈夫や」

「いーや、私が大丈夫やない! こんな可愛い姉ちゃんを馬鹿にするなんて、許せへんわ」

「もう、大げさやよ、はやてちゃん」

「大げさやない。髪なんてこんなに白くて綺麗やし、蒼い目だって宝石みたいにキラキラしてて、まるでお人形さんみたいやん。同じ女として自信なくすわー」

「私ははやてちゃんの方が可愛い思うけど・・・・・・」

「いやいや、近所のお爺ちゃんお婆ちゃんの孫にしたい子ナンバー1をここ数年独占して、『町内会の天使』とすら呼ばれとる姉ちゃんに言われても説得力ないわ」

 

え? 何それ聞いてない。

というか何から突っ込めばいいやら。とりあえず孫うんぬんとか、随分限定された天使やなーとか言いたいことはたくさんあるが、面倒そうなのでやめる。

 

「はい、おしまいや」

「気持ちよかったわ。ありがとなーはやてちゃん」

「うん、とりあえずお辞儀せんといて。いろいろ見えとるから」

 

そんなこんなで着替えて、二人揃って外に出る。

空は青く、お日様も気持ちがいい。やっぱり春が一番好きな季節だ。

はやてちゃんがいて、こうして車椅子を私が押してあげながら二人でお出かけして、いつまでもこんな平和な日々がずーと続いたらいいな。

 

 

そう思っていた。

 

だから、この時、私は今朝見た夢のことなんて、すっかり忘れてしまっていた。

あれが私達姉妹の生活を劇的な変化をもたらす前触れとも気づかずに

 

 


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