無印原作はここまで進んでました的な。
Side フェイト
ロストロギア、ジュエルシードを集める。
それが母さんの願いで、私の目的。
今、母さんはとっても難しい研究をしている。
私やアルフにもどういう研究なのか理解できなくて、でも、いつも忙しそうにしている母さんを見ていると少しでも力になりたいと思った。
ほんの僅かでも、私の頑張りで母さんの研究のお手伝いができたらいい。
完成して、また昔のように笑ってほしい。
そう思って、私は母さんのために頑張ると決めた。
私にはそのための力がある。
リニスに教えてもらった魔法と、私の振う剣であり支える杖でもある愛機バルディッシュ。
それに、いつも私を応援してくれる心強い仲間のアルフも一緒だ。
私達ならどんな困難も乗り越えられる。
今は少し辛いけど、きっとこのジュエルシードを集め終えて、母さんの研究が完成すれば、また一緒に笑って幸せな毎日を送る日々が始まるはずだから。
だから、私は絶対に負けられないんだ・・・・・・。
・・・・・・例えどんな障害があっても、負けるわけにはいかないんだ。
「フェイトちゃん」
名前を呼ばれた。
私の、母さんがつけてくれた大切な名前。
まっすぐで優しい、あの子とは少しだけ違う瞳が私を見つめる。
名前は確か―――高町なのは。
この管理外世界で出会った、白い魔導師の女の子。
ジュエルシードを集めている最中に出会った、私の敵。
これまでも同じ目的、ジュエルシードを巡って何度も戦ってきた。
初めは圧勝で、次はちょっと善戦された。
そして、三度目は少し苦戦した。
信じられない才能だと思う。
何年もリニスとアルフ、バルディッシュと一緒に学んで戦ってきた私に、この子はもう追いつき始めている。
きっとこのままいけば、将来は有望な魔導師になるかもしれない。
それでも、負けるつもりはないけど・・・・・・。
「ジュエルシードは、譲れないから」
「私も譲れない。理由が聞きたいから、どうしてジュエルシードを集めてるのか。なんでそんなに悲しい目をしてるのか」
お互いに愛機を構える。
これが四度目の戦い。
何度もぶつかり合ったいかげで、目の前の女の子がどういう子なのか、少しだけ分かって来た気がする。
どれだけ倒しても、どれだけ突き放しても、まるで不屈を体現したように何度でも立ち向かってくる。
「私が勝ったら、お話を聞かせて」
「・・・・・・っ」
優しい子だ。
私は敵のはずなのに、たくさん酷い事をしたはずなのに。
それなのに、今も私の事を気遣ってくれる。
でも、私はその想いに答える事はできない。
私は母さんの願いを叶えるって決めたから、ここで譲るという選択肢はない。
だから、絶対に負けないッ!
「はぁぁああああああああああッ!!」
「やぁぁああああああああああッ!!」
飛び出したのは同時。
私達の間にあった距離を一気に詰めて、ぶつかり合う。
しかし―――、
直後、突然青い光が私達の間に現れた。
そして、
「ストップだ!!ここでの戦闘は危険過ぎる」
光の中から現れた男の子が告げた。
「時空管理局執務官、クロノ・ハラウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおうか」
時空管理局っ!?
どうしてここにとは思わない。
ロストロギアの回収は時空管理局の仕事の一つだから、ロストロギアが管理外世界に散らばったとなれば回収しに来るのは当たり前の事だ。
特に、先日私達が争った時にジュエルシードが暴走して起こした次元震のことを考えれば、いつ管理局が来てもおかしくなかった。
でも、どうしてこんな時に!?
あともう少しで、母さんの願いが叶えられるのにっ!!
そんな思考が、私の動きを一瞬だけ鈍らせる。
そして、それは執務官と名乗った男の子、クロノが私を捕らえるには十分な時間で。
「―――っ!?」
気付けば、私の手足には青い拘束魔法(バインド)が付けられていた。
まずい。
まずいまずいまずいまずいまずいまずい!!?
「まずは二人とも、大人しく武器を引くんだ」
クロノがそう告げるが、従う訳にはいかない。
ここで捕まれば、確実に私は母さんの願いを叶える事が出来なくなるからだ。
綿密かつ高い魔力で編み込まれた魔法が、彼の魔導師としての格を証明している。
少なくとも、私の力だけで逃げ切るのは無理だ。
きっとバインドを解こうとした瞬間に、私はやられる。
もっとも、それは私一人の場合なのだが。
「フェイト! 撤退するよ!!」
この場には、私にはまだ仲間がいる。
今まで遠巻きに私となのはの戦闘を見ていたアルフが、絶妙のタイミングで魔力弾を放つ。
それと同時に、私も動き出した。
クロノのバインドは、彼がアルフの魔力弾を防いでるおかげで操作が甘くなったことで強引に解く事が出来た。
彼の実力を考えればアルフに反撃する事も出来たのだろうが、ちょうど彼の真後ろにはまだバインドで縛られたなのはがいるため、攻撃を防ぐしかない。
悪いとは思うけど、謝ってる暇はないから。
このまま外へ飛び立てばいい。
速度でなら、私は絶対的な優位に立てる自信があるから。
だけど、私は愚かにもさらに欲を求めてしまった。
視界に入ったジュエルシードを見た時、逃げるよりも先に反射的に体がジュエルシードを求めて動いてしまった。
「フェイトッ!?」
この行動は使い魔のアルフでさえ、予想外の事だった。
主人を逃がすために行動したのに、いまだに逃げずに駈け出したフェイトの行動に集中力が途切れ、ほんの一瞬だけ張っていた弾幕が途切れてしまった。
ほんの些細な思惑の違いと、たった一度の判断の間違い。
その代償は、クロノの放った反撃の魔力弾によるフェイトへの痛撃だった。
「っあ!?」
背中と腕が焼き切れるような痛みに、悲鳴を上げる事もできずに倒れる。
激痛というにも生易しい痛みが全身に走り、点滅する視界がダメージの大きさを物語っていた。
しまったと思っても、あとの祭りだ。
もう体は動かないし、意識も混濁し始めている。
誰かに抱きつかれた。きっとアルフだ。
まるで私を守るように、ううん、私を守るためにぎゅっと強く抱きしめてくる。
逃げてと言いたい。
ごめんねと伝えたい。
この後の未来なんて、容易に想像できる。
数秒としない内に、肌で感じる集束されていく魔力が私達を襲うだろう。
抵抗して攻撃して、おまけに目の前でロストロギアを奪おうとしたんだ。
せめて、アルフだけでも逃がしたい。
そんな時、聞こえた。
「だめッ!! 撃っちゃだめッ!!」
「!?」
なのはの必死な声。
今にも泣きそうで、私達を守ろうと悲鳴に近い叫びを上げている。
そんな彼女の声に、クロノは思わず硬直してしまった。
彼だって正義を名乗るだけあって、負傷した年下の女の子相手に更なる追撃を加えたいわけではない。
職務だからとか、攻撃されたとか関係なく、女の子を傷つけた事実が否応なく良心を抉る。
そこへ敵対していたはずのなのはにまで攻撃するのを止めるように懇願されれば、今まで必死に誤魔化してきた罪悪感が顔を覗かせ、結果としてフェイト達に逃げる時間を与えてしまった。
遠ざかる二人の背中を見て、クロノは失敗したと自己嫌悪をするのだった。
Side out…
★★★
Side アルフ
(ごめん、ごめんよフェイト・・・・・・)
本拠地にしているアパートの一室で、私は必死にフェイトの看病をしていた。
記憶にある知識と経験を屈指し、少しでもフェイトが楽になれるようにと治療を続ける。
流れる血を止めるために止血した。
開いた傷を塞ぐために回復魔法を使った。
何度も何度も玉のように浮き出る汗を拭きとった。
それでも、ぐったりと横たわるフェイトの症状は良くなる気配をみせない。
くそっ、ちくしょうっ!! あの鬼ババアさえいなけりゃ、管理局さえ来なけりゃ! 私がもっとしっかりしてれば・・・・・・!!
どれだけ後悔しても、時間が巻き戻るわけではない。
ボロボロになった大切で大好きな主が、回復するわけじゃない。
執務官と名乗ったあのクソガキが撃った魔力弾は、たぶん非殺傷設定になっていたはずだ。
違えば、フェイトの怪我はもっと深くて致命的なはずだから。
だけど、当たり所が悪かった。
どれだけ非殺傷でも、魔力弾の衝撃とダメージが無くなるわけではない。
特に直撃した左腕と背中の傷は、他の場所よりも酷かった。
あの鬼ババアから受けた虐待の傷も、最近無茶して出来た傷もまだ残っているのに、そこへさらに攻撃を受けたのだ。
さらにさらに、アルフは回復魔法が得意な方ではなかった。
今はフェイトの中後衛としてのサポートをしているが、それはアルフが空でフェイトの速度についていけないからで、どちらかというともとが陸生の狼だけあってアルフの得意とする領域は戦闘面で発揮してくる。
だから、回復魔法は使えるだけで、得意という訳ではないのだ。
その事を本人も自覚しているから、余計に歯噛みしてしまう。
(・・・・・・とにかく、今は回復に専念しないと)
魔力を分散させていても効率が悪い。
せめて一番ひどい背中の怪我だけでも治す事にして、魔力を集中させていく。
(思いっきり魔力が使えれば・・・・・・)
そうすれば多少無理してでも、フェイトの傷を塞ぐ事くらいは出来るはずだ。
でも、先の戦闘で消費した魔力と管理局の捜査の手が伸びる事を考えれば、どうしても躊躇ってしまう。
きっとフェイトは止まらない。
どれだけ傷ついても、いくら私が止めても、きっと最後には無理して頑張ろうとする。
なら、せめてその時くらいは万全とはいかなくても、安全な状態でいさせてあげたい。
いっその事、二人で逃げてもいい。
フェイトは嫌がるかもしれないけど、私はフェイトが幸せになれるなら何もかも捨てても良いと思ってる。
「って、ああ、もうっ!? 集中できないよ! 余計な事を考えるな私、今はとにかくフェイトを回復させないと。治れ・・・・・・治れ・・・・・・もっと治れ・・・・・・」
治れと念じる。
特に意味ないが、なんとなく言葉にした方が早く治る気がしたからだ。
ふと、そういえばと思い出す。
以前、フェイトが一度だけ体中にあった傷をきれいさっぱり無くして来た事があった。
今みたいに酷い怪我ではないが、それでも私の回復魔法が追いつかない怪我だったはずなのに、まるで初めから無かったかのように全て消えていた。
その事について、当然私は疑問に思った。
フェイトには回復魔法の素質はなかったはずで、だとしてもあの白い魔導師の子に治してもらったとも思えない。
だから、私はフェイトに聞いたんだ。
そして、あの時フェイトはなんて答えたんだっけ?
えーと、確か・・・・・・そう、あの時はこっちに来て初めて嬉しそうに笑って言ったんだ。
治してもらったって言ってた。
誰に ?・・・・・・名前は、確か私も知ってて・・・・・・それは・・・・・・あの白い、白い女の子だ。
名前は―――ゆとり―――
「あ、ああぁ!?」
思い出した!
そう、フェイトはあのゆとりって子に傷を治してもらったって言ってたんだった!!
何で忘れてたんだよ、私は!
あの時、私も会って、頭まで撫でてたじゃないか!?
この状況を改善できるなら、ゆとりの回復魔法以外には他にない。
幸い、私とゆとりには面識がある。
フェイトが怪我したって伝えれば、きっと治してくれるはず。もし嫌だって言われれば、土下座するなり私の体を差し出せばいい。
とにかく、フェイトを治す事が最優先事項なんだ。
決まれば、すぐに出かける準備を済ませる。
そして、いまだにベッドで苦しそうにしているフェイトに向けて一言謝って、外へと飛び出す。
「ごめんね、フェイト。すぐにゆとりを連れて戻って来るから。そうすれば、きっとフェイトの傷も良くなるから。だから、待ってて!」
それから私がゆとりの居場所を知らない事に気付くのに十分。
頭を抱える暇も惜しく、とりあえず自分で自分を殴って、必死に街中を駆け巡ってゆとりを見つけるのに三十分。
いろいろ一悶着あったけど、無事にゆとりを抱えて(誤字にあらず)戻ってくるのに十分。
合計で一時間も掛からなかったのは、ある意味奇跡としか言いようがなかった。
Side out…
というわけで、ようやくフェイトちゃん再登場。
もうそろそろ無印クライマックスなので、フェイトちゃんとの絡みも大詰めになりそうです。