仕事疲れで風邪引いてました。
とりあえず、そろそろ無印を終わりにしたいと思います。
それと今回ちょっとした過去も入ります。
◇◇◇
ジュージュー、とお肉の焼ける音が聞こえる。
フライパンの上では不恰好なハンバーグが油を飛ばし、キッチンに香ばしく美味しそうな匂いで満たした。
いい感じに焦げ目のついたハンバーグを睨みながら、私はもう一度メモを確認する。
あんまり上手な字じゃないけど、一生懸命書いた料理のメモ。その一行一行に目を通して抜けた項目がないかを見て、よしっと一息ついた。
ちゃんとできてる、はず。
教わった事を復習して、何度も失敗してようやく出来上がるのだ。
ずっと待たせてる妹にはとてもごめんなさいだけど、出来ればちゃんとした美味しいご飯を食べて欲しいから、そう思って頑張って作ってきた。
私には大きくて、重たいフライパンを振るった。
危なっかしい手つきだけど、野菜も均等に切れるようになってきた。
たくさん教えてもらって、たくさん練習してきた。
それもただ妹に、はやてちゃんに笑ってほしいから。
お母さんの料理はとっても美味しくて、食卓を囲む時はお父さんもはやてちゃんも私も、みんな笑顔になれた。
美味しいねって言うと、お母さんはありがとうって言ってくれた。
それだけで笑顔になれたんだ。
だから、また、あの頃みたいに―――笑うことが出来るようになれば、またいつかきっと・・・・・・。
「よいっしょっと・・・・・・できた!」
フライパンからお肉をお皿に移して乗せる。
ちょっとこげちゃったけど、でも大丈夫なはずだもん。
ご飯をよそって、お味噌汁も用意して、最後に出来立てのハンバーグを並べてリビングへと急ぐ。
机にはもうはやてちゃんが座っていて、私が来たことに気づいたようでテレビから目を離して、こちらを見る。
「・・・・・・おそい」
「ご、ごめんね、はやてちゃん」
「・・・・・・おなかへった」
「う、うん。今用意するからね」
あうぅ、いつもより三十分も遅刻しちゃったから、はやてちゃんが不機嫌になっちゃった。
ぺこぺこと謝りながら出来立ての料理をテーブルの上に並べていく。
ご飯を前にして、はやてちゃんも少しは機嫌を直してくれたようで、一緒にいただきますを言ってから箸に手を伸ばした。
はやてちゃんが最初に手をつけたのは、今日のメインであるハンバーグだ。
どきどきと緊張しながら私ははやてちゃんがハンバーグを口にしてくれるのを待つ。そして―――、
「・・・・・・まずい」
「・・・・・・え?」
口に入れてから数秒と経たずに箸を止め、顔をしかめながらはやてちゃんが口を開いた。
「なんやのこれ? 味ないんやけど・・・・・・」
「え? そ、そんなはずは・・・・・・うぐっ」
食べてみてわかった。
お肉の味がする。お肉の味しかしなかった。しかも、中の方が上手く火が通っていなくて、半焼け程度になってしまっている。
味付け・・・・・・忘れてたぁ。
「ご飯もなんや、かたいし」
「あう・・・・・・」
「おみそしるは辛いし」
「あうぅ・・・・・・ご、ごめんね、はやてちゃん」
思わず情けない声で謝ってしまう。
それが益々気に入らなかったのか、はやてちゃんは完全に機嫌を損ねちゃったようで、箸を置くと座っていた車椅子を動かして、テーブルから離れていってしまう。
「あ、あの、はやてちゃん。・・・・・・ご、ご飯は?」
「・・・・・・いらへん。私、パンでも食べるわ」
「あ、あう・・・・・・でも、ほら。昨日もパンだったし、今日はちゃんとしたの食べないと体に悪いし・・・・・・」
悔しいと、思う。
全然だめだった。お母さんみたいにやろうと思っても、どれだけ練習しても全く上手になれない。
私には料理の才能がないのかな?・・・・・・でも、はやてちゃんには健康でいて欲しいから。笑っていてほしいから。もう誰にもいなくなってほしくないから。
これしか、私に出来る事が、お母さんが作ってくれた料理しか思いつかないから。だから―――、
「こ、今度こそは、お姉ちゃんがちゃんとご飯作るから、ね。だから・・・・・・」
「・・・・・・お母さんの方がええ」
「―――っ」
ずきりっ。
「私、お母さんのご飯が食べたい・・・・・・」
「・・・・・・」
ずきん、ずきん。
痛い。胸が、とても痛い。
「・・・・・・ごめんね、はやてちゃん」
リビングを出て行くはやてちゃんの寂しく悲しそうな顔が脳裏を離れない。
また、あんな顔をさせてしまった。また泣かせてしまった。
「・・・・・・私じゃだめなのかな、お母さん」
心が折れそうだった。
◇◇◇
◆◆◆
ジュージューとお肉の焼ける音がする。
フライパンの上でいい感じに焼けていくハンバーグが肉汁を滴らせ、作ってる私までお腹が減ってくるくらいの香ばしい匂いを漂わせている。
去年はやてちゃんに買ってあげたフライパンを操り、手首のスナップでハンバーグをひっくり返す。同時に煮ていたコンソメスープに隠し味とかいろいろ試作品を入れながら味見をする。
「うん、美味しい」
お婆ちゃん達から教わった美味しくなる調理法を私なりに改造してみたけど、どうやら成功したみたい。これならはやてちゃんも喜んでくれるよね。
作った料理をお皿に乗せ、きれいに整えていく。
料理は見栄えも大事なのだ。とお爺ちゃん達が言っていた。
「よし、出来た!」
完璧! とはまだ言えないけど、上出来ではある。
あとはハンバーグにゆとり特製のソースをかければもっとおいしくなるはず。
うんうんと納得の出来に満足しながら、ふと時計を見るともうすぐ午後の六時になろうとしていたところだった。
時間からして、そろそろはやてちゃんが病院の定期検診から帰ってくる頃だろう。
ちょっとでも良い結果が出てたらいいなぁなんて考えながら、火元を止めてキッチンを出る。と、そこで良い事をひらめいた。
「そうや、お迎えに行こう」
家で待ってて「おかえり」を言うのもいいけど、私はもっと早くはやてちゃんに会いたい。
それにはやてちゃんも寂しがりやの所もあるし、暗い所がちょい苦手なのも知っとるから、一緒に帰り道を歩ければお互いに楽しいはずやよね。
そうと決めれば、さっそくお出かけの準備をする。
といっても、体が冷えないように上着を着て、戸締りして電気を消すだけなんだけど。
幸い、家から病院行きのバスが出るバス停までの距離はあんまりない。
せいぜい徒歩で十五分くらいだから、すぐに着くだろう。もし先にはやてちゃんが着いちゃってても、家からバス停までの道は一本道だからすれ違うこともない。
ちゃんと鍵をかけてから、バス停へと向かう。
楽しい事が待っていると思うと不思議なもので、夜に一人で歩いていても不安にならないし、いつもは億劫な距離も短く感じてしまう。
その証拠に、バス停まであっさりと着いてしまった。
どうやらはやてちゃんはまだ着いてないようで、街灯に照らされた無人のバス停が寂しくそこにある。
朝とかはバスに乗る人がけっこういるのだけど、さすがに夜となると誰もいないようだ。
はやてちゃんが来るまでベンチに座って待つ事にする。
待っている間はやる事がないから、ちょっと暇だ。そうなると今度はいろいろと考え事が浮かんできてしまう。
・・・・・・はやてちゃん、新作のご飯は喜んでくれるやろうか?
今日はちょっと張り切ったから、いつもよりも美味しく出来てると思うけど、はやてちゃんが食べた時の顔を早く見てみたいな。
やっぱり「美味しい」って言ってくれて、笑顔を見せてくれるのが一番嬉しいのだ。
それだけで私は明日も頑張れる!
なんて、ちょっと頬が緩んでにまにましちゃうんだけど。ええよね?
今はもう日が沈んで暗いから私の表情はあんまり見えないだろうし、周りに人も見当たらない。
アリサちゃんが見たら変な顔ってひどい事言われるかもしれへんけど、今はそのアリサちゃんも誰もいないから大丈夫。
だから、私はもっとはやてちゃんが喜ぶ姿を想像しようとして、
「―――ゆとり!」
「うひゃぁあああああああああああああっ!!??」
突然肩に置かれた手と共にかけられた声に盛大に驚いた。
それはもう、ここ数年で出した中でも一番大きいかもしれない悲鳴を上げながら。
「ちょっ、わっ!? い、いきなり大声出さないでおくれよ。びっくりしたじゃないか!!」
「あう? あう!?」
私も同じ意見だけど、びっくりし過ぎて上手く言葉に出来ない。
だって、誰もいないと思ってたところにいきなり声をかけられたんだもん。今もまだ心臓がどきどきしてて、何が起こったかよくわかってない。
と、そんな私の様子を見かねたのか、声を掛けてきた犯人は私の正面にやってきて、私と目を合わせながらもう一度声を掛けてきた。
「あー、ほらほら落ち着きなって。あたしだよ、あたし」
「え? ・・・・・・え?」
「なんだ、忘れちまったのかい? ほら、ちょっと前に会ったじゃないか。フェイトと一緒に」
「・・・・・・あ」
その名前を聞いて、ようやく私も落ち着いてきた。
フェイトとは、この前出会った魔法使いの女の子の名前だ。
とてもきれいな金髪を左右で結った、同い年くらいの可愛い女の子。
まだはやてちゃんにもアリサちゃんにも話していない、私だけの秘密の知り合い。
同時に、目の前にいる女性のことも思い出す。
オレンジ色の長髪にアリサちゃんのような勝気の強い瞳。
頭に生えた犬耳?には見覚えないけど、その活発的な喋り方を忘れるわけがない。
「・・・・・・アルフ、さん?」
「おっ、ちゃんと覚えててくれたんだねって、そういえば、まだちゃんと自己紹介してなかったっけ? あたしはアルフ。フェイトの使い魔さ」
「ツカイマ・・・・・・?」
知らない、と思ったけどどこかで聞いたような響きの言葉だ。
ええっと・・・・・・フェイトちゃんのツカイマだから・・・・・・あっ!
「黒猫さんだ!」
「いや、あたしは狼だけど?」
「・・・・・・えっ?」
「・・・・・・ん?」
あれ? 魔法使いさんの使い魔って黒猫さんじゃないん?
というか狼さんって、アルフさんは人間やないの?
そんな疑問が浮かんだけど、まず先にやらなきゃいけないことを思い出す。びっくりさせられたせいで忘れていた。
「今さらやけど、こんばんわ。アルフさん」
「ああ、うん。こんばんわ」
挨拶は大事。
お互いに挨拶を交し合ったから、当然真っ先に浮かんできた疑問を聞くことにした。
「それで、アルフさんはどないしてここに?」
「ん? それはえーと・・・・・・?」
「あっ、もしかして、あの青い石を探しとるん?」
「青い石って、ああっ、ジュエルシードのことかい? まあ探してるって言えば探してるんだけど、今は別の用事があってね。ちょっと急いでるんだよ」
そうなんや。
なんやか慌てた様子だったから、ジュエルシードとかいうのが見つかりそうなんやと思ったんやけど、違ってたんだ。
急いどるんやったら、あんまり引き止めるのも悪いよね。声を掛けてきたのはアルフさんだけど。
「それじゃあ、あんまりおしゃべりしとったらだめですね」
「それもそうだね。それじゃあね、ゆとり。さっきは驚かせちまってごめんよ」
「うん、ばいばいアルフさん。元気でね」
「ああ、ゆとりもね!」
なんだかあっという間の再開と別れで名残惜しいけど、素直に見送ることにする。
結局用事がなんだったのかわからないけど、きっとフェイトちゃんのことじゃないかななんて、つい考えてしまう。
だって、アルフさんとフェイトちゃんってすごく仲が良さそうだったもん。
そんな二人の姿を思い出しながら、なんだか微笑ましい気分ですごい勢いで遠くなっていくアルフさんの背中を見つめ、そして―――、
「―――って、そうじゃないよ!?」
「うひゃっ!?」
去って行った時と同じ速度で戻ってきたアルフさんに再び驚かされる事になった。
私の一歩手前で急ブレーキをかけて、そのまま私の両肩をアルフさんの手ががっしりと掴む。
絶対に逃がさない、なんて意思が強く感じられる手の強さに体を強張らせながら顔を上げると、私はアルフさんのさっきまでとは打って変わった今にも泣きそうな顔を見ることになった。
「ゆとり、今すぐ私と来ておくれ!」
「え? 今すぐ?」
突然の言葉に、私は反射的に道路の方を見た。
まだバスの姿はないけど、もうすぐはやてちゃんがここに帰ってくる。
バスから降りてきたはやてちゃんは私を見てちょっと驚いた後に、でもすぐに笑顔になって、今日はどんなことがあったとか、家に帰ったら新しい料理を作ってるんだよなんて話をしながら、楽しく一緒に帰るつもりだったのだ。
でも、そんな考えも、
「お願いだよ、ゆとりの力が必要なんだ!」
アルフさんの助けを求める声と聞かされた驚愕の事実に、
「フェイトが―――フェイトが大怪我したんだ!!」
「えっ? えぇぇえええええええええっ!?」
一瞬で吹き飛ぶことになった。
◇◇◇と白い四角が過去編の導入です。
ちなみにこれからちょくちょくと入っていく予定です。
過去と現在の差分を感じていただけたら、今後の話も少しだけ楽しくなるかも
え? 使い魔?
使い魔・・・魔法使い・・・宅急便・・・うっ、頭が!?