書く速度に難ありますが、がんばって書きます。
あと感想とかくれると、いろいろ参考になって助かります。
『姉ちゃん、今どこにおるん?』
携帯電話から、聞き慣れた関西弁の幼い少女の声が聞こえてくる。
最愛の妹の心配そうな声に、私は苦笑しながら答えた。
「えっとなー、実はまたやらかしてもうて・・・・・・」
『また迷子になったん!? 姉ちゃん、今月で三回目やで?』
「あ、あはは・・・・・・」
自分でも迷子になる確率の高さに笑うしかない。
これでも注意していたのだけど、外に出られる機会なんてあまりないから、ついいろんな物に興味を惹かれてしまい、気がついたら知らない場所にいたのだ。
『笑い事やあらへんよ。買い物に行ってから三時間も経っとるし、もう日が暮れる時間やからめっちゃ心配したんやで?』
不安そうにそう言われると申し訳なく思う。
妹に心配されるなんて、姉として失格だ。
「心配掛けてごめんなー、はやてちゃん。でも、もう少しで帰れる気がするんよ」
『相変わらず、姉ちゃんのその根拠のない自信はどこから来るんやろうな?』
声色に変化こそないけど、それでもはやてちゃんが怒っている事が分かる。
さすがに迷ってすぐに連絡しなかったのは失敗やったかな? でも、今日はなんだか大丈夫な気がしたんよ。
そんな言い訳を考えてしまうが、言えば更なるお叱りを受けるから絶対に言わない。
『やっぱり、私が買い物に行った方が良かったやん』
「せやけど、今日ははやてちゃんの定期検診の日やったし、足も悪いのにあんまり無茶させられへんよ」
私の言葉通り、はやてちゃんは幼い頃から足が不自由で、今も車椅子での生活を送りながら足の麻痺を直すために自宅から近くの病院へと通院治療を行っている。
麻痺の原因は不明。
事故に遭った訳でも病気にかかった訳でもなく、担当医の石田さんや他のお医者さん達も一生懸命になって原因を探してくれているけど、いまだに見つかっていない。
そんな妹にあまり無理な事をさせるなんて、姉として絶対にできない!
意気込む私に、はやてちゃんは呆れたように言う。
『あんな姉ちゃん、私の車椅子歴はこれでも結構長いんやで? 買い物くらい、ちゃんと一人でもできるわ。それに・・・・・・』
電話越しに言い淀む気配を感じた。
優しい子だから、きっと次に出てくる言葉が私を傷つけるんじゃないかと思っているんだろう。
そんなの気にせんでもええのにと思う反面、妹の気遣いがちょっと嬉しい。
『・・・・・・それに、姉ちゃんの方が体弱いやん』
そう、私ははやてちゃんよりも体が弱い。
生まれた時から病弱虚弱と体が弱く、幼い頃は熱を出しているのが当たり前。
高熱を出して病院に駆け込んだのは数え切れないし、それこそ亡くなった両親の手厚い看護がなければ、私は生きてここにはいなかっただろう。
今でこそ風邪を引く回数は減ったし、熱を出して病院のお世話になる事も少なくなったけど、それでも月に一度は必ず熱を出して倒れてしまう。
体力も筋力も、たぶん小学一年生の子よりも劣るかもしれない。
「心配してくれてありがとなー。でも、私は大丈夫やから」
これ以上心配掛けないようにと、ついそう言ってしまう。
本当は一ミリもその場から動いていないけど。腰と買い物袋を歩道の隅に下ろし、疲れて動かなくなった足を伸ばしながら電話をしている状態だけど。
『・・・・・・姉ちゃんの大丈夫はあんまり当てにならへんのやけどなー』
もしかしたら、今の状況も見透かされているかもしれない。
まあ、今の状況は私達姉妹にとって初めての事ではないから、それは仕方ない事。
でも大丈夫。いざとなったら―――、
『無理そうやったら、ちゃんとタクシーを呼ばなあかんよ?』
「それなら、もう呼んであるから大丈夫や」
さすがはやてちゃんや。こう言う時の対処法をよく熟知している。
と、そこで妹の怒気が増したのを感じてようやく自分の失言に気付いた。
『って、やっぱり大丈夫やなかったやん!? もう、姉ちゃんの嘘つきっ! 嘘つきは嫌いや!』
「え、ええっ!? そんな・・・・・・はやてちゃんに嫌われたら、私生きていけへん!」
『そやったら、何か言うことがあるんとちゃうの?』
「あうぅ、嘘ついてごめんなさい。謝るから、嫌いにならんといて・・・・・・」
ちょっと調子にのり過ぎた。両親が他界して、今や唯一の家族となったはやてちゃんに嫌われたらと思うと涙目になる。
『も、もしかして泣いとるん? 嘘や嘘、私が姉ちゃんを嫌いになるはずないやん!』
「え? 嘘なん?」
『もちろんや! むしろ大好きや! 愛しとるって言ってもええよ』
「嘘つきなはやてちゃんなんて、私は嫌いや!」
『ええっ!?』
「『ぷっ、あははははっ・・・・・・』」
いつもの冗談を交えた会話を終えて、最後には笑い合う。
電話越しでもはっきりとした繋がりを感じて、胸が温かくなるのを感じた。
早く家に帰って、はやてちゃんに会いたいな。
「はやてちゃん、大好きやよ」
『私も大好きやよ、ゆとりお姉ちゃん』
それは私、八神ゆとりが十歳の時。
そして、一つ年下の最愛の妹である八神はやてと共に体験した出会いと、絆の物語。
手にしたのは大切な家族 待っていたのは過酷な運命
孤独だったはずの夜天の主と共に生きた、一人の優しい少女の物語