瀬人VSキサラ~時空を超える記憶~【完結後、後日談ぼちぼち執筆】 作:生徒会副長
キサラLP3900/手札0枚/伏せ1枚
青眼の白龍/守2500
青眼の白龍/守2500
蒼眼の銀龍/守3000
魂吸収
SinWorld
瀬人LP1100/手札2枚/伏せ2枚
青眼の白龍/攻3000
ドル・ドラ/守1000
「ふぅん。アテが外れたな、キサラ」
自分のターンを終えた瀬人は、2本先取の勝負で1本取ったかのように、余裕の笑みすら浮かべていた。
「これで次のターン、お前は3体のブルーアイズで攻撃することなど不可能だ。
そして『蒼眼の銀龍』の効果、ホワイト・フレア・サンクチュアリもこれで終了。やっと互角の闘いが出来そうだ」
3体のドラゴンを守っていた白い霧が晴れていく。
「互角? 互角ですって……?」
しかし罪に堕ちた決闘者の表情は、負の感情によって曇る。
「今さらブルーアイズを従えればどうにかなるとでも!? 私のフィールドには、同じ『青眼の白龍』が2体! さらに墓地には『スキル・サクセサー』がある!」
キサラが意地を張って示したもの。それは、前のターンから進展していない現状だった。対する瀬人のフィールドには、新しく『青眼の白龍』が堂々と存在を示す。
「ふぅん。誰が何と言おうと、俺とブルーアイズが創るのは、光輝く未来へのロード! あとはキサラ。お前を救い、共にそのロードを駆けるだけだ」
「戯れ言を! 貴方がそう言うなら――ブルーアイズの力で、貴方を滅ぼすまで! 私のターン!!」
ドローカードを確認すると、彼女は悔しそうな舌打ちを洩らした。
「2体の『青眼の白龍』を攻撃表示に変更し、バトルフェイズ!」
青眼の白龍×2/守2500→/攻3000
「たとえ『ドル・ドラ』を見逃すことになろうとも――ブルーアイズは残さない!」
鏡の虚像と実像のように、2体のブルーアイズが東西に対峙する。
相討ち狙いの攻勢である。
「ゆけ、『青眼の白龍』! 滅びのバーストストリーム!!」
黒と蒼が混じった瞳を見開いたキサラの背で、巨龍の口腔が光輝く。
「アッハハハ! 期待が外れたわね、瀬人! 貴方と違って、私は『青眼の白龍』を散らせることに躊躇いなんてないの。私もブルーアイズも、罪深い存在だから! それに『スキル・サクセサー』を使えば、一方的に戦闘に勝つことも可能なのよ!」
「――まだ気付かないか」
攻撃する前の高ぶりを語るキサラに対し、瀬人は静かに呟く。それでやっと彼女は違和感を覚えた。
「こ、攻撃が始まらない……?」
充填された『爆裂疾風弾』は、サーチライトのように瀬人の側に光を当ててくるが、それ自体は一向に発射される気配がない。
瀬人が白く見えるほど照らされたフィールドでは、1枚の罠カードがリバースしていた。
「俺は罠カード『和睦の使者』を発動させてもらった! これでお前のモンスターは、俺に戦闘ダメージを与えることも、戦闘による破壊を行うことも出来ない!
だが――俺の『青眼の白龍』には何の影響もない!」
瀬人が操る龍の砲門が開く。2つの疾風弾から零れる幾条の光が、剣閃のように交錯する。
「キサラ! このままではお前の『青眼の白龍』が戦闘破壊されることになるぞ! 早く選ぶがいい! 『スキル・サクセサー』を使うか、否か!」
「ふざけた真似を! 私に裁かれるべき貴方が、私に選択を迫るというの!?」
「お前に何と言われようと、俺のブルーアイズが止まることはない!」
彼女が苛立ちを見せている間にも、運命の瞬間は迫り――とうとう弾けた。
「いくぞ――滅びの爆裂疾風弾!!」
限界まで引き絞られた弦から放たれる一撃。それを前にして、
「わ、私は……『スキル・サクセサー』を――」
彼女はこのデュエルにおいて、初めて戸惑いの表情を見せる。
しかし、何かを悟ったかのように――緊張の糸が切れたのように――淡い笑みを浮かべると、ポツンと呟いた。
「――使わない。使わないわ」
キサラの背で、2つの爆裂疾風弾が衝突した。
太陽が生まれたような閃光は、双龍を消し去る威力を持っていたはずだったが、片方を葬るに留まった。
青眼の白龍/攻3000(戦闘破壊)
《VS》
青眼の白龍/攻3000(和睦の使者)
瀬人は空のように青い眼で全てを見ていた。その上で揺るぎない視線を彼女に送っている。
送られた以上は返さねばということか、爆音が止んだ一瞬の静寂の後、罪に堕ちた決闘者が口を開く。
「フフ。だって、次のターンには『蒼眼の銀龍』の効果で蘇生できるのよ? だったら、犠牲にしたっていいじゃない」
「甘いな」
聞きようによっては弁明とも取れるそれを、瀬人は一言で吐き捨てた。
「俺なら間違いなく『スキル・サクセサー』を使っていた! ブルーアイズを守れるなら、罠カードの1枚や2枚など惜しむものか! そんな計算で、そんな心で――ブルーアイズを従えて俺を倒すだと? 甘い!!」
「フン、甘いのは貴方のほうよ! 『青眼の白龍』も海馬瀬人も、そんな価値を持ってはいない! 罪を背負い、償いの名の下に散るより上の価値など――ありはしない!!」
『青眼の白龍』の在り方と価値を巡り、デュエルに劣らぬほど激しく想いをぶつけ合う。だが、手を伸ばしても届かない距離での決闘と論争では、魂の交差する場所に2人が導かれることはない。
「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド!」
2つの平行線を繋ぐ一筋の光は、何処にあるのだろうか――。
キサラLP3900/手札0枚/伏せ2枚
青眼の白龍/攻3000
蒼眼の銀龍/守3000
「俺のターン、ドロー!!」
先のターンと違い、瀬人のドローに迷いはなかった。何故なら――。
「キサラ! このターンで、俺とブルーアイズが持ちうる可能性、創りゆく未来の片鱗を、お前に見せてやる!!」
光は既に――彼の手にあったからだ。
「馬鹿なことを。貴方がどれだけ口上を並べようと、攻撃力3000の『青眼の白龍』では、守備力3000の『蒼眼の銀龍』を突破出来ない!」
「ふぅん。お見通しというわけか……」
瀬人は穏やかな笑みを浮かべてキサラの意見を肯定する。
「さすがだと言いたいが……」
彼の評価が一線を越えることはなかった。なぜなら、海馬瀬人のデュエルは――。
「甘いぞキサラ!」
彼女の1歩先を行く――!
「リバースカードオープン!
『エネミーコントローラー』!!」
「なに!?」
十字キーと3つのボタンを持つそれは、紛れもなくコントローラーだが、操作対象は勇者でも配管工でもない。
「このカードはコマンド入力することで、お前のフィールドのモンスターを操ることができる!
『ドル・ドラ』を発動コストの生贄にして、←、→、A、B!」
コマンド入力が終わると、ケーブルが対象となるモンスター、『青眼の白龍』に接続された。
「このコマンドによって、お前フィールドの『青眼の白龍』は、俺の生贄として使用することができる!」
「いけ、にえ……!?」
本来『エネミーコントローラー』で奪取した相手モンスターは、1ターンのみ、攻守を含めて手足のように操れるのだ。
しかし、瀬人は敢えて『生贄』という言葉を使った。
「馬鹿な! 貴方がブルーアイズを生贄に捧げてまで喚ぶモンスターなど、いるはずが……」
「これがお前の――疑問に対する答えだ!
『融合呪印生物―光』を通常召喚!!」
融合呪印生物―光 /攻1000
宝石や機械、生物の肉体を混ぜ合わせてカプセルに凝縮したような、奇怪な生命体が現れた。だがそれは、すぐさま眩い光に包まれて見えなくなった。
「融合呪印生物よ! いま最もふさわしい姿に、その身を変えよ!!」
卵から天使が孵るように、光の球体から白翼が広がる。
その後も成長を続け、仮染めの生命は美しさと誇りを宿した龍に生まれ変わる。
海のように澄みわたる美しい青眼、穢れを知らぬ誇り高き白銀――。
「青眼の白龍!?」
「融合呪印生物が持つ第一の効果だ! このカードは、融合モンスターに記された融合素材の代用品にできる!」
最もこれは本来、姿形をコピーする能力ではない。それにもかかわらず『青眼の白龍』の身体を得たのは、すぐに『融合素材』としての役目を果たすからに他ならない。
「そして、第二の効果を発動! 自身を含む融合素材モンスターを生贄に捧げることで――融合モンスターを特殊召喚する!!」
「まっ、まさか――!?」
「俺は、3体のブルーアイズを生贄に捧げる!!」
対象となりうる組み合わせなど、瀬人のフィールドを見る限り、1つしかない!
天空へ舞い上がるブルーアイズ達の交差点。そこから生まれた光が、月明かりのように瀬人へと降り注ぐ。
「強靭・無敵・最強たる竜よ! 今ここに具現し、未来へのロードとともに、真のブルーアイズの所有者を示せ!」
淡い青さを帯びた輝きは、三つ首龍の輪郭を描き始める。
幻想かと疑ってしまいそうな、儚いヴィジョン。
だが夢や希望など、初めはそんなものだろう。
それをカタチにするのが、知恵であり、力であり、勇気。
今の瀬人には――全て揃っている!
「非正規手段による――特殊召喚!」
絵画が完成するように、写真が色づくように、龍の輪郭に命が宿った。未来を切り拓く、究極の力――。
「ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン!!」
青眼の白龍×2(生贄)
融合呪印生物―光(生贄)
↓
青眼の究極竜/攻4500
「そ、そんな……。『青眼の白龍』が1枚も入っていないデッキから『青眼の究極竜』を召喚した……?」
「キサラ! これが俺の答え――第3の選択肢だ! お前との闘いは、殺すか殺されるかの二択ではない! 共に歩み、未来を創ることも出来る!」
「ば、ばかな……。こんな、ことが……!」
驚きのあまり呆然としていた彼女が、神に平伏す民のように、或いはオアシスを前にした放浪者のように片膝をつく。
だが、その眼が未だ闇を拭えていないことから、瀬人は決意した。
「許せよ、蒼眼の銀龍……。バトルフェイズ! 『青眼の究極竜』で『蒼眼の銀龍』を攻撃!」
短く小さな声で守護龍に詫びると、瀬人は躊躇いもなく、究極の一撃を解き放つことを宣言する。その砲撃の名は――。
「究極爆裂疾風――アルティメット・バーストォ!!」
高速で暗闇の出口に迫った時のような、すさまじい光量――。果てなき紫の銀河が書き換えられて生まれたまっしろな世界に、『蒼眼の銀龍』が溶けて消えていく……。
青眼の究極竜/攻4500
《VS》
蒼眼の銀龍/守3000(破壊)
「ぐ、あ、あぁ……!」
キサラもまた、究極竜が放った風と光に一瞬で覆われ、白く染まっていく。黒く汚れた雪が川の流れを受ける姿のように、罪に堕ちた決闘者の髪と身体がなびいて震えた。そして遂に、
「きゃああぁぁッ!!」
と悲鳴を上げてキサラは吹き飛ばされた。
「カードを1枚伏せる。そして最後の手札、『超再生能力』を発動!」
『超再生能力』は、このターンに手札から捨てた、もしくは生贄にしたドラゴン族モンスター1体につきカードを1枚ドローする魔法カードである。1ターン目にキサラも使用している。
「俺はこのターンに、『ドル・ドラ』と『青眼の白龍』2体――合計3体のドラゴンを生贄として使用した! よってデッキから3枚のカードをドローする! これでターンエンドだ!」
キサラLP3900/手札0枚/伏せ2枚
モンスターなし
魂吸収
SinWorld
瀬人LP1100/手札3枚/伏せ1枚
青眼の究極竜/攻4500
「目を覚ませ、キサラ! これでわかっただろう!? 俺たちは互いに傷つけ合う必要も、庇い合う必要もない! 2人で共に歩み、未来を創っていけるんだ! だから――刃(カード)を捨てろ! そして俺の元へ来い! キサラ!!」
『青眼の究極竜』によって照らされながら、瀬人は今までにないほど強く、彼女の心に訴えかける。
すると彼女は、足腰を震わせながら、カードを握りしめながら立ち上がった。その表情は、ロングヘアーの銀色に隠されて見えない。しかし――。
「今さら、出来もしないことを……。言わないで、下さいよ……」
聞き逃しそうな程小さな声と、今までとは違う立ち方から、瀬人は感じ取った。
最初の彼女は、女帝のような自信を土台にして立っていた。
その後、瀬人が『青眼の白龍』を取り戻した時からは、怒りに燃える悪鬼のようであった。
だが今の彼女は、悲劇を唄う歌姫のように、必死で、か弱さが感じられるようで……。
(顔が見えずとも……。俺にはわかる。そして、あくまでカードで語るというなら――俺は、どこまでも付き合ってやる! この魂を賭して、キサラの全てを受け止める!!)
キサラの、彼女の心が――泣いていることを――。