瀬人VSキサラ~時空を超える記憶~【完結後、後日談ぼちぼち執筆】 作:生徒会副長
瀬人LP4000/手札6枚/伏せ0枚
ブラッド・ヴォルス/攻1900
伏せカードがないとはいえ、瀬人の場にいるのは下級モンスターで最高級の攻撃力を持つ『ブラッド・ヴォルス』。だがシンは、それを歯牙にもかけず、自分のターンを始めた。
「私のターン、ドロー!
……手札が悪いわね。『手札抹殺』の魔法カードを発動!」
「ふぅん、威勢のよさの割には手札事故か! いいカードの一つでも引いてみるんだな!」
互いの手札を確認した後、墓地へと送る。
》瀬人が捨てたカード:6枚
サンダー・ドラゴン×2、
ボマー・ドラゴン
ゴブリンのやりくり上手
ロード・オブ・ドラゴン
ドル・ドラ
》シンが捨てたカード:5枚
Sin真紅眼の黒竜
Sinレインボー・ドラゴン
Sinトゥールス・ドラゴン
ダーク・アームド・ドラゴン
伝説の白石
シンの『手札抹殺』は、手札事故からの脱出以外にも、明確なメリットとなる狙いがあった。
「いま捨てた『伝説の白石』の効果発動! このカードが墓地に送られた時、その過程を問わず、強制的に、デッキからこのカードを手札に加える!」
その時、シンが手札に加えたカードを見た瞬間、瀬人の中で改めて、実感が湧いた。
彼の命とも言えるカードが、奪われたという事実が――。
「この……『青眼の白龍』を!」
「ブルーアイズ……! それは俺のカードだッ!! 必ず取り戻す!」
事実をその眼に突きつけられ、彼の闘志はさらに燃え上がった。だがシンは、怯むことなく反論する。
「それは不可能よ。貴方は、他ならぬ……ブルーアイズ自身の力で敗北するのだから!
フィールド魔法、罪深き世界――『SinWorld』を発動!」
そのフィールド魔法が発動されると、ソリッドビジョンの範疇を超えた変化が現れ始めた。
最初に起こったのは、デュエルディスクから発せられる黒い電撃。それが、上空・右翼・左翼の三方向に放たれるとそこから世界の色が変わっていく。それは人を惑わすような紫色の銀河。元あった世界は、青と橙で「線」の輪郭のみを残し、「面」としての個性は侵食されて消えた。
そして、目には見えない重苦しさが辺りに漂う。瀬人はこの感覚に、心当たりがあった。
(似ている……。『オレイカルコスの結界』に……)
『オレイカルコスの結界』とは、彼が以前戦った『ドーマ』と呼ばれる組織が使っていたカードだ。デュエルの敗者の魂を封印する効果があり、瀬人もその身を以てその力を味わっている。
「このフィールド魔法が発動している時、ターン開始時のドローを放棄することで、デッキから『Sin』と名の付くモンスターをサーチ出来る。だけどこの効果はおまけ……おそらく使うことはないわ」
その先にある効果に、瀬人は直感で気づいた。
「『SinWorld』のもうひとつの効果! デュエルに敗北した者は、その魂を打ち砕かれ、死に至る!」
「くっ! やはり……! 当たって欲しくはなかったが……」
デュエルを命のやり取りに使うなど、軍事産業を潰し、ゲーム産業に取り組んできた彼の信念が許さなかった。
「そんな手段に頼るのはよせ! 俺が敗北するなどありえん! 貴様が後悔することになるぞ!」
アテムや遊戯などとの出会いや、多くのデュエルを通して彼は変わった。たとえ怒りに燃えることこそあれど、ゲームと称して人の命を弄ぶような真似を、絶対に許さないように。
「そんなことはないわ。貴方がこれ以上未来へ進んでも、待っているのは罪と絶望だけ。私にとっても、貴方にとっても……世界にとっても! だから私に、後悔はない!」
「貴様ァ! 俺が創りあげる未来が、世界に罪と絶望を喚ぶというのか! そんなことは、ありえん!」
「信じる信じないは貴方の勝手よ。私には勝算がある!」
『SinWorld』の効果に恐れをなす様子も見せず、シンはデュエルを再開した。
「まずは永続魔法『魂吸収』を発動! カードが1枚除外されるたびに、私のライフが500ポイント回復する。
そして! デッキに眠る2枚目の『青眼の白龍』をゲームから除外することで、このモンスターを特殊召喚する!」
最初にソリッドビジョンのカードから現れたのは、瀬人のよく知る『青眼の白龍』だった。しかし、それは本命の召喚のコストに、ベースに過ぎない。
「何!? なんだ、その召喚条件は!」
「見せてあげるわ! 『青眼の白龍』のもうひとつの姿――。罪と絶望を知り、それを変えるために現出した姿――。現れよ! 『Sin青眼の白龍』!!」
何処からか現れた黒い兜がブルーアイズに被せられ、美しい白銀の翼がモノクロ模様に変わり――『Sin青眼の白龍』に姿を変えられてしまった……。
シンLP4000→4500
Sin青眼の白龍/攻3000
「よくも……! よくも俺のブルーアイズを、こんな姿に!!」
己が魂も同然のカードを汚され、瀬人は怒りと悲しみに震えた声を上げる。しかしシンの表情は、彼以上にその感情を表現していた。
「……貴方は、『青眼の白龍』をもっと酷い姿にしたことがあるはずよ。その罪を、この一撃で思い出させてあげる……。バトルフェイズ! 『Sin青眼の白龍』で、『ブラッド・ヴォルス』を攻撃!」
姿形こそ、青眼の白龍とは違う。しかし、その口腔に収束する輝きは、青眼の白龍のものと寸分も違わないーー。
「誅滅の爆裂疾風弾!!」
強烈な攻撃を受け、『ブラッド・ヴォルス』が破壊される。
ブラッド・ヴォルス/攻1900(破壊)
《VS》
Sin青眼の白龍/攻3000
瀬人LP4000→2900
「ぐっ……!」
それでもなお止まらない攻撃の余波に、海馬瀬人は飲み込まれた――。
**
『……くん、海馬くん……!』
瀬人が気がつくと、夢の中のようなぼやけた風景に、誰かが立っていて、その人物の声が木霊していた。その誰かの正体に、瀬人は間もなくたどり着いた。
(あのぼやけた人影は、もしや遊戯? なぜこんなところに突然……? 俺は、白昼夢でも見ているのか……?)
『じいちゃんに、いったい何をしたんだ!?』
(……何の話をしているんだ?)
何の脈絡もなくそんな質問をされても困る。瀬人はそういった主旨のことを言おうとしたのだが、彼の口は勝手に動いた。
『別に? 互いの一番大切なカード賭けて、少々刺激的なデュエルをしただけさ。ジジイには耐えられなかったようだがね』
瀬人は……自分が過去に吐いた台詞を覚えていた。そして、次に何が起こるのか、ということも。
『そのデュエルに勝利したことで手に入れた、このカード……』
1枚のカードが、彼の視界に入る。
(や、めろ……。やめろぉぉぉぉおお!!)
『4枚目は敵になるかもしれないからなぁ!!』
破り捨てられた、否、破り捨てたカードの姿を目に焼き付けながら、瀬人の視界は黒く染まっていく。
あんなに求めていたのに。あんなに憧れていたのに。あんなに……愛していたのに――。
**
「――思い出したかしら?貴方の罪を」
気がつけば、瀬人は『SinWorld』で塗り替えられた屋上に戻っていた。
「おのれ……。人のトラウマにつけ込むとは……。」
あれは過去にあった事実だった。当時の瀬人には、頼れる味方も、誇れる力もなかった。そんな中で、誰よりも強くあろうとする一方、自分を超える者の登場に怯えていた彼は、4枚目の『青眼の白龍』を破り捨てた。
そして……あの時彼が恐れていたことが、いま現実のものになっている。
(ブルーアイズが、俺の敵として立ちふさがっている……!)
「カードを1枚伏せ、エンドフェイズに速攻魔法発動。『超再生能力』! このターンに手札から捨てた、または生贄に捧げたドラゴン1体につき、カードを1枚ドローする。
手札抹殺で5体のドラゴンを捨てたから、5枚ドローさせてもらうわ。これで本当にターンエンド。
さあ選びなさい、海馬瀬人。ブルーアイズの力によって未来を失うか、同じ罪を繰り返すか!」
シンLP4500/手札6枚/伏せ1枚
Sin青眼の白龍/攻3000
SinWorld
魂吸収
「俺のターン、ドロー!!」
彼は究極の選択を迫られていた。シンが示した選択肢は2つ。
――海馬瀬人の敗北か、青眼の破壊か。
敗北は許されない。負ける気はない。モクバのため、己の夢のために。
そして――ブルーアイズも、そんな結末は望んでいないと、彼は信じている。
だが彼が勝つには、あのブルーアイズを倒すしかない。第三の選択肢を導き出せる手札は揃っていなかった。相手の手札の枚数から考えて、問題の先延ばしをする訳にもいかなかった。
(俺は多くの出会いを通して変わったはずだ! アテム、遊戯、そして何よりブルーアイズ!
――にもかかわらず、俺は、またあの罪を繰り返すのか?)
無力、罪悪、苦悩。様々な感情が彼の中で渦巻く。
その結果――悲しい決断をする他なかった。
「――ブルーアイズよ。こんな手段に頼るしかない俺を許してくれ……」
そう小さな声で詫びると、彼はメインフェイズに移った。
「『X-ヘッド・キャノン』を召喚! さらに装備魔法『巨大化』により、攻撃力を2倍にする!」
X-ヘッド・キャノン/攻1800→3600
シンのフィールドにいる、強き命と生きる悲しみの象徴とは対称的に、無機質で近代的な瀬人のモンスター。カード効果で巨大化し、敵に銃口を向けている。
「バトルだ!『X-ヘッド・キャノン』で、『Sin青眼の白龍』を攻撃! X-ディストラクション!!」
レーザーの弾丸は敵に見事命中する。そして、巨大な爆風が、モンスターとプレイヤーに襲いかかった……。
Sin青眼の白龍/攻3000(破壊)
《VS》
X-ヘッド・キャノン/攻3600
シンLP4500→3900
ただ攻撃力で上回っただけのバトル。凡骨並みのタクティクス。あまりに、彼にとっては虚しいバトルだった。
「すまない、ブルーアイズ……。リバースカードを一枚伏せて、ターンエンドだ!」
瀬人LP2900/手札4枚/伏せ1枚
X-ヘッド・キャノン/攻3600
↑巨大化
「やはり……。貴方は、第三の選択肢を示すことができなかった」
爆風の向こうから、悲しそうな声が聞こえてくる。
「これで確信したわ……。貴方が創りゆく未来は、罪と絶望で満ちるということを」
爆風が晴れていく。シンと名乗った彼女の仮面はひび割れており、一片、また一片と崩れ落ちていく。
「だから、諦めさせてあげる。貴方のロードを、終わらせてあげる……。」
仮面の下に隠されていた、美女の顔。瀬人は彼女を、知っている。
それは、もう二度と会えないと思っていた相手だった。
「貴方を……愛しているから……」
海のように澄んでいたはずの青い瞳は、黒く濁り、目元には涙の跡のような黒い刺青があったが、間違いなくその人だとわかった。
「キ、サラ……だと?」