瀬人VSキサラ~時空を超える記憶~【完結後、後日談ぼちぼち執筆】 作:生徒会副長
「まだ2500もライフが残ってるのに、演出過剰です! メインフェイズ2に──」
「拮抗勝負」
「…………。えっ…………?」
派手な吹っ飛び方だった。堂に入った迫真の演技だった。そう──本当に演技でしかなかったのだ。
「ククク……アーハッハッハ!! その通り! 吹っ飛び名演技を楽しんでもらったところで……次は残りLP2500からの逆転劇の演目を愉しんでもらうぜ! 自分フィールドが空っぽなら手札からも発動出来る罠カードさ! バトルフェイズ終了時に発動するカードだから、メインフェイズ2に入る前に処理してくれよォ?」
キサラの顔筋では出来ないであろう愉悦の表情で、ドッペルゲンガーは『拮抗勝負』のカードを見せつける。
フィールドのカードの枚数がイーブンになるように優勢側が自分のカードを裏側で除外するカードだ。ドッペルゲンガー側は『拮抗勝負』1枚しかフィールドに無いため、キサラも1枚だけ残して、他は全て除外しなければならない。
自分の手で選んで、除外しなければならないのだ──。
「う……うぐ……」
最も信頼するカードを残した、と理由付けがしたかった。
だが実際には「他に選択肢がない」だけではないかと、彼女は考えてしまう。
故郷での思い出を元に作ったカードも、半身たる龍も自分の手で除外などしたくはなかったが──。
「……『青眼の白龍』を1体残して、他は全て除外します……」
ドッペルゲンガー/手札2枚→1枚
光の霊堂(場→裏側除外)
青眼の白龍/攻3800(場→裏側除外)
↑光の導き(場→裏側除外)
フィールド魔法の崩壊によって『光の霊堂』のテクスチャーも、落としたパズルのように、蹂躙される民家の壁のように砕け散ってしまった。
儚く飛んでいく欠片を見て思い出すのは、戦争で失った故郷の──。
(ッ! たかがフィールド魔法を失った程度で、余計なことを考えては駄目! 今はデュエルに集中しないと!)
「メインフェイズ2で、カードを1枚伏せます。墓地の『太古の白石』の自身を除外して発動する効果で『青眼の白龍』を回収し、エンドフェイズには第1効果で『白き霊龍』をデッキから特殊召喚します。 これで、ターンエンド、です……」
青眼の白龍(墓地→手札)
キサラLP5100/手札1枚/伏せ1枚
白き霊龍/攻2500(デッキ→場)
青眼の白龍/攻3000
彼女の戸惑いと後悔は、偽者を大いに勢いづかせた。
「俺のターン、ドロー! 『強欲で貪欲な壺』で、デッキトップを10枚除外して更に2枚ドロー!」
ドッペルゲンガー/手札1→2→3枚
「俺も手札交換カード『トレード・イン』発動! そしてお前と同じく、コストとして捨てられたモンスターの効果発動! 『未界域のオゴポゴ』! 再びデッキから『未界域調査報告』を墓地へ送る!」
未界域のオゴポゴ(手札→墓地)
未界域調査報告(デッキ→墓地)
手札を2枚入れ換えたが、まだまだ引き足りないらしい。
「『終わりの始まり』だ! いま墓地には闇属性モンスターが10体いるから条件は満たしている! その内5体を除外して3枚ドロー!!」
ドッペルゲンガー/手札3枚→5枚
ドッペルゲンガーが除外したカード
》未界域のネッシー
》未界域のオゴポゴ
》未界域のワーウルフ
》未界域のチュパカブラ
》クリッター
「またドロー!? なんてデッキ圧縮力……!」
凄まじいデッキ圧縮は、本来なら気合いで引くしかないようなカードすら手札に引き込ませる。例えば、神のような──。
「手札から闇の創造神、『ダーク・クリエイター』を特殊召喚するぜ! この神は、自分フィールドに魔物がいないにも関わらず、墓地に闇の魔物が5体以上埋葬されていれば手札から姿を顕す!」
ドッペルゲンガー/手札5枚→4枚
ダーク・クリエイター/攻2300(手札→場)
カードから溢れた闇が、黄昏色の翼を持つ黒鉄の巨人を組み上げた。命無き世界にこそ降臨するこの神は、闇の力で以て世界を再生する力を持っている。
「これから、フィールドを賑やかにしてやるぜ! 手札の『未界域のチュパカブラ』と、墓地の『未界域調査報告』でコンボ! さらにフィールドの『ダーク・クリエイター』が墓地から『未界域のチュパカブラ』を除外することで発動する権能! これにより、手札枚数を減らさずに『未界域のビッグフット』と『幻影騎士団ラスティ・バルデッシュ』が復活だ!!」
『未界域のチュパカブラ』の、身体はビッグフットを蘇らせる肉となり、霊魂は『ダーク・クリエイター』を通して『幻影騎士団ラスティ・バルデッシュ』へと受け継がれた。
未界域のチュパカブラ(手札→墓地→除外)
未界域調査報告(墓地→デッキ)
未界域のビッグフット/攻3000(墓地→場)
幻影騎士団ラスティ・バルデッシュ/攻2100(墓地→場)
ドッペルゲンガー/手札4枚→3枚→4枚
「くっ……。しかし『青眼の白龍』と匹敵する攻撃力を持っているのは、ビッグフットだけでしょう……?」
攻撃力だけでマウントを取ろうとするなど、所詮強がりに過ぎない。張り合ったキサラ自身それは分かっているのだが、ドッペルゲンガーは意外にも乗ってきた。
「なら次はコイツを出すぜ。お前の『青眼の白龍』と全く同じステータスを持つコイツをな! 墓地から光と闇の二兎を除外!」
墓地から闇属性の『未界域のジャッカロープ』と光属性の『幽鬼うさぎ』の魂魄が飛び出し、混沌の渦を描く。
「二兎を追う人の世の獣性が、未だ開かれざる界域に、開闢の斬撃をもたらす! いでよ、『カオス・ソルジャー─開闢の使者─』!!」
カオス・ソルジャー─開闢の使者─/攻3000
ドッペルゲンガー/手札4枚→3枚
B・W・Dと並ぶ攻撃力の剣と守備力の防具を輝かせる、デュエルモンスターズ界最強剣士の一角である。これでドッペルゲンガーのフィールドは4つ埋まったが、どうやら最後の席も埋めたいらしい。
「『精神操作』発動! 『青眼の白龍』を頂くぜ!」
ドッペルゲンガー/手札3枚→2枚
青眼の白龍/攻3000(キサラの場→ドッペルゲンガーの場)
「うっ……」
ブルーアイズのコントロールが移ると同時に、キサラの足元がふらつく。端から見れば劣勢になったのが原因のようだが、単にそれだけではない。1つには『キサラ』と『青眼の白龍』の繋がり故に、一瞬『精神操作』の影響を受けたこと。
そしてもう1つは、またしても過去の経験のフラッシュバック。破かれた身体と魂をパラドックスにサルベージされ、それを壊してから組み直され、歴史を消し去る手駒の1つになり、最終手段として操られる手駒などでは言い訳のつかないことを──。
(ち、違う! 操られてなどいない! 操られなどしない!)
「おいおい体調不良か? そのまま負けてくれても良かったんだが」
「っ、何も問題ありません。戦況も体調もね」
キサラは両の足をもう一度踏み立て直すが、だからこそ追撃が続いてしまう。
「せっかくブルーアイズを奪ったが、『精神操作』のデメリットで攻撃が出来ねぇな。少々勿体無いが素材にさせてもらう! レベル8モンスター2体でエクシーズ召喚!」
『未界域のビッグフット』と『青眼の白龍』2つの光球──オーバーレイユニットに変質する。光球の軌跡が描き導くエクシーズモンスターは……。
「未だ知られざる神威を、絶槍に宿せ! エクシーズ召喚、ランク8! 『宵星の機神(シーオルフェゴール)ディンギルス』!!」
宵星の機神ディンギルス/攻2600
青眼の白龍(エクシーズ素材)
未界域のビッグフット(エクシーズ素材)
脚は機馬、左右の腕に巨大な槍と盾を備え、黒鉄と金光で形成された機士が召喚された。『青眼の白龍』は、無機質なオーバーレイユニットとしてディンギルスの周囲を一定の軌道で公転しているが、ディンギルスはそんなものを消費せずとも強力な効果が使える。
「『宵星の機神ディンギルス』が特殊召喚された場合に、ノーコストで2種類の効果から片方を発動できる!」
1つは除外されている自分の機械族をオーバーレイユニットとして回収する効果で、これは状況的にもデッキ的にも使う必要がない。だがもう1つは違う。
「俺は、相手フィールドのカード1枚を選んで墓地へ送る効果を発動! 逃げたいなら『白き霊龍』の効果でサクリファイス・エスケープしてもいいぜ!?」
「対象を取らない効果だから逃げようがないでしょう! 分かってて発動したクセに……!」
ディンギルスの槍が地面を突き刺すと、離れたキサラのフィールドに黒の大穴が開き、『白き霊龍』を吸い込んでしまった。
白き霊龍(場→墓地)
これでキサラの場はガラ空き、かに見えたが。
「ドラゴン族が効果によってフィールドから墓地に送られたので、墓地から『霊廟の守護者』を特殊召喚します! さらに前のターン同様、追加効果も使用します!」
霊廟の守護者/守2100(墓地→場)
白き霊龍(墓地→手札)
キサラ/手札1枚→2枚
再び壁モンスターとして『霊廟の守護者』がキサラの場に現れる。だがドッペルゲンガーはバトルフェイズでそれを相手にする気はないらしい。
「壁は残さないぜ! 俺は、闇属性ランク8である『宵星の機神ディンギルス』1体をセルフランクアップさせる! エクシーズ召喚!!」
ディンギルスの巨体が、その周囲を舞っていたオーバーレイユニットと同じ光球となり、3つの輝きが激突して弾ける。その衝撃で広がった銀河の中心に形成されたのは──。
「現れろ、ランク11! 罪の重さを量る、激痛の糸! 『No.84ペイン・ゲイナー』!」
No.84ペイン・ゲイナー/守0→2200
(ORU3)
見た分には攻守共に0で、大きさもクリボー程度しかない小蜘蛛だった。しかしキサラはその強さと価値を知っている。
「ナンバーズ!? そんなレアカードまでデッキに入れていたなんて……!」
ナンバーズとは、1種類につき3枚で百種類あまり、世界に五百枚とないレアカードだ。レアリティだけなら『青眼の白龍』に匹敵する。
効果は個々のナンバーズによって相当ムラがあるが、ペインゲイナーはかなり強力な部類で、自身と守備力対決で負けている相手モンスターを全て破壊するというものだ。しかし今回は使う必要はないらしい。
「『霊廟の守護者』はペイン・ゲイナーの効果でも始末出来るが……。『ラスティ・バルデッシュ』の誘発効果発動! 自身のリンク先に闇属性エクシーズモンスターが降り立った場合、フィールドのカード1枚を選択して破壊する!
死して未界域に忠誠誓いし、騎士の斬撃を受けろ!」
『ペイン・ゲイナー』からエネルギーの供給を受けた戦斧が青白く光り、それを振り下ろすと斬撃が『霊廟の守護者』に向けて放たれ、それを切り裂いた。
霊廟の守護者/守2100(破壊)
だが、『No.84』は、ただの除去能力を持った攻撃力0ではない。「とてつもないレアカードが必要」という下準備さえ整えれば発揮される力があるのだ。
「壁さえ消せれば攻撃力0なんぞ要らん! 『No.84ペイン・ゲイナー』をセルフランクアップ! エクシーズ召喚!!」
ペインゲイナーが半透明となって巨大化していく。体が大きくなるにしたがって、爪は鋭く、八脚は長く、体表は硬くなっていく。もはやそれは小蜘蛛などではなく、大地の神にも匹敵する巨体──。
「現れろ! 人の世の、罪と獣性と欲望が紡ぐ闇黒の使徒! 『No.77 The Seven Sins』!!」
No.77 The Seven Sins/攻4000
(ORU4)
「2体目のナンバーズ! The Seven ……『Sin』s……」
前にも、こんなことがあったと、キサラは追憶する。
『同志は一人でも多くほしかったのだが、やむを得まい。やはり君も、他のカード同様、私の下僕となってもらおう』
『この仮面を身につけた者は、『罪の意識』が増幅される。やがては『罪の意識』によって自我が壊され、『罪を清算してよりよく生きる』ことしか考えられなくなる。そんな状態になった君に、私が『罪を清算する道』を示せばどうなると思う? フフフ……。君は私の下僕になるという訳だ──』
歴史の闇に潜む罪を司る者に押し潰され、書き換えられ、操られた。
『あの女も囚人かぁ?』
『どうでもいいぜ。女でありゃ何でもよ……!』
『ここに入ってきた以上好きにしていいってことだぜ……!』
もっともっと前には、地下闘技場で、悪鬼のごとき魔物と、蜘蛛糸を操る魔物に襲われた。
そしていま再び、身のすくむような闇と混沌と魔物の攻撃を受ける。かつて自分を救ってくれた人は、いまここにはいないというのに。
「バトルフェイズ! 4体のモンスター……。それも、開闢の2回攻撃を含めれば総攻撃力14000以上! もう絶対に防げまい! まずは『ダーク・クリエイター』で攻撃!」
キサラの残りLPは5500。全ての直撃すれば受けきれない。
だから最後の手として、墓地から効果を使う。
「だ、ダイレクトアタック宣言時に……! 墓地から、く、『クリアクリボー』を除外して効果発動です!」
墓地から飛び出したクリアクリボーの身体が光り弾けて、キサラの足元に魔法陣を敷く。
「相手の直接攻撃に対して、デッキから1枚ドローして対抗します! そしてモンスターカードを引けば、直接攻撃の代わりにそのモンスターとバトルさせることが出来ます!」
「お前それでモンスターカードを引いただけじゃ生き残れないって分かってるよな?」
墓地のカードは公開情報だ。ドッペルゲンガーは折り込み済みで攻撃しているし、『クリアクリボー』の効果で何を引かれようが勝てるつもりでいる。
「モンスターカードを引いて特殊召喚したところで、受け流せるダメージはたかが知れてる。万が一このターン生き残っても、次の俺のターンには、開闢の剣、闇の神槍、大罪の糸、霊騎士の斧という4通りの除去手段がある上に、『No.77 The Seven Sins』には破壊耐性もある。もうどうにもならないぜ?」
「わ、私は……」
咄嗟に言い返せない。
何を引けば生き残れるか、わからない。
魔法の呪文ではあるまいし、いまここで何か唱えれば良いカードが引けるという筈もない。
『あの人』なら、自信を持って力強くカードを引いただろうが、自分にはそんな強さはない、とキサラは思う。
それでも──。
(まだ……生きたい……。 弱くても、この夢の未来で……!)
そんな最後の希望を振り絞り、手を伸ばした。
「ッ、ドロー!」
No.77 The Seven Sinsは演出上英語名にしてるだけです。
日本語名だと「No.77 ザ・セブン・シンズ」なのでSinと共存可能となっております。