IS 天元突破グレンラガン~穴掘り王が多元宇宙に迷い混みました。~ 作:ガルウィング
「サラシキタテナシ?」
「……イントネーションが少々外れているが……そうだ。ジーハ、お前には今から更識と一戦交えてもらう。何、入学前の簡単な試験だ。肩の力を抜いて挑め。」
入学式の数日前、突然千冬に呼び出されたシモンはあの炎のドクロを背負ったコートを羽織って下半身はISスーツ、上半身にサラシを巻くというかなりラフなスタイルでアリーナへの廊下を歩いている。
勿論千冬に格好のことは突っ込まれたがあんなピッチピチのISスーツが性に合わないとこのスタイルで『
通常、ISスーツというものは操縦者の体から放出される電磁波等を感知しやすくし、操縦者自体を護る凝固な鎧の役目も果たしている。この理屈でいくと、絶対防御のみに頼ることを条件に素っ裸でも下着姿でもISは乗れることになる。
それならばとシモンは下半身だけ妥協し、上半身だけいつもの大グレン団スタイルで統一している。
ISというのはIS専用のエネルギーで稼働しているがシモンの専用機『
その原泉はシモン自身とわかった途端千冬はこのISを作ったのは幼馴染みの天災かと予想し半分脅迫紛いの懇願でその天災に問いただしたが当の本人はそんなISを作った覚えもなければ人間を媒体にしたエネルギーを作り出した覚えもないというのだ。
拳による尋問を実行しても吐かなかったのだ。本当に作っていないのだろう。
読者諸君はもう感づいているだろうが、そう。そのエネルギーとは螺旋力である。
螺旋力とはDNA螺旋帯に含まれた進化する力のこと。
種の繁栄や文化の昇華等もこの螺旋力が原動力になっている。
そのなかでもシモンは類まれな螺旋力の素質を持っており、シモン程の螺旋力の素質を持っていると人1人生き返らせることも可能なのだ。
この力を使えばニアも消失という運命を辿らずに済んだことだろう。しかしシモンは敢えてこの力を使ってニアを生き返らせることはしなかった。
限りある命の美しさ……そしてニアが望んだ結末。それを叶えてやりたいがためにシモンはこの力を押さえ込んだのだ。
「その……なんだ、ジーハ、その肩のミョウチクリンなネズミはなんだ?」
「ネズミじゃない。ブータはブタモグラだ。」
「ブヒュウ!」
ミョウチクリンなネズミ……開口一番不名誉な肩書きを叩きつけられたブータは体をブルブルと震わせてそれを否定するような反応をとる。
この多元宇宙に来て見当たらなかったブータだったが、ほんの三日ほど前シモンの部屋に我が物顔で居座っていた。どうやら迷子になっていたようだ。
迷子の間、在校生の部屋を転々としながら暮らしていたようで大分可愛がられたのか学園で肩にのせて生活していると皆の間だけの名前で皆ブータを呼んでいた。
「……まあいいか。エサ等は自分で面倒を見ろよ。……さて、着いたぞ」
「……ここが」
巨大なゲートをくぐり直射日光に目を細め、段々と慣れてきた視界を凝らすとそこにあったのは巨大なフィールド。
戦いを娯楽として観戦する文化がシモンの世界には無かったせいかシモンはパンダを見るような目でアリーナのフィールドを見ていた。
暫くするとぽっかりと空いたアリーナの天井から水色のISが静かに降りてくる。そのISは一度地面に降りると直ぐ様こちらに向かってきた。
「遅くなりました。織斑先生」
「構わん。さてジーハ、こいつが更識楯無だ。一応この学園で最強の名を冠している。心してかかれよ」
「わかった。シモン・ジーハだ。よろしく更識」
「ウフッ♪よろしくねシモン君。それじゃ織斑先生、早速」
「ああ。二人とも、所定の位置につけ。」
楯無がフワァッ、と浮遊しアリーナの端へと移動する。それに合わせシモンも二歩ほど前に出て、胸から下げたコアドリルを握り締め、相棒の名を叫ぶ。
「……『
シモンの足元に螺旋状のヒビが入るとそこからターコイズの光が溢れだし、その光から紅蓮の鎧が出現しシモンの四肢に、胴に次々に装着されていく。
最後に被った兜の黄金の角がギランと光ると背後のグレンウィングがバシュッ!と開きトビダマと呼ばれる浮遊促進装置が起動し紅蓮螺巌を空へ誘う。
二つの顔を持った紅蓮のISは各部に取り付けられた射出口からターコイズの光を撒き散らし堂々と腕を組む。
愚連を糧に紅蓮に燃える螺旋の炎。それこそがこの紅蓮螺巌。
「俺をッ!誰だと思っていやがるッ!!」
最後に両腕に二つドリルを展開し溢れんばかりの螺旋力を放出する。その力の放流に楯無は目を塞ぎ、その圧力に耐える。
「……顔が二つとは生意気ね……!!」
楯無のISは水を操る『ミステリアス・レイディ』。水に仕込んだナノマシンと巨大な槍が武器のIS。
仮にもロシア代表。その実力は侮れないだろう。
しかし彼女の目の前にいるのは誰だ?かの螺旋の明日を堀当てた螺旋の戦士、シモンなのだ。肩書きの重さが違う。
「両者、準備はいいな?」
「おう」
「はい」
「では……始め!」
千冬が右手を降り下ろすと楯無は右手のランスを突きだし突撃してきた。ご丁寧にナノマシン配合の水まで纏わせ疑似ドリルのように高速回転している。
対するシモンは先程展開した両腕のドリルを収納し、それによって集約された螺旋力で右手に大きめのドリルを展開、真っ向からランスの切っ先を突く。
ボボボボボッ!!
「嘘ッ!?」
水のベールによって強化されているはずのランスの槍身は意図も簡単にドリルの餌食となり、一気に堀進められ無力化されてしまった。
「そんな小細工で俺のドリルを喰らえるかぁッ!!」
「ならこれはどう?」
楯無が瞬時に距離を取るとランスの柄の近くに内蔵された機銃を乱れ打つ。
ヅダダダダダダダッ!、と吐き出される弾丸はドリルのみしか装備していない紅蓮螺巌のボディを抉らんが如く迫る。
「スパイラル・フィールド展開!」
胸部の顔面型装甲『グレンフェイス』のサングラスの奥に隠れた二つの目が光るとグレンフェイスを中心に螺旋状のエネルギーフィールドが展開され、向かってくる弾丸を全て無力化する。まるでその螺旋状に従って弾丸が外に向かっていくようだ。
「えぇ~!?それなんていうチートよォ!?」
「手品はもう終わりか?だったら今度はこっちの番だ!!グレンッ!!」
スパイラル・フィールドを収納した紅蓮螺巌はトビダマを最大出力で吹かしミステリアス・レイディに迫る。すると紅蓮螺巌はグレンフェイスに取り付けられたサングラスの端を握り、思いきり取り外す。
「ブウゥゥゥゥゥメラン!!!」
ガッギイィィン!!!
「それ取れるのおぉぉ!?」
外れたサングラス……『グレンブーメラン』を上段から思いきり降り下ろすと楯無も咄嗟に展開した刀でそれを受け止める。
なんという切れ味。
暫く競り合っていた二振りの刀身だったが最終的にはグラサンが刀に勝つというとんでもない結末を迎え、刀が真っ二つに斬れる。
「うっそおおおお!?!?」
「漢の魂イィ……」
刀をグラサンでブッタ斬るという荒業を披露したシモンは今一度飛び上がり、体を思いきり仰け反らせグレンブーメランを降り下ろす。
「
「ッ!!くうぅぅっ……!!」
眼前に迫ったグレンブーメランの刀身を集約した水のベールでなんとか受け止めるが、その威力に体を震わせミステリアス・レイディのボディから紫電が走る。
出鱈目な剣筋だ。しかし中々どうして、どこか洗練されている。
確実に殺しにかかっている剣筋……そう、まるでシモンだけ生きるか死ぬかの戦場に立っているような、そんな感覚。
グレンブーメランが通じないことを察したシモンはグレンフェイスに
「スカル……ブレェエエエエイクゥウウウウウウウウ!!!」
手の甲のドリルが水の防御壁に突き刺さるその瞬間。肘のドリルが引っ込み余剰の螺旋力を手の甲のドリルに集中。凄まじい威力で弾き出されたドリルは水の防御壁を意図も簡単に貫き楯無の胸部を見事に捉え、絶対防御を誘発、シールドエネルギーを根刮ぎ掻っ喰らう。
「きゃあぁぁあぁあぁぁあぁあっ!!!」
バジュウゥッ!と突き出されたスカルブレイクが引っ込むと殴り抜けた体制から仁王立ちにシフトし各種間接部から余った螺旋力を放出する紅蓮螺巌。
シモンの右目は駆け巡る螺旋力の影響でターコイズに発光している。それはドイツが実践しているという
ヒビが走るミステリアス・レイディを無理矢理起こし、フラフラと浮遊する楯無の眼は驚きと怒りに満ちていた。
自分は八百時間以上もISに乗っているのだ、そんな自分がたった二時間弱しか乗ったことのないアマチャンにしてやられている……更識としてのプライドがそれを許してはいなかった。
彼女が纏う水のベールが瞬時に集約すると鮮血のように赤く発光し、ミステリアス・レイディ自体も翼のエレメントが装着され先程とは明らかに違う殺気を漂わせる。
「本気で行くわよ」
「……ああ。」
コオオオオ……とPICの駆動音だけが辺りを支配する静寂な二人の間。一触即発の瞬間の中、彼女は突然口を開く。
「……ねぇ?今日はやけに蒸し暑くない?」
「あなぐらの方がよっぽど湿気ってて暑かった」
「あら、そう?」
軽口に軽口で答えるシモン。シモンの回答にわざとらしく唇に指を当てて答える楯無。
その態度に首を傾げるシモン。それもそうだろう。脳筋な彼に水蒸気が武器になるとは到底想像もつかないからだ。
辺りに立ち込める濃霧が彼女が纏う赤いベールと同じ色に染まると楯無の笑みと共に急激に熱を帯び大爆発を起こす。
水蒸気爆発だ。ナノマシンを犠牲にすることで水のベールを強制的に蒸発させ大爆発を起こす。一発限定の秘密兵器だ。
これのまともな爆発をうけて無事だったISはいない……楯無は勝ち誇った表情で踵を返しアリーナから立ち去ろうとする。
「恨まないでね?シモン君♪」
あとの片付けは千冬がやっつけてくれるだろう……そんな生徒会長らしからぬ思惑を抱きISを解除しようとする楯無、しかし、彼女は侮りすぎている。
螺旋の男の実力を。
「……ギィイガァアアア!!」
「ッ!?耐えてっ……!?」
突然立ち込める砂塵が中心から放たれるエネルギー波によって吹き飛ばされると楯無はその突然の出来事に振り返りその中心から聞こえる声に驚愕する。
中心に浮遊するIS……紅蓮螺巌は全身の射出口にターコイズの光を集約し、まるで力を溜めるように縮こまっている。
「ドォリルゥウウウウウ!!!」
「ヒッ……!!」
もうナノマシンも槍も刀もない。そんな絶体絶命の状況と中心で怒りに狂う鬼のような表情をするグレンフェイスに純粋な恐怖を覚えた楯無は今まで出したこともないような情けない声を出してしまう。
ターコイズの光の中から小型のドリルを各部射出口から展開した紅蓮螺巌はシモンの目の前に表示されている螺旋力ゲージが振り切ると同時に爆発的な勢いで巨大化し、逃げ場も隠れ場も全て貫き尽くす連撃を周囲に叩き込む。
「マキシマムッッッ!!!!うゥウオオオオオアアアアアアアアアアア!!!!」
「きっ……きゃあぁぁあぁあぁぁあぁあっ!!!」
まるで機雷のようにギガドリルの塊となった紅蓮螺巌は出鱈目にアリーナ内を貫き尽くし、同時にミステリアス・レイディと楯無を容赦なく貫く。
アリーナを埋め尽くすギガドリルの塊、それがギリャリンッ!!と中心の紅蓮螺巌に引っ込むとミステリアス・レイディが爆発を起こし黒煙と共に墜落する。シールドエネルギーはゼロ。シモンは学園最強相手に完封勝利を遂げたのだ。
水蒸気爆発が起こった瞬間、シモンはスパイラル・フィールドを展開し初動を防御、その後フルドリライズを発動しスパイラル・フィールドを収納したことで発生した余剰の螺旋力を全てフルドリライズに送り込み、瞬時にギガドリルマキシマムを発動。一気にケリをつけたのだ。
そう。紅蓮螺巌は展開したドリルやスパイラル・フィールドを収納すると展開した際に発生した螺旋力が余剰の螺旋力として内部に帰ってくる。それを利用することで次のドリルの高速展開や通常不可能なサイズのドリルの展開等に応用することができるのだ。
「……あっ!更識!大丈夫か!」
墜落した楯無の元へ駆け寄るシモン。紫電が走るミステリアス・レイディを纏った楯無を起こすとその瞳を覗き込む。
「……よかった、大きな怪我は無いみたいだ」
「(ぽ――――……)……あっ、シ、シモン君……」
覗き込むシモンの背格好に似合わない少し童顔な顔に見とれていた楯無は急に意識を覚醒させ、ISを収納しなんとか起き上がる。
「え、ええ。大丈夫。心配しないで」
「そっか……ごめんな、勝手に熱くなっちゃって」
「ううん♪今年の一年生は期待できるわね♪」
シモンも紅蓮螺巌を収納し楯無と互いに互いを称え合う。実にスポーツマンシップに乗っ取った行動だ。その二人に千冬は遠くから拍手をする。
「二人ともご苦労だった。更識、お前は解散だ。ジーハ、少し話がある。」
「わかりました。じゃあね♪シモン君」
最後に扇子で口許を隠しいつも通りに決めた楯無はアリーナを跡にする。完全に楯無が見えなくなり、山田先生に人払いを済ませたことを確認した千冬は少しため息をついたあと、静かに問う。
「……シモン、お前は何者だ?」
「え……」
千冬の眼はまるで獲物を見定める狼そのもの。その質問の真意はただ単にシモンの出生や生業を問うようなものではなく、本来の意味で『シモン・ジーハは何者だ』という疑問を投げ掛けている。
その言葉の真意を受け取ったシモンは少し考えた後、何かを決断したように頷き、ゆっくりと語り出す。
「……千冬、お前は多元宇宙って知ってるか?」
「……シモン、」
あの後、シモンは全て話した。
螺旋力の事、元の世界の事、ロージェノムとの戦い、その後地上へ人類を進出させた後アンチスパイラルという強大な敵との宇宙を越えた戦いを繰り広げた事など、自分に関する全ての事を話した。
千冬は鼻で笑うことも、妄言だと切り捨てることもなく、最後までシモンの話を真剣に聞いていた。シモン自体この夢物語のような話を真面目に聞いてもらえるとは夢にも思わず、逆に最後まで聞いてもらったことが不安に思えてきた。暫くの沈黙の後、千冬はゆっくりと口を開く。
「……お前は今すぐ病院での適切な検査を受けた後、適切な治療を受けた方がいい。ああ、そういうときにはクラシック音楽などが有効らしい…………と、数日前の私ならそう言っていたかもな」
「え?」
一瞬肝を冷やされたような事を言われたシモンは半分ずっこけながらその意外な内容に驚く。
「実はお前があの場所にいたあの日の次の日、別の人物が二人、学園の敷地内で発見された。言っていることから推測するに……十中八九お前の世界出身だろう。その螺旋力とかいうエネルギーといい、製造元不明のIS……紅蓮螺巌といい、信じるしかあるまい。」
「他の人物……?」
半分憶測に過ぎないワケにシモンはひとつ汗を流すと千冬は右の方にあるピットのゲートを見やる。
するとピットのゲートから二人の人物が徒歩でこちらへやってくる。シモンはその足音でやっと二人の接近に気がつき、その方に目をやる。
シモンはその二人に見覚えがあった、いや、忘れるはずがない、同じ大グレン団の仲間の顔を。
一人は長い赤髪を後ろで縛り上げ長いポニーテールを仕立てあげ、ドクロのクリップを髪のわけ目辺りに刺してポニーテールにカンザシを刺している特徴的な髪型の可憐な少女、
もう一人は優に身長は190cmを越えており、薄緑の髪の毛を短く纏めた女のような男。
その二人は口をあんぐりと開けたシモンの眼前に立つと、それぞれ大グレン団の証が刻まれた衣服を翻し、ニヤリと笑う。
「まさかこんな再会になるとはね……シモン!」
「ウッフフ……ニアの次はオンナだらけの桃源郷だなんて……つくづくアンタも女難につきまとわれてるわね♡」
「おっ……おまえらっ……!!」
最早彼等の再会に感動の言葉やハグなどいらない。
そこにあるのは確かな『絆』。
共に笑い、泣き、叫び、戦ってきた仲間。
そんな大切な存在との再会は割とあっけらかんとしたもので。
逆にそんな再会が互いがどれ程互いを信頼しているかが伺える。
シモン、ヨーコ、リーロン。
今ここに、大グレン団の魂が再び鼓動する。
ISディケイドに比べて字数が少なすぎる(汗)
感想、評価待ってます。