IS 天元突破グレンラガン~穴掘り王が多元宇宙に迷い混みました。~ 作:ガルウィング
ほんとに不定期更新ですから期待はしないでくださいね。
「……こんなちゃんとした服を着るのは司令着任式以来かな……っと、」
この背格好の少年には不釣り合いな豪勢な一室の中心に一人の紺髪の少年が身の丈ほどの鏡の前で真っ白な制服に身を包み、くるん、と一回転して服装の身だしなみを確認している。
この少年、シモン。
訳もわからず多の多元宇宙へ迷い混み、難しい論言を並べるより目の前の外敵を殴り倒すことしかできないシモンはお世辞にも利口とはいえず先日まで説明されていた戸籍やISの登録などの説明はまるで頭に入っていなかった。
ただひとつ、帰る方法が分かるまで居場所を確保する方法としてこの学園にいた方がいいというのはシモンの脳筋な脳ミソでも理解できた。
まだ糊が残っているのかパリッ、とした制服を簡単に正すと、テッペリン戦のとき程ではないが縮んだ背に少しばかり消極感を覚える。はあ、とひとつため息をつくと背後にあるクローゼットをひと睨みし、右腕にグレンラガンのドリルを部分展開し螺旋の英雄という肩書きを全宇宙に知らしめただけのことはある覇気を含んだ叱咤を浴びせる。
「いつまでコソコソしている気だ?漢だったら真っ向から向かってこい!」
放たれる覇気に部屋が揺れるとガタタッ、とクローゼットが揺れて一番端の扉から水色の髪を短く整えているはずだが髪質のせいか所々跳ねている髪型をした少女がむすっと頬を膨れ上がらせて出てくる。
「ちょっと、私は女よ?あと、いつから気づいてたのかしら?」
「俺がションベンから帰ってきたときからだ、分かりやすすぎる」
ドリルを引っ込めその少女……更識楯無の前に仁王立ちする。すると楯無はまた膨れっ面になって右手の扇子を口許で開ききっと膨れ上がっている頬を隠す。
何故か扇子には『小細工不要』と達筆に描かれている。どうやら自分に対して小細工は通用しない……そう悟ったということにしておく。
「なんでここにいる?」
「そりゃあお姉ちゃんがかわいい弟の晴れ姿を一目みたいと思うのは当たり前でしょ?」
「誰もお前の弟になったつもりはない!あと服を着ろ!なんでビキニなんだよ!!」
シモンは顔を紅潮させその胸元を指差す。その先にあったのは高校生らしからぬ発達を見せる放漫な肉まんが二つほどビキニの中に収まっている。その反応に母性本能が働いたのか一瞬体に走った快感に身を悶えさせるとまるで猫のような俊敏さでシモンに飛びかかりベッドの上でシモンに重なるように倒れ込む。
「ほんっとかわいい……ねぇ、お姉ちゃんまだシたことないからよくわからないけど、優しくしてね?」
「ッ!い、いい加減にしろ楯無!」
「あぁん!もう限界!ほらほら遠慮しないの!――……って、」
シモンが必死に抵抗するが楯無は上手く手足を押さえ込み折角着た制服を脱がそうとボタンに手をかける。
シモンが抵抗する最中に自分の腕にロケットペンダントが巻き付いたことに気づいた楯無はそのペンダントをシモンの合否も問わずに開けてしまう。
そこにあったのは互いに顔を寄せ会う一組の男女。そのうちの一人はシモンだということはわかるのだが、問題はもう一人の美しい少女だった。
「……この
目の前に出された写真を見ると一瞬ぎょっとした表情をするシモンだったがやがて懐かしいような愛おしいような目をしてそのロケットペンダントを受け取り、少しの間のあと、正体を明かす。
「……ニアって言うんだ。ニア・テッペリン。俺とニアは将来を誓いあった恋人同士だ。」
「ッ……ごめんなさい!私、知らなくて……!」
シモンの腰に跨がっていた楯無はその告白を聞くと直ぐに退き、ベッドの前で頭を下げる。
十中八九いまの淫行を謝罪したのだろう。将来を誓いあった恋人がいるのに『そういうことのはじめてを奪われる』ことの悲しさは女性として痛いほど分かるのだろう。
シモンは暫く思い出に浸るように写真を眺め、ペンダントを閉じる。
「わかってくれたんならいいさ、でも、これからはそういう突拍子も無いことをするのはやめてほしい。」
「うん……ごめんねシモン君」
しゅん、とする楯無を慰め、乱れた制服を正す。すると楯無の腕時計からピピピピ、ピピピピ、と時刻を知らせるアラームがなる。それに気づいた楯無はいつから置いてあったのか自分の着替えを速攻で身に纏うと部屋のドアを開けてシモンに笑いかける。
「じゃあねシモン君!私やることあるから!」
バーイ、と振られた手に鼻で笑うとシモンも水を一杯飲み。気持ちを落ち着かせる。
はあ、と吐いたため息と共に自分も入学式があるため部屋を出る。ドアを閉める直前、部屋の窓の辺りに引っ掻けてある炎のドクロが描かれたボロボロのコートにまるで兄弟に話しかけるように笑って出発の挨拶をかける。
「……行ってくるよ、アニキ。」
バタン、と扉がしまる。静寂が支配する部屋の中で、その言葉に答えるように風も吹いていない部屋でコートがふわり、と揺れたのはシモンすらも知るよしもないだろう。
◆◇◆◇◆◇
「全員揃いましたね、それじゃあホームルームを始めたいと思います。」
学校。それはシモンにとってはじめての経験だ。
簡単な四則計算やある程度の読み書きはできるものの今のシモンの頭では中学校の内容すら理解できない。
それを知ったシモンはますます自分のおかれている状況が学生としてヤバイのかを理解し暫くの間机に向かっていた。
しかし結果は惨敗。
元々賢い方では無かったシモンはこういう難しい問題や事は全てロシウに任せっきりだった。
今になってそれらをちゃんと自分でやっておけばよかったと後悔する。自分の仕事と言えばカミナシティの中央に位置するカミナ像を掘ることか流れ作業のように右からやって来る書類に判子を押し左に流すという単調な作業しかしてこなかった。そのツケが回ってきたということなのだろうか。
「げえっ!?関羽!?」
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者。」
カンウ、サンゴクシという聞いたことも食べたこともない単語に首をかしげる。この世界の歴史は自分達の世界と大きく異なっている。だからシモンはこのような一般的にもわかりそうなことでも首をかしげてしまうのだ。
「よし、次はジーハ、お前の番だ」
「え……」
突然のご指名、というか順番が回ってきたことにいま気づいたシモンはキョトン、とした顔になり慌てて立ち上がり即興でなにか喋ることを考える。
「………シモン・ジーハです。えっと……趣味…というか、特技は穴を掘ることです!……えっと、宜しく。」
――――穴を掘る?
――――やーね、これだから男って下品で…
回りから雑踏が聞こえる。薄々感ずいていたが、この世界の女はジーハ村で自分のことを影でバカにしていたあの少女達を連想させる奴らばかりだ。
穴を掘る文化が無い世界なのだろう……現にあの肩に担いでいたドリルは教室に入ったときかなり怪しまれた。
シモンは己の尊厳をバカにされた気がしたが、幼少期は慣れっこだったことを思いだし席に腰を下ろそうとするが――――……
バアァン!!
教卓が思いきり叩かれた張りのある音が響く。その音がみみに突き刺さった少女達は雑声を沈め、教卓で修羅の顔をする千冬に恐怖する。
「いい加減にしろッ!ジーハの故郷では昔からの仕来たりで穴を掘って生活する文化があるのだ!!そのなかでもジーハは飛び抜けた才能を持っていたのだ、貴様らはあの手動ドリルで地下何百メートルをあっという間に掘ることができるのか?他国の文化をバカにするのはIS操縦者として失格だ!よく覚えておけ!!」
「「「……………」」」
再び静寂になる教室。誰もがその怒気に恐怖し顔を蒼白に染める。しかしシモンはかつて螺旋族に対して途方もない怒りを持っていたアンチスパイラルともタイマンを張ったことがあるのだ。この程度で臆したりしない。
上手く理屈を合わせてくれた千冬に少しばかり頭が上がらなくなったシモンは胸のコアドリルを握りしめる。
このドリルはこの世界でも風穴を開けるのか、
今はまだ螺旋の終着点は見えない。
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