IS 天元突破グレンラガン~穴掘り王が多元宇宙に迷い混みました。~ 作:ガルウィング
「―――よし、あともう少しだ…!」
端から見れば滑稽でそれでいて奇妙な光景だろう。ボロボロの浮浪者が身に付けるようなぼろ雑巾のようなローブを腰に巻き、明らかに巨大な身の丈程の手動ドリルをせっせと回すその男は顔立ちはかなり端正でそのスラリと伸びた足で体を固定し鍛え上げられた上半身を晒し作業に没頭している。
人が生きるには水というのは必要不可欠なものである。お金があったって買える水がなければ干ばつ地域にしてみれば紙切れ当然だ。
幸いここにいる人たちは金銭面では何ら問題はなかった。だから今ここに水売りが来れば懐全てはたいても手に入れるだろう。
しかしこの男は無償で水源を掘り当てようとしているのだ。
人々は言った。「やるだけ無駄だ」と。
しかしこの青髪の青年は掘り続けた。人々にバカにされ続けても、出てくるのが砂ばかりでも。己が信じる穴掘り王としての経験と勘でここだと思った場所を掘り続けている。
――――ふしゃぁぁぁぁぁぁ
「……いよっし!」
掘り続けて約一週間。砂は段々と湿気を帯び、やがて清らかな湧き水を吹き出した。
それを目撃した人々は歓喜の喝采を上げ、バカにし続けた穴掘り王を讃えた。
「これでまた一つ、人々を導く穴が開いたかな」
この男、シモン。
アンチスパイラルとの戦い、そしてニアとの永遠の別れの後、彼は世界を転々とし、人々のために穴を掘り続けている。
そして今も、干ばつに苦しむ人々のために無償で水源を掘り当てた。アンチスパイラルとの戦いのあとも穴掘り王は健在であった。
「あんた!ありがとうな!」
「これでこの村は安泰だ!」
「みんな!今日は宴だ!」
村の人々がシモンに握手を求めてくる。これだけでも穴を掘ったかいがあったとシモンはその手に答える。さて、とドリルを担いで穴を出ようとするとわんわんと湧き出し続ける水源のすぐ近くに青緑の光を見つける。
どうやらもう少し掘ればその正体が掴めそうだ……担いだドリルを光源に突き刺しギャルギャルと慣れた手つきで安定しているが力強い回転を与える。
光源とドリルの隙間から溢れ出す光が強くなっていく。もうちょっと……と慎重に回転を加えていく。
――――カァッ!!
突然ドリルから伝わる手応えが無くなると光が急激に強くなる。
何が起こった―――シモンが光から伝わる膨大であるが何処か懐かしいエネルギーを掻き分け光源に手を伸ばす。
光が、穴掘り王を別世界へ誘った。
◆
「ここは……」
圧倒的規模を誇る人工島の海に面する埠頭に青髪の「少年」が呆然と立ち尽くしていた。
海が放つ夕焼けの光。その光に目を細めると突然首にさほど苦しいものではないがクンッ、とした重量感が伝わる。
胸部に少年は目を移す。そこにあったのは淡い青緑の光を放つ小さな「ドリル」だった。
「コアドリル……?ギミーに託した筈じゃ……!」
首から下がる彼が貫いてきた螺旋の運命の全ての始まり、コアドリルを疑問の目で握ると突然、自身の背が縮んでいることに気づく。
海面に身を乗り出し、波に揺れる海面に写る自らの顔を凝視する。
少年は固まる。嫌な汗が体から溢れる。それもそうだろう。海面に写る自らの顔は明らかに十代中間のそれ。
何が起こったか一瞬理解できなかった……少年「シモン」はすぐに自信に起こった背が縮むという現象の正体を悟る。
「違う多元宇宙に来ちゃったかなぁ……?」
多元宇宙。
それは無数に存在する可能性の世界。
かつてシモンはアンチスパイラルに多元宇宙の一つに幽閉されたことがあったが自らが信じた兄貴分「カミナ」と散っていった仲間たちに背中を押され超銀河大グレン団の仲間たちと不可能と呼ばれた多元宇宙迷宮を脱出。これで多元宇宙に迷い混むのは二度目である。
「グレンラガンがあれば次元の穴を開けて脱出できるんだけど、コアドリルだけじゃ心許ないなぁ……」
グレンラガンのドリルを使えば元の世界に帰ることなど容易い、もっといってしまえば、グレン団のみんなが結集してしまえば新しい宇宙を作ることも可能である。
しかし今手元にあるのはラガンの心臓に螺旋の炎を灯すコアドリルのみ。
確かにシモンに走る膨大な螺旋力を最大出力でコアドリルを回転させれば次元の穴を開けることはできるだろうがいかんせん小さすぎる……シモンが通るには小さすぎるのだ。
なんとか超銀河ダイグレンにいるであろう仲間たちに連絡できないか……?そう考えを巡らせていたシモンに声は突然かけられる。
「そこの貴様」
「……俺か?」
「貴様以外誰がいるというのだ」
レディーススーツを着こなした黒髪の尖ったイメージを纏わせた女性がシモンに明らかに初対面の人間にかける口調ではない言葉で問いかける。
シモンにしてみれば何とも思っていない……むしろこんな男勝りな女性は好きだ。地面に突き刺していた自前のドリルを肩に担ぎ女性に歩み寄る。
「悪い、ここが何処だか教えてくれないか?信じられないかもしれないが気付いたらここにいた。」
「……貴様、今自分が何を言っているのか解っているのか?そんな馬鹿げた話、信じると思うのか?さらに言えばそのドリル……怪しいな、貴様、名は?」
「……シモン、シモン・ジーハだ。」
魂であるドリルをバカにされたような気がしたシモンは一瞬顔をしかめると自らを名乗る。女性は此方を警戒しているのだろう……何処からか巨大な刀を引き抜きシモンにむける。
「……臆しないのか?私が今この刀を振るえばお前の命は簡単に途絶えるのだぞ?」
どうやら女性は自らを名乗るつもりはないらしい……名乗る、という行為を誇りに思っているシモンは少し怒りが頂点に達し肩に担ぐドリルを慣れた手つきで振り回し刀を弾きその小さな体からは想像がつかない速度で蹴りを足に喰らわせ、バランスが崩れた所にドリルの切っ先を突きつけ迸る螺旋力で高速回転させる。突然右手の人差し指を天に掲げたシモンは兄貴から受け継いだ魂の名乗りをレディーススーツの女性に披露してやる。
「舐めんじゃねぇ……一度故郷を離れたからにゃあ、負けねぇ引かねぇ悔やまねぇ!前しか向かねぇ!振り向かねぇ!ねぇねぇ尽くしの男意地!!ケンカならこのシモン・ジーハが相手になってやる……そう思えッッッ!!」
右手の人差し指を天に向け螺旋力に瞳を輝かせ兄貴の魂の名乗りを叫ぶ。
そこにあったのは女尊男卑に怯えた情けない男の姿ではなく自分を一切曲げない本物の“漢”の姿だった。
「ッ!――――織斑千冬だ。先程までの態度、ここに謝罪しよう。すまなかった。」
「……いや、いい。ナヨナヨした奴よりよっぽどいいさ。それで、ここは一体どこなんだ?」
螺旋力の供給を切断しドリルを肩に担ぐ。頭を下げる千冬に顔を上げるよう指示すると今この場所がどこなのか問う。スーツについた誇りを払うと巨大な刀を粒子に変換し収納した千冬がそれに答える。
「ここはIS学園。インフィニット・ストラトスを学ぶ学舎だ。普通なら男のお前が入ることなどできない場所だ……一部例外を除いてな」
「……男は入れない?どういうことだ?」
「……本気で言っているのか?インフィニット・ストラトスは男性に反応しない。女性にしか扱えない武器だ。当たり前だろう」
男性には扱えない、という言葉も気になるがシモンは聞きなれないインフィニット・ストラトスという単語が気になった。
十中八九あの刀のことなのだろう……と考えたシモンはしばらく考えを巡らせるが自分のこの世界に対しての浅はかな知識では対応できないと考えたのか素直に千冬に問う。
「そもそもインフィニット・ストラトスってなんなんだ?俺はそんなもの聞いたことも見たこともない。」
「!………インフィニット・ストラトスというのは宇宙空間での活動を前提としたマルチフォームスーツのことだ。どれをとっても今までの兵器より卓逸しているため各国では使用に規定をつけている。……本当に知らんのか?今や世界の軍事バランスを左右する代物だぞ?」
「……すまない、本当に見当がつかない。……さっき言った例外ってなんだ?」
「……私の愚弟のことだ。あいつは何故か男なのにISを動かしてしまった。なので特例中の特例でこのIS学園にたった一人の男子生徒として入学する予定だ。」
……弟、か。とシモンが一瞬思い出に浸る。浮かぶのはいつも自分を引っ張ってくれた兄貴分カミナ。
自分の命と引き換えに大グレン団の居場所を作ってくれた偉大な人間。その魂は彼が没したあとも大グレン団のみんなを引っ張り続けてくれた。
その人の弟分だということを今でも誇りに思う。何故なら彼無くして今のシモンは存在しなかったからだ。
「……そいつはいい姉貴を持ったな」
「?……どうした?」
「いや、俺にも誇るべきアニキがいたことを思い出して。」
「ほう……こんな男らしい男を作り上げたのだ、そのアニキは今どうしている?」
「………アニキは死んだ。もういない」
シモンの言葉に一瞬千冬が狼狽えると一つ咳をこみ、話を続ける。
「……すまない、妙なことを聞いた」
「いや、いい。アニキは一人の“漢”として死んだんだ。悲しんだら、それこそアニキを裏切ることになる。それに……」
シモンが突然言葉を止めると風に靡く長袖シャツ一枚羽織るだけの上半身がさらす小さい背に不釣り合いな鍛え上げられた胸部に親指を指し言葉を紡ぐ。
「いつだって、“ここ”にいる。」
その言葉を耳にし、目を見開く千冬がそのつり上がった目を優しく細め呟く。
「……できるなら、会ってみたかった。」
「ああ。きっといまでも何処かにあぐらでもかいて笑って俺のことを見てるんだろうな。そうだろ?アニキ……」
――――キィッ!!
「「………!!」」
突然、シモンの首から下がるコアドリルが目映いばかりの光を放出し二人を包む。その光は沈みかけの太陽の代わりに辺りを青緑に染め上げ、まるでシモンに答えろ、とでも言いたそうに自己主張をしている。
「……これは」
激しく輝くコアドリルをシモンは両手で握り締める。すると光がシモンに流れていき、脳にとある情報をドンドン流し込んでいく。
やがて光は収まりシモンも瞑っていた目を見開く。何が起こったか分からない千冬はその光景を不思議な目で見つめていた。
「……シモン、まさか、お前も……」
「……どうやら俺も、この学園で世話になるらしい……」
シモンがネックレスからコアドリルを外して天に突き付ける。マジックアワー独特の光はコアドリルの先端で反射し、怪しくも美しくコアドリルを輝かせていた。
「………俺のドリルは、天を貫くドリルだ……!!」
シモンの瞳がまた輝く。その正体は彼に迸る螺旋力。螺旋の炎がコアドリルに蓄積されていく……シモンは初めてラガンを起動させたときのように、その小さなドリルを思いきり捻った。
「……来い、『グレンラガン』」
その言葉と共にコアドリルを捻ると光が螺旋状にシモンを包み紅蓮の鎧をシモンに纏わせていく。
紅蓮の装甲に漆黒の強化装甲、スカート部分には派手なゴールドをあしらい、更には腕や足にはゴールドのアクセント塗装。
現れた肩部のアンロックユニットも紅蓮と漆黒の枠に中心をゴールドに塗りあげその上からサングラスをかけた炎のドクロが装飾として現れる。
胸部にも装甲が取り付けられた。のはいいのだがその見た目が異形だ。
その見た目は“顔面”。怒りに狂った鬼のような印象を与える顔面が胸部に装着されると青緑のラインが走りドクロと同じ形のサングラスを掛けてその恐怖を思わせる顔面に更に恐怖成分を含ませる。
背中には黒いウィングが装着されるが突然ウィングの動力部分を貫くがごとくドリルが生え本体とウィングを完全に固定する。
頭には三日月のような装飾がついた紅蓮の兜を被り、自身自体も紅いサングラスを掛ける。
体全体に取り付けられた丸い穴から螺旋力が溢れ出す。有り余るエネルギーでその身を目覚めさせた紅きISは渦巻く螺旋の力を振り払いその姿を晒した。
「流転の
たとえ独りになろうとも、無限の宇宙にその名を刻む!
螺旋の明日をこの手に掴む!宿命武装!グレンッ!ラガンッッッ!!」
「俺をッ!誰だと思っていやがるッッッ!!」
この日、可能性の世界から誘われた穴掘り王が、二人目の男性操縦者として爆誕した。
この出来事は、この世界にどんな明日をもたらすのか。
それは誰にもわからなかった。
あーみじけー!
ま、まあ試し書きだからいいよね?
感想待ってます。