「さて今日も取りあえず気の開放の速度と抑制の速度測るぞ」
というわけで今日も修行。
測定した結果、『開放』は0.1秒。『抑制』は0.05秒。
……早えよ!強くなるの早すぎじゃね?
こんなに早く伸びるものなのか?
そんな疑問を抱くが、まあ、いろいろとすごいし、才能の差だろうな、とそこで思考を打ち切る。
「じゃあ、今日は開放に0.1秒以上、抑制に0.05秒以上だったら腕立て……って何しに来たんだよエヴァ」
そう、昨日の流れの通り修行を行おうとするとそこにロリの姿が見えたので話しかける。
「何、どんなものか見に来ただけだ。少し気になることもあったしな……」
そう言って、なんか意味深な感じで古菲の方をチラリと見ていた。
ん?なんかあったの?キマシ?キマシ?……いや、それはないな。
「……なにか不愉快な気配がしたが、まあいい。しかし、ちゃんとやっているようだな。驚いたぞ」
いつもどおり傲慢不遜なやつだ。
なにが「ちゃんとやっているようだな。驚いたぞ」だよ!
てめえは俺の師匠か!
「……冷やかしに来たなら帰れよ」
「ほう?思ったよりもリフォームが安く付いたから、そのお釣りを渡しに来たんだがな?人がせっかく親切心を出したというのに……」
くっそ、コイツ人の足元見やがって……。
俺から金を巻き上げたせいか調子に乗ってやがる……
つか、今考えたらあの契約俺に不利な事しかねえじゃねえか。
3回まで使用可能って、お前3回も巻き上げるつもりかよ。ゲスいわ!
いや、別に壊さなければいいんだけど『開放』って最大量放出する技術じゃん?周りに無駄な破壊を出さずに気を放出するのってむずいんだよ!
放出しながらも内に留めるとか何その矛盾。
「……な、何のようでしょうか、エヴァ様?」
だが、下手に出る俺。
い、いや、ちょっと今月ピンチになったからね?数週間のもやし生活が嫌なわけじゃないんだよ?ホントだよ?
「ふむ……へりくだる貴様は少し気持ちが悪いな」
……コイツ、イツカコロス。そう決心する。
でも今は手を出せない。貧乏って辛いな……
「あ、そうそう、ジジィの方から用があるそうだ。夜にソイツを連れてくるようにとのことだ。おそらくバラした件だろうな。どうするんだ?」
あー、そういえばそんなんもありましたね。
直ぐに来なかったから忘れてたよ。
「んー、大丈夫だろ。なんとかなるさ」
そう、適当に答える。
実際、あんまり表立って手を出せないことは知ってるし……
今の俺の立場、麻帆良の裏だと『抑止力』みたいになってるしな。
何か、やらかしたとしても大抵の事なら見逃されるはずだ。
「まあ、『あの日』以来、侵入者はいないからな。その『原因』になったお前に手を出すことはありえないか……」
そして、エヴァは用は済んだと立ち去っていった。
あいつ、本当にろくな事しねえな。
嫌なこと思い出させて帰るとか、塩まいとこ……
あとはいつもどおりのメニューを古菲にこなさせながら、学園長に呼び出しを食らったそうなので早い目に切り上げて今日の修行は終わった。
さて、学園長との『交渉』どうしよっかね?
―――――、あまり思い出したくない過去の話。
その日は麻帆良の警備をしていた日の事だった。
確か、小学2年生だったか、3年生位の時だった。
凍えるように寒い日だったことを覚えている。
西側の区域を俺は寝ぼけながら、巡回していた。
まだ子供の体だったこともあって、肉体に精神が引っ張られていたのか9時位になると自然と睡魔が襲って来るのだ。
そして今は0時完全にオネムの時間である。
やっぱり子供は寝て育つって言うし寝かせろよと愚痴ってた記憶がある。
それで、警備を初めて3時間くらい経った頃だっただろうか、後1時間位で終わるしもうしばらくの辛抱だと、ぼやいていたその時、そいつらは現れた。
どこからか現れた侵入者達。
鬼とか操ってたし多分、陰陽師だと思う。
「おんやー?いい子は寝る時間ですよ?そんな悪い子はお仕置きしなくちゃねえ……」
敵の中で自分の一番近くにいた鬼はそう言った。
そして、初めて出会った、『化物』だというのに、何故か俺は落ち着いていた。
え?エヴァ?あのロリのどこに『化物』要素があるっていうんだよ。
ただの調子乗ったおばはんでしか無いわ。
……いやそんなことはどうでもいいとして、それを見ても何の恐怖も抱かなかった。
その時の俺はなんか仮装した変なのがいるな、と思っていた。
黙っている俺を見て、ビビっているとでも思ったのだろう。その鬼は笑みを浮かべながらこちらに向かってくる。
振り下ろされる拳。遅い。
本当に蚊が止まった速度だった。
これなら止められるかなと思い右手を伸ばす。
そして鬼の拳は自然と止まった。
そのまま捻り上げ、無力化するために腕を鬼の後ろに持って行こうとしたとその時だった。
ゴリンッ!と、ありえない音がした。
その音とともに何かが噴き出るような音もする。
ドバッというような滝でも流れるような音。
何の音だろう?そう首をかしげるも動きは止まらない。
俺はそのまま鬼を蹴っ飛ばし地面につかせるように左手で背中のあたりを抑えこんだ。
だが、その手はズボリと、鬼の背中を突き抜けそのまま鬼を絶命させていた。
そして、降り注ぐ『雨』、その滴りでようやく、それが何かを理解した。
手に持っている腕を見る。
明らかに根本から千切れている。
多分引きちぎったのだろう。そして、左腕。痛覚反射なのか知らないが心臓は止まっているはずなのに脈動する肉の中にある。
そんな大惨事を引き起こしたというのに現実感がなかった。
腕が気持ち悪かったのでそのまま引き抜き、持っている鬼の手を投げ捨てる。
そして、ふと、まだ他にもいたなと思い、立ち上がり相手がいた方向を見る。
目の前にあった表情は、驚愕にそまるもの、怯えるもの、何が起きたのか理解できないもの、とたくさんあったが、その根源は同じだった。
圧倒的な『恐怖』、それを感じているのだろう。そう、空虚な思考の中でそう思った。
「な……何なんだお前は……」
その中の一人、鬼を従えた陰陽師だろう。ソイツが震える声で言う。
……何なんだろうな?自分でも自分が何なのかよく分かってないので、首を傾げる。
まあ、今はそんなこと考えてる暇じゃないか。アレを捕まえないと。
そしてゆっくりとアチラ側に歩き出す。
それを見て逃げ出す陰陽師。主を守るため、立ちふさがる鬼。
その拳が振り下ろされる。
半ば自動的にその拳を躱しながら鬼に向かって俺は飛び上がる。
そして、その顔に膝蹴りを一発。鬼の頭は吹き飛んだ。
そこに立っているのは首のない鬼の身体だけ。血が噴水のように飛び出し、また『雨』を降らす。
あ、帰ったらシャワー浴びないと。
そんな、どうでもいいことを頭では考えていた気がする。
また、鬼は向かってくる。避ける。
首のところに手刀を一発。
ギロチンにかけられたように首が落ちる。
また、『雨』が降る。
逃げる、陰陽師を追う。
鬼が立ちふさがる。
俺は拳を振り上げる。
心臓を拳が貫く。
血が噴き出る。
逃げる、陰陽師を追う。
鬼が立ちふさがる。
……そして、それを何度か繰り返した頃には周りに立つものは一人もいなくなっていた。
あの陰陽師?人間の死体はなかったから多分逃げたんだろう。
それにそこから先の記憶は曖昧だし。
異常なことが起こったせいか、頭が考えることを放棄したのだろう。
そのまま意識は途切れる。
こうして、俺の初めての『殺戮』は終わった。
ぎ、ぎりぎり終わった。
良かった時差とか言わなくて済んだ……