俺の戦闘力は53万らしい   作:センチメンタル小室

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第16話

『吸血鬼』、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは笑っていた。

もう笑いが止まらないとはこのことである。

そして、一枚の紙を万に渡す。

そこには、ダイオラマ球内の被害総額について書かれていた。

 

「浜辺にあったコテージが衝撃波による津波で床板全張替え。コテージ内部の装飾品の汚損による取り換え。また、塔の各所に亀裂、およそ24。で、申開きは?」

 

「ねえよ。てか、お前責任取らんって書いただろ」

 

それを聞いて笑みを浮かべる。

まるで悪魔のような邪悪な笑顔だった。

まあ、見た目が可愛らしい幼女なので微笑ましいようにしか見えないのだが。実際、後ろで茶々丸が写真取ってるし。

……それはひとまず置いておこう。

そしてエヴァンジェリンは更に一枚の紙を取り出す。

先日、彼と交わした契約についてのギアスペーパーだ。

 

「ほう、書いているな?『『ダイオラマ球』の使用に際して『ダイオラマ球』が破損した場合でも『五三 万』が責任を負うことはない。』と」

 

「ああ、だから、別に損害を払う必要は……」

 

それを聞いて更に笑みを深くするエヴァンジェリン。

もう完全な三段笑いである。

ククク……フフフ……フアッハハハハハハ!!って感じの小悪党がよくやるあれ。

はたから見ればドン引きである。

どうやら彼は気づかなかったようだ。このカラクリに。

そして勝ち誇ったように種明かしをする。

 

「ここに書いてあるだろう?『『ダイオラマ球』が破損した場合』と。内部の施設には一切触れていないんだがなあ?」

 

それを聞いてやられた!と言う顔をする万。

 

「は!?てめえ!きたねえぞ!」

 

「フハハハハ!!!よく見ないほうが悪い。というわけで被害が出た分の損害を払ってもらおう。何、貴様は一応、この学園の雇われということで給金を貰っているのだろう?何、微々たる金額だ。貴様にも払える。良かったなあ、私が現実的な金額にしか興味のない優しい性格で。いやー、ちょうどリフォームしたくてな。少し欲しい家具があったことだ。本当に『偶然』だ。神様ってのはいい人のところに来るんだな?」

 

そう、神も信じない、吸血鬼の分際で(のたま)った。

そして差し出された被害総額は、万の給金およそ3ヶ月分。

まあ、貯金していることもあって払えなくもないがだいぶ痛い出費である。

皆も契約書はよく読もう。たとえ親との約束であったとしても痛い目見るから。これお兄さんとのお約束。

 

「くっそ……覚えてやがれ……。いきなり呼び出されるから何かと思えば、こんなこと考えてやがったのかよ……」

 

「フフ……。騙される方が悪いのだ。勉強になっただろう?それに気に入っているインテリアは避難させておいた。実質こちらの損害は0。ククク……これだから悪党はやめられない」

 

そうして、勝利の美酒と言わんばかりにグラスにワインを注ぎ入れる。

テーブルに突っ伏す万。ここに勝者と敗者は決した。

だが、真の勝者はエヴァではない。

後にエヴァは、この完全に調子に乗った状態の映像を茶々丸経由でクラスメイトの葉加瀬と(チャオ)に見られ、そしてクラス全員に広まり悶えることになる。

そしてまた、その悶えるエヴァの映像を取る、茶々丸こそが真の勝利者である。

しかし、まだ、彼らはそれに気づくことはなかった。

 

「で?どうなったのだ?」

 

話を切り替えるようにエヴァはそう聞く。

 

「何がだよ?」

 

思い当たることがなかったのか万はそう答えた。

 

「お前の弟子の件だ。上手く行ったのか?」

 

「まあ、上手く行ったよ。てかあいつ才能やばいな。見ただけだっていうのに、あの気を開放する感覚掴みやがった。1時間くらいで習得したよ。俺の今までの苦労は何だったんだ……」

 

「フン……貴様が言っても嫌味にしかならんと思うがな、化物め」

 

クイッとワインを(あお)る。

その様子は忌々しいと言う表情であり、おそらく過去にあったことを思い出しているのだろう。

たとえ、才能があったとしても圧倒的な力の前には無力である。

蟻がどんなにもがいても象に敵わない。

そして強すぎる力は人の心を()()

 

「だから気づかんのだ、貴様は」

 

そう吐き捨てるようにポツリとエヴァは言った。

だが、その言葉は彼には聞こえなかったらしい。

彼はうなだれるように先ほどの請求書を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――、思い出すのは今日のクラスでのこと。

エヴァはいつもどおり登校地獄の呪いのせいで、学校に行っていた。

その昼休み、茶々丸を伴って、優雅に昼食を取っていると古菲に話しかけられたのだ。

あの災害の後、この学園の『裏』の説明をしていたこともあり、そのことに関してか?と、当たりをつける。

だが、質問はそのことではなかった。

 

「……師父は、あの修行であれだけ力を手に入れたアルか?」

 

どうやら、修行の話らしい。

深刻そうに、思いつめているようなそんな顔をしていた。

それもそうだろう。あんなものを見せられれば、少し憂鬱にもなる。

それにヤツが昨日教えた、気の『開放』は自らが今持っている生命力以上の力は出せない。

故にあまり伸びなかった自分の力を見て凹んでいるといったところか。

まあ、アレと比べるのが間違いだとは思うがそれでも高みを目指す以上、しかたのないことだ

というか、アイツ全然、弟子のこと見てないではないか。

気の『開放』の先があることを話したんだろうか?

まず最終目的地を教えてそこまでどうステップアップするか示せばよかろうに。本当にわかっていない。

だが、この程度で折れるのならば折れたほうがいい。

アレを目指すということは海をわたるようなものだ。

道標なんてものは無いし、その先に島があるかもわからない。

そんな、途方も無い旅をするということ。

おそらく、アレを受け止められる奴など、この世には存在しないだろう。

太陽が如き極光を放ち、世界すらも滅ぼす力。

まさしく神話世界の具現化だ。なんの冗談だ、忌々しい。

だが、もしソレが、修行の、努力の末に手に入った力であれば()()よかった。

それが本当の神の如く、『そうあれかし(アーメン)』と存在するからこそ、なおのこと腹立たしい。

もともとエヴァは神さえも恨んだ身だ。故にそうあるものは嫌悪の対象である。

まあ、恩があることはあるので彼自身は嫌ってはいないが、あの力は許せない。

イカロスだったか?太陽に近づきすぎた者は蝋の翼をもがれ叩き落とされる。奴のアレはソレだ。

『地獄への道は善意で舗装されている』とはよく言ったものだ。

誰しもアレに憧れ、その領域に踏み入れられると信じながら膝を屈する。

麻帆良の『裏』を知るものを何人叩き落としたか分かったものではない。

しかし、タカミチがそれでも立ち上がったように、そうなれるかは知らない。

でも、と、そうエヴァは考え、答えを告げる。

 

「残念ながらアレはもともとだ。あの領域に行くなら諦めておけ。あそこに立っているのはヤツだけだ。だから……」

 

諦めておけ、そう言外に述べた。

一応、希望はあることはある。

『開放』のその先。『爆発』、『集中』そして、『界王拳』。

だがあんなもの、技術的障害の多さと、対費用効果が見合っていないし、すさまじいまでの才覚が要求される上、可能になるかわからない。

そもそも彼自身が体得していない技術だ。その最終段階の前段階ですらそうなのだ。

まあ、理論上は可能だろう。

私が考えだした『太陰道』とは全く逆の力。魔力と相反する気を使うことからもソレが言えるだろう。『太陽道』とでも言うべきか。

気弾、呪文にかかわらず、ありとあらゆる周りにあるものを吸収し、己の力とするのとは逆に、己の内から無限にエネルギーを供給する技。

かのアルベルト・アインシュタインに宇宙最強とまで言わしめた『複利』の力だ。

パンドラの箱のように底には希望があるのかもしれないがその前に絶望が待っている。

おそらく、というかほぼ確実に失敗すれば身体が消し飛ぶ。

それでもまだ、いい方だ。下手をすると行き場を失ったエネルギーによって世界が滅ぶ。

アイツが唯一怪我をしたのはその修業の最中だ。

膨れ上がったエネルギーを抑えこんだせいか奴は吐血した。

入院することになったが、アバラはほとんどヒビが入るか完全に骨折。

五体で唯一怪我がなかったのは頭部位だろう。

他にも骨だけでなく筋肉の断裂などすさまじい重症だった。

まあヤツはそんな怪我を一週間で完治させたがな。……普通なら死んでいるというのに本当に人間をやめている。

もし、アイツが抑えていなければどうなったか知れたもんじゃない。

そんなこともあってかヤツはそれ以来、その技を試そうとはしない。

 

「そう、アルか……でもワタシは諦めたくないアル」

 

だが、それを聞いても古菲の目はまだ死んでいなかった。

フフフ……これだから人間というやつは面白い。

有限にすぎない身でありながら輝きもがく。

そんな姿に焦がれるようになったのは、私が不死身の化物だからだろう。

心の何処かで己を倒すものを望む。それが化物の唯一の願い。

そしてそれを為すのは『人間』だ。『人間』でなくてはダメなのだ。

アイツも、もはや化物の領域だ。おそらく弟子を取ったのはそういうものを心の何処かで望んだからだろう。アイツはその矛盾に気づいていないようだがな。

全く、人間であることを()()()()()()()いいものを。

……やはりこうなるか。まあ、なんだ、フォローくらいはしてやろう。

そう、まるで仕方ないな、と溜息をつくように笑みを浮かべた。

 

「フン……せいぜいあがけ。もしかすれば、貴様はヤツの『先』にたどり着けるかもしれないな」

 

それは、ヒントと言うにはわかりづらすぎるヒント。

人によってはただの励ましの言葉に聞こえるかもしれない。

わかりにくすぎてもはやツンデレ。

しかし、それに気がつけないようならばソレまでだ。

教える義理もないしなと、昼食を終えたエヴァはその場を立ち去る。

それに気がついたかどうかは知らない。気にも留めない。

なぜならエヴァンジェリン・マクダウェルを、『闇の福音』を倒すものではないから。

その場には古菲だけが一人取り残されていた。




さてギアスペーパーに気づいた人はいたかな?
ちなみに作者は自分で書いてて自分で騙されるという訳のわかんないことをやらかしたw
保険とかそういうのだと対象外が多々あるので気を付けましょうね

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