「じゃあ、今日から私たちのバンドに入ることになった、綾崎紅騎だ」
翌日俺は正式にメンバーとして迎えられることになった。
意外にも全員俺が入ることに賛成してくれたらしい。一人くらいは反対する奴がいると思ったのに。
「綾崎紅騎です、よろしく」
・・・訂正一人いた。昨日俺を率先的に、てゆーかヤツ一人だけで三人分殺してきた女。確かひさ子って言ったけ?
が俺に思い切りガン飛ばしてきている。
・・・なんで?
「で、右からベースの関根。ドラムの入江。ギターのひさ子。」
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
「・・・・」
「ああ、よろしく」
う〜ん・・・思い当たる節がないぞ。
むしろこっちの恨みの方が大きい気がする。
「で、綾崎先輩は何ができるんですか?ギターですか?ドラムですか?キーボードですか?私から見るとギターっぽいですけど」
関根が間を開けずに一気に話してきた。
元気なのは分かったが、限度を軽く超えているぞ。
「ギターだよ。これでも生きてる頃は少しは有名だったんだぞ?」
今朝ゆりに無理を言って大急ぎでギターを用意してもらった。
俺が昔使っていたギターと全く同じ物だった。
ストラトキャスターの青系サンバースト。俺が初めて買ったギターでもある。
ゆりにギターの詳しい情報を書いて渡すとき頭の中にフッと別のギターのイメージが出てきた。
そっちの方はだいたいの形しか分からなかったから色だけ指定して俺のギターと同じ仕様にした。
もしかしたら失っている記憶の手がかりになるかもしれなかったからだ。
そのギターは俺の部屋にしまっておいてある。
「へ〜、バンドですか?」
入江も興味津々で聞いてくる。
「いや、ソロだ。地方のテレビで紹介されたこともあったけなぁ」
確か路地裏のライブハウスだけにスポットライトを当てた番組だったはずだ。
俺はライブハウスのぴPRで二人で演奏させられた。
・・・誰とだったけ?
「確か岩沢もテレビに出たことあるって言ってなかった?」
ひさ子が岩沢さんに話をふった。
「うん、ある」
へえ、岩沢さんも出たことあるんだ。
「ただし、私一人じゃないんだけどね」
ん?一人じゃないって事は岩沢さんはバンドでも組んでたのか?
「え?それってそこにいる綾・・・」
サッ・・・
素早く岩沢さんがひさ子の口をふさいで押さえ込んだ。
ヒソ(その話は今するな!)ヒソ
ヒソ(なんで?アイツはお前の好きな男なんだろう?)ヒソ
ヒソ(なんで知ってるんだ?)ヒソ
ヒソ(言わなくても分かるよ。昨日の乱れ具合と今日の笑顔具合で)ヒソ
ヒソ(な・・・・!)ヒソ
なんで、ひさ子はにやついてるんだ?岩沢さんも動揺しているみたいだし・・・
ヒソ(と、とにかくそのことは後で話すから!今は綾崎と私の事については触れるな!)ヒソ
ヒソ(はいはい、分かったよ)ヒソ
ようやく二人は距離を取った。
何があったんだろ?岩沢さんは何か疲れた顔してるし。ひさ子はもの凄いにやにやしてるし。
「あの〜大丈夫でしょーか?」
「あ、ああ、大丈夫。じゃあ、綾崎、何か弾いて。」
いきなり!?何か弾けって何を弾いたら良いんだよ!?
「どうした?ああ、大丈夫。一曲聴けばだいたいの実力は分かるから」
何が大丈夫なんだろうか・・・
「え〜岩沢は綾崎のレベルは知って・・・」
ギン!!
岩沢さんがひさ子の方をにらむ。
ひさ子は黙ったけどまだにやついている。
「アンタはちょっとは名の知れたギタリストだったんだろ?聞いてみたいんだよ。アンタの歌」
さっきのひさ子の影響か。岩沢さんは少しすねた感じの上目遣いで見てきた。
う・・・、ヤバイ。このギャップの破壊力はすごすぎる・・・
「わ、分かったよ」
これで断れるヤツがいたら紹介して欲しいぜ・・・
俺は生前よく弾いていた歌を思い出した。これなら暗譜でいける。
目を閉じて深呼吸をした後、軽く指を鳴らした。ギターを弾く前の俺の癖だ。
四人は黙ってこちらを見ていた。周りはシンと静まりかえる。
俺はイントロを弾き始めた。単調な音の並びだが乗りの良い曲だ。
「え・・・」
「こ、これって・・・」
「Crow Song?」
「・・・・」
俺は四人の驚いた表情を気にせず演奏を続けた。
最後の小節が弾き終わった。
のだけど。しばらく沈黙が続いた。
「え〜と、皆さんどうされたのでございますでしょうか?」
「ど・・・」
ど?
「どうしてCrow songを知ってるんですか!?」
関根が椅子からガタァ!と立ち上がってこっちに詰め寄ってきた。
「ど、どうしてって言われても・・・」
そういえば何で知ってるんだろう。
こんな曲歌ってる人が生前いたっけ?
「Crow songは岩沢さんのオリジナルなんですよ!」
そうか、オリジナルか!どうりで歌手名が出てこないはずだ。
「・・・え?オリジナル?」
岩沢さんの方を見るとまだ放心状態で岩沢さんは固まっていた。
「お~い、岩沢さ~ん。お~い」
関根が岩沢さんの顔の前で手を振った。
ハッ!?
・・・どうやら気がついたらしい。
「綾崎!なんで!?どうしてCrow songを知ってるんだ!?」
岩沢さんが俺の襟首をガクガクガクッと揺さぶってきた。
「分からない、分からないけど頭の中にフッと思い浮かんだんだ!」
「・・・そうか、分かった」
ようやく手を離してくれた。
「で?どうだった?俺の演奏は」
俺はギターをスタンドに立てかけながら尋ねた。
「え?あ、ああ、正直驚いた。こんなに上手かったなんて」
「そ、そうか?」
「・・・それに懐かしかったな・・・」
「うん?何か言った?」
突然岩沢さんの顔が赤くなった。
おお、すげえ、一気に赤くなった。
「な、何でもない!・・・私は十分合格だと思うんだけど。みんなは?」
「私も異議な~し!正直驚きました!これって岩沢さんと同じくらい上手くないですか!?」
「私も賛成です。・・・そうですね。同じ空気は感じましたけど・・・」
「・・・異議なし」
どうやら、合格なようだ。
「・・・というわけで合格だよ。綾崎は私と同じギターボーカルにしようと思うんだけど?」
三人は特に異論はないようでそれぞれ肯定的な仕草をしていた。
「じゃあ、正式にバンドのメンバーとして歓迎するよ綾崎」
・・・そういえば俺が入ったらGirls Dead Monsterはどうなるんだろう?
”Girls”だもんな・・・
まあ、何とかなるだろ。
「改めてよろしく。みんな」
晴れて俺は本当にメンバー入りを果たした。