暗闇からのキボウの歌   作:skav

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岩沢まさみ~岩沢視点~

最初会ったときは驚いた。

しょうがないだろう?またあえるなんて思いもしなかったんだから。

ここに来たって事はアイツは死んだってことだ。

アイツが死んだって事実は残念だったけどまた会えたうれしさの方が大きかった。

・・・だけどアイツが私と顔を合わせても表情一つ変えない。

まるで、赤の他人を見るような目だ。

記憶が無いってパターンはここではよくある話だったから。アイツもそれかなって思った。

けどアイツは自分の名前をフルネームで言えた。記憶が無い奴独特の雰囲気は無い。

それじゃあなんで?なんで私に気がつかないんだろう。

顔がよく見えないのかと思ってできるだけ視線を合わせてみる。

アイツは私が見ていることに気がついたようだけど、不思議そうな顔をするだけだ。

しょうがない、こっちから声をかけてみよう。

「・・・だって岩沢さん、さっきからずっと綾崎君の方ばかり見てるんだもの。」

ちょうどゆりが私の仕草に気づいたみたいだ。私はそのタイミングでアイツに声をかけた。

「綾崎・・・紅騎・・・なのか?」

もっと気の利いた言葉があるだろうが、こう言うのが精一杯だった。

少し緊張しながらアイツの言葉を待った。

けどアイツは。

「岩沢さん・・・だっけ?俺の顔に何かついてる?」

その瞬間私の頭の中の何かがはじけた。

「・・・・馬鹿!」

気がついたら私はアイツをひっぱたいていた。

悲しくて、悔しくて、やるせなくて、何が何だか分からなくなっていた。

私は部屋から出て行きバンドメンバーが待っている第二講義室に走って行った。

ガラガラガラ!

「・・・・・・・」

「い、岩沢さん!?どうしたんですか?」

私は入江の言葉を無視してギターを持った。

私は無性に演奏したかった。音楽でこの気持ちを忘れたかった。

「・・・ちょっとね」

無理に笑って見せた。後からひさ子に聞いたら思い切り目は泣いていたそうだ。

嫌なことは音楽で忘れる。これは私が生きていた頃から変わらないことだ。

・・・でもだめだった。どうしてもアイツの言葉がまとわりついてくる。

「ストップストップ!!」

突然ひさ子が演奏を止めた。

「・・・・?」

「岩沢、調子でも悪いの?今日は全然集中できてないけど」

「・・・・ごめん」

個人的な感情で演奏を止めるなんて最悪だ。リーダー失格だ・・・

「戦線のミーティングで何かあったのか?」

ずばり的中だった。

「確か新しく二人が戦線に入るんでしたっけ。もしかして前岩沢さんが言っていた生前の思い人が現れたとか!?」

グッサァ!

関根の鋭い一言でノックダウンしそうになったが辛うじて踏みとどまる。

これも後でひさ子に聞いたことだけど、そのときかなり挙動不審だったそうだ。

「も、もしかしてど真ん中ストライクってやつですか?」

最後に入江からのとどめの一撃。

私は近くにあった椅子に座って小さくつぶやいた。

「・・・そうだよ」

「それって、さっきから中を覗いてるあの男かい?」

ひさ子がドアの方をちらっと見る。

そこにはアイツがとまどうような顔でこちらを見ていた。

「・・・・」

「どうやらあたりみたいだね。・・・どれ」

ひさ子は早足で歩み寄って扉を開けた。

ガラララ

「さっきから見ていたようだけど何か用?」

ひさ子は少し強めの口調で言った。

「あ、もしかして例の新人ですか?」

入江は気を遣ったようだけど全くフォローになっていない。

「ってことは、岩沢さんが前言ってた・・・」

私は教室を出て行った。

途中でアイツの悲鳴が聞こえた気がするけど、どうでもよかった。今はとにかく一人になりたかった。

「・・・・さて、どうしようか」

何となく屋上に来てしまったが気晴らしに何をしようか分からなかった。

妙に首が重いと思ったら私はギターを持ったまま外に出たらしい。

仕方ない、何か歌うか。

さっき演奏していた曲から適当に選んで弾いてみる。

・・・途中で自然に止まってしまった。

「・・・やっぱりはたいたのは悪かったかなあ」

右の手のひらを見てみる。何も変化はないがじんじんしている気がする。

「いや、アイツが悪いんだ。私は悪くない!」

もう一度手のひらを見てみる。

・・・・けどやっぱりまずかったかなあ。

キィ・・・

突然屋上の扉が開いた。誰かが来たみたいだ。

気配でだいたい分かるアイツだ。

「・・・何しに来たの?」

ギターをベンチに立てかけた。

アイツは私の隣のベンチに座った。

・・・いつもなら隣に座ってくれるのに。

「いやあ、岩沢さんが何か誤解しているみたいなんで」

アイツはまた他人行儀の口調で話してきた。

・・・いつもなら私のことなんか気にかけてないような話し方なのに。

駄目だ、やっぱり我慢できない。

「誤解なんてしていない!お前は、紅騎・・・綾崎紅騎なんだろう!?」

私は叫んでいた。とにかく気づいて欲しかった。

「私だ!岩沢まさみだ!」

もう、無我夢中だった。

「お、落ち着いて岩沢さん」

「あ・・・・」

そうだ、いくら私が叫んでも何も変わらないんだ。

「・・・すまない、取り乱して」

私はベンチに座った。何も考えられなかった。

「岩沢さんは生前の記憶がはっきりしている?」

突然の質問だったが話す気力はなく仕草だけで答えた。

コクッ・・・

「俺のことを生前知っていた?」

コクッ・・・

「じゃあ、俺がどう死んだのは知ってるか?」

フルフル・・・

知っているはずがない。私の方が先に死んだんだから。

ってことはアイツは自分自身がどうやって死んだのかは覚えているのか・・・

「いつ頃この世界に来たの?」

ようやくしゃべる気が戻ってきた。

「一ヶ月前・・・」

今度はこっちからも聞いてやろうじゃないか。

「今度は私から質問して良い?」

アイツははっきりうなずいた。

「アンタは、生前何をしていた?」

生前の記憶がはっきりしているならすぐに答えられるはずだ。

「ライブハウスでバイトをして・・・ギターをやっていた」

正解だ。じゃあ、覚えているんだな生きていたときのこと・・・

私は意を決して質問した。

お願い・・・

「誰と?」

するとアイツは苦悶するような顔をした。

お願い・・・

「・・・分からない」

お願い・・・思い出して・・・

「本当に思い出せない?」

なんで私の思い出だけ失ってるの?

「ああ・・・」

アイツは、本物ののアイツだった。

だけど、私の事を忘れたアイツはアイツじゃない。

「そっか・・・特定の記憶だけが無いみたいだね。」

だったら、思い出させてやる。どんなに時間がかかっても。どんなに苦しくても。

・・・もし私が消えてしまうようなことになっても。

「私がアンタの記憶を取り戻す手伝いをしてやるよ。その代わり私達のバンドに入ってくれないか?」

一瞬の一時だったとしても私はアイツに呼んで欲しい。

「むしろこっちからお願いしたいよ」

 

 

私の事を岩沢じゃなくてまさみと呼んで欲しい。

 

 

あいつと握手をした。

懐かしい手の大きさと温もりだった。

「よろしく、岩沢さん」

そうしたら私も、綾崎じゃなくて紅騎って呼んでやる。

 

 

「・・・よろしく、綾崎」

 

 


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