暗闇からのキボウの歌   作:skav

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岩沢まさみ~紅騎視点~

「第二講義室・・・は、ここか・・・」

多少迷いながらも何とかゆりに言われた教室に来ることが出来た。

「ゆりに道を聞いておけば良かった」

中では女の子四人が演奏をしていた。見た感じバンドのようだった。

かなり防音設備が良いのか少しの音しか漏れてこない。

「・・・さて、どうしたものか」

四人の中に見たことのある顔があった。さっき思い切りビンタをかましてきた張本人岩沢さんだ。

「・・・とりあえず事情を話すか」

合う度にビンタを食らってはおれの顔が持たない。

ちょうど演奏が終わったらしい、俺に気付いたらしくポニーテールのギターを持った女の子が扉を開けてきた。

ガラ・・・

「さっきからいるようだけど何の用?」

・・・気のせいだろうか。岩沢さん以外の三人から睨まれている気がするのだが・・・

「あ!確か新しく戦線に入った二人の内の一人ですよ」

ドラムを叩いていた女の子が思い出したように話した。

「するとこの人が噂の岩沢さんを泣かせた人ですね!?」

「・・・・・・」

すると、岩沢さんは無言で立ち上がりそのまま教室を出て行った。

「あっ、どこに行くんだよ!」

俺は岩沢さんを追おうとしたが教室を出る前にガシッと両肩を掴まれクルッと後ろを向かされた。

真正面に獲物を捕まえた蛇のごとく目をギラギラさせた三人が並んでいた。

「さ~て・・・詳しく聞かせてもらおうじゃないシンイリクン」

終わった。絶対に死ぬよ。もう死んでいるが殺される・・・・

「ギャアアアアア!?」

 

 

「・・・やれやれ」

俺が解放されたのはきっちり三人分殺された後だった。

もちろんその後ちゃんと事情は話した。一部分の記憶が消えていると。

三人は一応納得してくれたが、またすぐに顔色を変えて俺を追い出した。

「だったら早く誤解を解いてこい!!」

だから俺は最初からそうしようとしていたんだって!!

「どこ行ったんだろうな・・・」

いまいちどこに何があるのか分からないので学校中を歩き回るしかなかった。

あたりはすっかり日が暮れて人気も少ない。

だからはっきりと聞こえてきた。あれはギターの音だ。

「屋上か・・・」

俺はすぐに屋上へ向かった。

 

 

屋上に続く階段を上って扉を開けるとやっぱりいた。

岩沢さんはベンチの上でギターを弾いていた。

歌詞もないしメロディーも単調で、あまり曲とは言いにくい。ただの音の集まりみたいだ。

「何しに来たの?」

先手を打たれた。俺は戸惑いながらも隣の二つ目のベンチに座った。

「いや、ちょっと岩沢さんが誤解をしているみたいだからさ」

すると岩沢さんはギターを引く手を止めた。

「私は誤解なんてしていない。お前は綾崎・・・紅騎、紅騎なんだろう?」

やっぱり俺のことを知っているのか・・・俺の知らない記憶を・・・

「私だ!岩沢、岩沢まさみだ!」

立ち上がって必死に訴えるが俺は戸惑うだけだ。すまない気持ちでいっぱいになる。

「ちょっと落ち着いてくれ!岩沢さん!もう少し冷静になって」

岩沢さんはハッと我に返ったような顔をしてベンチに腰を下ろした。

「・・・すまない。取り乱して」

二度三度深呼吸をしてようやく落ち着いたらしい。

俺は一つずつ確かめるように質問をした。

「岩沢さんは生前の記憶がはっきりしている?」

コクッ・・・ゆっくりとうなずいた。

「俺のことを生前知っていた?」

コクッ・・・またうなずいた。

「じゃあ、俺がどう死んだのかは知ってるか?」

フルフル・・・今度は首を横に振った。

ということは岩沢さんが先にこの世界に来たって事か。

「いつ頃この世界に来たの?」

「一ヶ月前・・・」

って、この質問は重要じゃないか。

「今度は私から質問して良い?」

完全に落ち着いたらしく岩沢さんはじっとこちらを見た。

「どこで生まれたのか覚えている?」

俺ははっきりとうなずいた。

「アンタは生前何をしていた?」

これは覚えている。俺はちっちゃいライブハウスでバイトをしていた。

そしてギターもやっていた。

「ライブハウスでバイトをして・・・ギターをやっていた」

「誰と?」

・・・誰と?俺はバンドをしていたのか?

いや、俺はバンドにはあまり興味が無かったはずだ。

じゃあ、特定の誰かと二人でやっていたことになる。

・・・だめだ、思い出せない。

「・・・分からない」

「本当に思い出せない?」

「ああ・・・」

岩沢さんは妙にすっきりとした顔で笑った。とても悲しそうな笑顔だった。

「そっか・・・特定の記憶だけが無いみたいだね。アンタも苦労だね」

するとベンチから立ち上がりスッとこちらに手を差し出した。

「私がアンタの記憶を取り戻す手伝いをしてやるよ。その代わり私達のバンドに入ってくれないか?」

交換条件か。悪くない。俺も生前はギタリストだったんだ。

「むしろこっちからお願いしたいよ。」

俺は岩沢さんの手を握った。思ってたよりもずっと小さくて柔らかい手だった。

「よろしく、岩沢さん」

「・・・よろしく、綾崎」

 

 


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