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欠けた記憶
俺とゆりは学校の屋上にいる。あたりはあかね色に染まり、校庭では野球部がグランドの整備をしている。
「・・・まずは、あなたと岩沢さんの関係について教えてちょうだい」
やっぱりそのことか・・・
「そんなに気になるのか?」
「そりゃそうよ。いつもクールで我が道を進んでるって感じの岩沢さんが、あんなに感情的になるなんて。ちょっとした事件よ」
そうだったのか。それなら聞きたがる理由も納得がいく。
・・・だけど思い出せない。どうしても。
「さっき言ったとおり本当に分からないんだ」
「一つも?」
「ああ、だけど生前の記憶ははっきりしているんだ。どこで生まれたのかどうやって死んだのか」
「そう・・・じゃあどんな未練を残して死んだの?」
未練?現世での未練か・・・
俺は思い出そうとする。必死に、どんな些細なことでも逃そうとせずに。
すると激しい頭痛がしてきた、手足が震えて寒気がした。なぜか涙まで出てくる。悲しくなんか無いのに。
「ご、ごめん・・・無理に思い出させようとして・・・」
ゆりはポケットからハンカチを取り出した。ふけというのだろう。
「いや、かまわない大丈夫だ」
俺はその手を少し乱暴に払った。
「・・・でも」
「少し一人にしてくれ・・・まだ死んだって実感できそうにないみたいだ」
俺は嘘をついた。もうとっくに死んだことは受け入れている。ただ同情をされて欲しくないだけだった。
「分かったわ・・・気が向いたら第二講義室に行ってみて」
「ああ、気が向いたらな」
ゆりは屋上を後にした。
・・・さて、どうするか。
日が暮れ始めているが、寮に帰るには少し早いみたいだ。
「第二講義室か・・・」
確かそう言っていた。気が向いたら行ってみろと。
やることもないし行ってみるか。