暗闇からのキボウの歌   作:skav

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crow song

順調に”Little Braber””shine days”を歌い終わった。

黒いバケモノ達の動きが、歌い始めの時と今と比べて明らかに緩慢になっている。

「おらおらおらぁぁぁぁ!!死ねやお前らぁぁぁぁ!!」

「こら野田!!足止めにとどめろよ!?」

「日向ぁぁそんな女々しいこと言っていられるかぁぁぁぁ!!」

「足止めだっつってんだろ!?」

・・・まあ、一部の例外はさておいて。

みんな必死に足止めをしてくれていた。

「・・・よし、じゃあここで俺たちの新曲。”Hot Meal”を歌います!」

「そして次に歌うのが、私たちのメンバーのユイが初めて作曲した”Thounsand enemies”だ」

少し呼吸を整えてから、”Hot Meal”のイントロを弾き始めた。

 

 

 

 

 

「音無君!左よ!!」

俺の死角に化け物が攻撃を仕掛けてきた。

「・・・任せろ!」

日向がその攻撃を防ぎ、間髪入れずに俺も反撃する。

それにひるんだのかしばらく行動を停止する。

さっきからこの繰り返しだ。

「前の方がもっと手こずったよな日向?」

「ああ、これがあの二人の力ってやつなのか・・・」

・・・といってもこちらの武器はもう少ない。

拳銃もさっきので弾切れだ。

「あとは・・・ナイフしかないな」

「まあ、これぐらいなら楽勝で抑え・・・」

「日向!後ろだ!!」

油断した日向の背後から、襲いかかってきた。

ぎりぎりのところでナイフで防ぐ。

刃がぶつかったときに火花が飛び散るほど凄い衝撃だった。

ガキン!

慣れないナイフのせいなのか、簡単にはじき飛ばされてしまった。

「ま、まずい・・・」

その飛んでいった方向が最悪だった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜♪

”Hot Meal”が終わった。

戦線は徐々に圧されていっているように見えた。

「よし、もっと気合い入れて歌うぞ!」

そのとき・・・。

ガッ!!

「うわぁ!?」

「ま、まさみ!?」

どこからか飛んできたナイフがまさみに直撃した。

いや、正確にはまさみのギターに・・・だ。

「まさみ!?怪我は無いか?」

「ああ、私は大丈夫だけど・・・ギターが・・・」

ナイフは完全にギターに突き刺さり、とてもじゃないが演奏はできそうにない。

「みんな済まない・・・私の、私のせいで・・・!」

今のまさみは自己嫌悪で、完全に自分を見失ってる・・・。

このままだと、歌うどころじゃ済まなくなる・・・何とか、何とかならないか?

せめて代わりのギターが有れば・・・。

今から校舎に入って音楽室へ行きギターを取ってくるのは危険だし、現実的じゃない。

・・・・・・っ、そうだ。

”あれ”があった。

「まさみ。今から代わりのギターを取りに行ってくる。足止めを頼めるか?」

「え?・・・ギター、あるのか?」

「ああ、とびっきりのヤツがな」

「・・・分かった。全力の”Alchemy”で奴らを止めてみせる。紅騎・・・ギター借りるぞ」

「ああ、必ず帰ってくる」

まさみにギターを渡し、ステージを飛び降りる。

それと同時に、まさみはフィードバックを始めた。

それと同時に今まで大暴れしていた化け物達が完全に行動を停止した。

「と、止まった?」

「なんだか分からないけど、体制を整えるチャンスよ!各自、弾薬・武器を補充しなさい!!」

曲が終わるまでの時間は約4分。

この4分が勝負だ。

俺は自分の寮へと走った。

 

 

 

 

 

 

タッタッタッタッタ・・・・バン!!

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」

土足のまま部屋に上がり、ベッドの下から”あれ”引っ張り出した。

ソフトケースのファスナーを開けると、俺のギターとは対極的な真っ赤なサンバーストのストラトキャスターが顔を覗かせた。

コレは俺が死ぬ直前に持っていたギターだ。

だが、俺のギターではない。

正確には俺がアイツに送ろうとしたギターだ。

アイツ・・・そう、まさみに。

まさみの死を知った生前の俺はこのギターを買うことに熱心だった。

深夜までバイトを続け、数時間仮眠を取った後、早朝のバイトに出かけ、昼もバイトに出かけた。

あのころの俺はアイツにこのギターを買ってやることが、全てであり、人生だった。

・・・・だけど、その人生さえも神様ってヤツは奪っていきやがった。

コレは俺にとっての神への復讐。

偶然この世界で再会したまさみにこのギターを渡し、この世界の理をぶち壊す。

まさみや、ガルデモのメンバー・・・いや、俺たち死んだ世界戦線がだ。

休む暇もなく、俺は玄関を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・よし、みんな。準備はできた?」

「もちろんだ、ゆりっぺ!」

岩沢さん達が足止めをしてくれている間、俺たちは急ピッチで準備を整えた。

新しい銃火気に予備の弾薬、地雷等々だ。

〜〜〜〜♪

曲が終了した。

綾崎は・・・まだか・・・。

「総員、綾崎君が戻ってくる間まで、全力でステージを守りなさい!!」

「「了解!!」」

化け物達は今までとは比べものにならないほど素早い動きになった。

「くぅ・・・手強い」

それにただ馬鹿正直に襲いかかるだけではなかった。

「おらぁぁぁ!!死ね死ね死ねぇぇぇぇ!!」

野田の単純な攻撃を読んでいるような動きを見せ、野田が疲れるまで一切攻撃を仕掛けようとしない。

「おい、ゆり!このままだと野田がやられるぞ!!」

「全員野田君を囲んでる奴らに牽制射撃!注意をこちらに向けて!!」

「よっしゃあ、任せろゆりっぺ!!」

「日向!!また後ろだ!!」

「くそ、またかよ!?」

一直線上にいる日向を避けて発砲するために右へ移動した。

「だ、駄目!!音無君!!」

「っ!しまった!?」

それを分かっていたかのように、一匹の化け物が俺たちを突破した。

「くそ!待ちやがれ!!」

難を逃れた日向が、それに向かって銃を構えた。

「日向君だめ!!岩沢さん達に当たっちゃう!!」

「じゃあ、どうしろって言うんだよ!?」

化け物は素早い動きで、ステージ上部まで跳躍し、一人センターで立っている人間。岩沢さんに向かって腕のようなものを振り上げた。

「岩沢さん!よけて!!」

「くそっ!!」

「音無撃つな!!」

パァン・・・。

瞬間、化け物が横っ飛びで吹っ飛ばされた。

「音無!?お前撃ったのか!?」

「違う・・・俺じゃない」

「ふん、あんなアホみたいな威力の拳銃を扱うヤツなんて一人しかいないわよ」

 

 

 

 

 

直井の暴走の件といい、なんでこうもぎりぎりのタイミングなんだろう?

相変わらず、この拳銃半端無い威力だ。デザート・イーグルだっけ?

コレで消火栓をぶち抜けばそりゃ、一発で引き裂けるわけだ。

「綾崎君?美味しすぎるんじゃない?」

「はあ・・・はあ・・・コレでも・・・急いだ方だぞ?」

「そんなことよりゆりっぺ!!アイツらまた野田のトコに集まり始めたぞ!?」

「ああ、もう!!野田君!勝手に動くなって何度言えば分かるのよ!!」

ゆり達はさっきの時間で装備を固めたらしく、一人一人かなり重装備だ。

・・・コレなら、大丈夫そうだ。

ステージに上がると、まさみがしりもちをついていた。

見て、すぐに分かるほど足が震えていた。

「まさみ・・・ごめん、遅れた」

「馬鹿!ばかばかばかばかばか!!!本当に・・・本当に不安だったんだぞ!!」

「ごめん・・・ごめん・・・」

「もう、私の隣にお前がいないとき・・・歌いたくない。あんな、あんな寂しい思いはごめんだ」

「ああ、絶対に、絶対に一人にしない・・・だから、こいつで最後の歌を歌おう」

「そのギター・・・」

「俺たちが生きていた頃に、まさみ・・・コイツが欲しいって言ってたよな」

「あ・・・・・」

「まさみが死んじゃった後俺、必死で働いて限界まで節約して、やっとの思いでコイツを買うことができたんだ」

「な・・・なん、で?」

「それで、コイツを買った日。まさみのトコにこれを持って行く途中で俺は死んだんだ。トラックにひかれて」

「私・・・は・・・」

「俺の記憶が戻ったときにこのギターのことも思い出して俺、すげー嬉しかった。やっとまさみとコイツで演奏できるって」

「紅騎!私は、あの時・・・・・って言ったんだ」

「・・・?」

「私は、あの時・・・紅騎が側にいてくれれば何もいらないって言ったんだ!!そしたら紅騎・・・ちゃんと聞いて無くて・・・」

「ああ、あれか?ちゃんと聞いてたよ?」

「な、だったら・・・だったら何で!?」

「生まれて初めてだったんだよ・・・他人から好意を向けられるの」

「そんなの・・・私だって同じだ」

「だったら・・・コレが俺の好意だ。」

「・・・え?」

「この世界が救われたらどうなるか知らないけど、その後もずっと、ずっっっっと俺は側にいる。だから・・・」

「・・・・ああ、ずっと一緒だ。紅騎」

まさみは俺からギターを受け取ると、軽くギターを鳴らす。

「大丈夫。ずっと使ってきたモノみたいにしっくり来る」

「良かった・・・じゃあ、最後の歌だな」

俺もギターを構えて軽く鳴らす。

「次の曲で最後になります。この曲は、俺たちが最初に作曲した曲」

「いわば、私たちの原点でもある曲です」

「「聞いてください・・・”Crow Song”!!」」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜♪

「・・・・ど、どういう事?」

ゆりが驚きの顔を浮かべて、攻撃の手を辞めた。

俺も拳銃を構える手を下ろした。

真っ黒な化け物はこの曲が始まると、突然活動を休止させた。

さっきのみたいな、一時的なモノとは違う。そう直感した。

「羽が・・・生えてる?」

そう、化け物一体一体に真っ黒な羽が生え始めた。

まるで・・・そう、カラスの羽のような。

「・・・・どうやら、来たみたいね」

奏がぽつりとそう囁いた。

「奏?・・・何が来たんだ?」

「・・・・この世界を歪める力」

「は?・・・何言って、」

「あの二人が頑張ってるんだもの・・・私も頑張らないと」

そう言って、背中から天使を彷彿させる羽を生やした。

「か、奏!?何をする気だ!?」

「羽は特に関係ないわ・・・気分の問題」

「あー・・・ソウデスカ」

奏は一度目を閉じ深呼吸をして、再び目を開いた。

「スキル発動・・・”unizon choking”」

一瞬にして視界が真っ白になった。

 

 

 

 

 


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