暗闇からのキボウの歌   作:skav

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ラスト・オペレーション

「綾崎さん!ステージの組み上げ、完了しました!」

「ああ、ありがとう。ご苦労さん。」

時刻は午前七時半。

登校時間より早く俺たちは行動を開始していた。

一番の仕事は校庭に特設ステージを組み上げること。

それは陽動班を説得して、何とかやってくれることになった。

ステージの組み上げが終わったら細かいセッティングだ。

そのために俺たちはステージに上がった。

「音響系の機械は全て防弾使用になっています。」

今回用意したのは対天使用に耐久性に高い機材だ。

流れ弾で音が出なくなったら洒落にならないからな。

「配置は俺、まさみ、ユイがセンターで、関根が左、ひさ子が右、入江がバックでいいな?」

「いや、今回私はバックコーラスに徹しますから、岩沢さんと綾崎先輩がセンターでお願いします!」

「じゃあ、関根と同じ右側で良いか?」

「はい!」

「まさみ、コレで良いよな?」

「・・・・・」

「・・・・まさみ?」

「朝あんな事をしておいて、良く普通に会話ができるな・・・」

「うう・・・スイマセン」

 

 

 

 

時間を少しさかのぼり、朝六時半。

ピピピピピピピピ

セットしておいたアラームが盛大に鳴り響いた。

「んん・・・もう、朝か」

睡魔と戦いながら、手探りで目覚ましを探す。

ふに・・・

「・・・ん?」

おかしい、目覚ましがこんなに柔らかいはずが・・・。

ふにふに・・・

「こ、紅騎・・・駄目だ・・・そんなに、激しく・・・あっ」

おかしい・・・なぜ耳元でまさみの声が聞こえるんだ?

重たいまぶたを開いてみると、隣でまさみがすやすやと寝ていた。

つーか今のは・・・寝言?

そして俺の左手は、真っ直ぐまさみの胸を容赦なく掴んでいた。

「うわ!?」

すぐに手を離そうとしたが、俺の左手はどんな勘違いをしたのか逆に手のひらを閉じていった。

「あぅ!・・・・・・・ん、・・・誰?」

まさみのまぶたが徐々に開いていく。

ようやく俺の左手は脳の命令に従ってくれたみたいだ。

だが、時すでに遅し。

「こ、紅騎!コレは一体どういう事だ!?」

「俺だって聞きたいわ!!」

「問答無用!!」

瞬間、今まで食らったどの拳よりも重いストレートが俺の土手っ腹にジャストミート。

「・・・な・・・ぜ」

倒れる瞬間、さっきの状況がフィードバックされた。

制服からでは分からなかったが、意外と大きかったんだな・・・。

何とは言わないぜ・・・。

「あ、岩沢。起きたの?・・・って、そいつはどうした?」

「ひさ子・・・何で私は紅騎のベッドで寝ていたんだ?布団で寝たはずだろ?」

「あ、それはひさ子さんが寝ている岩沢さんを・・・むぐ」

「ゆ、ユイ!!」

「ひさ子・・・お前の仕業だったのか?」

「な、ナンノコトカナ〜?」

 

 

 

 

 

・・・ということがあったせいで、さっきからまさみの視線がじと〜っとしている。

「いや、だからごめんって。それに、ひさ子が全面的に悪いんだろ?」

「分かってる、分かてるけど・・・・私だって、女・・・なんだぞ?」

「本当に反省してます・・・。次からはまさみの許可を取って・・・」

「全然反省してないだろ!?」

・・・いや、本当に反省はしている。

ただ、もう少しだけジト目のまさみを見ていたいだけだ。

「もういい・・・許してやるよ。・・・・ただし」

「ただし?・・・・ムグ」

「ン・・・・、はぁ・・・・次は、ないからな?」

突然のキス・・・。

朝からこんなに心拍数が上がって大丈夫なのかな?

「は〜い・・・そこのバカップルの男の方!!こっち来なさい!!」

朝から耳をつんざくような大声が響いた。

声の主は・・・・我らがリーダー。ゆり様でおられた。

「暇だから手伝いに来たわよ!!」

「そ、そりゃどーも」

「何よ?もっと喜んだらどうなの?」

「いや、十分に喜んでるけど・・・」

「綾崎〜、俺も来たぞ」

俺の背中から音無の声が聞こえてきた。

振り返ると、音無以外にも日向や、大山その他戦線のメンバーが大集結していた。

「みんな・・・本当に良いのか?」

この戦いは今までのオペレーションのようにはいかない。

やられたら終わり、死よりも辛い地獄が待っているんだ。

「な〜に言ってんだよ。助けてくれって言ったのはお前だろ?」

日向があきれた表情で言った。

「あ・・・・」

「仲間に助けてくれって言われたんだから、助けにいく。・・・間違ってるか?」

「・・・でも、やられたら死よりも辛い毎日が待ってるんだぞ?」

「そん時は、そん時だ。」

「日向の言うとおりだ。それに・・・奏もいるからな」

確かに音無の言う取り・・・って。

「・・・・音無、いつから立華の事を奏って呼ぶようになったんだ?」

俺だってまだ立華って呼ぶだけにとどまってるのに。

「特に結弦とは何もないわよ・・・綾崎君」

・・・おお、立華も結弦って呼んでる。

「そーゆー事にしておいてやるよ。ゆ・づ・る・く・ん?」

「勘弁してくれ、さっきまでさんざんそれで日向にイジられたんだから」

「はっはっは〜わりぃ、わりぃ・・・」

「さて、無駄話は良いかしら?そろそろNPC・・・いや、バケモノ達がやってくるわよ」

時計を見ると時刻は八時十分。

NPCの登校開始時間だ。

「じゃあ、みんな頼んだぞ!」

「ええ、あなた達は絶対に守って見せるわ」

ゆり達は各自戦闘準備を始めた。

 

 

 

 

 

「ライトチェック・・・問題なし」

「音響問題有りません」

「綾崎さん〜マイクは入ってますか?」

「あーあー・・・大丈夫だ」

「各楽器、最終確認をしてください」

俺たちはそれぞれ、軽く音を鳴らして最後のチューニングをすませる。

全員問題なしの合図を込めて、軽く手を挙げた。

「確認しました。それでは、頑張ってください・・・・みなさん」

すでに百メートル先には黒い集団が集まり始めている。

その数はどんどん増殖していき、とどまることを知らない。

俺は一度後ろを振り返る。

入江は若干足が震えているが、その目はとても楽しんでいるように見える。

ひさ子は全身からわくわくしてたまらないオーラを出している。

ユイと関根は早く始めろと言わんばかりの強い目線を送っている。

まさみは・・・、いつになく緊張していた。

微妙に視線が泳いでいて、足が震えている。

「まさみ・・・大丈夫か?」

「はは・・・ガラにもなく緊張してるのかな?」

「・・・怖いのか?」

「正直言うと、ちょっと・・・」

「・・・しょうがねーな。みんな、ちょっと集まってくれ」

何事だとばかりに、みんなが集まってくる。

俺は無言で、みんなの前に手を差し出した。

俺の意図を察したひさ子が俺の手の上に自分の手を重ねた。

そして、関根、入江、ユイの順に手を重ねていく。

「たまにはこんなのも良いだろ?まさみ」

「・・・・・ああ、ありがとうみんな」

最後にまさみも手を重ねた。

パンパンパン・・・

ピリピリした静寂を乾いた銃声が響いた。

それを合図に戦闘が始まった。

「時間だ・・・・さあ、派手にやろうぜ!!」

 

 

俺たちの最後のオペレーションが始まった。

 


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