高松が消えた。
ただ一人の目撃者、大山が言うには、突然黒い何かが高松を襲いそのまま地面に引きずり込んだそうだ。
高松以外にも直井が襲われたらしいが辛うじて、音無達が救出したらしい。
ついにサーバーのデバッグが始まった。
「おい!高松が見つかったぞ!!」
藤巻が転がり込むようにして校長室に飛び込んできた。
「ほ、本当か!?」
日向や音無達は藤巻に連れられて部屋を出て行った。
俺と岩沢さんはそのまま残った。
結果はもうすでに知っているからだ。
高松はもう、NPCになってしまったんだ・・・。
「始まっちゃったな・・・まさみ」
「そうだな・・・」
俺たちはひさ子達が集まっている講義室に向かった。
この後の作戦を伝えるために。
「・・・それはゆりが考えた作戦なのか?」
ひさ子達に大まかな内容を伝えると、最初にひさ子が質問してきた。
「いや、コレは俺とまさみ、そして立華で考えた」
「立華って・・・天使か!?」
「ああ・・・そうだ」
「馬鹿か!?天使は私たちの敵だぞ!!」
「立華は敵じゃないし、神の手先でもない・・・ただの女の子だ」
「岩沢は!?お前も賛成なのか?」
「ああ・・・それに、このままで終わるよりも私はできる限り悪いあがきをしたいんだ」
「くっ、岩沢までそう言うんじゃ・・・・従うしかないじゃないか」
「関根達は?反対しても良いんだぞ?」
「何言ってるんですか!」
「私たちだって・・・」
「このまま黙って終わりたくありませんよ!」
ユイ、関根、入江は何のためらいもなくそう言った。
「・・・よし、そのためにも練習するぞ!!絶対にこの世界を救うぞ!!」
「「もちろん!!」」
「集まったようね・・・」
しばらく練習をしていたら、体育館に全員集まるように戦線の一人が伝えてきた。
そこには前線メンバーや、陽動班以外のメンバーも集まっていて、文字通り全員招集だ。
ゆりはそこで、謎の黒いバケモノにおそわれるとNPCになることや、その数が急激に増殖していることなどを説明した。
「じゃあ、ゆりっぺ!俺たちはどうすれば良いんだよ!?」
「その前に・・・今まで裏でずっとこそこそ何かをしていた綾崎君?いい加減・・・と言うより、ちょうど良いからこの場で話してくれないかしら?」
やはり、感づかれていたか・・・。
まあ、全員集まる機会なんて少ないし、ゆりの言うとおり丁度良いのかも知れない。
「分かった・・・」
俺は今までのことを包み隠さず話した。
立華はこの世界を救おうとしていたこと、そのためには俺とまさみの歌が必要なこと、作戦を成功させるためにはメンバーの協力が必要なこと。
「・・・以上だ」
「綾崎、お前、こそこそと・・・・」
日向が唖然と舌感じで声を漏らした。
「日向・・・悪いな、黙ってて」
「ハーレムを構築そやがってたのか・・・」
「誤解だ!?」
「だってそうだろ!くっそ〜・・・可愛い子だと思ってたけど、まさかそんな凄いことを考えていたなんて!」
そっちかい・・・。
「はいはい・・・まあ、今の綾崎君に協力するのも良し、どこかで隠れるのも良し、選択肢はあなた達に任せるわ。」
そう言ってゆりは、体育館を去ろうとした。
「ちょ、ちょっとゆりっぺ!?」
「・・・じゃあ、解散!!」
そう言ってゆりは消えていった。
「じゃあ、そう言うことだから。みんな、無理にとは言わない。ただ・・・協力してくれたらうれしい。じゃ・・・」
俺を含め、ガルデモメンバーは自分たちの寮に帰っていった。
寮に帰ってシャワーを浴び、ベッドに潜って約二時間。
「・・・寝付けない」
どうも頭がさっぱりしていて、ちっとも眠気が来ない。
「ちょっと、外に出てみるか・・・」
ベランダに出るくらいなら安全だろ・・・。
靴を履いて扉を開けた。
がちゃ・・・ガン!
「おぶう!?」
扉越しに何かが当たった感触が、そして間髪入れずに聞き覚えのある悲鳴が。
「ゆ、ユイ!?・・・ってかみんなどうした?」
どうやら、ドアの悲劇の被害者はユイだったみたいだ。
ユイの他にも関根、入江、ひさ子がいた。
「・・・・まさみはいないのか」
「いるよ・・・私の後ろに」
ひさ子があきれたように親指で後ろを指した。
よく見ると、ひさ子の背中から赤い髪が見え隠れしている。
「・・・まさみは何してんだ?」
「こ、紅騎にパジャマ姿を見られるなんて・・・恥ずかしい・・・だそーです」
入江が仕草も真似をして説明してくれた。
・・・つーか、声真似うめーな。
「で、そなた達おなごらは、私目に何用でございましょうか?」
「私は、何か寝付け無かったから暇つぶしに岩沢の部屋に行ったら・・・」
・・・と、ひさ子。
「私は、その・・・お化けが怖かったから関根の部屋に」
「そんで、私は何となく入江と岩沢さんの部屋に行ったら・・・」
・・・と、入江と関根。
「私は、朝ドッキリを仕掛けるために岩沢さんの部屋に行ったら・・・」
・・・と、ユイ。
って、朝ドッキリは悪質だって。
「「岩沢《さん》がいなかったから、もしやと思ってここに来た」」
「・・・・で、岩沢さんは?」
「わ、私だって寂しくなるときだってあるんだ・・・・」
あ〜・・・つまり、寂しいから俺の部屋に行った。だけど、寝間着姿が恥ずかしいからためらう。だけど寂しい。
この無限ループで迷ってる間にひさ子達に見つかった訳か。
「可愛いんですよ〜岩沢さん!綾崎先輩の部屋の前でずっとモジモジしていて、実はお隣さんの扉の前だったんですから!」
「ちょ、ユイ!?なんで言うんだ!?」
「とりあえず中にはいるか?外じゃよそ様に迷惑だろうし」
ただでさえ俺たちは目立つんだ。
「「お邪魔しま〜す」」
「あ、綾崎、これ入れといて」
ひさ子の足下には布団が四人分・・・。
「お前ら・・・俺の部屋で寝る気か?」
「バラバラで寝るよりは安全だろ?」
「だったら、女子だけで寝ればいいだろ?」
「そんなこと言って〜実は岩沢といられて嬉しいくせに〜」
うりうりと、肘で脇腹をぐりぐりしてくる。
「・・・・否定はしない」
「よし、じゃあ、そーゆー事で頼んだ!!」
そう言ってさっさと部屋に上がり込んでしまった。
「もう・・・どうにでもなれ」
俺は渋々布団を”4枚”部屋に入れた。
「八切り、十捨て!よし、上がり!!」
「ひさ子先輩また、大富豪ですか〜?」
「そういうユイはまた、五跳びだ」
「わ、またですか!?うわ、Jバックなんて酷すぎです!!」
現在六人で大富豪中。
普通は四人でやるモンだけど、やろうと思えばできる。
六人でやると札がばらついて長期戦になりそうだが、それでもひさ子の無双ぶりは凄い。
一人9枚の状況で革命したりとか、それはそれはえげつないほどの強運ぶりだ。
大富豪はひさ子で確定しているも同然だが、それ以下は結構均衡していて楽しい。
「うぅぅ・・・また大貧民・・・」
富豪が入江、平民が俺とまさみ、貧民が関根で、大貧民がユイだった。
「ふわぁぁ〜あ・・・俺はもう寝るぞ・・・」
「えぇ〜まだ十一時ですよ?」
ユイがとても不満げに抗議する。
「お前なぁ、明日はかな〜り大事なライブなんだぞ?寝不足で〜なんて許されねぇんだぞ。分かってるのか?」
「でも・・・これで最後なんですよね?こうして過ごせるのは・・・」
そう良くも悪くもコレで、今までの生活には戻れない。
ユイはそれを分かっているからこそ、今を思い切り楽しんでいるんだ。
「確かに今日でこの生活とはお別れだ・・・」
「だったら・・・」
だけど・・・と、俺はユイの言葉を遮った。
「あえて明日のことを考えてみろよ・・・わくわくしないか?」
「先輩は・・・どうなんですか?」
「俺か?おれは、大人しく寝ていないと叫びだしてしまうくらいわくわくしてるよ。」
コレは本当だ。一秒でも早くベッドに潜らないとマジで叫び出しそうだ。
「実は・・・私も・・・」
「私も入江と同じ!!」
すでに関根と入江は布団を敷いて寝る準備万端だ。
「あ、しまった〜布団が足りないぞ」
ひさ子がとんでもない棒読み口調でとんでもないことを言った。
「・・・・わざとじゃないだろうな?」
「まさか〜・・・そんなコトするわけ無いだろう?」
へへへ〜と笑う姿は間違いなくわざとですと言っているようなものだ。
「もういい・・・俺は寝る」
誰がなんと言おうが俺は寝る。自分のベッドで関係なく寝るぞ。
「ああ、おい綾崎〜!」
「すぅ・・・すぅ・・・」
「マジで寝たよ!?」
「先輩、寝付き良すぎです」
「じゃあ、入江。私たちも寝よ?」
「あ、うん・・・そうだね」
「岩沢・・・は、もう寝ちゃったか・・・」
「ひさ子先輩〜一緒に寝ましょうよ?」
「ぐへへへ・・・今夜は寝かさないぞ?・・・と言いたいところだが。よっと」
「え?え?えぇぇぇ!?」
「これで良し、さあ、そこに寝て良いぞユイ」
「え、あの・・・良いんですか?」
「大丈夫、何か起きたら私が何とかするから!」
「・・・はい、じゃあ、お休みなさい」
「うん!お休み〜・・・・じゃあ、」
カシャ・・・
「ん・・・・すぅ・・・すぅ・・・」
「へっへっへ〜良いもの撮れた♪明日が楽しみだ〜」