暗闇からのキボウの歌   作:skav

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催眠術

「そこにいるのは分かっている、出てこい」

直井がそう言ってきた。

「どうする?ひさ子・・・」

「・・・私が出て行く。岩沢はその隙に逃げろ」

「そ、そんなことできるか!」

「馬鹿!!ここで二人がやられたらどうするんだよ!?」

「・・・・だったら、私が行く」

「・・・・ばか。岩沢がやられたら綾崎が泣くぞ?」

「・・・・・・・」

「こんな時くらいは私に良い格好をさせてよ・・・ね?」

そう言ってひさ子は教室から飛び出した。

「うおおおおお!!」

「・・・・一人だけか、まあ、妥当な判断だ。」

直井はひさ子の拳を軽々と交わし交差する瞬間にひさ子の腹に膝蹴りをした。

どすっ・・・・!!

「が、・・・・は、」

どさ・・・。

一瞬にしてひさ子はやられてしまった。

「もう一人の方も出てきたらどうだ?」

「岩沢・・・早く・・・早く逃げろ!!」

ひさ子のためにも早くここから逃げないと・・・。

ひさ子の悲痛な叫びを聞いて足に力がこもった。

「・・・・甘いな」

その言葉で不意に直井の方を振り返ってしまった。

そしてさっきまで黒かった直井の目が赤くなっていることに気が付いた。

「”止まれ”・・・」

すると私の身体が金縛りに遭ったように動かなくなった。

「何をしてるんだ岩沢!!早く逃げろ!!」

「か、身体が動かない・・・」

「ふん、無様だな。”こちらに来い”」

今度は身体が誰かに乗っ取られたように勝手に動き始めた。

・・・無論直井の方へ。

「さて、確か後三人いたはずだな・・・どこにいる?」

「・・・・・・」

「”応えろ”」

「ぐ・・・関根・・・と入江は・・・体育館の屋根裏・・・部屋に・・・いる」

私の意志とは無関係に私の口はすらすらと答えていく。

「男の方はどこにいる?」

「・・・知らない」

「”本当だな?”」

「本・・・当だ」

「さっきから岩沢に何をしているんだ!?」

「黙れ・・・」

そう言ってひさ子の腹を踏みつけた。

「あぐぅ・・・」

「貴様らに教える義理はないが・・・そうだな・・・強いて言うなら催眠術ってところか?」

・・・催眠術?

「そんなものどうやって・・・」

「原理はお前達が作っている武器と同じだ」

・・・・てことはコイツもこの世界のことを知っているのか?

「生徒会長がいなくなった今僕の抑止力は無くなった・・・そう、僕はこの世界の神だ」

「・・・・アンタが神だって?はっ冗談にも程があるねぇ」

「黙れと言っているのが聞こえないのか?・・・まあ、良い。”貴様は少し眠っていろ”」

「くっ・・・・・」

ひさ子は小さく呻いたかと思うと、たちまち気絶してしまった。

「ひさ子!?」

「大丈夫だ・・・少し眠ってもらったまでだ」

「・・・・お前はさっき自分は神だと言ったな?」

「ああ、それに何か問題でも?」

「だったら・・・お前は私たち戦線の敵だ・・・」

「・・・・僕を否定するのか?・・・侮辱だ。この僕を侮辱したな!?」

ドス!!

直井はそう叫ぶと目にもとまらない速さで私の横腹に回し蹴りをしてきた。

「ぐ・・・ふぅ・・・」

たまらず私はその場に崩れ落ちた。

蹴られたショックで咳が止まらない。

「げほっ・・・げほっ・・・あ、」

間髪入れずに私は髪を掴んで無理矢理頭だけ持ち上げられた。

「貴様にはとびっきりの地獄を見せてやる。」

直井は邪悪な笑みを浮かべた。

「確か貴様は、生前声が出ないまま死んだらしいな・・・」

・・・・まさか。

「だったら今ここで再びその悪夢を再現してやろう」

直井は赤い瞳をこちらに向けてきた。

「や、やめろ・・・・・」

「ふん・・・さあ、僕の目を見ろ。そして・・・」

・・・やめろ。

「貴様は・・・」

・・・・やめて。

「自分の・・・」

・・・誰か。

「声を・・・」

綾崎・・・綾崎・・・助けて・・・助けてよ・・・綾崎・・・。

「助けて・・・綾崎・・・」

「うしな・・・・」

パアン!プシュゥゥゥ・・・。

銃声が聞こえた方思うと辺り一面真っ白になった。

誰かがすぐ近くの消火栓を打ち抜いたらしい。

おそらく盛大に吹き出しているのは水だろう。

そしてそれを打ち抜いたのは・・・。

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・岩沢さん・・・大丈夫か?」

・・・・綾崎だった。

「あや・・・・!?」

私はちゃんとアイツの名前を呼んだつもりだった。

だけど途中で喉が詰まったように声が出せなくなった。

・・・たぶん直井の催眠術が中途半端に掛かってるせいだ。

「岩沢さん!!ひさ子を連れて逃げるぞ!!」

私はうなずいて綾崎の言葉に応えた。

「ま、待て・・・貴様ら・・・」

「うるせぇ!!」

そう言って生石灰と書かれた袋を直井に投げつけた。

ボフン・・・。

確か生石灰って水と反応して発熱するんじゃ・・・・・。

シュ〜・・・・。

「あ、熱い!!貴様一体何をした!?」

「よし、逃げるぞ!!」

綾崎はひさ子を担いで走り出した。

・・・その方向は、屋上に行くつもりかな?

 

 

 

 

「くそ・・・やっと収まったか」

「会長代理!!」

「・・・・なんだ?」

「反乱分子はほぼ無力化!ただリーダーと思われる女が激しい抵抗をしていて・・・」

「分かったすぐに行く・・・」

「・・・・会長、その白い粉は?」

「お前も体験してみろ!!」

「は・・・?うわぁぁ!!あっつい!?」

「ふん・・・では僕はそのリーダーを潰しに行ってくる」

「りょ、了解・・・あ、熱いぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 


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