俺と岩沢さんが反省房に放り込まれていた間にずいぶんと事態が変わっていた。
あの直井が本格的に俺たちを潰しに掛かってくるらしい。
しかも今日中に。
それに音無と立華が行方不明だ。
ゆりの推測ではおそらく直井に監禁されているだろうとのことだ。
「くそっ!一体どうすりゃぁ良いんだよゆりっぺ!?」
日向は酷く落ち着かない様子でゆりに問いつめている。
「どうするって直井の方?それとも音無君の方?」
「どっちもだ!!」
ゆりは「はぁ・・・」と一つため息をついてから面倒くさそうに言った。
「今私たちが対処しなくてはいけないのは直井の方よ。音無君は場所が分からない以上どうにもならないわ」
「な・・・!ゆりっぺ!音無が心配じゃないのかよ!?」
「そんなこと言っていないわ。ただ私は優先順位を言っているだけ。もし音無君が見つかっても私たちが全滅してちゃ意味無いでしょう?」
まあ、正論だな。
つーか日向よ・・・音無に執着しすぎじゃないか?
「・・・・分かったよ。つまり音無の帰る場所を守れば良いんだろ?」
「ちょっと気持ち悪いけど・・・まあ、その通りよ」
・・・・確かに今の言葉は少し引いた。
お前は・・・あれか?オトコノコガスキナノカ?
「・・・・で、具体的にはどうするんだ?」
松下五段がすばらしくちょうど良いタイミングでゆりに聞いた。
「私たちはNPCには攻撃してはいけない。直井はそれを上手く使うはずよ。・・・・つまり」
「つまり?」
「私たちは直井のみに目標を集中。使用する武器はハンドガンとナイフのみ。そのほかの武器は認めないわ」
「それは俺にコイツを使うなと・・・そう言っているのか?」
野田が例の馬鹿でかい斧をゆりに差し出した。
「・・・そうね。野田君には特別にそれをナイフサイズにしたものをあげるわ」
そう言って机の引き出しから野田の斧を20cm程にスケールダウンしたものを渡した。
「済まない・・・む?ずいぶんとペコペコするが・・・プラスチックか?」
いや・・・どこからどう見てもプラスチックだよな・・・。
「大丈夫!野田君なら使いこなせるって信じてるから♪」
ゆりのヤツ・・・野田がそんなことで了承するわけn・・・。
「そう言うことなら仕方がない。絶対に使いこなして見せる!!」
野田はそう言って校長室を飛び出していった。
「アホだ・・・」
「浅はかなり・・・」
「・・・さて、他に質問は?」
「ゆり・・・ちょっと聞きたいんだが・・・」
「何?綾崎君?」
「俺たち陽動班は何をすれば良いんだ?」
陽動班のメンバーは俺以外まともに武器を扱ったことがない。
そんなんでいきなり戦え言うのは無理があるんじゃないか?
「決まってるじゃない。逃げるなり隠れるなりしてやり過ごすのよ」
「・・・・それだけ?」
「一応訓練をしている綾崎君がいるんだから心配ないでしょ、岩沢さん?」
「ま、まあ・・・それはそうだな」
つまり何かあったら俺が対処しろと・・・。
「分かったよ・・・俺が何とかしてみる」
「そしてもらわないと困るのよ・・・・じゃあ、一時解散あっちが動き始めたら直ちに対処すること。以上!」
「・・・・と言うわけだ」
とりあえずさっきまでのことを簡単に説明した。
みんなは特にあわてた様子も無く話を聞いていた。
「私たちは戦わずに逃げろ・・・ねぇ」
「あれ?綾崎先輩、ユイはどうしたんですか?」
「ああ、アイツは何か日向が足手まといになりそうだからって言って前線に参加するらしいぞ」
「・・・・そ、そうなんですか」
「まあ、俺たちはさっき言ったとおり逃げるか、隠れるかだ」
「隠れるって・・・そんなに都合が良い所なんてあるのでしょうか・・・?」
入江は逃げるよりも隠れることを心配しているらしい。
「二〜三カ所心当たりがあるから心配するな」
「・・・・はい」
「まあ、何かあったら綾崎を頼っちまえば良いんだからな!」
「ひさ子・・・俺にもやれることとやれないことがあるんだぞ?」
「綾崎ぃ〜そんなこと言ってたら岩沢が愛想尽かすぞ?」
・・・・なぜそこで岩沢さんの名前が出てくる?
「ひ、ひさ子!?何言ってるんだ!」
「岩沢ぁ〜そこんトコどうなのよ〜?」
「し、知らない!!」
「まあまあ良いではないか〜!」
「そこまでだひさ子、てか酔っぱらった親父かお前は・・・」
「そうですよ〜岩沢さんが可哀相ですよ〜」
「・・・・分かったよ」
ひさ子は観念したらしく、岩沢さんいじりを大人しく止めた。
「・・・・じゃあ、ここから安全に脱出するための罠を仕掛けるぞ」
「・・・・ここって安全じゃないんですか?」
入江がおびえきった様子で聞いてきた。
よく見ると少し足が震えている。
「無理にここから出ようとするとアイツらが早く行動を始めるかもしれないからな。それならいっそこっちに来る奴を動けなくしてから出た方が安全だろ?」
「・・・・そうかもしれません」
「それに今すぐここを出たら俺たちの楽器を取り上げられるかもしれないしな」
「そ、それは困ります!」
「だから楽器を隠したり罠を仕掛けたりしてアイツらに弱みを握らせないようにするんだ」
「さっすが綾崎先輩!!考えてますね!」
「よし、じゃあ楽器を隠すトコから始めるか」
俺たちは楽器を隠したりちょっとした罠を仕掛けたりしてそのときに備えた。
「・・・・よし、準備完了・・・・岩沢さん、そっちはどう?」
「こっちも全部のシールドが繋ぎ終わった」
「電源よし・・・じゃあ、みんな隣の教室に移動するぞ」
ちょっとした罠の準備が終わり俺たちな教室と教室の間にある準備室に身を潜めた。
タタタタタタタタタ・・・。
しばらくして廊下に複数の足音が聞こえてきた。
足音は明らかにこちらに向かってきている。
・・・・来たか。
ガラガラガラ・・・・。
「・・・確かここがアイツらの目くらましが居座っている場所だよな?」
「はい・・・情報ではそのはずです」
「誰もいない・・・・だがここから誰かが出てきたという情報は無い・・・つまり」
「どこかに隠れている・・・と言うわけですね」
足音は四つ。
声から察するに全員男だ。
・・・・えげつねぇ。
とりあえず一つめの装置を作動させるように岩沢さんに指示を出す。
岩沢さんは持っていたはさみで足下の五本ある糸の内一本を切った。
この糸は扉の向こうに続いていて、教卓の中に吊してある黒板消しを落とす仕組みだ。
かたん・・・・。
「・・・・誰だ!」
「教卓の中に誰か隠れているようですね・・・」
続いて岩沢さんは4本全ての糸を切った。
カランカラン・・・・。
〜〜〜〜♪
ドラムスティックとギターの弦の音がさっきとは逆の方に響く。
「馬鹿な奴らだ・・・緊張で手でも滑ったか?」
「これで確実に三人はいますね」
「よし・・・お前と俺で今日を確認する。二人はそっちを調べろ。」
「「了解」」
二つのグループがそれぞれ音がした方に歩みを進める。
俺は誰も使っていないレス・ポールギターを構えた。
さっきの音に乗じてすでに音量は上げてある。
ギターのボリュームはMAX。
あっちの二つのアンプも音量は最大だ。
ここの講義室は中の音を一切外に漏らさないようにできている。
しかし音楽室のように音を吸収する構造の壁ではない。
音を完璧に反射するただの壁だ。
そんな中でギターをかき鳴らすとどうなるか・・・。
「・・・・!・・・っ、教卓の下にスピーカー?」
「こっちも机の下にスピーカーのようなものが!!」
・・・・仕掛け時かな。
俺は耳栓をして、四人にも耳を塞ぐように指示を出す。
そして思い切りストロークをする。
ジャラララララアアアアアアアアアアアァァァ!!!
バタリ・・・バタリ・・・バタリ・・・。
向こうの教室で三つの倒れる音が聞こえた。
・・・・じゃあ、次はピックスクラッチで。
ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!
・・・・・バタリ。
ふ〜終わった〜・・・。
俺はおむろに”アンプ側”のシールドを引っこ抜いた。
「あ・・・・」
ギュオオオオオオオオ!!!!
やっちゃった・・・。
おそるおそる四人が倒れている方の教室を覗いた。
綺麗な仰向けで全員泡を吹いて倒れていた。
・・・・痙攣しているから生きてるな。
「綾崎・・・・」
「鬼畜だ・・・」
「酷いです・・・」
「悪魔です・・・」
四人が何か言っているがとりあえず無視。
四人を縄で束にしてから教室を出て行った。