暗闇からのキボウの歌   作:skav

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一日遅れの反省房

翌日、反省房送りにされていたみんなが帰ってきた。

「くそ、一体何なんだよアイツは!?」

がん!!

日向がいらだった様子で校長室の壁を殴った。

日向以外のみんなも苛立った様子だ。

「あの直井ってやつはNPCじゃないのか?」

音無が何かを考えている様子でゆりに聞いた。

「その可能性が高いわ」

「じゃあ、なんで生徒会に所属をしていて消えないんだ?」

NPCでないなら、普通の学生生活を送れば消えてしまうはずだ。

「少し前にね、彼が学校の屋上で生徒に暴行を加えているところを目撃したの。たぶんそうしてこの世界にとどまっていたみたいね」

・・・・なるほど。表向きではNPCの一人のふりをしていてずっとこの機会を待っていたのか。

天使が生徒会長の地位を奪われる日を。

「・・・ならばこの後俺たちはどうすればいいんだ?戦う対象の天使はいないんだろう?」

そうだ、松下五段の言うとおり今の戦線は戦う対象がいない。

それに戦線はNPCに手を出してはいけないことになっている。

「しばらく様子を見るわ。みんなは普通に授業に参加して。ただし授業には一切耳を貸さないこと!」

・・・それって普通に授業を受けることになるのか?

「それじゃあ、みんな行動開始!」

 

 

・・・という訳で俺たちは授業を受けているフリをしているわけだが。

ひさ子・藤巻・松下五段・TKは麻雀、高松は腕立て伏せ、等々。

完全に”フリ”の域を超している行動をする面々。

ついでに岩沢さんも俺の隣で作曲を始めている。

日向と音無のグループに混ざろうかと思ったが、岩沢さんの手伝いをすることにした。

「・・・・綾崎、こんな感じの曲はどうだろう?」

「これって・・・"thousand enemies"?」

岩沢さんが作っているのは”thousand enemies”の編曲バージョンだった。

半音下げチューニングがされているし、歌詞も全く別のものになっている。

「私だったらこんな感じの歌詞にする・・・・」

「ああ・・・確かに岩沢さんらしい雰囲気が出ている気がする」

「そ、そうか?」

「後は・・・そうだ!ギターソロを変えてみるのはどう?」

「ギターソロ・・・ちょっと待ってて・・・」

再び岩沢さんは五線譜に音符を書き連ねていく。

この状態になった岩沢さんはどんなに話しかけても反応しなくなってしまう。

「はあ〜・・・暇だ・・・」

ガラガラガラ・・・

「貴様ら何をしている!」

・・・・最悪のタイミングで直井が現れてしまった。

「やべぇ!!逃げるぞおまえら・・・って早!!」

すでに麻雀組は窓から退散しているし、高松がいたところにはタオル一枚だけ残っていただけだった。

「岩沢さん!!逃げるぞ!!」

「・・・・ぶつぶつぶつ」

「あ〜もう!!こんな時でもかよ!?」

とりあえず岩沢さんを担いで退散しないと。

俺は岩沢さんを担ぎ上げて全力で逃走。

「逃げ切れると思うか?」

・・・・できなかった。

直井の後ろに控えていたNPCに捕らえられ、抵抗むなしく反省房に入れられてしまった。

「・・・・ぶつぶつぶつ」

「・・・勘弁してくれ」

 

 

 

 

生徒会に反省房へ押し込まれて早一日が経った。

「貴様らには昨日いなかった分まで追加してやる。感謝しろ」

直井はそう言って反省房に俺たちを放り込んでいった。

誰が感謝するかよ・・・。

岩沢さんは一日中作曲の世界に入り込んだままだった。

・・・・凄いのかただの馬鹿なんだか。

「綾崎・・・その、どうして私たちは二人でベッドに寝ているんだ?」

・・・それは俺も知りたい。

昨日作曲に没頭している岩沢さんを見てたら急に眠くなって・・・。

それから岩沢さんは寝る様子がなかったから俺は先にベッドに横になって寝てしまったんだっけ。

まあ、確かに寝ている間に何か隣でもぞもぞする感覚はあったけどさ。

「岩沢さんは覚えていないの?」

「私はある程度曲の感じがつかめたと思ったときに急に眠くなったから寝ただけだ」

「どこで?」

「・・・・ベッドで」

「俺がいることは?」

「寝ぼけてたから・・・あの時は抱き枕かと思ったんだ!」

・・・・反省房にそんな贅沢なものがあるわけ無いだろ。

「ああ、だから俺が起きたとき岩沢さんが思いきり俺に抱きついて寝t」

「わーわー!!それ以上言うな!!」

・・・そう、俺が起きたとき右側に妙な重みを感じた。

岩沢さんが俺の首の後ろに腕を回して寝ているのに気が付くまで数秒程掛かった。

「いや〜可愛い寝顔だったな〜」

「ーーーーーっ!!??」

岩沢さんは声にならない悲鳴を上げた。

「大丈夫、岩沢さんの寝顔のことは誰にも言わないでおくから!」

「・・・・馬鹿」

「ほら、すねてないで作曲の続きでもしようぜ」

「うん・・・・」

岩沢さんは納得がいかない様子でノートを開いた。

「大体は形になってきたんだけど・・・・」

そう言ってたくさんのフレーズの一つを指さした。

「これが今一番しっくりきてるんだ」

「・・・確かにこれならあっちの曲とは別物だな」

「やっぱりそう思うか?」

「うん、そもそも半音下げチューニングだしイメージも全然違うからな」

「じゃあ、ギターソロはこれで決まりっと・・・」

「後は曲名だけだな」

「え?”Another thousand enemies”じゃ駄目か?」

「・・・・却下。ってかそのまんますぎるだろ!!」

「うー・・・・ごめん・・・」

・・・ったくしょうがねーなー。

とりあえず岩沢さんが書いた歌詞を読んでみた。

その中でも一番印象に残る・・・いや、キーワードになってる言葉は・・・。

「温かい食事・・・?」

「ああ、そこは今の私たちの状況を思い浮かべたんだ。・・・変か?」

冷たい部屋・・・温かい食事・・・。

まあ、当てはまるっちゃあ当てはまるよなぁ・・・。

「いや、全然変じゃない。むしろ良い!」

「そうか・・・?」

「じゃあ、”Hot Meal”ってどうだ?」

和訳すればそのまんま温かい食事なんだけどな。

「・・・良いんじゃない?」

「良いのか!?」

「うん、しっくりくるし」

どうやら岩沢さんの判断基準はしっくり来るか来ないかで決まるらしい。

・・・よく分からない。

ピピッガコン・・・。

「お、開いたみたいだぞ?」

どうやら設定した時間になると自動的に開く仕掛けらしい。

「なんて言うか、ちょうど良いタイミングだな」

「私もそう思う・・・」

俺たちはとりあえず食堂へ直行することにした。

 

 

まずはHot Meal(温かい食事)を食べないと。

 

 

 

 


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