暗闇からのキボウの歌   作:skav

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嵐の前の・・・・

作戦終了後日。

緊急の集会が開かれ、そこで現会長である立華奏が会長を辞任し副会長である直井というヤツが生徒会長代理になったそうだ。

「一応作戦成功・・・だよな」

「ええ、大成功よ」

ゆりを含め、様子を見に来ていた戦線メンバーは校長室に戻った。

今日は俺たちのバンドの新メンバーを紹介する日だ。

 

 

 

「じゃあ、紹介するよ。新しくガルデモのメンバーになるユイだ。面識は日向は嫌と言うほどあるだろうがな」

「ユイ、で〜す☆」

ユイが自分の顔の前でVサインを作った。

「・・・・いつからガルデモはアイドルグループになったのかしら?」

「・・・・浅はかなり」

・・・あれ?低感触だ。

「・・・大体なんで今更新メンバーを入れるのよ?」

「それは・・・・」

ユイが毎日練習に押しかけてきてしつこいからなんて言えないしな〜・・・。

「純粋に必要だからだよ」

岩沢さんが助け船を出してくれた。

後は任せろとアイコンタクトをしてくる。

「必要って・・・どういう意味?」

「そのまんまの意味だよ。今のガルデモにユイの歌が加わったらもっと良くなる」

「その根拠はどこにあるの?」

「今・・・歌えばいいさ」

「・・・・・はあ、分かったわ。じゃあ、マイクを用意してちょうだい」

日向と音無がいそいそと準備を整えた。

・・・ラジカセとマイクを出すだけだけどな。

「じゃあ、ユイ任せた」

俺はユイにマイクスタンドを渡してラジカセにテープをセットした。

まあ、”crow song”あたりで良いだろう。

「え?あ、はい!」

ユイがマイクの高さを調節し終えるのを見て、再生ボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜♪

「・・・ゆり、どうだ?」

「・・・まあ、良いんじゃない」

「そ、そうか・・・ありがとう」

「まあ、あの馬鹿さをなんとかすれば、だけどね」

ゆりと俺の視線の先には天井に突き刺さったマイクスタンドと絡まったコードで絞死体と化したユイがいた。

「が、がんばります・・・」

岩沢さんはやんちゃな子供を見るようなめで吊されたユイを見ていた。

「ロックだ・・・・」

・・・意味が分からんのですけど。

とりあえず日向にユイを保健室に運ばせた。

「・・・じゃあ、そろそろ食券も尽きてきたみたいだからトルネード・・・いっとく?」

「おお、久しぶりにトルネードか」

松下五段が必要以上に意気込んでいた。

・・・肉うどんでも切らしたか?

「じゃあ、今日の1800時にトルネードを始めるわよ」

「「了解」」

各自そのときに備えて準備に向かっていった。

「さて、俺たちも練習に戻ろうとしますかね」

「ああ、そうしよう」

・・・作戦までにはユイも起きるだろ。

 

 

 

 

 

『こちら遊佐です。NPCも順調に集まって来ました。そろそろ良いと思われます』

遊佐からの連絡だ。

確かに食堂のホールには多くの生徒達が集まっている。

「だってさ、みんな・・・行くとしますか!」

例のごとくユイはステージ裏で待機してもらっている。

今日の曲目は”Alchemy”と新曲の”thousand enemies”だ。

岩沢さんが作曲をしてユイが歌詞を考えたものだ。

「ユイ、待たせたな」

「あ、ひさ子先輩!チューニング、バッチリやっておきましたー!!」

ユイがわざとらしく敬礼をする。

だいぶテンション上がってるな。ユイのヤツ・・・。

岩沢さんがマイクスタンドの前に立った。

「よし、時間だ。みんな派手に騒ごうぜ!!」

そしてオペレーション・トルネードが始まった。

 

 

 

『生徒達のテンションが最高潮です。風を送りますか?』

ゆりの耳に遊佐からの無線が入った。

風を送る指示を出そうとしたとき、高松が何か下に向かって指を指しているのが見えた。

その方向を見てみると、”天使が生徒の集団の中にいた”。

「な・・・!外の連中は何やってるのよ!?」

急いで作戦を中止させようとするが、天使の様子がおかしいことに気づいた。

「攻撃・・・してこない?」

天使が向かった先は食券の券売機。

購入した品物は麻婆豆腐。

食堂一の激辛と呼ばれる一品だった。

「げ、あんなもの頼んで大丈夫なの!?」

『ゆりっぺさん!!風を送る許可を!!』

もう少し様子を見たかったが、今は作戦の途中だ。

仕方なく送風の許可を出した。

直後、一斉に送風機が始動し強風が起こった。

盛大に巻き上げられた食券は紙吹雪のように光り輝いていた。

 

 

 

 

 

 

「音無・・・・それ、本気で食うのか?」

「まあ・・・そうだけど」

日向が失笑するのも仕方ない。

音無のトレーの上にあるのは”あの”麻婆豆腐だ。

「綾崎も何か言ってやれよ」

「あ〜・・・まあ、頑張れ。音無」

「あ、ああ・・・。」

ちなみに俺は醤油ラーメン。

それに岩沢さんの塩ラーメンからチャーシューをもらったから、結構なボリュームだ。

「いただきます!」

ずるずるずる〜。

「う〜ん・・・やっぱ岩沢さんのラーメンの方が美味いや」

「そ、そうか?」

「ああ、断然岩沢さんの方が美味しい」

「あ、ありがとう・・・」

岩沢さんも赤面しながらラーメンをすすり始めた。

「なんだ〜綾崎〜もう嫁さんをもらったのか?」

「ぶっ!!・・・よ、嫁!?誰が?」

「決まってるだろ。岩沢さんだよ。コノヤローもう手料理なんてごちそうになりやがって」

「ちょ、誤解だ!な、なあ、岩沢さん?」

「・・・・・・(さらに赤面)」

「おーおー・・・お熱いことで」

「音無・・・助けて・・・って音無?」

音無は何か深刻そうな表情で一点を見つめていた。

「なあ、綾崎・・・」

「な、なんだよ・・・」

「俺たちって、天使と仲良くなれるのかな?」

・・・・いきなり何言ってるんだ?

しかもなぜかこんな時に限ってみんな無言だし。

「何言ってるんだよ!!」

「俺たちさんざん天使に痛めつけられてきたじゃねぇか!!」

「そんなヤツと今更仲良くなんてできるわけ無いだろ!!」

周りの奴らが一斉に反論してきた。

・・・・まあ、普通はそんな反応するよなぁ。

でも、みんな天使の、立華の本当の姿を知らないから言ってるんだよな。

たぶん音無もそのことに気が付いているのだろう。

・・・・立華奏は本当は普通の女の子だって。

「音無・・・俺はお前の意見に賛成だ」

「本当か?」

「ああ、少なくともアイツはちょっと無表情な普通の女の子だって知ってるからな」

「そうか・・・やっぱりそうか」

「ああ・・・」

すると横からじとーっとした目で岩沢さんに見られているのに気が付いた。

「・・・・岩沢さん?」

「綾崎・・・ちょっと良いか?」

「え?・・・あ、ちょっと!!」

俺は岩沢さんに食堂裏に連行されていった。

「・・・って痛い!?耳は、耳は引っ張らないで!!」

「お、夫婦喧嘩か?」

「ち、違う!!・・・痛い!?マジイテェ!!」

照れた岩沢さんがさらに歩調を早めるものだから耳のダメージも増幅するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・・じっくり話を聞こうじゃないか?」

・・・・何となく正座をしなければいけないと思い俺は芝の上で正座をした。

「話って?」

「さっき音無と話していた内容についてだ」

「音無とって・・・・立華の話?」

「お前・・・いつからそんなに天使と仲良くなった?」

「仲良くって・・・そんなに仲は良くないと思うんだけど」

「いや、絶対に仲が良い、仲が良いに決まってる!」

「・・・・もしかしてだけど、岩沢さん」

「・・・何?」

「妬いてる?」

「ば、馬鹿!妬いてる訳ないだろ!?」

・・・・やっぱ妬いてるんだな。

ちくしょ〜可愛いなぁこの人。

「前にも言ったけど立華はこの世界を救おうとしてるんだ。そのために俺や、岩沢さんの助けが必要なんだよ。」

それについて話している内に立華の性格が分かってきただけ、と付け加えた。

「ああ、確かにそんなことを言っていたな。」

・・・ようやく分かってくれたか。

「てっきりお前は天使のことが好きだからと・・・」

「あー・・・それは無い。安心して」

・・・何を安心しろと言うのだろう。

まあ、いいか。なんか岩沢さんもほっとしてるし。

「そう言えば綾崎、そのことについてゆりに話したのか?」

「・・・いや、話してない。むしろ話さない方が良いかもしれない」

「なんで?」

「人一倍頭の固いゆりが俺の話を信じると思うか?」

「・・・・確かに」

「な?・・・まあ、機会があれば話そうと思うけどな」

果たしてその機会がいつ来るのやら・・・。

「・・・・誤解は解けた?」

「うん・・・・ごめん、綾崎・・・」

「まあ、良いよ。ちゃんと話さなかった俺も悪いし。」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

微妙な沈黙。

・・・この空気はちょっと苦手だ。

「じゃ、じゃあまた明日な。おやすみ岩沢さん!」

「あ、ああ。おやすみ・・・・・綾崎」

 

 

 

 

その翌日ゆり達が直井に反省房に入れさせられたことを知った。

とてつもなく嫌な予感がした。

 


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