「ん~・・・まぶし・・・」
目元に強い日差しを感じて俺は目を覚ました。
二つ並んだ白いベッド、独特の消毒の臭い、ここは保健室か。
「・・・そうだ、俺は心臓を刺されて・・・」
刺されたあたりのところを触ってみるが傷一つ着いてない。
本当は刺されていないと思ったが制服にくっきりと刃物で刺したような穴が開いていた。
「いったい何だったんだ・・・」
「あ、気がついたみたいね」
一瞬警戒したが昨夜の少女じゃなくて少しほっとした。
「だれだ?アンタは・・・」
紫の髪と目立つリボンが印象的な女の子だった。
「俺は綾崎紅騎、アンタがここまで運んできたのか?」
「わたしはゆり。そう、わたしが運んだわ」
だとすると見かけによらずかなり力があるみたいだ。
「そうか・・・それはありがとうな」
「ありがとうついでに頼みがあるんだけど・・・」
ゆりがこちらに顔をぐっと近づけてきた。
「紅騎、あなた戦線に入らない?」
「せ、戦線?」
彼女はかなりの近距離で話していることに気づいているのか?
「そう、死んでたまるか戦線。まあここじゃなんだし基地に来なさい!」
この様子じゃ気づいてないようだ。
「基地?そんな物があるのか?」
「つべこべ言わず着いてきなさい!」
強引にベッドから引きずり下ろされ俺は西部劇の引きずり回しのように連れて行かれた。
前線基地、校長室に着いたときにはとっても悲惨な姿になっていたのは言うまでもない。
「川」
・・・川?
そう言ってゆりは校長室の扉を開けた。
「みんな~新しいメンバーを連れてきたわよ」
中には女が二人と男が三人(内一人はソファで気絶している)がいた。
「お~ゆりっぺ、また連れてきたのか?・・・おおっ、二日連続で穴あき学ランとは」
「まあ、そう言わないの日向君」
青い髪の男、日向は俺に手を差し出してきた。
「俺は日向、まあ仲良く行こうぜ」
「ああ、こちらこそよろしく」
俺も日向の手を握った。
「んん・・・ここはどこだ?」
さっきまでソファの上で気絶した男が起きたらしい。
「お、そっちの奴も起きたみたいだぞ」
「ちょうど良いわアンタも戦線に入りなさい」
「戦線?」
男はだるそうな体を起こして聞き返してきた。
「そう、死んでたまるか戦線。ん~なんかしっくりこないわね~」
「じゃあこんなのはどうだ?走馬燈戦線」
「それ死ぬ寸前じゃない!」
「じゃあ死にものぐるい戦線」
「必死過ぎじゃない!」
「四面楚歌戦線」
「死なすわよ!」
ことごとく日向の意見は没になっていく見てて痛々しいほどに。
「じゃ、じゃあここは新入りに聞いてみようぜまず紅騎から!」
いきなり俺に降ってきた。
「お、俺?」
「どうなのよ?」
ギンと睨まれた。おおこええ・・・
「ゆりっぺ戦線」
「殺す!」
ひいいい!
「お、落ち着け!じゃあ今度はお前!」
さっきまでぼーっとしてたもう一人の新人?が面倒くさそうに答えた。
「勝手にやってろ戦線」
するとずっと黙り込んでいたばかでかい斧を担いだ男がつっかかってきた。
「貴様、ゆりっぺに生意気な口を!もう一回切り刻んでやろうか!?」
随分短気な男だな・・・
「勝手にやってろって言ってんだろ!?俺にかまうなよ!おれはすぐに消えるんだよ!」
おお、コイツもかなりの短気だ。
「消える?・・・まあ運良く来世で人間になれたらうれしいでしょうね」
「どういう意味だよ」
ゆりは小さくにやりと笑うと続けた。
「ちょうど良いわ紅騎、あなたも聞いてなさい。」
「お、おう・・・」
すると周りが暗くなりスクリーンが降りてきた。
「二人とも分かっているだろうけどここは死んだ者が集まる世界よ。現世と来世の中間と言ったところかしら。ここで消えてしまうと来世は人間以外のものに魂が転成するかもしれないのよ」
タイミング良くスクリーンに様々な動物の画像が流れる。全部節足動物系なのはあえて黙っておこう。
「そこでわたしたちは戦うことにしたの戦ってこの世界を手に入れるのよ!」
今度は節足動物から一人の少女の映像に切り替わった。
無表情で金色の瞳、透き通るような肌輝かんばかりの銀髪。
昨夜俺の心臓を貫いた張本人だ。
隣の新入り二号(仮名)も同じような表情をしている。
「これが私達の敵”天使”よ。こいつを倒してこの世界を手に入れるの!」
スクリーンが戻され部屋が明るくなった。
「改めて聞くわ戦線に入ってくれない?」
最初に口を開いたのは新入り二号(仮名)だった。
「少し考えさせてくれるか?」
「いいけど、この部屋以外でね。」
どういう意味だろう・・・新入り二号(仮名)は悔しそうな顔を浮かべているが。
「分かった。合い言葉は?」
観念したように了承した。
「紅騎、あなたもよ」
俺か・・・まあ、行く当てもないし断る特別な理由もないし。
「俺も入るよ、死んだ世界戦線に」
「いいわね、その死んだ世界戦線って。よし採用!」
ゆりはぐっと親指を突き出した。