暗闇からのキボウの歌   作:skav

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天使の部屋

「岩沢さんが回復したらあなた一人で私の部屋に来て」

そんなようなことを確かに天使は言っていた。

幸い俺の風邪は岩沢さんほど酷くはないようで、歩き回っていてもさほど辛くはない。

岩沢さんが回復し、いつも通りに練習をした後、適当に用事と言って俺は天使の部屋に向かった。

生徒会用の寮は一般生徒の寮よりも少し優遇されているらしい。

例えば学食が寮の中で食べられたり購買が設置してあったり、学校が近かったりだ。

だけど見た目はあまり代わりはないみたいだ。

玄関の寮内見取り図を見てみると最上階に生徒会長と書かれた部屋があった。

時間は午後5時半、比較的に生徒の多くはまだ学校に残っている時間だ。

俺はエレベーターを使って最上階へ、少し警戒はしたが罠の類は無く簡単に「せいとかいちょう」と書かれた部屋にたどり着いた。

とりあえずノックをしてみた。

コンコン・・・

トットットット・・・

ガチャ、キィ・・・

「入って」

天使は言っていたとおり五時には自分の部屋に戻っていた。

「お、お邪魔します・・・」

天使の部屋は・・・まあ、何というか普通の女の子の部屋だった。

ベッドに上には熊のぬいぐるみがあったり、マグカップは花柄だったりと意外とファンシーだ。

「・・・・?どうしたの?きょろきょろして・・・」

「ああ、いや、何でもない・・・」

俺は天使にソファに座るように促された。

・・・・ピンク色のソファ《二人用》で座り心地抜群だった。

「・・・・どうぞ」

天使は湯飲みに入れたお茶を出してきた。

・・・・普通だ。

「ど、どうも・・・」

ギシ・・・

天使はなぜか俺の隣に座ってきた。

相向かいにもソファがあるのにだ。

俺は自然と天使の口元に目が移った。

そう言えば俺、天使にキスされたんだっけ・・・

とたんに何か恥ずかしくなってきた。

と、とりあえず本題に行かなくちゃ。

「・・・あの〜天使さん?」

「私は天使じゃないわ」

はっきりと即答されてしまった。

天使じゃないって・・・じゃあ本名でもあるのかな?

「立華かなで・・・」

「・・・・?」

「・・・・それが私の名前」

立華かなで・・・ね。

話がややこしくなりそうだから今回は立華って呼ぶことにするか。

「それじゃあ、立華。なんで俺をここに呼んだんだ?」

隣に座ってきたことはあえて聞かないでおこう。

「前にも聞いた気がすると思うけどあなた、岩沢さんの事どう思ってるの?」

・・・・またその質問か。

あの時は確か分からないって言った気がするな。

・・・じゃあ、今はどうなんだ?

ある程度の記憶が戻り始めた今の段階で、俺は岩沢さんのことをどう思っているのか?

「・・・・ベストパートナー・・・かな?」

「・・・どういう意味?」

「そのまんまの意味だよ、話してても話題が合うし味の好みもほとんど一緒。それに一緒に歌ってて気持ち良いしな。」

バンドでも、そのほかの時でも気が合う相手、それってベストパートナーと呼んでも良いんじゃないか?

「・・・とんだ唐変木ね」

唐変木?俺が?何で?

「それこそどういう意味だよ」

「そのままの意味よ・・・」

分からんな・・・この子の言うことは。

「あなた・・・この世界を救う気はある?」

「・・・はい?」

「・・・この世界を救う気はある?」

二度同じ事を言ってきた。

この世界を救う・・・全く意味が分からない。

「救うってお前は天使じゃないのか?この世界を作った誰かとつながってるって俺たちは信じているんだが」

「私は天使じゃない・・・ただの人よ」

ただの人が剣を生やしたり銃弾を跳ね返したりできるはずが無いんだけどな・・・

「Hand Sonic」

突然天使は立ち上がって例の生える剣を出現させた。

「お、おい!・・・危ねえ!?」

「これらはあなた達が持っている武器と同じ方法で作られたもの・・・」

そう言って天使はパソコンを起動させてある画面を見せてきた。

そこにはHand Sonicの細かな情報が書かれていた。

もちろん、製造方法も。

「・・・本当に天使じゃなかったのか」

「・・・ようやく分かってくれた?」

天使は再び俺の隣に座った。

・・・気にしない、気にしない。

「じゃあ、世界を救うってのは?」

「今は話さないわ・・・」

・・・・今更もったいぶってくるか。

「・・・だけど”あなただけ”で世界を救う訳じゃないわ」

みんなで力を合わせてって訳じゃなさそうだな・・・。

「・・・岩沢さんか?」

「・・・ええ」

だと思った・・・。

そうじゃないと俺と岩沢さんの関係をこうもしつこく聞いてこないもんな。

「この世界を救うためには岩沢さんとあなたの”歌”が必要なの」

「・・・・・・歌ねえ」

「それも完璧に同調した声の・・・よ」

完璧に同調・・・・それって今じゃ不十分って事か。

「完璧に同調ってかなり難しくないか?」

「できるわ」

断言してきた。

何か根拠でもあるのかな?

「一番大切なのは二人の心と体がぴったり合わさること・・・」

それが一番難しいんだよ!!

「身体の方・・・つまり、息はすでに完璧な領域までに達しているわ。」

おお、生徒会長さんからほめられちゃったよ。

「・・・だけど、心の方は全然駄目ね」

・・・悪かったな。

どうせ俺は不器用ですよ・・・。

「・・・・具体的な対策方法は?」

「まずは岩沢さんとあなたの心の隔たりを取り除いて」

・・・心の隔たり。

もちろん記憶を完全に取り戻すことも入るんだろうな・・・。

「それから、あなた達が満足するまで一緒にいること」

「ちょっと待て、それって俺たちが消えてしまうんじゃないか?」

「大丈夫よ・・・少なくとも岩沢さんは・・・」

「・・・どういう事だ?」

天使はポケットから小型のICレコーダーを取り出した。

「何すか?・・・それ」

「・・・・・・」

カチッ・・・

躊躇無く再生ボタンを押した。

『すー・・・すー・・・ん・・・はぁ・・・すー・・・すー・・・』

まず初めにかすかな寝息と聞き覚えのある声が聞こえてきた。

ちょ、ちょっと待て!!これって・・・

『んん・・・紅・・・・騎・・・』

間違いない、岩沢さんの声だ。

「お前!!何やってんだ!人としてどうなんだよ!?」

「・・・・・・」

カチッ・・ウィーン・・・・カチ。

天使は俺の言葉を聞き流してレコーダーを早送りにして再び再生。

『記憶が・・・・戻っ・・・たら・・・ふふふ・・・』

なんかさっきよりも寝言がはっきりしている気が。

『新曲・・・作り・・・文化・・・祭・・・路上ライブ・・・・』

それから次々と俺が記憶が戻ったら願望を口走り続けていた。

「・・・・これが岩沢さんが消えない根拠か」

「ええ・・・・」

・・・なるほど、クールな表向きとは裏腹に心の内は願望だらけって事か。

意外な一面を知った気がする。

「ちゃんとそのデータは消しておけよ?」

「今消したわ・・・」

グシャ、立華はICレコーダーをHand Sonicで切り裂いた。

・・・・そっちの滅す(けす)じゃ無いんですが。

「そういうことだから、私はできるだけ二人に協力するつもりよ。」

・・・・とりあえずこのことはゆりに報告した方が良いのか?

まあ、まずは岩沢さんに言わないと。

「まあ、困ったときは相談するよ・・・・じゃあ」

「・・・・・ええ」

俺は天使・・・もとい立華の部屋を出て行った。


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