購買で買い物を済ませた俺は岩沢さんの部屋に急いだ。
結局熱冷まし用のシートは売っていなかったので、食堂で氷を分けてもらった。
「お〜綾崎!ちょうど良いトコに」
突然日向に呼び止められた。
なぜか日向は弓道部の格好をしている。
「今ゆりっぺに用事を頼まれてな・・・・」
「スマン。ちょっと手が離せない用があるんだ。大変だろうけどお前一人で頑張れ。」
そう言って俺は日向に背を向けて走り出した。
「あ、おい!綾崎〜そりゃ無いぜ〜三百メートル先のリンゴを射抜ければ食券5割り増しなんだぜ〜」
・・・・それは絶対に無理だろ。
「ただし三本全てミスったら食券全て取り上げなんだよ〜」
・・・・良かった、断って。
しかし日向よ、突っ立って叫んでないで早くゆりの所に行った方が良いだろ。
「あ、いたいた!日向く〜ん!早く来なさいよ〜!」
「ちょ、ちょっとゆりっぺ!なんでそんなもの・・・・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
背中でチェーンソーの駆動音を受け止めつつも俺は岩沢さんの部屋に向かった。
・・・・済まぬ日向・・・俺は行くべきところがあるのだ!!
「ちょ、マジで勘弁!!だから反省してるって!!あ、ヤメテ!!ソコハダメェェェェェ」
突然曲がり角から生徒会長・・・もとい天使が現れた。
「・・・・・・・」
「うわ!!?」
とりあえず接触は免れたが俺の手からア○エリアスやポカ○スウェット、氷が入ったビニル袋が落ちてしまった。
「はい」
・・・・ように見えたが天使が一瞬のうちに”場所ごと移動して”袋を持っていた。
天使の技の一つ、Delayだ。
「す、すまない・・・」
天使は相変わらずの無表情だ。
・・・・笑ったりするんだろうか。
「・・・・誰か風邪でも引いたの?」
まあ、さすがに分かるよな。
「ああ、ちょっと岩沢さんがな・・・」
「岩沢さん・・・・」
じーーーー。
・・・・なぜこちらをじっと見つめる?
「あの・・・何か?」
「女子寮に入るつもり?」
・・・ああ、あなたは生徒会長さんでしたね。
「もちろんそのつもりだが・・・」
じゃないとこれを持って行けないだろう。
「私が許すと思う?」
くそ・・・最悪だ・・・
今俺は武器などを一切持っていない。
いつもなら携帯しているが、岩沢さんの部屋に置いてきてしまった。
「それでも俺は行かせてもらう。岩沢さんが大変なんだよ!!」
ちょっと触っただけでも熱があるって分かるんだ。
岩沢さんは相当つらいはずだ。
「どうしても?」
「どうしてもだ!!」
こうなったらどんな手を使っても押し通るしか無いみたいだな。
「・・・・・分かったわ」
「くっそぉぉぉ!!やってやる!!・・・・・・・・・って、はい?ワカッタ?」
ワカッタって分かったで良いんだよな?
「・・・・良いのか?」
「ええ、生徒が病気で看病が必要なのでしょう?」
・・・・・助かった。
これで安心して岩沢さんの所に行ける。
「ただし・・・条件があるわ」
「・・・・・条件?」
「岩沢さんの体調が良くなったら私の部屋に”一人”で来なさい。午後の五時からならいつでもいるわ」
「それが条件か?」
「ええ・・・」
天使、つまり俺たちの敵のテリトリーに来いって事は何かしら危険があるって事か。
・・・・だけど、自分の心配よりはまずは岩沢さんの身体が心配だ。
「分かった。お前の部屋はどこにある?」
「あそこの寮の最上階で一番奥の部屋よ」
天使は生徒会女子寮の方向を指さした。
「オーケー・・・ありがとな!天使!!」
「・・・・・私は天使じゃないわ」
俺は天使の言葉を気にせず再び走った。
天使が口元をほんのわずかに膨らましているのにも気づかず。
「はあ・・・・はあ・・・・・・はあ・・・」
久しぶりに全力で走ったな・・・おかげで氷もあまり溶けてない。
ガチャ・・・・
「岩沢さ・・・・」
瞬間、俺の時間が止まったような気がした。
「あ・・・・綾・・崎・・・・・」
岩沢さんが泣いていた。大粒の涙を流しながら・・・
「岩沢・・・・さん・・・?」
ひとまず俺は近場にあったハンドタオルを岩沢さんに渡した。
「怖かった・・・本当に・・・一人が・・・・・怖かったんだ・・・」
前に岩沢さんはこう言っていた。
たった一人で誰にも相手にされず、何も話せず動かせず、ただずっと死を待つだけだった。
今の岩沢さんは少なからず同じような状況になっている。
そのせいでフラッシュバックしたのか・・・・。
岩沢さんが死ぬ直前の期間。
岩沢さんの全てを奪われた絶望の時間。
「大丈夫だよ・・・岩沢さん・・・」
俺は岩沢さんの頭をそっと撫でた。
「死ぬ直前の時誰にも相手にされなかったとしてもこの世界では違う」
大体の記憶が戻りつつあるのに、岩沢さんが倒れたという記憶が全くよみがえってこない。
思い出せるのは岩沢さんが死んだと俺に告げる医者の顔だけ。
それはつまり、俺は生きていた世界で岩沢さんの見舞いに一度も行かなかったことになる。
最悪、倒れたことも知らずに時を過ごしていたと言えるだろう。
それが分かったとき俺は、とても自分を恨んだ。
なぜ一度でも岩沢さんに顔を合わせに行かなかったんだ?
今すぐにでも灯火が消えてしまいそうな彼女を・・・・
「生きていた世界で看れなかった分、俺が着きっきりで看病しますから」
「綾崎・・・・・」
「大丈夫です!生徒会長公認の看病ですから!」
・・・どっちかというと交換条件で、ですけど。
「お前に伝染ったらどうするんだ?」
「だったら思い切り伝染してください。それで岩沢さんが治るなら」
実際それの方が嬉しい気もする。
岩沢さんには一秒でも早く元気になって、また音楽をやって欲しい。
「・・・・・・・ばか」
それから二日後、岩沢さんは再び元気を取り戻した。
・・・・・・俺?
たぶん大丈b・・・・・ヘックション!!
あれ〜・・・?