何かと大波乱だったらしい潜入作戦が終わった次の日。
・・・・岩沢さんが風邪を引いたらしい。
あの打ち上げの後布団に入らず床で寝てしまったそうだ。
翌日ひさ子が床で文字通り死にかけていた岩沢さんを発見。
保健室に搬送したそうだ。
「・・・・死んだ世界でも風邪は引くんだな」
岩沢さんは息を切らしながらつぶやいていた。
死なないだけで他は普通の身体なんですよ、岩沢さん・・・
「まあ、ただの風邪だから二、三日自分の部屋でおとなしくしてなさい」
保健の先生の言葉だ。
ちなみに保健の先生は俺たちのような授業にもろくに出ないで騒ぎばっかり起こす。
言いようによっては不良の俺たちにも分け隔て無く接してくる。
「それと今後は絶対に奈良漬けを食べさせないこと!」
「できるだけ努力します・・・」
と言うわけで岩沢さんを再び寮に運ばなければならないのだが。
・・・・ひさ子がいない。
「・・・・?さっきまでいたよな?」
廊下を見渡してもひさ子どころか戦線メンバーも全く姿が見えない。
・・・仕方ない、俺が運ぶしかないのか。
「ありがとうございました。岩沢さんは俺が運んでいきますんで。」
「ああ、そう?じゃあ、お願いね」
じゃあ、どう運んだ方が良いんだろう・・・
とりあえず岩沢さんが横になっているベッドの方へ行く。
「ぜー・・・・ぜー・・・・」
ん〜・・・これは岩沢さんに負担をかけさせない運び方を考えないとな・・・
「あの〜・・・病人を運ぶときおんぶじゃ駄目ですよね?」
「風邪の程度によるけど岩沢さんの場合は駄目ね〜」
やっぱりそうか・・・じゃあ、どうすれば良いんだろう?
岩沢さんに負担をかけなくて、なおかつ運びやすい持ち方・・・
・・・・・・・。
あれしかないか・・・。
「岩沢さん・・・ちょっと失礼」
俺は岩沢さんの両腕を俺の首に回させる。
それから岩沢さんの膝と肩に俺の腕を入れて持ち上げる。
いわゆる”お姫様だっこ”だ
「あ、ああ、あ、綾崎!!?」
岩沢さんはかなり驚いた顔をしている。
顔が赤いのは熱からなのか、または恥ずかしいからなのかはよく分からない。
「じゃあ、お世話になりました〜」
「お大事に〜(笑)」
(笑)が気になったが今は岩沢さんを運ぶことが最優先だ。
「綾崎・・・なんでこんな事になってるんだ?・・・背負えばいいのに」
「なんでって、岩沢さんに負担はかけられないし、運びやすいからだけど・・・もしかして嫌?」
岩沢さんはブンブンブンと勢いよく首を横に振った。
大丈夫かなぁ・・・余計な体力使って・・・
「・・・・重くないか?」
「全然、ぜ〜んぜん重くない!むしろ軽い!」
「そ、そう・・・か・・?」
突然岩沢さんはしゃべらなくなった。
ただし寝ているわけでもなく黙ってじっと俺の顔を見つめている。
じ〜・・・・・・
岩沢さんに腕を回してもらっているのでその分お互いの顔がもの凄く近いところにある。
・・・振り向いたら接触してしまいそうに。
「綾崎・・・・」
「な、何でしょうか?」
岩沢さん・・・絶対分かってるよね・・・。
・・・・・分かってて耳元で囁いてるんですよね。
「・・・・なぜこっちを見てしゃべらない?」
ちくしょ〜・・・これは絶対分かってるな・・・もう確信した。
俺もちょっと悪戯してやろうと思い俺の左腕、岩沢さんの膝を抱えている腕の力を少し抜いた。
すると少しだけ岩沢さんはその場で一瞬浮遊した。
ふわ・・・・
「わわわ・・・!」
そしてすぐにまた腕の力を入れる。
「ほら、岩沢さんが悪戯するから」
「・・・・・ばか」
前にも言ったけどちょっとすねた岩沢さんの上目遣いは反則級のかわいさだ。
今回は風邪で弱々しくなった事が追加されてさらにパワーアップしている。
「・・・綾崎?顔が赤いぞ?」
「・・・・・岩沢さんがかわいすぎるからな」
「な・・・・!」
それっきり岩沢さんは一言も言葉を発しなかった。
顔もそらしたけど時々ちらっと見るのは勘弁してください・・・
逆に緊張するから!!
「はい、着きました〜・・・」
「・・・・・」
岩沢さんはポケットから鍵を取り出してお姫様だっこ状態でドアの鍵を開けた。
ガチャ・・・キィィ・・・。
「・・・・・ん」
入れろって事らしい。
俺は岩沢さんの部屋に上がった。(岩沢さんはだっこ状態からいつの間にか靴を脱いでいた)
とりあえずベッドに寝かせる。
おでこに触れた後、首筋も触って熱の具合を確認した。
・・・・まだ熱はあるな。
「とりあえず水分買って来るから、その間に着替えといてくれよ」
「・・・・分かった」
俺は急いで購買に向かった。
なぜ購買かって?
岩沢さんの冷蔵庫にはどうせミネラルウォーターしか入ってないからだよ。
ついでに熱冷ましのシートも売ってると良いなぁ・・・