暗闇からのキボウの歌   作:skav

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この世からの約束

俺は再び保健室で目を覚ました。

すでに日は傾いていて保健室も薄暗くなっている。

「・・・・結局こうなったか」

岩沢さんに殴られた当たりの所をさするとまだズキズキする。

「痛てて・・・」

ガラガラガラ・・・

「あ・・・」

「・・・・・」

岩沢さんが申し訳なさそうな顔で入ってきた。

「あー・・・気分はどうだ?綾崎。」

本当はまだ痛むのだが我慢できる範囲なのでごまかしておこう。

「まあ、大丈夫だと思う・・・」

「そ、そうか・・・」

岩沢さんは戸惑いながらも椅子に座った。

ゴト・・・

なぜかギターも持ってきたらしい。

「遊佐のおかげでな、楽器を取られずに済んだんだ」

どんな手を使ったんだろう?

教師達を黙らせるためには相当な弱みが必要なはずだが。

「アイツはすごいな・・・教師達全員の弱みを握っていてな。おかげでライブも黙認されるようになった」

遊佐がこちらの身方で良かった・・・

「・・・で、なんでギターを持ってきたんだ?」

俺はアコースティックギターの方を指さした。

「・・・覚えがないのか?」

岩沢さんはギターを手に持って俺がよく見えるような高さに持ってきた。

よく手入れされているがそれ以外なにもピンとはこない。

「ごめん・・・全く・・・」

やっぱり俺と関係があるのだろうか?

「・・・・そう・・か・・」

岩沢さんはギターをまた壁に立て掛けた。

ギターといえば一つ謎のギターがあったっけ。

俺が使っているギターの他にもう一つ部屋にしまってあるギターがある。

俺のギターと正反対のレッドサンバーストのストラトキャスター。

あれも何か関係があるのだろうか?

「「あの・・・」」

ハモった。うん、今完璧に岩沢さんとハモってしまった。

「あ、綾崎から・・・」

「いやいや、岩沢さんからどうぞ」

「そ、そうか・・・」

ふ〜・・・なぜこんなに緊張するんだ?

落ち着け落ち着け落ち着け・・・・

・・・・・。

よし、落ち着いた。

「あ、あの・・・だな・・・綾崎」

じぃぃぃぃぃ・・・

見過ぎ!岩沢さん見過ぎですよ!俺の身体に穴が空きそうです!!

「は、はい・・・」

「お、お前の記憶が戻ったって聞いたんだけど・・・どのくらい戻ったんだ?」

どのくらい・・・か。

よく考えてみるとそれほど戻ってないんだよな・・・

”あの時”見たのは岩沢さんと思われる女の子の前で歌ったとこだけだし・・・

「そんなには思い出してなんですけど・・・」

「分かったことだけでも良い。話してくれ!」

「・・・・・分かりました」

そして俺はあの時見た事を細かく話した。

公園である女の子に会ったこと。

女の子に口うるさく説教をしたこと。

My Songを歌ったこと。

「俺が思い出したのはここまでです。」

「・・・・・」

岩沢さんはずっと黙って俺の話を聞いていた。

「やっぱりあのときの女の子って岩沢さんだよね?」

コクリ・・・

無言で首を縦に振った。

やっぱりそうか・・・だからMy Songを知っていたのか。

「それで良く記憶が戻ったなんて言えたな」

グサリ。

「すみません・・・これじゃあ ”戻った”じゃなくて”思い出した”ですね」

何で俺はあの時戻ったって言ったんだろうな。

「全くだ。何ならもう一回押し倒してやろうか?」

岩沢さんがいたずらっ子のような笑みを向けてきた。

「たぶん・・・もうあの時みたいに倒れないと思いますよ?」

「・・・なんで?」

そう確信できるのには訳がある。

たぶん同じ事をしても戻らないのだろう。

現にCrow Songで少し記憶が戻ったが、二回目からは全く記憶がよみがえる感じはなかった。

「同じ事をしても効果がないんじゃないかな、たぶん」

「よし!」

がばあ!

「うわ!!」

いきなり俺の上に覆い被さってきた。

「い、岩沢さん!!なにやってんですか!」

俺は岩沢さんの肩を掴んで元の場所に座らせた。

「お〜本当だ。全然平気じゃないか」

それだけのために乗っかってきたんですか・・・アンタ・・・

「ああ!そうだそうだ!!こっちからも聞いておきたいことがあったんだ」

俺は無理矢理話をそらした。

そうでもしないと何かこう・・・駄目な気がしたからだ。

「何?スリーサイズ?・・・・・いて!」

俺は軽く岩沢さんの脳天に手刀をかました

「そうじゃなくて、ギターの話です」

「ちぇ〜な〜んだ」

岩沢さんってこんなキャラだっけ?

「岩沢さんって生きてた頃どんなギターを使ってた?」

「ん〜」

ちょっとすねたように壁に立て掛けてあるギターを指さした。

「エレキギターは弾いてなかったの?」

「うん・・・ああ、だけど触ったことはあるよ」

そうか・・・じゃあ、あのギターは何なんだろう?

う〜ん・・・謎だ。

「ちょっとそのギター触らせてくれる?」

俺は岩沢さんのアコースティックギターを持ってみた。

やっぱり丁寧に手入れがされている。

だけど何だろう・・・初めて持った気がしないんだよなぁ。

ちょっと弦をはじいてみる。

 

 

(・・・どうしよう、スチールの弦がない・・・)

(どうしたの?綾崎?)

(いや、フォークギターって弦がスチール製なんだけどさ。そのスチール製の弦が無いんだよ)

(私は気にしないけど?)

(・・・本当か?)

(だってあんなぼろぼろのギターがここまで綺麗になったんだもんそれ以上望んだら綾崎に悪いでしょ?)

(・・・分かった。別の弦を探してみる)

(本当にありがとな・・・もう一度私が音楽をやれるようにしてくれて)

(はっはっは〜この貸しはでかいぞう?)

(うん!一生かけて返すから!)

(一生て・・・)

(・・・・だめ?)

(一生って・・・一生だぞ?)

(うん・・・一生)

(・・・・まあ、がんばれ)

(うん!)

 

 

 

 

「どうしたんだ?綾崎?」

「・・・・・」

そうか・・・これは俺が直したものだったのか。

音楽を失った女の子にもう一度音楽をやってもらうために。

「本当に一生かけて返してくれるのか?」

「!・・・あ、綾崎・・・」

「また・・・ちょっとだけ思い出したよ。このギター、俺が直したんだろう?」

ギターを岩沢さんに返した。

岩沢さんはそれを大事そうにギュッと抱きしめた。

「ああ、一生かけて返してやる」

「馬鹿だなあ、俺たちもう死んでるだろ?」

もう一生は終わっている。だから・・・・

「だったらこの世界で返してやる!」

そこまでしてこだわるのか、この人は。

「この世界って不老不死って聞いたんだけど・・・」

「そんなの問題じゃない!私が返すっていったら返すんだ!」

「なんでそうまでしてこだわるんだ?たかがギターを直しただけじゃないか。」

そんなんで借りって言ったら貸しだらけになっちゃうぞ?

「たかがじゃない!だって私は・・・」

「私は?」

「な、何でもない!とにかく返すって言ったら返す!!」

・・・・負けました。

こうまでしてこだわる理由は分からないが貸しにしておこう。

どうやったら返すことになるのか分からんが。

「・・・まあ、頑張れ」

 

 

その夜、死んだ世界戦線は作戦失敗の反省会ならぬ飲み会をすることになった。

岩沢さんがまた奈良漬を食べたのは言うまでもない。

しかし今回は岩沢さんの介抱をしなくて済んだ。

・・・・良かった。


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