何事もなく曲が弾き終わった。
早い段階からのAlchemy。
意外性もあたのか歌の中盤からは体育館を埋めつく勢いで生徒達が集まってきた。
綾崎の言うとおりだったな・・・
突然後ろの集団が割れた。
明らかに生徒ではない、教師達だった。
『こちら遊佐です。岩沢さん。綾崎さんが目を覚ましたそうです』
こんな状況だってのに思わずほっとしてしまった。
良かった、意識が戻ったんだな・・・
「オーケー分かった。面倒なことになりそうだから退散しようと思・・・・」
『それと、綾崎さんの記憶が戻ったそうです』
「・・・・・え?」
戻った・・・?
綾崎の記憶が?
「・・・・・良かった・・・」
「岩沢!!」
突然ひさ子の声が聞こえた。
「・・・あ」
それと同時に少しの間体育館が真っ暗になった。
教師達の仕業だろう。
気がついたら私たちは取り押さえられていた。
「・・・・・くそ、何でこんな時に天使が現れるのよ!!?」
ゆり達実行班は体育館に向かう途中で天使と接触してしまった。
今回の天使は予想以上に反撃をしてきた。
銃で応戦すると弾切れをねらって一人ずつ仕留め、近接格闘をしても歯が立たない。
気がつくと日向、音無、ゆりの三人だけしか残っていない。
「今回の天使はいつもとなんか違うな・・・」
「ああ、そうだな・・・」
こちらの武器は拳銃と軽機関銃、いずれも残弾はマガジン一本分だけだ。
「仕方ないわ・・・音無君と日向君で天使を引きつけてちょうだい」
「分かった、ゆりっぺ!」
「・・・了解」
まず日向が軽機関銃を全弾たたき込む。
弾が切れると天使が真っ直ぐ突っ込んできた。
日向は天使のハンドソニックを軽機関銃で受け止める。
その横から音無が拳銃をたたき込んだ。
そして ”隠し持っていた手榴弾のピンを抜いて二人の方に突進してきた”
「・・・・は?」
「すまん、手榴弾の使い方が分からないんだが ”起爆スイッチはどこだ?”」
もちろん手榴弾に起爆スイッチはない。ピンを抜けば爆発するのだから。
「ば、馬鹿野郎ぅぅぅぅぅ!!!」
ドカーーーン!!
「日向君、音無君・・・ありがと。」
ゆりは体育館に向かって全力で走った。
「全くお前らこんな事をして許されると思ってるのか?」
生活指導の教師がお決まりの説教を始めた。
「食堂の件は多少は目を伏せるが今回は放っておくわけにはいかない。楽器は全部没収だ。」
教師がアコースティックギターを掴んだ。
「ふん・・・どうせ没収するんだ。 ”これは捨てても構わないだろう?”」
突然生前の長年使っていたギターが親に叩き潰されて帰ってきた場面がよみがえった。
大人がまた私から音楽を奪っていく・・・
「・・・・・・・め・・・ろ」
・・・・私にはもう音楽しか残ってないんだ。
「ん?何か言ったか?」
次に脳裏に映ったのはアイツと初めて会ったときの事だった。
初対面なのにも関わらずアイツはなれなれしかった。
・・・・けど、誰よりも真っ直ぐで、強くて、誰よりも優しい目をしていた。
(これがお前の生きる意味だ!好きなんだろう!?大好きなんだろう!?ギターが!音楽が!)
私に道を指し示してくれた頼もしいアイツ。
(だったら生きてる意味なんて無いとか言うな!悲しかったら泣けばいいだろ!泣かない奴が正しいなんていつ誰が決めたんだよ!)
生きる意味を失いかけていた私を救ってくれたアイツ。
(・・・・これが俺の歌(My Song)だ)
そう言って演奏する姿はまぶしいほどに輝いていた。
「それに・・・触るなあああぁぁぁぁ!!」
私は教師の手からギターを奪い返して肩にかけた。
一瞬の混乱に乗じてひさ子も教師の手から抜け出しほうそうしつに向かって走った。
「何をしてるんだ!おとなしく渡せ!」
教師の言葉はもう耳には届かない。
代わりにアイツの歌が頭の中を支配していた。
・・・このギターもアイツに助けられたんだ。
雨で痛んだこのギターを寝る間も惜しんで見違えるように直してくれたのもアイツだった。
ちょっと憎らしいトコもあるけど世話好きで、不器用だけど手先は器用で。
それに何よりもアイツの歌を一番近くで聴いていられるのが最高に幸せで。
・・・・ああ、なんだ。
私、アイツのことが好きなのか・・・
ただ、それだけのことだったんだ。
きっとひさ子は音源を全校のスピーカーにつなげたんだろう。
・・・もちろん保健室にも。
〜〜〜♪
広い体育館に私の音楽だけが響いた。
綾崎・・・これが私のMy Songだ。
〜〜〜♪
保健室のスピーカーから懐かしい曲が流れてきた。
「岩沢さん・・・?」
いきなりスピーカで流すなんて何かあったんだろうか・・・
・・・ちょっと待て。
これ俺の曲と少し違うぞ・・・
『苛立ちをどこにぶつけるか・・・・』
歌詞も違うよ!?
「アレンジ!?アレンジだよね!?」
だけど原曲がなんなのか岩沢さんは言わなかった。
「くっそ〜〜〜一発がつんと言ってやる!!」
俺は保健室を飛び出した。
日向君達のおかげで何とか体育館に着くことができた。
早くライブを中止にしないと。
・・・あれ?
教師がステージにいるって事はすでに中止になってる?
〜〜〜♪
体育館に入ってみると岩沢さんが一人で歌っていた。
しかもいつものようなロックではなくバラードだ。
「・・・良い歌ね」
熱心に歌っている岩沢さんはとても良い表情をしていた。
まるで何か納得をしたような・・・・
「いけない!一刻も早く岩沢さんを止めないと!」
どん!
「うわっ」
「きゃっ・・・って、綾崎君!?」
なんで彼がここに?保健室にいたんじゃ・・・
「ごめん、俺ちょっと岩沢さんにがつんと言わないと!」
「な、何を言って・・・って待ちなさいよ!」
俺はゆりの言葉を無視して生徒を押しのけてステージに向かった。
「その曲待ったぁぁぁぁぁぁ!!」
〜〜〜♪・・・ピタ
「・・・・え?あ、綾崎?」
突然の事に岩沢さんは歌を止めた。
「岩沢さん!!なんだよ!!それは俺の歌だよ!!使うなら歌う前に言えってんだよ!!パクリになっちまうだろ!!」
「あ、・・・え?いや・・・そんなつもりは・・・その・・・」
バゴォ!!
「ぐおぉぉぉぉ!!」
後ろから盛大にドロップキックをかまされた。
振り返るとひさ子が拳をパキポキさせているところだった。
「いきなり復活したと思ったら何を言ってんだボケェェェェ!!」
「ひいいいいい!!」
暴力反対!!ミンナトモダチ・ブタナイデ!!
「ひさ子・・・ちょっと待ってくれないか?」
岩沢さんはひさ子を止めて俺に手を差し出してきた。
「・・・・ん」
「お、おう・・・」
岩沢さんの手を掴んで立ち上がった。
「・・・・で?これは何の真似だ綾崎?」
ゴゴゴゴゴゴ・・・・
見える・・・今岩沢さんの背後に怒りのオーラが立ちこめているよ・・・
「あの・・・その歌はですね〜俺が作った歌であって・・・」
「知ってる・・・だからお前に聞いて欲しかったんだ。私のMy Songを・・・」
岩沢さんは少し頬を赤らめる。
怒りのオーラも弱くなった。
「た、確かにあのとき俺は”岩沢さん”に・・・・」
ドム・・・・!!!!
「が、がは・・・」
岩沢さんの渾身の右ストーレートを食らい俺の身体は優に5メートルは飛んだ。
「ふ、ふん!自業自得だ!」
殴った本人が言わないでください・・・・
目覚めたばかりの俺は再び意識を失うのであった。