「・・・・ん」
あれ・・・?何で俺保健室なんかで寝てるんだ?
・・・・・・・・・・・(ぽくぽくぽくぽく)
!(チーン)
ああ、確かすさまじい頭痛の後倒れたんだっけ。
そういえばあの夢はやっぱり俺の記憶なのか?
My Songを歌った後俺と”岩沢さん”はどうしたんだろうか。
そこからまた思い出せない・・・
「あ〜くそっ、情けねえな・・・俺・・・」
保健室には俺以外に一人男子生徒がいた。
名前は分からないが戦線のメンバーの制服だ。
「・・・なんでここにいるんだ?」
質問してみるとえらく事務的な連絡をしてきた。
今は作戦の最中だということ、今回は結構大規模な作戦だということ。俺が目を覚まさないから陽動班は四人で出ていること。
そうか、じゃあ岩沢さんに記憶のことを報告できないな。
すると男子生徒が無線でどこかと連絡を取り始めた。
「どこと連絡してるんだ?」
「遊佐さんにあなたが目を覚ましたことを伝えました」
遊佐って確か戦線のオペレーターだって聞いたな。
・・・よし。
「じゃあ、その遊佐って人に岩沢さんに俺の記憶が戻ったことを伝えてくれないか?」
「・・・・分かりました」
男子生徒は再度連絡を取り始めた。
さて、どうするか・・・
「では自分は失礼させてもらいます」
男子生徒は軽く会釈をして保健室を出て行った。
すると入れ違いに一人の少女が入ってきた。
小柄な身体に長い銀髪、不気味なほどの無表情。
戦線の敵、天使だ。
「気がついたようね」
天使はベッドの横の椅子に座りながら聞いてきた。
「・・・何しに来たんだ?」
俺には天使の意図が全く読めなかった。
俺と顔を合わせたのはまだ二回目だ。
保健室に見舞いに来てもらうほど交流はないはずだ。
「少し話しておきたいことがあって」
「話しておきたいこと?」
俺は少し身構えた。
戦線について聞かれるとしたらどこまで話すべきだろうか。
いや、それとも急いで立ち去った方が得策なのか?
「ええ、あなた自身のことと岩沢さんのことについて」
・・・・・はい?
何でそこで岩沢さんの名前が出てくるのですか?
まさか・・・ガルデモを解散させて欲しいとかか?
もしくは天使の内通者になれとかか?
「・・・・スパイはお断りなんですが」
「?」
きょとんとした顔をされた。
「え?違うの?」
「・・・違うわ」
違うのか・・・
じゃあ、何だって言うんだよ。
「あなた、生前の記憶はあるかしら?」
天使さんにまで聞かれてしまいました・・・
「覚えている事には覚えているんですがね〜」
「そう・・・」
そうって・・・それだけですか?
「あの〜他には聞かないんっすか?」
「じゃあ、単刀直入に聞くわ。あなた、岩沢さんとはいつから知り合いなの?」
いつから?それはたぶん生きていた頃の事を言ってるんだろう。
「確か、十七の春頃だったはずですね」
あの夢の内容が事実ならたぶん五月頃だな、あれは。
だけど、これ以上は思い出せないんだよな・・・
「そう・・・」
すみません・・・もう少し別の反応をしてくれないと心が持ちません・・・
「岩沢さんとはどんな関係なの?」
・・・・・は?
なにそのちょっと修羅場なセリフ・・・
返事によっては今ここで殺されそうになってもおかしくないんじゃないかな?
だけど、ここは正直に答えよう。
「分かりません・・・」
生きていた頃の記憶も完全には戻ってない。この世界でもちょっと交流が深い程度だし。
正直分からない。
「そう・・・」
「だけどただ一つ言えるのは」
「・・・?」
「岩沢さんは俺が記憶を取り戻せるように精一杯頑張ってくれているということです」
現段階ではこれだけしかはっきりしていない。
だから俺の記憶が完全ではないが戻ったことをいち早く伝えたいと思ったんだ。
「分かったわ」
天使は椅子から立ち上がった。
話す事ってこれだけなんだろうか?
何か俺だけがしゃべってた気がするんだけど。
「ん・・・・」
「・・・・!!」
突然天使の顔が超至近距離にあった。
キスをされたってことに気づいたのは天使が顔を離したときだった。
「な、なんで・・・?」
「私もあなたの記憶が戻るように協力するわ。”私なりに”」
天使は相変わらずの無表情で応えた。
「じゃあ・・・・」
天使は立ち去っていった。
俺はしばらく呆然と一点を見つめていた。