暗闇からのキボウの歌   作:skav

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現世(過去)の記憶

俺が一人暮らしを初めて半年、世間なら高校二年に進級している季節だ。

元々手先の器用さには自信があった俺はライブハウスの隣にあった倉庫で楽器の修理をするようになった。

楽器一つ一つに持ち主の思い出があり、また使えるようになって喜ぶ人たちの笑顔は好きだった。

そしていつも通りに公園でギターの練習をしようとした。

夕方まで降っていた雨も止んで、空は星がちらついていた。

公園に入ってベンチの方を見ると今日は先客がいた。

二つ並んでいるベンチのうち、いつも座っているほうに一人の少女が座っていた。

年は俺と同じくらいだろう。

赤い髪のセミロングヘアーは活動的な印象を与えている。

少女はぼろぼろになったギターを立てかけてじっと夜の空を見ていた。

仕方なく俺は隣のベンチに座って練習を始めた。

今日一人のお客さんに教えてもらった左手の動きを速くする練習を試してみた。

初めはつっかえつっかえで難しく感じたが、回数を重ねると少しずつまともになってきた。

「う〜ん・・・もう少しか・・・」

今度はコードの練習、これはいつもやっている事なので目立った間違いはなかった。

次に軽くメロディーを弾いて、最後に曲作りを始めた。

曲名もメロディーも全く決まってないが、だいたいの全体像は決めてある。

「・・・・・・」

じ〜・・・・

「・・・・・・」

じ〜・・・・

「・・・・・・」

じぃぃぃぃぃぃ!

俺は観念してさっきから視線を送ってくる女の子の方を見た。

「・・・・何?」

女の子の方から聞いてきた。

「こっちの台詞だ!?」

女の子は構わず前屈みになってこちらに視線を向けた。

「上手いね・・・・アンタ」

初対面の人間にアンタですか・・・

まあ、いいけど。

「そりゃ、どーも」

「初対面の人間に対してぶっきらぼうすぎないか?」

お前が言うか!?

「・・・・」

「悪かったって、すねるなよ。」

う〜ん・・・タメ以上だったら許せる範囲の態度なんだけどな〜・・・

「一応言っておくけど、俺は本来なら高二になっているとしだ」

「・・・・・留年?」

「違う!断じて違う!」

ちくしょ〜・・・なんで振り回されてるんだろうな・・・俺。

「じゃあ、高校に行ってないとか?」

「そうだよ・・・・」

女の子は驚きよりもむしろ喜びの表情を浮かべた。

「なんだ、私と同じだ。ちなみに私も本来なら高二の年だよ」

最後に留年じゃないぞと付け加えてきた。分かってるっての。

「君もギターやってるの?」

俺は横目でぼろぼろのフォークギターを見ながら聞いてみた。

「ああ、十六歳くらいからね」

・・・・じゃあ、ギター歴は俺と同じくらいか。

女の子は俺の視線に気がついたのかそのフォークギターを膝に乗せた。

「前使ってたのは親にスクラップにされちゃってね・・・コイツは今日拾ったんだゴミ捨て場で」

だからそんなにぼろぼろなのか・・・今日拾ったってことは雨の中見つけたって事だよな・・・・

幸い弦はそんなに傷んでなかった。

「・・・スクラップ?」

「ああ、私がバイトに言ってる間に父親がバットでたたき割ったんだ」

父親か・・・俺の親父もろくな奴じゃなかったな。

「・・・・・」

「そのときはかなり頭に血が上ったよ・・・だけど女の私じゃ敵わなかったよ」

女の子は諦めきった笑顔ではははっと笑いながら腕をまくった。

腕には複数の痣と切り傷があった。

「・・・・どうして・・・」

俺は気づいたら女の子を抱きしめていた。

「ちょっ・・・・いきなり何・・・く、苦し・・・」

俺はずっと大切にしていたものを壊されて、その上暴力までふるわれたのに笑っているこの子が怖かった。

こんなにも一つのことに必死になっているのに、否定しかされてないこの子が悲しくて仕方がなかった。

「どうして笑ってられるんだよ・・・平気で話せるんだよ・・・」

俺の親父も俺が稼いだ金を力ずくで奪い取り、全てギャンブルにつぎ込んでいった。

俺が金はもう無いと言ったら気が済むまで殴ってきた。

「・・・・もう、いいんだよ・・・私なんて・・・」

「・・・・・」

「私なんて生きている意味がない・・・・そう考えたら父親の仕打ちもなんだかどうでもよくなって」

生きてる意味がない・・・か・・・

「・・・けるな・・・」

俺は怒りを覚えた。

むろんこの少女に対してだ。

「・・・え?」

「ふざけるな!何が生きている意味なんて無いだ!死ぬことに甘えるんじゃねぇ!」

俺はぼろぼろのギターを持って、女の子につきだした。

「これがお前の生きる意味だ!好きなんだろう!?大好きなんだろう!?ギターが!音楽が!」

女の子は驚いた表情をしていたが首を縦に振った。

ああ、なに言ってんだろうな・・・俺・・・こんな見ず知らずの女の子に。

・・・でも止まらなかった。

同じような境遇で同じ年の奴が生きることを諦めているのが許せなかった。

「だったら生きてる意味なんて無いとか言うな!悲しかったら泣けばいいだろ!泣かない奴が正しいなんていつ誰が決めたんだよ!」

俺は自分のギターを構えた。

エレキだからなんて関係あるか!弦があれば、音があれば音楽なんだよ!

「・・・・これが俺の歌(My Song)だ」

そして、たった今完成したMy Songを弾き始めた。

 


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