「今回の作戦は今までより大がかりなものになるわ」
ゆりはいつも通りに作戦の説明を始めた。
結局綾崎は目覚めることもなく、ずっと眠ったままだ。
「・・・で、今回は何をするんだゆりっぺ!?」
日向が期待するようなまなざしを向けながら聞いた。
「今回は潜入ミッションよ」
部屋が暗くなり、プロジェクターが降りてきた。
映像に映し出されたのは天使の詳細情報だった。
「私たちが潜入するのは天使のねぐらよ」
音無を覗いた全員が苦笑した。
たぶん音無は”ねぐら”がなんだか分からないんだろう。
「今回の作戦は私たちだけじゃ遂行は難しいわ・・・そこで!」
タイミング良くゆりのとなりにひとりの男子生徒が現れた。
「これからの戦線の頭脳になるであろう参謀の竹山君よ!」
竹山がわざとらしく眼鏡をきらりと光らせた。
「竹山です、今後僕のことはクライストと呼んでください」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
部屋中が何とも言えない微妙な空気に包まれた。
「じゃ、じゃあ竹山君!作戦の説明をお願い」
「了解しました・・・・」
竹山(クライストと呼ぶ気はない)がゆりと場所を代わった。
「今回の作戦はスピードが命です。ですので少人数のグループで迅速にねぐらに突入し・・・」
画面にデフォルメ化されたゆり達が映し出されて、秘密研究所のような場所に突入していった。
「天使の所有しているデータバンクに進入し情報を盗みだします」
けんきゅうじょと書かれた部屋から次々と風呂敷を担いだ戦線メンバーが脱出してきた。
「まあ、こんなところね。作戦は四日後の1400時から開始するわ」
ふたたびゆりが竹山の前に出てきた。
「それじゃあ、各自準備をしっかり整えること。解散!」
部屋が明るくなり、プロジェクターが格納された。
私もひさ子達がいる第二講義室に戻った。
綾崎が起きなかったときどうするか、よく相談しないといけないからだ。
ガラガラガラ・・・・
「・・・・」
「あ、岩沢先輩!綾崎先輩は大丈夫なんですか!?
部屋に入ってから早速関根に問いつめられた。
「ひさ子から聞いただろう?大丈夫、軽い過労だってさ」
関根がほっとした様子で近くの椅子に座った。
「過労・・・綾崎さん、ライブ慣れしてなかったんでしょうか?」
ぽつりと、入江が独り言のような小さい声で言った。
・・・アイツがライブ慣れしてないのは正解だろう。
だけど本当の理由は言えない。
今は作戦の前、つまりライブの前だ。よけいな事は考えさせない方が良い。
「大丈夫さ、綾崎は・・・」
私はギターの用意をしてみんなに練習をするように促した。