暗闇からのキボウの歌   作:skav

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誰かの記憶・・・それは・・・

「・・・・眠れん!!」

俺はがばぁ!っと布団から起きあがった。

午後十一時。

当然寝ていなきゃ行けない時刻なのだがさっきの七味ののっけ盛りと砂糖入りのみそ汁がまだ効いていて、全く眠れない。

「くそ〜ひさ子の奴〜」

まあ、俺があわてて食ったのが悪いんだけどさ・・・

別に黙っておけばお互い意識することもなかったのに。

「・・・間接キス・・・ねえ」

「へ〜そのお相手は誰なんだい?」

いきなり真横から声が聞こえてきた。

「のわぁぁぁ!?」

あわてて振り返るとそのお相手の岩沢さんが立っていた。

「い、岩沢さんどうしてここに!?つーかどうやってここに!?」

「ん?ああ、ドアの鍵が開いてたから」

・・・堂々と正面突破してきたわけですか。

「じゃあ、何でここに来たのでございましょーか?」

岩沢さんは近くにあった椅子に腰をかけた。

「まあ、ちょっと話したいことがあってね。あと用事もあったし」

男子寮に堂々と入ってきたことはこの際気にしないでおこう。

「・・・話したいこと?」

何だろう?ライブのことかな?

特にミスはしていないはずだ。強いて言うなら挨拶が多少無愛想だった気がしたくらいだが。

「あれからアンタの記憶は進展があったか?」

ああ、そのことか。

まあ、俺がバンドにはいるのが岩沢さんが協力することの交換条件だったからな。

「まあ、一応は」

断片的に思い出せているのは”誰か”の声だけだが、だいたい予想はできる。

「俺は、岩沢さんの記憶を失っているんですね?」

岩沢さんはすごく複雑な表情をしていた。

嬉しさ4割、悲しさ6割といったところか。

・・・当たりか。

「・・・どうしてそう言いきれるんだ?」

あえて聞き返してきた。

「まず、俺が断片的な記憶を思い出すときは全部岩沢さんが関わっています」

Crow Songを披露したとき。

Alchemyの一部分を口ずさんだとき。

岩沢さんのギターをチューニングしたとき。

全部岩沢さんが主として関わっていることばかりだ。

「それに普段の岩沢さんと比べた最初俺と会ったときのリアクション」

最近感じたことだけど、確かにあのときの岩沢さんは取り乱していた。

岩沢さんだけが俺を知っている。

・・・逆に言うと俺は岩沢さんの記憶を失っていると言える。

「最後に、俺は岩沢さんと初めて演奏をしたとはどうも思えないんです」

「・・・そう」

「はい、あのライブで岩沢さんがどのタイミングでどんな音を出して欲しいのか身体が反応したんです。」

「偶然の可能性もあるぞ?」

「偶然じゃありません。Crow Songで間奏のタイミングが練習よりも少し早くなるのもちゃんと分かっていました」

「・・・・」

岩沢さんは黙った。

しばらく沈黙が続いて重い空気が流れた。

「そうか・・・ちゃんと分かってたんだな・・・そうか・・・そうか・・・」

岩沢さんは何度もそうか、と繰り返した。

まるで、今の現実を必死に受け止めているようにも見えた。

「確かにアンタが失ってるのは私の思い出だよ。・・・断言はできないけどね」

・・・まだ反論しますか、この人は。

「あの・・・」

岩沢さんは俺の言葉を遮って続けた。

「でも、私が知っている綾崎紅騎はちゃんと記憶を取り戻した綾崎紅騎だからな」

・・・どういう意味だろう。

・・・・・・・・・・。

ああ、岩沢さんは遠回しに肯定しているんだ。

”絶対に”俺が岩沢さんの記憶を失っているだと。

「あ、そう言えば私と関わったときに少し思い出すと言ったな」

・・・覚えてましたか。

「・・・・・じゃ、じゃあ、今後は私ともっともっと関わっても・・・良いぞ?」

岩沢さん、なぜそこでもじもじするのですか。

(無理だろうけど)自覚してください!そのギャップが(男にとって)一番キケンだと言うことを!!

「ど、どういう意味っすか・・・?」

わぁぁぁ!俺の馬鹿!何で聞き返しちゃうんだ!

そこは、「頑張ってみる」とか「ああ、よろしく」で収まったはずだぞ!?

「た、例えば・・・」

ふわっ・・・

突然柔らかい温もりを感じて同時にかすかな甘い香りを感じた。

「い、岩沢さん!?」

岩沢さんに正面か抱きしめられていることに気づくのに数秒かかった。

「・・・どうだ?何か思い出したか?」

岩沢さんは抱きしめながら耳元で囁いてきた。

正直心臓がバックンバックンしていてそれどころじゃない。

「いや、特には」

・・・だ・か・ら!俺よ!今そんなこと言ったら!!

岩沢さんが離れちゃうかもしれないだろ!?

こんなシチュエーション滅多にないだろう。つーか今ぐらいしかこんな機会無いんじゃないか?

「・・・そうか・・・なら・・・」

「・・・・え?」

岩沢さんがとんでもない行動に出た。

・・・俺を・・・押し倒してきた

「これなら・・・どうだ?」

重力ってすごいな。

岩沢さんとの密着度(?)がさらに高まった。

俺の心臓はさらに加速した。

や、やばい・・・冗談抜きで爆発するかも・・・

「・・・・?綾崎、すごい・・・ドキドキしてる・・・?」

ば、ばれた!?

「いやぁ・・・まあ・・・・・はい」

今俺の顔を見たらかなり真っ赤になってるんだろうな・・・

「わたしも・・・同じだから・・・」

・・・確かに俺の心臓とは違うリズムで鼓動を感じる。

俺より少し速いかもしれない。

「岩沢さん・・・俺より・・・」

「言うな・・・」

キュッ・・・

少し抱きしめる力を強くしてきた。

「!!」

その瞬間俺は頭痛を感じた。

「どうした!?一体どうしたんだ!!綾崎!!」

痛い・・・マジで頭が割れそうだ・・・

「ぐ・・・っ!・・・が、くぅぅぅ・・・・!!!」

だ、誰か・・・助・・・け・・・

「綾崎、綾崎!?」

徐々に意識が遠のいてきた。視界も暗くなり始める。

「誰か・・・誰かぁぁ!」

岩沢さんはあわてて外に飛び出していった。

「岩・・・・沢・・・・」

そして、俺の意識は完全に消え去った。

 


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