「陽動班は食堂のホールに移動してください」
五時三十分ジャスト、戦線の一人が呼びに来てくれた。
「じゃあ、行くとしようか」
岩沢さんがギターケースを担いで立ち上がった。
それに続いて俺たちも楽器を持つ。
入江はドラムのセットがあるのですでに移動している。
「緊張してますか〜?綾崎先輩!」
「いや、あんまり」
正直少し緊張はしているが思ったよりも落ち着いていた。
ほどよい緊張感と言うヤツだろう。
「さすが・・・大物〜って感じがしますよ」
大物か・・・まだそんな器じゃないけど。
関根の緊張をほぐそうとする誠意は伝わってきた。
「ありがとな、関根」
関根はうれしそうに跳ねながらついてきた。
「やっほ〜、綾崎先輩にお礼言われちゃった〜♪」
関根の気分も上がってきたようだ。
「では、こちらに楽器をセットしておいて後は食堂で待機してください」
「あ〜、綾崎はここで待ってな」
岩沢さんが椅子と○ルヴィックを渡してきた。
ああ、そうか。ライブで紹介することになってるんだっけ。
「分かった」
「ついでに私たちの楽器のチューニングも頼んだよ」
ひさ子が注文してきた。
まあ、いっか。これから三十分何もしてないんじゃ暇すぎるからな。
「オーケー、半音下げでいいか?」
「ああ、それでいい」
三人は入江の待ってる食堂に姿を消した。
「・・・さて、やっちゃいますか」
まず関根のベースを調節する。
「結構ベースって重いんだな・・・」
あの小さい身体でよくもあんなにパワフルな演奏ができるな。
ベースの弦は4本しかないから楽だな。
まあ、六本も4本もあまり変わらないけど。
次にひさ子のギターを調節した。
弾きやすそうだなあ、ひさ子のギター・・・
こっちは手慣れているのですぐに終わった。
最後に岩沢さんのギターを手に取った。
「・・・・?」
このギター・・・どっかで見たことがあるような・・・
ストラトキャスターで、色は普通のサンバースト。どこでもありそうなタイプだけど・・・
そこじゃないんだよな・・・視覚的な記憶じゃなくて、実際に手で触ったことがあるような・・・
おそるおそるチューニングを開始した。
(紅騎、エレキのチューニングってフォークと変わらないの?)
(だいたい同じだけど、ちょっと便利な道具がある)
(何それ、メトロノーム?)
(エレキはコイツに直接つないでチューニングができるんだ)
(へ〜、けど紅騎は耳が良いから使わなくてもいいんじゃない?)
(普段使うときはな、けどミニライブの時は使ってるよ)
(ふ〜ん・・・)
・・・まただ、また前みたいな声が聞こえてきた。
チューニングを終えてそれぞれの配置に楽器を置いた。
ひさ子の言った通りやっぱり何か関係があるのか?
・・・岩沢さんと