暗闇からのキボウの歌   作:skav

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誰かの記憶

「それじゃあ綾崎先輩、ひさ子先輩、岩沢先輩をよろしくお願いしま~す!」

「お先に失礼します」

歓迎会はお開きとなり関根と入江は帰って行った。

ひさ子はさすがに男女が残ると問題があると思ったのか自分も残ると言ってきた。

こちらとしても大助かりだった。

俺一人だけで片付けをしながら岩沢さんを流すのは不可能に近かったからだ。

「あれ~・・・関根と入江は帰っらのか~?」

ぎゅう~~~~

まだ俺に抱きついていた岩沢さんは手の力を強めてきた。

「か、帰りましたよ・・・って、苦しい・・・」

苦しくて呼吸を大きくすると、ふわっと女の子特有の甘い香りがした。

こ、これが女の子の匂いってやつか・・・できれば別の時がよかった・・・

「ふふふふふ・・・じゃあ、私と二人っきりか、あ・や・さ・き♪」

「み、耳元でささやかないでください!」

ぞくっ・・・

な、何だろう・・・真正面から殺気が伝わってくるのだけど・・・

「へ~二人っきりかぁ・・・ずいぶんと見せつけてくれるなぁ?綾崎ぃ~・・・?」

ひさ子がこの世のものとは思えないほどの形相でこちらを見つめていた。

ゾワゾワゾワ・・・!

「ち、違う!これは岩沢さんが!!」

俺はあわてて岩沢さんを腕をほどいてひさ子の前に差し出した。

「すー・・・すー・・・」

「・・・寝てるじゃないか?」

「・・・・・」

岩沢さん・・・あんた・・・もうアルコールはやめてください・・・

ガスン!

思い切り鍋でぶん殴られた。

 

 

 

俺とひさ子は燃え尽きた(眠りに就いた)岩沢さんをベッドに寝かせて片付けを始めた。

とくに大がかりなことはやっていないので十数分で片付けは終わってしまった。

「綾崎、はい水」

「おう、サンキュ」

俺はもう用が済んだので帰ってもいいはずだが、ひさ子が話したいことがあると言ってきたのですこし残ることにした。

「で、話ってなんだ?」

ひさ子はテーブルを挟んで相向かいに座った。

「まあ、岩沢に大体のことは聞いたんだけど。お前、ある記憶だけなんだって?」

「ああ、そうだ」

そこの話か・・・まあ、俺としても何かきっかけになりそうだし、話してみるか。

「俺は、いつどこで生まれてどんな生活をしてきてどうやってしんだのかは覚えているんだ」

「まあ、普通のパターンだな。・・・それで、どんな記憶が無いんだ?」

また、難しい質問だな。

「えーと・・・たぶん、”誰か”の記憶が無いんだと思う。・・・たぶんそうだ」

「ふ~ん・・・誰かのねぇ・・・」

ひさ子はちらっと岩沢さんのほうを見た。

岩沢さんはぐっすり熟睡している。起きる可能性はなさそうだ。

「話は変わるけどアンタ、岩沢のことをどう思う?」

なんでそこで岩沢さんの話題が出てくるんだ?・・・まあいいけど。

「分かるわけないだろ。まだ知りあって数日しか経ってないのに」

「おかしいな・・・岩沢のほうはもう何年も知り合っているような感じだぞ?」

・・・そういえばそうだ。

初めて校長室で会った時。屋上で少し話した時。Crow Songを演奏した時。

全部初対面の奴に向ける態度じゃなかった。

「・・・・・」

「しかも、最近の岩沢の挙動不審ぶりは普通じゃない。」

「・・・そうなのか?」

「ああ、そうさ、まるで恋をしている乙女みたいな溜息を何回も見てるしな」

「・・・・恋?」

見た感じ岩沢さんはギターに恋してますって感じだけど。

「ああ、これ以上は岩沢に言うな!・・・って口止めされてるけどな」

・・・これ以上って、だいぶしゃべった気がするんだけど。

「もしかしたらお前の失った”誰か”の記憶って岩沢のことっだたりして・・・」

「・・・かもな、その可能性もあるかもしれない」

俺は立ち上がって部屋を出ようとした。

「・・・早く戻るといいな、お前の記憶」

「・・・ああ」

玄関の扉を開けて急いで外に出た。用が済んだ以上ここにいてはまずいからな。

俺は女子寮と男子寮のちょうど真ん中あたりにあるベンチに座った。

「・・・記憶か」

俺は”誰か”の記憶を失っているってことは大体わかった。

問題はその記憶が誰の記憶なのかだ。

覚えているだけの記憶を探ってみる。

思い出すたびに引っかかるのはライブハウスでの記憶とどこかの公園の記憶と商店街の記憶だ。

今日四人の前で演奏したCrow Song。

あれは突然ふっと出てきたものだった。

同時にこの曲がとても気に入ってたこと。”誰か”と弾いていたことを思い出した。

それにAlchemyだって初めて弾いたような感覚ではなかった。

Crow songと同じような感覚を感じた。

「触れるものを輝かしてゆくそんな道を生きてきたかったよ・・・」

(悲しい歌だな)

(まあ、私の人生だからね)

(・・・でも強い歌だ。力強くまっすぐ前を向けさせてくれる)

(私もこんな人間になってみたかったなぁ)

(なれるよ、今からでも遅くはないし、俺がそれを一番わかってる)

(あ、ありがと・・・)

「!!」

な、なんだ・・・今のは。

これが・・・”誰か”の声・・・?

なんだろう、すげー懐かしい感じがする。

「・・・帰るか」

俺は男子寮に戻って深い眠りに就いた。

 


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