「一枚、二枚・・・」
俺はいま万札を数えている。
「・・・よし、ちゃんと三十万あるな」
なぜかって?それは今日はアイツの誕生日だからな。
アイツはギターをやっている。
腕はかなりの物で時々俺と弾き合ったりもする。
かくいう俺もギターに没頭している人間の一人だ。
俺もアイツもバンドを組んでいないので周りからは不思議な目で見られることもある。別に気にしてないしバンドにも興味ない。
アイツもあまりバンドには興味ないらしい。そんなだから通じ合うところもあったのだろう。
俺とアイツは普通に恋をして付き合って普通の恋人同士のような毎日を送るはずだった。
・・・けれどアイツは三日前に死んでしまった。原因は脳梗塞だそうだ。
アイツが脳梗塞で倒れて死ぬまで一ヶ月もあったのに見舞いの一つも行ってやれなかった。
俺の少ない人間関係じゃ三日前にアイツが死んだことを知るのが精一杯だった。
だから俺は、アイツが気になると言っていたギターを買ってやろうと決心した。
『お前、何か欲しいも乗ってあるか?』
『ううーん・・・特には』
『そう言うなって、一つくらいあんだろ?』
『・・・私は・・・お前が側にいてくれれば何もいらない・・・』
『え?今なんて言った??』
『な、何でもない!あ!あれだ!前紅騎と一緒に見に行ったギター!』
『ああ・・・あれか、けどかなり高かったぞ・・・俺たちには手の届かないくらい・・・』
『・・・だから何も無いっていったじゃないか』
『ん~・・・そっかぁ』
せめてもの償いに・・・
「すみません・・・・」
俺は急いでアイツが眠っている墓へ向かった。
アイツの両親は連絡をしても身元の引き取りを拒否したらしい。
だからアイツは死んだ病院の近くの墓に埋葬された。立ち会ったのは担当の医者だけ。
俺は許せなかったアイツを見捨てた両親を、アイツの夢をいとも簡単に切り捨てた神様を。
最後まで何もしてやれなかった自分自身を。
俺は無我夢中で走った。一秒でも早くアイツに会いたかった。
キィィィィィ
「・・・え?」
雨が降って濡れた路面。
霧によって悪くなった視界。
酒に酔った運転手。
「・・・岩・・・沢」
ぐしゃぁ・・・
俺は何の抵抗も出来ずにトラックの下敷きになった。