Q.もし咲が鷲巣巌と邂逅したら?   作:ヤメロイド

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大変お待たせいたしました。薄ら寒いギャグで流すか、合宿後編をキンクリすることも考えたのですが、却下。普通に書きました。したら、こんなに時間がかかって……


???「早く書きなよ……時の刻みはあんただけのものじゃない」


ごめんなさい。


一緒に楽しもうよ……!

夏草や強者共が夢の跡。清澄高校麻雀部の泊まる部屋では、アフリカ像が通った後の草原のように皆萎れていた。コ○ンの某被害者のようにノートに「タコス」と書いて力尽きている優希。真っ白に燃え尽きたまこ。消える寸前の某紅茶のようにキレイな笑顔を浮かべる久。因みに気絶してます。そして……

「それや、ロン。18000」

「……!次……!」

面々の中でただ一人、原田に食いついている淡。呆れたように原田が

「お前も大概やな。ここまでやってまだ折れんか」

淡と原田の勝負。半日やった今のところの成績は、原田が8回トップ。淡は二着が8回。後は三着かラスという散々なものだった。

(おかしい……幾ら何でもここまで一方的なんて……)

その違和感に、淡も薄々感づいていた。淡の能力は正常に機能している。原田は強制的に5シャンテンスタートであるし、淡もダブルリーチをかけられている。なのに、未だに原田を超えることが出来ないでいた。

「はあ……一旦休憩や」

見かねたように原田が皆に聞こえるように言った。その言葉に淡が食ってかかろうとして

「ま、まだ……」

 

 

バタン

 

 

と、盛大に雀卓に突っ伏して倒れた。

「あ、淡ちゃん!?」

「安心しな、咲。少し疲れて眠っとるだけや」

体を抱き起こしてみると、静かな寝息が聞こえてきた。それを聞いて安心したのか、咲は淡を先に布団に寝かせた。

「ホンマ根性あるわ、この大星っちゅう奴は」

後ろから原田が話しかける。

「うん……」

「能力っちゅうか、天運に頼り切るところがあるが、それを差し引いてもコイツは強い」

「そっか……」

淡の髪を撫でながら、咲は目を閉じる。子供の頃の自分の闘牌を。全然勝てなかったあの頃を……

「やっぱり……自分で気付くしかないのかな。それだけじゃダメだっていうことに……」

 

 

 

 

淡が目を覚ましたのは、夜の9時だった。最初、ここがどこだか解らなかったが、周りで末期患者のように布団で蠢く久達を見て

「そっか……合宿だったんだ」

自分が原田に惨敗して、悔しくてくってかかろうとして倒れた所まで思い出した。

「負けた……あんな一方的に……」

指がヒリヒリして、頭は間近でドラム缶を叩かれているように痛かった。

「ダメだ……まだこんなのじゃ……」

いつまで経っても咲に届かない。そう思って立ち上がろうとしたとき

「サキ……?」

部屋の中に咲の姿が無いことに気付いた。いや、「ヤメロ……」とか「シニタクナイ……」とか断末魔の叫びが聞こえる、なんちゃってお化け屋敷の中で眠れるのか疑問なのだが……

そのとき、襖一枚挟んだ向こうの部屋で何か音が聞こえた。

「白」「お爺ちゃん、それロン」「クク……悪いな、咲。頭ハネだ」「どうした、僧我よ?キレが無いぞ。久しぶりに咲と打って緊張しているのか?」「う、五月蝿いわ……!」

という少し喧しい声が聞こえてきた。

どうやら麻雀をしているようだった。そっと襖を覗いてみると、卓には咲、赤木、市川、僧我の四人が座っていた。今日一日で、淡は鷲巣以外の麻雀を全て見た。理の市川。剛腕の原田。暗闇の僧我。華の赤木。はっきり言って、彼等の強さは出鱈目だった。恐らくサバイバル戦になったら、そこらのプロでは勝負の中に入ることも難しい。そんな予感を漂わせる人外の中で、咲は闘っていた。

「おう、目が覚めたか」

淡が見ていることに気付いたのか、原田が声をかけた。

「そんな所で見とっても何もならんやろ」

言われた通り淡は隣の部屋に行き、ちょこんと原田の隣に座った。

「今はどんな状況?」

「南3。ラスは咲やが、親で連チャンの可能性がある状況や」

見ると、咲の点棒は5000まで減っていた。一方、トップは市川で点棒は42000近く。取り敢えずは安全圏というところだった。

「サキが負けてる……」

本気で打っている咲がここまで点棒を吐き出すのを見るのは、これが初めてだった。淡が見た咲の麻雀はいつも華があり、どこか高い所にある物を見るような感覚になっていた。その咲の麻雀が、今は圧されていた。少なくとも淡の目からは……

「いや、それは少し違うな……」

 

しかし、原田の見立ては違っていた。

「違うって?」

「この局、咲は和了れてはないが振り込みもしていない。咲が失った20000は全て他のツモによるもんや」

咲は耐えていた。東1から今まで場は順子場で、カン材が集まってくる咲の手は他三人と比べてどうしても遅れざるを得なかった。故に耐えた。耐えて耐えて、勝負を決するラス親まで待った。事実、市川に苦しげな表情が浮かんでいた。

(くそっ……さっさと和了っちまいたいときに手が重い……場が順子から対子優勢になってきたか……)

ピンフやタンヤオで逃げ切りたい市川の手には九ピンが暗刻でよっていた。

(ならこの時点で一番警戒しなければならんのは……咲か)

そう見切りをつけ、ツモる。

「見てみ……他の三人も咲への警戒が厳しくなっとる。六順以降、皆生牌は絶対にきらんやろ」

原田の予想は当たった。市川や僧我はベタ降り。というより降りざるを得なかった。咲の手の進みが予想以上に早かったのだ。

「カン」

場風の南を暗カンする。そしてめくられるドラ表示牌。東。

「ドラ4確定!?」

しかし、それではまだ終わらなかった。次順、咲は西を暗カンする。

「も一個、カン」

瞬間、部屋の空気が緊張する。最悪なのは、南がダブドラになり嶺上開花で和了られること。門前で進めているから、今見えている手で倍満確定なのだ。

まずめくられるドラ表示牌は、三ソウだった。それで漸く僧我と市川の表情が緩んだ。

「なんや、この流れなら東が出てくるかと思ったわ」

「いやいや、そう簡単にはカン材がドラに早変わりする訳ないから」

あははと笑っているが、それで何回か捲られたことがある僧我には冗談に聞こえなかった。

「そうか……何とか首の皮一枚繋がったか……」

市川も少しホッとしたように汗を拭く。幾ら技術があると言っても、相手のツモ和了だけは防げない。一番怖い親倍が無くなったので、どうしても糸が少し緩む。

「……」

が、一人。赤木しげるだけは未だに空気を張りつめていた。嶺上開花、和了ってくれるなら問題無い。問題なのは……

「リーチ」

リーチしてきた場合だ。咲、打四ソウリーチ。

(不味いな……流れからしたら咲が和了るのは確定だとしても、こうなると親倍満の芽がまた復活する……)

赤木は予測する。市川と僧我の親は終わっている。ここで咲に和了られると、ほぼ逆転の可能性が消える。すると多少強引に攻めようとする。無論、振り込むなんてバカな真似はしないだろうが、咲に場の空気を支配されている現状、どうしても聴牌速度は落ちる。

(どちらにしろ、壁以外は切れねえか……チャンタもしくは混老頭の可能性がある以上は……)

赤木は咲が親倍満を和了る可能性を考慮しつつ、降りる。市川、僧我もそれに続くように降りた。そして、咲の番へ……

(くっ……一発を消したいところだったが……)

そう思っても、順の早い段階で降りなければならない状況で鳴いて手を限定化させたくはなかった。

(ツモるな……!)

しかし、今の、対子場の流れで咲がツモれない訳が無かった。

「もう一個、カン」

引いてきた一ワンをそのまま暗カン。

「バカな……!」

市川の悲鳴にも似た息が漏れる。王牌へ伸ばされる咲の手。そして、

「ツモ。リーチ嶺上開花自模。チャンタ、三暗刻、三カン子、ドラ4……16000オール」

この麻雀を決定付ける数え役満をうち放った。

 

 

「凄い……」

淡の口から、陳腐だが心からの言葉が零れた。それを聞いて、原田は少しだけ頷いた。

「ああ……けどな、咲はそれまでがホンマに凄かったわ……!」

「それまで?」

「この麻雀、咲は最初から運に見放され取った。何度も赤木や僧我の当たり牌を掴ませれたんや。しかし、天から見放されながらも、自棄になって放銃することは無かった……焼き鳥になりながらも息を潜めて耐えとった……!それが一番凄い」

耐える。その言葉で淡は思い当たった。原田や咲が強い理由。彼等にあって淡には無いもの。それは耐えることへの勇気だった。

「ダブルリーチは確かに脅威的や。しかし、同時に両刃の剣でもある。他に手が来ているときは、そいつらも捨て身覚悟で突っ張る……!」

ダブルリーチをかけた後は、ただツモ切るだけ。流れに乗った相手が聴牌した場合、どちらが勝つかは火を見るより明らかだった。十中八九ロン牌を掴まされて、それを切る。咲や原田はそれを突いて淡に勝ってきた。気付けばなんてことはない。

 

 

淡はまだ麻雀の楽しさを知らない。

 

 

それが咲が予感し、淡が漸くたどり着いた応えだった。

(まだ、私は麻雀を、麻雀の持つ本当の楽しさを、理不尽さを味わっていなかった……麻雀を楽しんでいなかったんだ)

 

恐れるな……!繰り返す……失敗を、傷つくことを恐れるな……!

 

 

不意に、頭の中を原田の言葉が巡った。それで、なんだか両肩が軽くなったような気がした。

麻雀は傷つかなければ始まらない。傷ついて初めて、勝つ喜びが解る。だから、傷を負うことは決して悪いことではない。

(やりたい……麻雀を、勝負を……成功も失敗も平等に訪れる……咲に挑みたいっ……!)

もう動こう。やがて来る過酷がどんなに辛くても、受け入れた上で乗り越える。だから……

気付けば勝手に口が動いていた。

「サキ!」

「うん。どうしたの、淡ちゃん?」

笑顔で振り返る咲。少し前は遙か高みにあると思っていた笑顔が、今は直ぐ傍にあった。

「次、サキと打ちたい!」

淡がそう言うな否や、場は騒々しくなった。

「おし、次は原田と大星が入るから三とラスが抜けるってことだな」

「なっ……!ふざけんなや赤木!儂のラス親は終わっとんやで……!折角大阪から来たんやで……!」

「断る。仮にワシがお前と同じ所まで点棒を積んだとしても断るよ……咲と麻雀出来ない機会が1%でもうまれるような愚はせんよ……」

「てめえ、市川!ずっと座っとくつもりやったんか!」

「こら、喧嘩しない!三、四が抜けること……!」

そうして、いつもより人数の増えた狂宴は過ぎていった。淡にとって、咲と過ごしたこの三日間はとても濃く、心臓に直接ナイフで刻み込んだような思い出となった。

「一緒に楽しもうよ……!」

満天の星空を見上げながら、淡は優しい声を聞いた。

そして、時は流れ……

 

 

「えー、三日間の特打合宿、お疲れ様でした。今回はその打ち上げと……」

 

 

 

オーダーを発表します!

 

 

 

ところで、京太郎は?

「……で、咲とはどういう関係なんじゃ?」

「いえ、咲とは--」

「“咲”?」

「い、いえ……!宮永さんとは幼なじみで……」

鷲巣お爺ちゃんの個人面談を受けていましたとさ。良かったね。

面白いので、少しリプレイ。

「ほう、つまり咲とは何にも無いと……」

「は、はい!宮永さんとはクラスメイトというだけで」

「咲に女性としての魅力が無いと……!」

「い、いやだからそうじゃなくて」

「何!やっぱり在るのではないか!?」

(あーもう!咲のおじいさん面倒くさ過ぎる!)

このやり取りがまる二日間ループしたので、以下割愛。

 

京太郎の夜は長い。

 


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