Q.もし咲が鷲巣巌と邂逅したら?   作:ヤメロイド

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えーと、活動報告に書いたように、とある事情から牌画像変換ツールを使用しておりません。まあ、もともと言うほど闘牌シーンは書いてないからいっか♪
そういうことで勘弁して下さいお願いします。


県予選へのプロローグ
雀荘にて


時は進み、季節はすぎる。梅雨を越し、初夏の暑さが肌に差し始めた頃の事だった。

「暑いわね……」

そう言いつつ、久は冷房の温度を二度下げた。今、彼女は部員の牌譜を見ていた。例えば、優希は降りるときにヤオチュウハイに頼りすぎる傾向があるとか、京太郎はそもそも地力が足りないとか。

「淡の麻雀は相変わらずイミフね……私にはさっぱりだわ」

淡が普段打つのは、ダブリー、カン、のみ。普通に打っても強いのだが、淡の華はやはりこの火力だった。そして、一方の咲は、と言うと……

「正直、不気味なくらい魅力的よね」

一見するとふつうに見える咲の闘牌だが、よくよく見ると淡以上にオカルチックな麻雀をする。

「振り込みを避けつつ、相手がツモりそうなら差し込み……本当に高校生?」

基本デジタル派の久から見ても、咲の牌譜は不思議だった。恐らく、牌効率とかを重視する人が見たら下手だとこき下ろすだろう。だが、それでも強い。

「魅せられるわね……」

そう言って咲の牌譜を仕舞おうとしたときだ。

「ん……?これ……」

久は咲のある打牌に目がいった。

 

 

45557m456p11456s ツモ6m

 

 

「ツモ切り?なんで?」

咲が奇妙な麻雀を打つと言っても、基本はデジタルだ。加えて、今回は三色が見える好形だ。どう考えても、ここは7ワン切りしかない。

しかし、久はそれから数巡後の咲の手を見て

「……」

黙って牌譜を鞄にしまった。

 

 

リーチ

55577m456p11456s

次順

 

 

和了

77m456p111456s カン5m

 

 

「まさか……まだ全力じゃなかったなんて……」

ポツンと、その場にいない誰かに話しかけるように呟いた。

(あー、ダメだ。多分咲は意図的に力を隠しているんじゃなくて、使う必要が無いから使ってななっただけだ……)

今回使ったのは、偶々だろう。そう考えると、いよいよもって頭が痛くなってくる。

(まいったわね……)

直接聞けば、咲は直ぐに答えてくれるだろう。けど、それじゃ意味がない。やれば清澄の麻雀部は、咲を受け入れるだけの器がないと認めるようなものだ。

「……待てよ」

ハタと思いつく。最近、咲と淡の仲がいいことを。

それから久は電話とって、知り合いのプロ雀士にコールした。

「もしもし、靖子?……うん、お願いがあるんだけど」

 

 

翌日、咲と淡はまこの家が経営する雀荘にいた。咲はチャイナ服を改造したようなメイド服姿で、淡はいつもの制服姿。

「すまんの。バイトが風邪をこじらせてしもうてな」

ばつが悪そうに手を合わせるまこ。

「いえ、私は……」

恥ずかしそうに頬を赤らめる咲。

「大丈夫!凄く似合ってるから!」と、目をキラキラさせながら写真を撮る淡……と、原田。

「咲、よう似おうとるで」

「原田おじちゃん!?何でここに!?」

「部下から連絡が入ってな。咲がメイド服で働いているっちゅう情報を掴んだからじゃ」

「もう、おじちゃんったら」

パシャッとフラッシュが、少し頬を膨らませる咲を照らした。

……。

(いやいやいやいや!?明らかにヤクザもんやろ!)

カタカタ震え出すまこ。こっそり咲に耳打ちする。

(咲、あのグラサンの人、咲の知り合いか?)

(はい、原田さんて言うんです。見た目は怖そうですけど、良い人ですよ)

笑顔を一切崩さない咲。その横では早速淡と原田が仲良さげにじゃれ合っていた。

「サッキーは私のだ!」

「おんどれが!お前のような馬鹿な小娘に咲は渡さん!」

「なにおう!」

…………。まあ、喧嘩するほど仲が良いって言いますしね。

(めっちゃ怖いんじゃが!)

さっきからカタカタ五月蝿いまこ。流石に見咎めてか、原田も謝る。

「すまんな、店ん中で騒いで」

「い、いえ……」

良かった、常識のある人で。きっと咲の言うとおり、見た目ヤクザなだけで実は良い人かもしれない。そう思った直後だった。

「迷惑料じゃ」

カウンターに十枚ほど載せられる福沢諭吉。

(やっぱ訂正!ホンマモンじゃこいつ!)

震える手で諭吉をレジに入れるまこ。結局貰うんかい。

そうこうしているうちに、咲に卓につくよう声がかかった。

「はい、解りました」

そう言って輪から外れる咲。後に残ったのは淡と原田だった。

「なんじゃ、お前は手伝わんのか?厨房とか……」

「マコに『二度と厨房に立つな』って言われた……」

「そうか、あのシュールストレミングの臭いはお前じゃったか……」

淡さん女子力パネェっす。

「で、でも良いもん!咲が家に来れば……」

「咲は渡さん!ワシ……や赤木を倒してからじゃ!」

ん?今、ひよらなかったか?

淡が何か言い返そうとした直後だった。

「ロン!18000」

咲の座っている卓から和了宣言する声が聞こえた。見ると咲の点棒がごっそり減っていて、変わりに対面のワカメっぽい男子高校生の点棒が増えていた。

「ふーん。咲、プラマイゼロする気なんだ」

「じゃとしたら良い滑り出しじゃの」

「そうなの?」

意外そうに淡が原田に話しかけた。

「ああ、初見の相手には敢えて振り込んで手をみる癖があるからな。ハネ満手ともなれば振り込んだ先の実力は直ぐに解るじゃろ」

事実、咲は適当に対面の相手を和了らせつつ、自分はプラマイゼロへの道を築いていた。最終局、咲の点数は32700。喰いタンで逃げたい親に、ドラの5ワンを差し込めばプラマイゼロの完成だった。

(流石に本気で打つわけにはいかないよね……)

咲は適当に相手の欲しそうな牌を切って鳴かせまくって、

「ロン!2900だよ、お嬢ちゃん」

きっちり差し込んだ。咲の点数は29800。

「逃げ切られちゃいましたね」

「まあしょうがないよ。なんせ僕は小学三年の頃から牌を握ってきたからね。にわかじゃ話にならないさ」

苦笑気味に点棒を渡す咲。それを、眼力だけで相手を飛ばしそうな形相で見る原田と淡。

「はあ?バッカじゃないの、あんな見え見えの差し込みにすら気付かないなんて……」

「あのクソガキが……!咲が本気でやりゃ東2はないんじゃ……!」

 

視線だけで相手を殺してしまいそうな勢いで睨みつける。

「「あのワカメ……箱割らす……!」」

ゴゴゴ……という効果音がマジで出る程に二人の殺意(雀力)が高まる。

しかし、結果的に言うと、二人はワカメを処分する必要はなくなった。「さあ、もう一回だ」と脳天気にワカメが意気揚々と言った時だった。突如、店の空気がガラッと変わったのだ。

「原田おじちゃん……」

「ああ……」

何かを感じ取ったのか、咲が原田に視線を送る。元凶は直ぐに現れた。攻撃的なファッションの女。藤田靖子。

「……ああ、そういうことか……」

さっき相手にした男など話にならない。いらっしゃいませと、まこの声が遠く聞こえた。彼女を見て、咲は察する。久が自分をここに呼んだ理由。淡と一緒に行かせた理由を。

(この人、鷲巣お爺ちゃん程じゃないけど明らかに場違い……一般人とは格が違う。こんな雀荘にひょっこり現れるような人じゃない)

となれば、何か用事でもってあったか、誰かに呼び出されたくらいしか思いつかなかった。

「部長……」

咲の視線に気付いてつかつかと、こちらに歩み寄ってくる藤田。そして、

「ここ、空いてる?」

丁度面子が入れ替わって、ワカメと藤田。後一人誰かが入れば卓は埋まる状況だった。

「え、なんで僕巻き込まれてるの?」

原田にガシッと押さえつけられて卓に着いているからです。しかし、隣の惨状に気付く様子もなく、咲は藤田の言葉に頷いた。

「はい……淡ちゃん、入ってくれる?」

咲は静かに話しかけた。

「え、良いけど」

「いや、僕は全然宜しくないんだけど」

少し煮え切らない声を挙げる淡だが、咲は構わず藤田に話しかけた。

「部長に言われてですか?」

「久のことか?ああ、あいつに言われてな。本気を出させて欲しい相手がいると言われてな」

ニヤリと笑う藤田。

「何でも実力を完全に隠しきっている不思議な一年がいるって聞いてな……解ってはいるとは思うが」

自分は力を隠して勝てる相手じゃない。その一言は呑み込んだ。

(久から聞いていたよりは温和しい感じだな……天江衣ほどの危うさは感じない)

だが、と気合いを入れ直す。久の実力は良く知っているだけに、彼女に「手に負えない」と評された咲を侮る気持ちは無かった。

「勝負は私とお前が差し馬を握る形での半荘三回勝負だ」

卓につくと藤田はルールの確認した。

「じゃあ私とワカメは箱下あり?」

「いやワカメじゃなくて……」

「ああ、そうだ。悪いが、お前とワカメはギャラリーみたいな感じでいてくれ。点棒が無くなったらマイナス計上する」

「あの--」

「解りました。ワカメさんと淡ちゃんは箱割れ無しですね。私達は25000スタートですか?」

「ああ、ワカメは箱下ありで私達は普通の麻雀を楽しもうじゃないか」

ワカメ苛めて楽しいか!?という絶叫が聞こえたが、三人は気にせず賽を振った。

賽が回る。まるで、今がある一つの終着点目指して踊るかのように、賽が回る。そんな狂ったように回る賽を見て、不意に淡は嫌な感触を感じた。

(さっき、コイツはサッキーがまだ本気を出してないって言った……冗談じゃない!何でサッキーと出会ったばかりの奴がそんなこと解るんだ!嘘だ、嘘に決まってる……嘘、だよね……?)

淡の直ぐ隣には咲が座っている。でも、その咲が酷く遠いところにいるように思えてならなかった。

自分には手の届かない、遙か高みに。

「さあ、始めよう。まずは私が親だ」

こうして、藤田と咲の闘牌が始まった。しかし、咲の瞳には暗い光が宿っていた。

(私と淡ちゃんがいるところに、場違いの実力者……つまり、淡ちゃんに見せろっていうことなのかな……)

彼女の、宮永咲の全力闘牌を。




もし、淡がうちの咲さんの完全体を見たらどうなるか……?

めげるわ……

まあ、何事も順風満帆にはいかないということで。

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