Q.もし咲が鷲巣巌と邂逅したら?   作:ヤメロイド

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何の捻りもなくタイトルを付けてみました。
咲さんかわいい。


四校合宿 EXODUS編までのカウントダウン
咲ちゃんかわいい


夏の入り口。後に悪夢と称される事になる長野県予選が終わってから3日が経ち、今や清澄の名は最悪のダークホースとして知られていた。

「まあ、勝ち方が勝ち方なだけにしょうがないわよね」

と、大会中に心臓を強制終了させられかけて仏壇的な意味で神域に辿り着きそうになった久は語る。

さて、初出場ながら団体戦で優勝し、個人戦でも淡と咲が一位、三位のトロフィーを獲得すると言う快挙を成し遂げた清澄高校だが、今は一ヶ月後に控える全国に向けて英気を養っていた。今は少しだけ弛緩した空気が部室に漂っていた。

「タコスなんかどうでもいいじぇ……」

「働いたら負けじゃからの……」

「生きてるって、それだけですばらな事なのね」

「スバラ?」

「すばら」

「スバラ!」

いや弛緩しすぎでしょ。久に至ってはなんか悟りっぽいものを開いていた。そんなに臨死体験が衝撃的だったのだろうか。

「河の向こう岸からね、暗夜行路の二番が聞こえてきてね」

うふふと壊れたように笑う久。暗夜行路二番だけはマジで勘弁して下さい……

 

 

 

 

「とまあ、冗談はここまでにして」

露出度の高かった一期のパイロットスーツのコスプレから着替えてきた久が、ホワイトボードを叩く。「死ぬ気まんまんじゃないですかやだー」と言う突っ込みを無視したその先にあったのは…

「朝練。始めるわよ!」

全国の二文字が踊り狂っていた。

 

 

朝練。帰宅部の朝練と言えば、学校に着くや否や家に帰ることを指すが、清澄の麻雀部は健気に眠たい目を擦りながら牌の音を聞いていた。それただの雀キチじゃね?と言う突っ込みは無しで。

半荘が終わり五分休憩の折り、京太朗が二日前の大会を愚痴る。

「くそー。俺も対戦相手がもう少し弱ければベストエイトくらい……」

「犬が何か言ってるじぇ」

「須賀君。デジタルに徹しろなんて言わないけど、せめて間4件のケアくらいはした方がいいわよ……」

それすらしてなかったのか……

「いや、俺が下手だってのは認めますけどね!何か対面の相手が御無礼御無礼五月蝿くて……」

やめて下さい死んでしまいます。

「いやなんですかその痛い人を見るような目は?」

「別に~」

清澄高校は今日も平和です。因みに、その時京太朗が座った卓の右の奴はひたすら倍プッシュを要求してきて、左隣の奴はひたすら天気の話をしてくると言う、完全なツミゲーだった。良かったね。面子が面子なだけにメンツは保たれたよ。

「やかましいわ!」

時間は朝の九時。朝練の為に集まった久達は、一ヶ月後に控えた全国大会に向け毎日三時間は牌を触るようにしていた。牌に馴染んでおくかどうかで、少なくとも調子などは変わってくる。特に咲や淡は、いわゆるオカルト派なので感覚を失わない為にスパンを開ける事なく打つ必要があった。しかし、一番牌に触れないといけない肝心の一年コンビが、部活の開始時間を過ぎても未だに来ていなかった。

遅いわね、と久がボヤく。

「淡は兎も角咲が遅れるなんて……」

何だか最近忘れがちなのだが、もともと咲はそう言う細かいところまで気が利く良妻賢母系の女子高生なのだ。どのくらい良妻かと言うと、咲の「めっ」の一言で赤木が食事を完食するようになり、「淡ちゃん。あーんして?」の一言で淡の好き嫌いが消えたりするくらいに可愛いのである。

「結論が咲ちゃん可愛いにすり替わってるじぇ」

今頃、家の孫は世界一ィィいいいい!とどこかのおじいちゃんが叫んでいるのだろうが、そんなことは咲も知る由がない。

と、噂をしていると階段を駆け上がってくる音が聞こえてきた。

「おっ。来たわね」

ダッダッダッ!と言う足音と共に、咲の

「遅れてすみません」

と言う声ではなく、代わりに

 

「ねえ!サキが今どこにいるか知らない!」

 

淡の声が飛び込んできた。

「咲?まだ来てねーぞ」

「ありゃ?咲がおぬしより遅れるとはの…」

「珍しいこともあるものね」

これは淡の信用の無さを嘆けばいいのか、咲の生真面目さを誉めればいいのか。

咲が如何にいい匂いがするかホワイトボード一杯に図を書いて久達に力説する淡を尻目に本気で悩んでいた優希だが、ふと目に白いものが飛び込んできた。

「封筒?」

何で今まで気が付かなかったのだろうか。いつも咲が愛用して使う鷲巣が手ずから作ったガラス製のカップの下に、真っ白な封筒が置かれていた。因みにそのカップ、現在の価格に換算して2000万以上に相当する。

壊したら献血待った無しなので慎重に手紙を抜き取る。

封筒には、桜色の蝋で封がしてあり、右端にちょこりと小さく

「咲ちゃんからだじぇ!」

宮永咲の名前が添えられていた。

「サキから!?」

キンクリでもしたかのような高速移動で封筒に飛びつく淡。そろそろキャラ崩壊のタグをつけるべきだろうか。

「意外ね。咲が手紙なんか置いていくなんて」

何か用事がある場合、咲はダイヤル式の電話で連絡を取る。なんでダイヤル式かって?最新型は咲ちゃんのオーラに耐えきれないんだよ……

ゴクリと爆弾でも見るかのように手紙を取り囲む久達。

面々が見守る中、淡が代表して封を開ける。出て来たのは、桜色の綺麗な紙に、咲の綺麗な文字が添えられた、

「この手紙を淡ちゃん達が読むとき、私は既に長野にいないでしょう」

おじいちゃんズが聞いたら発狂しかねない手紙だった。何だかデスポエムっぽい?

一応、その後に事細かな事情が書かれていたが、要約すると

「少し気になる(顔も知らない赤の他)人から東京に来ないかという手紙を頂きました。長野にいるとマスコミが五月蝿そうなので(これ幸いと)暫く東京に滞在します。合宿の日までには(迷子にさえならなければ)戻ってきますから、安心して下さい。

ps

お土産は東京ばななでいいですか?」

最後まで読んでぷるぷると震える久。そりゃそうだ。部員が何の断りもなく勝手に部活を休んだら怒っても仕方な

「私はふぐちりばなな派なのに!」

そっち!?

どこかで神域の男がガタッと身を乗り出したような気がしたが、多分気のせいじゃないだろう。

他のメンバーも口々に文句を言う。

「東京ばななよりもワカメばななの方が」

そんなものはない。

「タコスばななの方が」

普通にタコス食べなさい。

「お土産はサキでいいのに」

淡咲最高おおおお!

「それはもういいから……」

(´・ω・`)

「しょぼーんもせんでええから」

しかし、咲とて何も考えず長野を離れた訳ではない。手紙の最後に咲自身が書いたように、どうも最近マスコミが五月蝿いのだ。普通はたかが高校生雀士なんかにマスコミはあまり粘着しないのだが、今回は少し洒落にならないくらい大勢のマスコミ関係者が押し掛けて鬱陶しいことこの上ない。咲が東京に行ったのは久達が麻雀に集中できるようにするためでもある。

十分後、咲の隠れた気遣いに気付いた淡達は、それっきり黙って誰からともなく牌を握りだした。

 

 

 

咲が東京に行った。この事は、淡達により麻雀と向き合うきっかけを作る事になった。しかし、淡達以上に影響を受けた人間がいることを忘れてはいけない。

「一大事じゃ……」

「ああ……まさかこんな事になるとはな……」

それは、代打ち業の頂点に立つ者達……別名、

「この中の誰一人として料理が出来ないとはっ……!」

咲ちゃんに胃袋を握られた老人の会の主要メンバー。

市川と僧我はそれぞれ東京と大阪に帰ったので残るは、赤木、原田、鷲巣なのだが、この中に料理が出来る者が一人としていなかったっ……!

「どうするんじゃ!七年前から食事は咲が作ってくれとったから儂等のお料理スキルはゼロっ……」

「くっ……確かに金はあるが逆に言えば金しかないぞ……」

「今更俺達の舌が店で出される料理を受け入れるとは思えねえ……」

ざわざわさせながら今晩の献立を考える鷲巣達。何やってんだコイツ等と思うかもしれないが、これでも必死なんです。

テーマは献立。夕食の時間までに少なくとも一品は料理を決めなくてはならない。

「ぐっ……!」

難しい確率。一見料理の種類は無限にあるのだから、その中から一品を選ぶのは簡単に思えるかもしれない。しかし、鷲巣達の料理スキルを考慮すると選択肢はとても狭い。何が自分達に手に負える食材で何が手に余るのか。その判断が迫られている。

長い時間が過ぎた。刻一刻と時計の短針が7に向かう。

まず口を開いたのは原田だった。

「取りあえず……ふぐは無いな」

「なっ……」

当然これに反応したのは赤木だった。

「どういうことだ、原田?」

「考えてもみろ?フグは強い毒を持っとる……咲はフグを調理する技術を持っとったから儂等は普通に食えとったが……」

「料理スキルの無い儂等がフグ料理を作ればその時点でアウツっ……!」

そう。その考えは一見正しい。しかし、彼は一つだけ見落としていた。赤木しげると言う男の狂気……揺らぐことの無い信念を……!赤木は正しさとかそう言う自分を縛るような常識、いわゆる正しさから離れた生き方をしてきた男。

「ふっ……的が外れてやがる」

「何やと!?」

つい地の関西弁が出てしまう原田。

「俺達はフグ料理が作れないって言うのか?」

「自信はある!俺達は博打打ちだ!フグ料理くらいなんとでもなる筈だ!」

いや、その理屈はおかしい。

「しかしっ……!どんなに薄い確率でもフグの毒に当たってしまう確率がある以上、命と言う取り返しのつかんもんをかける訳にはいかんっ……!勘違いするな!死が怖いんじゃない!無意味な死は御免だと言っとるんだ!フグ如きに命が張れる訳がないっ……!」

「『無意味な死』ってやつがまさに料理なんじゃねえのか……俺はずいぶん長くそう考えてきたが違うのかな……?」

違います。

「これはタイプの問題じゃない……土俵の問題だ……ようするにお前はまだ料理という土俵に上がっていないんだ……だから料理を脳みそからひねり出した確率なんかで計ろうとする……見当違いもはなはだしい……背の立つところまでしか海に入ってないのに……俺は海を知ったと公言してるようなもの」

 

さわ……さわ……

 

 

その時、原田が立ち上がった。

「ふざけるなっ……このまま料理免許も持ってない奴が調理したふぐさしなんか喰えるかっ……!」

全くもって正論である。しかし、赤木とて引き下がらない。行くところまで行ってしまう男。その空気を、原田は如実に感じていた。

(くっ……赤木しげる……やはりこの男は別格っ……!確かに今ここで赤木の意見を無視して儂等で適当に米を炊いてしまう事も可能……だが、無理やりこちらの意見を通した場合、順番的に赤木の意見、つまりふぐさしの要求を受け入れるしかなくなるっ……!)

いや、普通に断ろうよ。

もう逃げ道は残されていない。残った選択肢はただ一つ。

原田は横に抱えていた麻雀牌を卓に置いた。

「いいだろう……だが料理する前に一勝負だっ……勝手に献立を決められてたまるかっ……!俺とお前で大勝負……ふぐさしをかけたギャンブルだっ……!」

 

 

 

こうして麻雀教室の夜は更けていく。

その勝負はもはや咲を除いて誰も止められない。

 

 

 

さて、赤木と原田が夕食を賭けた大博打をし始めた頃、漸く久達も練習を切り上げる時間となった。

「うー頭がクラクラするじぇ……」

「サキの膝枕があれば一瞬で回復するのに……」

一年生組は普段よりも激しいメニューが頭にこたえて、卓に突っ伏していた。

一方の先輩組はと言うと……

「東風戦じゃなくて半荘にするんだった……」

「この悪待ち大好きっ娘が……」

自ら不利な条件で戦い過ぎて息も絶え絶えだった。

夕日が染み込む部室。久達は、懸命な追い込み麻雀をしていた。意識が切れるか切れないかの瀬戸際で牌を握る。しかし、それだけ集中して打つとどうにも他の事に気が回らなくなるらしく、結果こんなエピソードが置き忘れられていた。

 

 

時刻は三時。普段は集中力がそろそろ切れてきそうな時間だが、今の彼女達は極度の精神緊張状態になっており、部室に見知らぬ人物が入ってきたことに気付きはしたが、違和感を覚える事が出来なかった。

「あの……清澄高校の麻雀ってここでいいんですよね?」

「早く切りなさい……時の刻みはあんただけのものじゃ……ええ、ここが清澄の麻雀部よ……」

青白い顔をした久が卓から目を話さずに受け答えする。

良かった~と安心したような声の主は、次に彼女が今日ここに来た目的、

「えーと……じゃあ宮永咲さんは今居ますか?」

咲の所在を尋ねた。

「時の刻みは私に……サキなら東京だよ」

「嘘何で!?」

赤木の悪い癖が伝染しただけです。その後、電車賃無駄になったと嘆いていた彼女だが、「まぁ、それはそれで好都合よね」と呟いた。財布の中を見て東京までの旅費があることを確認にした後、彼女は「お邪魔しました~」と、最後の方は遠慮がちに声を萎めながら扉を閉めた。

このエピソードは彼女達が一番テンションが高い時に起こったので、奇跡的に頭の中にはインプットされていない。まあ、そうでもなければ淡があっさり咲の居所を教える訳がないのだが……まあ、なんでこんなエピソードがわざわざ出てきたかと言うと……所謂フラグである。

 




今でこそ淡咲最高とか言っていますが、私をその道に引きずり込んだ最初のカップリングは憧咲と言うちょーマイナーカプです。咲さんかわいいの初心を忘れないためにも、私はこの組み合わせを大切にしていく所存です。
つまり、後は解るな……?



まあ、憧咲は欲望半分と言うところで、実際はひろゆき的な立ち位置のキャラが欲しくて……淡は欲望オンリーだがな!

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