Q.もし咲が鷲巣巌と邂逅したら?   作:ヤメロイド

19 / 30
明けましておめでとうございます。今月はもうダメだ……!と思っていたのですが、息抜きで書いていたら、何とか聴牌できました。
本当はファフナーを見ていたらなぜか続きを書きたくなったとは口が裂けても言えない……
まあ何はともあれ、一月中に一話だけでも投稿出来て良かったです。



抗え、最期まで

淡が仕事から帰ると、家の灯りはまだついていた。二人で暮らすようになってから半年が過ぎた。

咲と暮らすまでに色々な障害があった。ある時は原田が淡が購入しようと思っていた土地の登記を先に抑えていたり、ある時は原田が各方面に根回ししてアパートを借りれないようにしたり、ある時は原田が咲に「行くな咲ー!」とすがりついてガチ泣きしたり……

「全部ハラダじゃん!!」

大体原田のせいだった。しかし、そんな苦境も乗り越えて二人は一緒になった。

「ただいま、サキー!」

「お帰り、淡ちゃん」

廊下の奥から現れたのは、エプロンを付けた咲だった。咲は少しだけ頬を赤らめながら、新婚さんがよくやるあの質問をする。

「淡ちゃん……ご飯にする?お風呂にする?それとも……」

 

 

ワ・シ・ズ?

 

 

 

「ぴぎゃぁぁああああああ!?」

ガバッと起き上がる。見ると汗だくで、パジャマもびっしょり濡れていた。

「はぁっ……はぁっ……夢?」

最後に見たのは、七十才児のおじいちゃんが迫ってくる……

そこまで思い出して、淡は考えるのを止めた。その時、横で呻き声が聞こえた。

「サキー……」

そう言えば、昨日咲の家に泊まってベッドが一つしかない云々のやりとりをしたのことを思い出した。県大会で書けなかった百合百合なお昼寝タイムはここで回収した筈である。

暫く目を擦った淡は……「ねむ…」と呟くと咲に抱き付いて二度寝した。

淡が見た初夢……鷲巣様。縁起が良いのか悪いのか全然解らない。

 

 

 

衣による起死回生のホウテイ。場は遂に最終局面に突入した。咲の点棒は相変わらずの0。対して、ゆみと衣の点棒は十万オーバー。衣は満貫ツモ、ゆみはツモ和了で勝利である。池田?知らん。

(咲……衣を楽しませてくれたことには感謝する。だが、お前は危険過ぎる。衣の親で朽ちるがいい!)

 

しかし、南一の一本場だが衣の配牌は想像以上に悪かった。波にも押すときと引くときがあり、さっきまでが波に乗れている状態だったのだろう。聴牌出来るのは海底間近。

一方のゆみも、配牌は良いと言えない。

 

11245699m79p1s北北

 

(くっ……)

二シャンテンと言えば聞こえは良いが、鳴いたとしても残るのは悪形。門前で手作りせざるを得ないにも関わらず、よれよれの待ちだった。

(さっさと和了なければならないこの時に……)

しかし、光明もあった。対面に座る池田である。五巡後の池田の捨て牌はこう。

 

北白8s7p中

 

 

飜牌を序盤から切っているあたり、自分よりも池田の手の方が早そうだった。

(そうだ……今一番不味いのは天江が親だということ。親番さえ終わらせてしまえば得点能力は落ちる)

ゆみは面子として確定していた4ワンを落とした。案の定、池田から声が挙がった。

「ロン!3900の一本場だし!」

出費は痛かったものの、とりあえず危険な衣の親番は終わった。ついでに池田の出番も終わった。

「ニャアアアアアア!?」

「ど、どうした!?」

(あまりの点差にネジが飛んだか?)

「あ、あのさ……誰か牌、いじったりしてくれてないよね……?」

いじってない、いじってない。ノーウェイノーウェイ。

しかし後から思えばこの選択、最悪の一言に尽きた。南一とは、衣が親ではあるが同時に咲が動かないでいてくれる最後の局でもあったのだ。明らかにメリットとデメリットが釣り合っていない。

(さて……私も動くかな)

肩慣らしと言わんばかりに背を伸ばす。

(鶴賀のお姉さん……逃げ延びた気になるのはまだ早いよ……一瞬で凍り付かせてあげる)

 

南 二

 

「チー」

三巡目で初めて咲が仕掛けた。一番最初の局で見せた鳴きとは違い、和了る為の鳴き。

 

チー 123m

 

(1ワン鳴きの西切り?)

まだ巡も浅く、咲の捨て牌からは待ちが読めない。

(仕方ない……とりあえずタンヤオに邪魔な一ワンを切ろう)

しかし、

「ロン」

咲が牌を倒した。

「ダブ南のみ」

 

1678m789p南南南

 

「なっ……」

何だその手は!?と思わず叫んでしまいそうになった。なぜなら、咲は鳴くまでもなく既に聴牌していたのだ。鳴く前の手牌がこう。

 

 

123678m789p南南南西

 

この手なら9ワンを引き入れてチャンタを作った方がいい。リーチをかけずとも満貫をクリア出来る。

しかし、咲の目的は打点ではない。徹底して、ゆみからの出和了を狙うことである。

南 三 親 咲

 

「ポン」

三巡目でまた咲が仕掛けた。今度は衣が切った中を鳴く。打 一ワン。

(また早仕掛け……ここなら大丈夫か?)

手牌に三枚ある西を切り出した。しかし、

「ロン」

(ぐ……西単騎)

まるで狙い澄まされたなかのような待ちだが、ゆみは何とか平常心を保とうとする。

(落ち着け……字牌単騎はよくあることだ。いちいちアクションに惑わされるな)

しかし、それはとんでもない思い違いだった。次局も、

「ロン……白のみ」

「ロン……三色」

 

「ロン……タンピンのみ」

咲はノミ手ながらも全ての和了が出和了で、それらは全てゆみからとったものだった。点数の低さから最初はあまり気にしないようにしていたゆみだが、ことここに至り遂に察してしまった。咲の本領を……

「ロン……東ドラ一」

(また……間違いない、こいつ私だけを狙い撃っている……!)

となると降りる一手なのだが、

(二ワンは私から全て見えている。一ワンが当たり牌だとすると地獄の単騎しかないわけだが……)

「そこが出るとはね……」

「ひっ……」

「目が曇ってますよ、加治木さん……それです」

中発ドラ一

「次に行きましょうか」

そう言うと、咲は賽を回した。

(間違いない……清澄の大将…宮永咲……こいつは)

 

 

最悪の出和了麻雀だ!

 

 

『今のところ宮永選手の和了は全てロン和了ですが、これは白糸台の弘世菫選手と似たようなものでしょうか?』

アナウンサーの一見正しそうな見解が流れる。が、即座に否定された。

『精度が違い過ぎる。シャープシューター菫は相手の不要牌を狙って待つが、宮永は相手が降りることすら計算して打っている』

しかし、幾ら咲が神業的なプレイを見せたところで、彼女には越えなければならない関門が多すぎた。

まず第一に、打点が低すぎること。これ自体は普通は問題にならない。和了続けることが出来るなら多少足枷が付くくらいで致命的な弱点にはならない。

第二にトップとの点差がありすぎること。小さな和了を拾い続けて点棒を一万点台まで回復させたとは言え、現在トップの衣との点差は相変わらず十万以上ある。この差は絶望的過ぎた。そして最後に、これが一番致命的な理由なのだが……

今回の大会では、八連荘を認める代わりに親の連荘も八回までしか認めないという謎ルールが加わっていた。これは去年の照を見た偉い人達が「八連荘認める代わりに連荘の上限も設けた方がまだましじゃない?」と、その場のノリで決めたルールである。

もっとも八回も連荘出来る方が稀なので特に気にされることはなかった。しかし、そのルールが今咲に重くのし掛かっていた。

 

……かに見えた。

 

 

(クク……私は別に構わないよ……)

もとより咲はこの面子を相手にそんなに連荘出来るとは考えていなかった。出来て八連荘まで。それを前提に咲は闘う。誰よりも熱い闘志を胸に秘め、相手を罠に嵌める。

今、ゆみは完全に咲の姿を見失っていた。打てば打つほど、咲の麻雀が解らなくなり、同時に魅せられている自分に恐怖していた。

(ば……馬鹿な。私は大将だ。勝たなくては……勝たなくては……!)

そして、遂にゆみは踏み込んではならぬ聖域に踏み込んでしまった。八巡目にして生牌北の暴打という、咲に対して絶対にやってはならない字牌の打ち込み。

「クク…カン……!」

そのとき、初めてゆみは聞いた。咲の本当の声を。神域に踏み込んだ先にいた少女の声を……

「嶺上開花ドラ一……」

「り、リンシャンだと!?」

最早言うまでもないが、嶺上開花は出る確率がとんでもなく低い。まず第一にカンしなければならない上に、和了形を作っておかなければならない。

しかし、咲はその役を息を吸うように和了り、吐くように新ドラを乗っける。

「クク……もろ乗りしましたね。嶺上開花ドラ五。親っ跳ねの責任払いです」

「なっ……ぐっ……」

叫びたいのを堪えながら点棒を渡す。これで咲の点棒は36900。ほんの少し前まで死線を彷徨っていた人物の点棒とは思えない。しかし、そんなことは今誰も気にしていない。

そのことに気付いていないのは、この会場ではマホだけだった。

「凄いです、清澄の宮永さん!私もあんな風に……」

「いやいやいやいや!それどころじゃないから!」

ムロの慌てた声に首を傾げる。

「何でそんなに慌てて……」

「八連荘!八連荘が……!」

そう。咲とていつかは高い役を和了る必要があった。連荘が限られた状況では親の役満か三倍満がどうしても必要なのだが、咲の足は既にそこへ半歩踏み出していた。

 

八連荘

 

この大会ルールでは親になった時点で和了続ける必要があるため、ある意味九蓮宝灯より出る確率が低い役満。

咲が八連荘を狙っているのが解っているので衣も必死に咲を止めようとするのだが、咲は一シャンテンまでたどり着くや否やあっさり鳴いて聴牌してしまう。無論、ゆみや衣も出来るだけ牌は絞っている。しかし……咲がやった麻雀は、そのことすら計算に入っていた。

咲は今まで全ての和了を放棄する代わりに、ある利を得ていた。それは情報。衣達は和了に向かうための闘牌を続け、結果全てをさらけ出した。一方、咲は全て覆い隠した。最終局面にてものを言うのが、相手はどんな打ち手なのかという情報。それが無ければ牌を絞るもくそもない。牌を絞るつもりが、ただ自分の首を絞めるだけの麻雀にすり替わっていた。

咲は相手を見て、期を窺う。そして、その期は唐突に訪れた。

南三の七本場の配牌時、池田が山を崩してしまった。

「うっ……ごめんだし……」

こぼしたのは、リンシャン牌から一枚。北が見えてしまった。

「あ…ああ……」

しかし、ここで助け舟を出したのはゆみだった。

「見えたのは三枚目の嶺上牌だ。チョンボは無しで千点供託でいいんじゃないか?」

山を崩した場合、チョンボや和了放棄などの罰則がある。千点の供託で済ましてくれるなら安いものだった。審判に突っ込まれる前に池田は卓に千点置いてしまった。流石池田ァ!厚かましい。

「よし!続行だし!」

何気なく終わったこの一幕。しかし、このとき見えた北こそが、咲の真価だった。

勝負再開。ゆみの手は相変わらず悪い。萬子への偏りが酷いくせに、処理に困る九ピンのドラドラがあった。

(順当に考えるならここを頭にしての平和だが……そうなると見え隠れする清一の匂いが足枷になる……)

取りあえず牌を整理していくが、思わぬ事態が発生する。

(む……牌が重なるか……)

対子場。そして……

「カン」

咲が遂に動いた。6ソウを四枚晒し、池田に新ドラをめくらせる。カチャッという音を立てて現れたのは……

「5ソウ……だと……!」

つまり咲の手、今見えているだけでもドラ四の大物手。

(くそっ……張ったな。龍門渕の天江が降りだした……)

恐らく聴牌しているのだろう。二巡連続して咲への現物が二枚切り出された。

(私も降りだな……)

ゆみも現物を処理。しかし次巡、咲は新たに引いてきた牌を見るや否や、「リーチ」と二ソウを切り出した。

(っ……!降りだ降り…!リーチドラ四の怪物手に向かっていく馬鹿がいるかっ…!)

しかし、ゆみは苦しい。ゆみの現物の手牌はこう。

 

22225679m7999p4s

 

仮に九ワンが通ったとして、七ピンが処理に困る。八ピンは場に三枚見えているので、その辺りの引っ付きを待つことは現実的ではない。ならば降りの一択しかないのだが、肝心要の現物が切れていた。萬子は下の方は一枚も咲に通っていない。カンをしてリンシャン牌に安牌を求めてもいいが、危険牌を引いてきたときは目も当てられない。ピンズはドラ傍で切れない。ソウズも真ん中の危険そうなところだった。

そして場は回り……

 

ゆみ 手牌

 

2222556m7999p49s

 

ここに来て引いてきたのがドラの9ピンだった。

(くそっ……なんだこの対子場は……!)

流局まであと数巡だと言うのに、安牌が切れていた。手牌全てが危険牌。

(いっそカンしてしまえば楽なのだろうが……)

 

 

その時……ゆみに電流はしる!

 

 

(そうだ!あのリンシャン牌…確か北の筈)

現在北は場に二枚見えている。現状最も安全な牌。ゆみは迷わず牌を倒した。

「カン!」

まずやってきたのが7ピン。咲には危険な牌。しかし、問題ない。

「カン!」

二回目の暗カン。引いてきたのは北。

(開局前、山から零れた一牌が北だったということはこいつも知っている……!)

なら咲が北を待つ筈がない。なぜならそれは一番和了が期待できない牌なのだから……

(よし……凌いだ!)

この一牌さえ通してしまえば私に海底が回ることはない……

そしてゆみは北を切った。

 

 

 

ざわ……ざわ……

 

 

 

「へっ……?」

その時、下家の咲から笑い声が聞こえた。カタリ……と倒される牌。

 

 

 

 

 

「加治木さん……今あなたは堅固な金庫のようなもの……そこから点棒をむしり取るのは生半可なことじゃない……」

最早、何も言うことが出来なかった。ゆみや、衣すらも咲の声に聞き入っていた。

「理では駄目……理では鍵穴の入り口で引っかかる。鍵穴を満たすには別の力を借りるしかない……例えるなら偶然という名の力……」

そして、バラバラ倒される手牌。

 

 

567m123p111s北

 

暗カン 6666

 

 

「偶然そうなるということに無防備……その金庫の鍵穴は…偶によって満たされる……」

咲の手が無造作に裏ドラに伸びる。

「裏、合わせて10か…リーチを加えて三倍満」

「あ……かはっ……」

その時になって、ゆみは呼吸をしていなかったことに気付いた。息を止めるしかなかった。理外の刃。常人の遙か上を行くアカ……咲の理。

 

 

「な、なんということでしょうか……!」

「これは……北を待ったというよりは偶然の機会を待ったというべきか……」

七本場の海底間際、遂に咲の狂気がゆみを貫いた。

(間違いない……清澄の大将宮永……あの男と同じ匂いがする……)

天才の資質。矢木とて、嘗ては裏プロとして凌いだ身だ。去年までランドセルだったアカギの資質を一瞬で見抜く……決して才能が無かった訳ではない。それでも……

(宮永咲……仮に俺がいかさまを使ったとして勝てるのだろうか……?いや、無理だな)

恐らく、トッププロでも勝つのは難しいはず。

そこで矢木は考えるのは止めた。既に八本場に入っていたのだ。皆、なんとか咲が和了るのを阻止しようと必死に鳴いたりして流れを変えようとしていた。

「無駄だな……」

ぼそりと呟く。

「もうここまで来たらあの選手を止めることは不可能……見ろ」

『フフ……ツモ。喰いタンの八本場。つまり、八連荘の八本付けです』

色々妨害してみたが、咲が和了のにそう時間はかからなかった。

これで各校の点数は

 

龍門渕 150200

清澄 126400

鶴賀 86200

風越 37200

 

 

となった。咲は僅か一回の親で、十万点近い点棒を稼いでしまった。大会ルールのためこれで親番は終了となるが、咲は三倍満ツモか衣への跳ね直で逆転である。勝負は、今まで全然、これっぽっちも、米の粒ほども出番が無かった池田の親で決着である。

 

 

ごめんね、池田。

 




白糸台の大将。


発表が遅れて申し訳ありませんでした。件の投票結果の発表です。

投票の結果。15票のうち、
シズ・イン白糸台が四票。
オリキャラが十票。
最強の一年生が一票でした。
泉ちゃんは完全なネタだったのですが……
まぁ、何はともあれアンケート終了です。白糸台にはオリキャラが入ります。詳細な設定などはまだ明かせませんが、ビジュアルは取りあえず……


決めてなかったorz
取りあえず2015の冬アニメで誰か探してみます。ファフナー?

それ誰も生き残れないヤツや……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。