Q.もし咲が鷲巣巌と邂逅したら?   作:ヤメロイド

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前回、「二話くらいでおわってしまう~」とか書いたな。アレは嘘だ。なんか四話くらいになりそうですごめんなさい。


さて、今年最後の更新です。指摘があった17話のミスは明日の午前三時くらいに修正する予定です。皆さん、良いお年を。


鷲巣麻雀いつ終わるのだろうか(大将戦中盤戦)

東京西地区。そこではついさっきまで麻雀予選の大会が開かれていた。いた、というのは、その大会は大将戦を待たずに終了してしまったのだ。優勝校は全国二連覇を賭け息巻く白糸台高校。チームのエース宮永照を筆頭に今年も強力なチームが出来上がっていた。

流石は白糸台高校。三連覇も間近。会場のあちこちからそんな風に嘯く声が聞こえた。しかし、やはり王者。そんな声に浮かれることもなく、兜の緒を締めていた。

「ずみれぇ……!グルジイ!ギブギブ!」

「煩いポンコツ!あれほど試合中にお菓子を喰うなと言ったのに……!」

訂正。兜の緒どころか首の根を締め上げられていた。流石白糸台。やることが一々常識から外れている。

「私がどう考えてもオー・ザックにしか見えない袋を運営に『持病の薬』と説き伏せるのにどれだけの金とコネを使ったと思ってる!?」

白糸台麻雀部後援会にかなりの圧力をかけさせたそうな。因みにこの不祥事、もみ消す為の買収金に麻雀部予算の三分の一が使われた。白糸台麻雀部の予算の三分の一は、現在の価格にして2000000ペリカ以上。カイジ泣き目である。

「全く……次からはちゃんとお菓子の類は置いていけ」

そう言うと、白糸台麻雀部部長の弘世菫は漸く照を解放した。

「ごめん……次からはじゃがりこにする」

「お前はっ……!」

何にも解っちゃいなかった。

「はぁ……まあそれはいい。照、一つ聞きたいことがあるのだが」

解放されたとたんリスのようにお菓子を食べ出した照を尻目に、今テレビで話題になっている人物について聞くことにした。

「照……お前に妹はいるのか?」

その言葉に、照は一瞬喉にお菓子を詰まらせた後、ゆっくり答えた。

「わふぁふぃてぃにいむぅとぅは」

「会話の時くらい食うのを止めたらどうだ」

もうコイツポンコツ確定やん……

「むぐっ……私に妹はいない」

せっかく凛々しい顔で言ったのに全て台無しである。

しかし、そんな顔でも感情を覆い尽くすには充分だった。一切感情を見せない鉄仮面を一瞥した後、菫は

「それは……少し困ったな」

戸惑ったような表情を見せた。

「菫?」

「ああ。済まない。長野県の予選で照に似た一年が大将戦でやっているのだが……」

「長野なら龍門渕が出てくるんじゃないの……?正直、大将戦で天江衣と当たったら私も勝てるか解らない」

去年のMVP選手。所謂、牌に愛された選手として、天江の名は宮永照や神代小蒔と共に知れ渡っていた。

「言うのは何だけど……長野にあの子を止められる選手がいるとは思えない」

それが大方の見方であり、多くのプロの共通見解だった。しかし……

「まあ、そうなんだが……取り敢えずテレビで確認してくれ。ネットではアクセス数が多すぎて回線が繋がらない」

そう言うと、菫はリモコンに手を伸ばした。そして映ったのは、

「咲……」

もう何年も会ったことのない妹と、

「…………へ?」

清澄 0

の文字だった。

 

 

大将戦後半開始!そのアナウンスを「もう一回遊べるどん!どん!」と聞いてしまうあたり、もうダメかもしれない。いや、問題はそういう事ではなくて……

「待て!?なんで前回のあの終わり方でいきなり後半戦が始まるんだ!?」

まずは休憩を!というか休ませろ!という突っ込みがあったが、大体原作通りなので華麗にスルー。何故か池田がカタカタしているが、なに、気にすることはない。今彼女達に重要なのは、目の前の敵である。綺麗な顔に小さな笑みを浮かべる天江衣以上の化け物。宮永咲。事ここに至り、流石にこの会場にいる全員が、誰が一番危険か気付いた。しかし、今彼女達に出来ることは、信じる事だけである。自分の命運を、想いを、仲間に委ねて、一緒に溺死する。その覚悟が求められていた。

『カナ……お願い、勝って……』

『先輩、頑張るっすよ……あんなペチャパイに負けちゃダメっす……』

『衣……ええ、しっかり楽しんでいらっしゃいませ』

『うん……初めて衣が全力を出せる相手なんだ』

『大変だじぇ!部長が息してないじぇ!』

『糞!医者は!医者はまだ来んのか!?』

それぞれの思いを乗せて、今後半戦が始まる……なんか一校だけ救命病棟24時よろしく壮絶なバトルが展開されていたが大丈夫なのだろうか?

「久っ……!頼む目を開けてくれっ…久っ……!」

「いやだじぇ……!こんな形で部長とお別れするなんていやだじぇ!」

「あはっ!サキかっこいいー!」

もう解っていることだが、久が死にかけている間、淡はうっとりしながら頬を赤らめつつ興奮して咲を見ていた。薄情者と思うかも知れないが、淡は「麻雀で人が死ぬわけないじゃん」と言ったきり咲の姿を追っていた。正論なのに怜を見ていると笑えないのはなぜだろう。因みにこの後、他校が自分達の大将を応援するなか、清澄の控え室ではクラナドアフターストーリー第16話的な展開がなされた後、

「まこ……サインペン…あるかしら?」

と、自分の生きる意味に気付いた久がドナーカードに丸をつけるのだが、それはまた別の話。

……というか、咲-Sakey-を今やる必要性が全く無いわけで。

「あ、サキは西家か……行けーサキ!蹂躙だ!」

今はどう足掻いても絶望の大将戦である。

 

 

『さあ大将戦後半です。矢木プロはここまでをどう見ますか?』

なんとも曖昧な質問に、矢木は

『まぁ、流れは間違い無く清澄だな』

と答えた。

『しかし、清澄が大変なのはここからだ。幾ら清澄の大将と言えど半荘一回でこれだけの点差をひっくり返すのは難しい筈だ』

矢木の言うとおり、咲は苦しい。咲が勝つためには鶴賀の二十万近い点棒を削り取り、眠れる天江との決着をつけなければならない。

現在の点棒状況は以下の通りである。

 

鶴賀 197000

龍門渕 149000

風越 54000

清澄 0

 

しかし……

『流局ー!大将戦前半合わせて九回目の流局です!嘗てここまで静かな試合は見たことがありません!』

大将戦後半。風越はともかく、ゆみの方針は変わっていた。

(二位との差は丁度48000……)

この状態が続くなら、いっそ終盤までは咲に合わせた方がいいと判断して、防御に徹した麻雀に切り替えていた。幸い咲は今のところ和了っていない。

(後半戦になってから天江の威圧感も増してきている……今は耐えるしかない)

ところが、圧倒的なオーラを撒き散らす衣は、その表層とは裏腹に内心は荒んでいた。

(清澄の……あれは一体どういう意味なのだ?)

大将戦が始まる直前、衣はつい咲に話しかけてしまった。「一体お前は何がしたいのか」と。

 

 

「衣ちゃん?」

「お前が有象無象の打ち手でないことは解った……で、でも--」

「そんなに不思議かな?私が和了ろうとしないこと」

牌を数枚手の中で弄びながら、咲は衣を見つめた。

「私も原因は解らないけどね……なんだか今日の私達のチーム、流れが歪んでいる感じがするの」

その言葉に衣は首を傾げた。

「流れ?衣が見た限りお前はツキに恵まれていると思うが……」

「う~ん……そうじゃなくてね。私達一人一人の流れじゃなくてチーム全体の流れみたいなもの」

例えばと、咲は淡が打った半荘を持ち出した。

「正直な所を言うとね、私は淡ちゃんがあそこまで失点するなんて思ってなかったんだ。最後、風越のお姉さんに多少噛みつかれるだろうけど二位と五万点くらいは差をつけて帰ってくるって……」

しかし、現実はそうではなかった。清澄は高火力選手の淡と優希を潰されたばかりか、完全安牌のつもりで副将においたまこも普段では考えられないような失点をしてしまった。

「ここまで不運が重なると流石に偶然じゃすまされない」

 

 

私達は……勝てない……流れは変わってしまった……。

 

 

「まっすぐ打ったら……多分、私も最後の最後でとんでもない失敗をする。役満直撃以外逆転不可能とか……そういうの。そうならないためにも、先に地獄を潜ってしまう必要があったんだ」

確かにその説明は一見合理的に見えた。言われてみれば確かに、衣の目から見ても疑いようの無い力を持つ淡が先鋒戦で苦戦すること自体おかしかった。となると、もう全体の流れがあらぬ方に向いているとしか思えないのも確か。しかし、

「だ、だからと言って……なにも自ら点棒を全部吐き出すなんて……そんな不合理……」

衣にしてみれば、わざわざ自分を死地に追いやること自体理解出来なかった。誰かがツモ和了すれば終わってしまう状況……しかし、咲は何が可笑しいのか衣の頭を撫でながら笑った。撫でるな~と言うころたん可愛い。

「別におかしいことじゃないよ。麻雀なんて不合理な遊び……このくらいでいい。あっさり死んでしまうくらいで丁度いいんだ……」

「し、しかし……」

「仮にあの状況でトンでしまうなら、それはそれ……構わない…まるで構わない。それが麻雀の本質…麻雀の快感……不合理に身を任せてこそギャンブル……」

いやギャンブル違うからとはとても言えそうに無かった。元々お年玉争奪戦に参加していたあたりその手の才能も育ってしまったのだろうか。

「私からすれば衣ちゃんの方が理解出来ないよ?」

「こ、衣が?」

「うん……何て言うか……麻雀を楽しんでいるようには見えないんだ」

その言葉に、衣は慌てて首を振った。

「そんなことない!衣は麻雀が好きだ!」

「好きである事と楽しんでいるかは違うよ。衣ちゃん……実は今まで退屈だったんじゃない?」

思わずドキリとして咲を見つめる。

「好きな事を楽しめない……それは自分を全うしないこと……停滞してしまうことと本質的には何も変わらない」

間もなく大将戦後半が始まります。と言うアナウンスが流れた。話はここまでだ、と言うように咲は場決めの牌を捲る。

「これが最後の半荘……私は南2までは和了ないから。それまでに衣ちゃんなりの答えを出してみて」

それがラストチャンスと付け加える。それまでに答えを見つけられなければ……この大将戦、衣ちゃんに勝ちは無い、と。

 

 

(衣が麻雀を楽しんでいない……?有り得ぬ……)

サイコロが回る。配牌はイマイチだが、海底に回すための材料は揃っている。しかし、それも無意味。

(どうすればいいのだ……?今までやってきた衣の打ち方では清澄の大将には勝てない……)

必死に聴牌まで持って行くが、完全にベタ降りなゆみからは点棒がむしれない。流局。全員ノーテン。続く咲が親の局も、流局。流局……気が付けば南場に突入していた。咲が手を出さないでいてくれる最後の局。

(ダメだ……タンヤオ平和の三面待ち……理想的だがこんな待ち、清澄の大将でなくとも一目瞭然……)

八巡目で張ったにも関わらず、衣はその手を和了れずにいた。

(なんとかせねば……なんとか……)

その時だ。

 

 

 

「死ねば助かるのに……」

 

 

 

対面の咲がぼそりと呟いた。

ざわ……ざわ……

 

 

「き、清澄の……?」

「な、なんなんだし……?」

突然の物騒な言葉に、池田や衣はざわつく。

「衣ちゃん……気配が死んでいるよ……」

「気配?」

「勝とうという気迫が見えない……ただ助かろうとしている……怯えているだけの麻雀……」

その鳥肌が立つような冷たい言葉に、唐突に衣は理解してしまった。このままでは攻撃モードの咲には勝てないと。

(い、嫌だ……衣は……)

もう覚悟を決めるしかなかった。この状態を脱するという覚悟。咲の警戒をかいくぐり、鶴賀から和了をとる決意。流局間際だというのに、ここからもう一度手作りをするという暴挙。

(まず、この聴牌を一旦崩す……!)

衣は面子として確定していた8ソウを外した。それをゆみが鳴く。

「チー!」

まず、今の鳴きで張っただろう。咲が聴牌しない以上、これが最後になる可能性もある。

(いい……鶴賀は見ない。今は自分だけ……自分の手だけを見る……)

牌が音を上げて入ってくる。そして

 

 

衣 手牌

 

567m1234567p567s北

 

北切りで1-4-7ピン待ち。高め三色。しかし、流局まで間近。普通ならもしかしたら鶴賀が切るかもしれない三面に賭けて北切りでいいかも知れない。しかし、

「リーチ」

4ピン切りリーチ。待ちは場に二枚見えている地獄の北単騎。当然、観客席からは戸惑いの声が挙がる。

「馬鹿な……流局間際だって言うのに……」「リーチしたっていうことは聴牌確定……この局で和了切れなかったら罰符で清澄が飛んで自動的に鶴賀の勝ちだぞ!?」

しかし、だ。一つ思い出して貰いたい。衣が海底牌を感覚的に知ることが出来ると言うことを。そして、ゆみの手牌は鳴いて手が狭くなった上に衣に対しての危険牌で溢れかえっている。まさか、衣がリーチするとは思えずに聴牌を急いだのが裏目に出た結果だった。そんな折り、ラスヅモで引いてきたのは場に二枚見えている北。衣の捨て牌は途中まで普通のタンピン三面待ちであっただけに、典型的タンピン志向の河が出来上がっていた。躊躇い無く切ってしまう。

「ろっ、ロン!リーチ河底三色ドラドラ!18000!」

 

その和了は場を興奮させ、状況を一変させた。観客席は一瞬波が引いたような静寂に包まれると、次の瞬間、衣の驚異的な和了方にどよめめいた。しかし、一番の変化と言えば、長い息の詰まるような大将戦に突然終わりの兆しが見え始めた。衣は遂に親役満ツモという条件を破ったのだ。これで衣は後一回、親満で文句なく勝利である。

「しっ…しまった……!」

最後の最後で化け物を解き放ってしまい手で顔を覆うゆみ。そんな彼女に、衣は目をくれる事無く自分の和了形に目をやっていた。

(和了れた……和了れたのか……?)

トクンと胸がなる。血が一瞬引いたかと思うと、次の瞬間体中を駆け巡った。

(なんなのだ……この感覚は……初めて。そうか、これが嬉しいという感情……麻雀の快感なのか……)

ククク……という笑い声が対面から聞こえた。見ると咲が嬉しそうに、楽しそうに笑っていた。

「清す……咲!これが麻雀の悦楽なのかっ?」

「うん……少なくとも私はそう信じているよ」

それを聞いて、衣は初めて笑顔を見せた。長い真っ暗な夜が終わり、雲に顔を閉ざしていた月が待ちわびたように見せた笑顔だった。

(衣はもう一人ぼっちではない……だって麻雀を、衣が好きな麻雀を全力楽しめるのだから……!)

 

 

 

嬉しそうにはしゃぐ衣を見ながら、咲は少し目を細めた。

「さて、予定より少し早いけど、そろそろ私も勝ちに行こうかな……」

そう静かに、仲間の仇討ち宣言をした。

 

 

 

番外編・漢達の闘牌

長野ホール。そこでは高校選手権が行われる中、地下ではもう一つの決闘が始まろうとしていた。

「カカカ……裏プロの諸君……よくぞ集まってくれた」

大勢の裏プロが注目する中、昭和の怪物であり彼らを集めた張本人、鷲巣巌の声が響く。

「皆に集まって貰ったのは他でもない……儂等の可愛い孫、咲についてじゃ……本当に可愛い……今でも『おじいちゃん』って呼んでくれる優しくて可愛い咲についてじゃ……」

さっさと話を進めて下さい鷲巣様。鷲巣麻雀とか……

 

 

 

ざわ……ざわ……

 

 

「知っての通り、咲の所属する清澄高校は全国を目指して勝ち上がってきた……そこでじゃ。儂は裏プロを一人、全国大会において咲の麻雀を解説するために推薦する権利を持っている……ここまで言えば解るな?」

咲の名前は裏社会でも広く知られている。鷲巣の孫や、神域の後継者として。早い話が代打ちでもないのに、本人の預かり知らぬところで咲は最強の代打ちの一角として一目置かれていた。おまけに可愛い。

つまり、だ。咲の麻雀を解説するということは、自分の実力に泊をつける意味合いも含んでいる。

まあ、早い話がこういうことだ。

 

 

 

「これより第三次東西戦を開始する!咲の麻雀を直で見たい奴は卓につけえ!」

 

 

一瞬の静寂の後、「うおおおお!咲ちゃん可愛いいいいい!」という裏プロ達の雄叫びが雪崩のように地下一杯に満ちた。

 

 

本編とは全く関係ない所で第三次東西戦まさかの開幕。各地から大量の裏プロを集めたら流れもおかしなことになるし、冷やし透華も出現すると気付いたのは、それから暫くたった後のことだった。

 

 

 

唐突に思い付いた意味のない小ネタ。衣が一日目いなかったのはこういうことかと思って……既出ならごめんなさい。

 

168 名前:××× 投稿日:○○/07/17 10:43 ID:korotan

いよいよ明日が県予選本番ですよ!

むっちゃドキドキしてきた…。

選手の皆さん、今日くらいは練習は休んで明日に備えますよね?

169 名前:××× 投稿日:○○/08/17 10:57 ID:wahaha

>>168

 

ワハハ……

 

今日と明日だよ

来年こそはがんばってよ

シーズン開幕からこんなことになるなんて

 

 

 

衣「……」ブワッ

 




先日、咲のSSを何気なく見ていたら「憧咲」という絶滅危惧のタグを見つけてしまいまして……
ヤメ「目覚めた」
クソ忙しい時期に変なスイッチガガガガガ……一体どうしろと?


ではなくて……
なんかお気に入り登録して下さっている方がありがたいことに、2000人近くまで増えていました。いぇーい。
という訳で年始で何かしたいのですが……以前出来なかったものを一つ……

「最強と天才」を来月投下しましょうか?(コトッ

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