Q.もし咲が鷲巣巌と邂逅したら?   作:ヤメロイド

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やっぱり咲の魔改造は赤木がベースになってしまうのか。鷲巣様は大好き何ですが……


「アンコ……!どこじゃアンコぉ……!ワシのアンコ……どこぉ」
「ああ、俺のイーピンはそこにある」

後者の方が勝てる気がしなくて……いや、前者も相当ですね。


先鋒戦後半(3/16修正)

それは、大会前日のことだった。最後のならしと言いつつ、いつものようにメンバーで打つ淡達。半荘一回やった結果は、咲が一位の優希が二位、三位が淡。まこが跳びといういつもの光景が広がっていた。いつもの?

「ほっとけ」

しかし、と淡が言う。

「本当にサキは強いねー高校三百年生くらいあるんじゃない」

「淡ちゃんは私をどれだけ留年させたいのかな、カナ?」

ひぐらし~じゃなくて。

「それぐらい強いって言うことだよ!ほら通常の三倍で…」

そこまでいったらもう退学させてあげようよ……

「にしても、本当に強いわよね」

後ろで咲の打ち方を見ていた久も溜め息をつく。

「私も結構強い方だと思うけど、咲には敵わないわ」

咲の強さとは、何か理外の所にあるような気がする。確率は勿論、効率、オカルト……そう言う諸々を除いたところに咲の強さがあるような気がしてならなかった。

 

 

「ねえ、サキ。サキが考える強いって何なの?」

 

 

 

前半戦から後半戦への繋ぎ。その合間の、十分間のうちにあった出来事だ。

「ダメだ……とてもじゃないが敵わない」

会場の隅っこにあるトイレ。オーラス、淡のダブリー一発を見せられた睦月の足は、誰もいないトイレに向かっていた。

(失敗が目立ち過ぎた……)

特に東二の三本場の放銃が痛かった。

(三色に目が眩んで手を太らせてしまった……あいつは私の河を見てそのことに気付いて七対子の聴牌を一旦拒否したんだ……)

これが単なる能力持ちか否かの差ならまだいい。しかし、今回は……

「腕の差だ……」

戦う方法は幾らかはあった。放銃を抑える。それだけで、ここまでの失点は無かった筈だ。事実、自分が前に出るのを止めた途端、場が長持ちするようになり、美穂子と純が動けるようになったのだ。

(どうする……あの面子の中では私が一番弱い……)

なら、逃げるか?徹底して降りに徹した麻雀に変えるか……

「いいさ……それで勝てるならっ……!」

そう。勝てるならそれでも構わない……しかし、それだけでは勝てない。何か策が必要だ。何か、淡を出し抜くための一手が……

顔を上げる。そこには、何かを決めた漢女(オトメ)の顔が写っていた。

「よし……やるか!」

 

 

 

 

 

睦月が戻ったのは、試合開始の三分前だった。

「遅れてすみません」

急いで卓に駆け寄る睦月。その顔からは、さっきまでの絶望一色が抜けていた。

(鶴賀が立ち直った……これならもしかしたら)

(いけるかもしれない)

倒すとまではいかなくても淡を、現代の魔物から逃げ切れるかもしれない……

睦月から順に風牌を捲る。東は淡。南が純。西が睦月。北が美穂子という席になった。

(やる……やってやるんだ……必ず点棒を取り返す!)

 

こうして始まった後半戦。ドラは1sで親は美穂子。その配牌は……

 

 

1344799m3p19s東東北

 

(マンズは濃いけど……)

果たして混一に向かって和了れるのか……

逆に、淡の手は動きやすいものだった。三巡目でこの形。

 

 

2356m458p1234s白白

 

(これなら白を頭にしての門前かな……今は点棒はあんまり要らないしね……)

先に誰かが張るようなら、白を回してもいい。手はタンピン向きの融通が効きやすい手だから、これが正解かと思われた。美穂子が動くまでは……

 

五巡目

美穂子、手牌

 

12344799m3p12s東東

 

一応進んではいるが、手牌の急所が引けない。

(点差を考慮して染め手に走ったのは失敗だったかしら……)

見るからに淡の手は早そうだ。このままでは出遅れる。そう思った矢先のことだった。

「へっ!?」

思わず声が漏れてしまった。一見してマンズの染め手に走っている美穂子に対して、睦月が清一混一の鍵となる9ワンを切り出したのだ。

「ぽ、ポン!」

これを鳴き、手のシャンテン数を進める。打 2ソウ。

直後、淡が引いたのは8ワンだった。

(ツモがよれた……流石にまだ張ってないとは思うけど……)

この8ワンは打ちにくかった。

(幸い近くの牌がまだある……くっつくのを待とう)

しかし、淡はここで上家の美穂子に気を取られて、虎視眈々と自分を狙うもう一匹の狼を見逃してしまった。

「チー」

(しまった……!コイツを鳴かせると面倒なんだ……!)

淡の焦燥をよそに純は淡が打った8ピンを鳴き、発を打つ。それを今度は睦月が鳴く。

「ポン!」

この二人の鳴き、実は和了に向かう為のものでは無かった。純の手はバラバラで睦月の有効牌も半分が使われているような形だ。リスクを犯してまで鳴いたその目的は……

(これが今、流れに乗っている清澄のツモ牌……)

 

 

美穂子 手牌

 

 

1234447m3p1s東東

ポン9ワン

 

 

美穂子に好牌を流すことだった。美穂子が引いたのは4ワン。それは淡が引いて手を進める為の急所となる牌だった。

無論、淡はこの一連の鳴きで何があったのかを直ぐに察した。

(喰い取られた……!)

同巡、淡が引いたのは生牌の東。

(これは打てないな……風越は親で染め手をやってる。とすると、鳴き混にダブ東で満貫)

ここは手を回す淡。しかし、次巡……美穂子は出だしで7ワンを打つ。

(まずった……!7ワンを零した以上聴牌は確実……)

 

淡 手牌

 

 

23568m45p1234s白白東

 

(あの捨て牌に白東は打てない……なら!)

淡 打1ソウ

しかし、

「ロン」

 

美穂子

 

123444m東東東1s

ポン999m

 

 

(え、染め手じゃ―-しまったドラ!?)

「ダブ東ドラドラで12000」

 

古典的な引っかけだが、引っかかった時は本当に痛い。思わず、美穂子をマジマジと見てしまう。

(ふーん……少しはやるじゃん)

 

一本場

 

淡 配牌

 

 

1347m2459p46s南北北

 

(あれ……思ったより配牌がいい)

この段階で既に三色が見えている。

(この流れだと、いつもならもう少し配牌が悪くなるんだけど……)

しかし、そんな淡の戸惑いとは裏腹に手は最高の形で聴牌した。

七巡目

淡 聴牌

 

 

34567m22456p456s

 

 

赤は無いものの、ドラ2ピンを頭にしてのタンピン三色。

(リーチツモなら倍満まであるけど……いや、ここはリーチで行ってみよう)

どうせ危険牌をツモってもこの形じゃ逃げられないし……そう誰に言うでもなく言い訳すると、淡はリーチした。そしてその直後

………。

(しまったぁぁぁああああ!)

心の中で大絶叫した。

(リーチしたらそもそも誰も2-5-8の筋は出さないよね!?あーやってしまった……)

和了れる気がしない……

しかし、そんな淡とは関係無く場は進んでいく。同巡、また睦月が動いた。

「チー!」

純が切った一ワンを無く。打北。

(一発消された上に、またツモがズレた……対面の鶴賀、わざとやってる?)

一方、淡のツモ牌がいった純だが……

 

 

1236m13489p347s中

 

 

この手にツモった牌は2ピンだった。

(こいつ……なんて引きしてやがる!三色のカンチャンを一回で引けるなんて……)

しかし、この後の展開はそんな鬼ツモなど吹き飛んでしまうようなツモの連続だった。

五巡後……

純 手牌

 

 

1236m12389p1239s

 

 

(……あれからたった一回の無駄ヅモで聴牌しやがった)

淡のツモが入ってから真っ直ぐ最高目に手が育ち、手牌が純チャン三色にまで育っていた。しかし……

(問題はこいつ何だよな……)

手牌の6ワンを忌々しげに見る。

(多分清澄はマンズで待っていると思うんだよな……)

下手したら三色が絡みそうな淡の捨て牌。

(仕方ない……6ワンは頭で三色にすっか)

そんな弱気な純だが、流石に次のツモを見て表情が消えた。

ツモ 9ソウ

 

(あの……これ、カメラに撮られてるんだよな……)

この場にいない透華の声がはっきり聞こえる。

「逝かなきゃクビ」と。

(はっ!?これ6ワン切りで回せる場面じゃないぞ!?)

6ワン回したら、多分一生「チキン(笑)」と言われ続けるだろう……

(え、なに!?切るの!?切らないと行けないの!?)

早よ切れや

「あっ!?」

まるで誰かが優しく谷底に突き落としたような感じだったと純は後に語る。目に見えない手が「早よ切れや」と純の腕を叩いたような……

そして目立ちたがり屋の誰かが純の決意を代弁するかのように「リーチ」と叫んだような……

「そんなこと一言も言ってねえええ!」

もう目を瞑って耐えるしか無かった。これで振ったら笑えない……しかし、

「と、通ったか……?」

恐る恐る目を開ける純。淡からの声は……無かった。

(勝った……こいつのリーチに競り勝った……)

望外の出来事に気が抜ける純。絶望が去ったら後は希望を迎え入れるだけ……

「……」

「あ、ロンだ」

淡の捨てた牌を一発で出和了った。

「リーチ一発純チャン三色ドラ一」

 

 

 

 

当然ながらその和了は透華達にも見られており、部屋は興奮で包まれた。

「やりましたわ……純がやりましたわ!」

「やっぱり純はやれば出来る子なんだね!」

「あの子鳴いてない……」

「あ……」

それにしてもと透華が慌てて口を開く。

「鶴賀のあの睦月という人、まるで純みたいな麻雀打ってませんか?」

「言われてみれば……」

確かに睦月の鳴きで状況が一変した箇所が幾つかあった。嘘だと思うなら画面をスクロールして確かめて貰っていい。

「それは粗探ししていいっていうこと?」

ごめんやっぱ無しで。

「……。まあ、良いですわ。一応事実ですし」

「やっぱり鳴くと流れが変わるとかそんな話?」

うーんと頭を悩ませる三人。衣はお寝坊さんだからまだ来てない。ま、まだ朝だし、慌てるような時間じゃないし……(震え声)

しかし、もし衣がこの場にいたらこう言うだろう……

「鶴賀の先鋒は流れが見えている訳では無い」

……。

「あれ!?衣いつの間に!」

「地の文と混ざって一瞬解らなかったよ!」

「この下手っぴ……」

三者三様の反応をする透華達だが、衣は気にせずに笑った。

「どういうことですの?今の鳴きはまさしく純とそっくり……」

「鶴賀のは純ほどはっきり流れが見えている訳ではないと思うぞ」

なぜなら、あの鳴きは寧ろ衣がする鳴きに近いのだから。

「衣も勝負の急所になるとたまに見えるが、奴の感覚は恐らくそのときの衣のそれに近い」

「衣の同類だっていうの……?」

ゾッとするような話だが、直ぐに首を横に振った。

「それは無い。何故ならば衣の方が強いからだ!」

さいですか……

「しかし一時的ではあるが、感覚だけは衣と同じ所にあるように思う」

衣のこの予想は当たっていた。今の睦月は、感覚で打っている。

「チー」

(おっ……絶妙な鳴き!)

(また私の牌が……)

さっきから淡の牌が横に喰い流されている。結果、東三からは小さな和了が続く小競り合いが続いている。

「ツモ、1000.2000」

「ロン、7700」

「それだ!5800」

睦月が鳴いて場を攪乱する以上、淡はリーチがし難い。残念ながら、淡には流れを喰い取ることはまだ出来ない。

(嘘……鶴賀のポニテ、前半戦とは別者じゃん!)

今のところ睦月は和了ていないが、放銃もしていない。後半戦での失点は僅か4200。後半戦は寧ろ淡の方が失点している。自由に動けるようになった純と美穂子が淡に挑んでくる以上、失点覚悟で淡も打って出ている。が、美穂子の的確なサポートと睦月と純の鳴きでいつものように動けない。加えて、今回は純と美穂子も淡からのロンに的を絞り打っている。結果、淡は南3の時点で前半の得点を半分溶かしていた。

(別の言い方をすれば「攻めているから半分で済んでいる」とも言えるんだけどね……流石に厳しい……!)

現在は南三。相変わらず敵の包囲網が激しい。

「ポン!」

淡の切った1ピンを純が鳴く。

(混一……いや、こいつは後付け麻雀が主な筈。だったらピンズよりも役牌での直撃に注意……)

一方の美穂子は、典型的なタンピンの河を作っている。しかし……

(それに引っかかって何回か振り込んだ……多分、風牌か筋の単騎……現物以外信用出来ない……)

短時間で相手の狙いを読み切り牌を絞る淡。その読みは正しい。純は役牌シャボの一シャンテンで、美穂子は丁度淡の手から浮き加減の2ソウで張っていた。

(流石に対応が早い……)

(もう振り込みは期待出来ないかしら……)

しかし、彼女達とて楽ではない。点棒的には依然淡の方が上なのだ。

(この点差を利用して突っ走る……幸い、今回あのポニテも大人しい……今のうちに……張る!)

 

淡 聴牌

 

 

56778m234p123s中北北

 

 

(よし……平和聴牌!これで……)

中切りで聴牌。幸い、中は二枚切れで美穂子と純に現物。正に、九死に一生を得るような牌。

(これで逃げ切り……)

だとしたら、それをなんと呼べばいいのだろうか?

 

 

「ロン」

 

 

 

「……へ?」

それは、今まで一切気にしていなかった所から出た。

もし、勝利の女神がいるのだとしたら、それは気まぐれな乙女なのではなく、じっと待った人の所にしか降りてこないのだろう。解説を殆ど地の文に取られ、座っていることがお仕事になった矢木は後にこう語った。

 

 

 

睦月

 

 

444999m888p111s中

 

 

「四暗刻単騎……48000です」

 

 

 

 

役満直撃。その一撃に鶴賀の部屋は沸き立った。

「睦月……よくやった!」

「ワハハ。苔の一年という奴だな」

「わっ……凄いです、睦月ちゃん!」

親の役満直撃。これで点棒状況は一変した。鶴賀はダントツのラスから一気に三位に浮上。逆に清澄はまさかの最下位転落という逆転劇。漫画でももうちょっマシな展開があるだろう展開に興奮が高まる。もうちょっとマシな展開は出来なかったのだろうか……

この言い知れぬ達成感は高まり、画面を通して睦月にも伝わっているようだった。

(やった……ついにやったぞ……!大逆転……!)

睦月は耐えた。耐えて耐えて、和了を省みず他二人のサポートに徹して耐え抜いて、最後の一振りで淡を切り裂いた。

(これが私の覚悟……!)

流石にこの和了には驚いたのか、純も美穂子も口を開けて、黙って見ている。しかし、それもほんの数秒のことで、直ぐに「頑張ったな」という笑みに変わった。

(よし……これで私は役目を果たした……これで……)

繰り返しになるが、幸運の女神は最後まで耐え抜いた人に微笑むのだ。

(えへへ……やった)

繰り返す。『最後まで』耐え抜いた人に微笑むのだ。

「へ?」

「は?」

「え?」

今、第何局だと思う?

「高校100年生の実力を持つ私を前にして集中を解くなんていい度胸してるよね……まだ南四だよ?」

答えられない三人に変わり、淡が答える。

「私ね……少し前にサキに聞いたことがあるんだ。『強いって何なの?』って。サキは教えてくれたよ、『どんな人達に囲まれてもこんなセリフを言える人かな』」

 

 

 

三人で囲めば圧勝出来る……?馬鹿じゃないの?そういう小賢しい所と無関係の所に……強者は存在する……!

 

 

 

 

「ねえ、私は強かった?」

最後の一凪は、淡のツモで幕を閉じた。最後は大好きな少女の、大好きな役で。

 

 

「嶺山開花自模。混一チャンタ小三元」

 

 

三倍満。

 




長らくお待たせしました。体調も回復したので、週一ベースで頑張ります。


現在、長野編を修正(手直し)していますが、分量が多くて以後の手入れに時間がかかるような有り様です。修正の印が入ったものと、それ以降の話は繋がっていないのですが、手直し出来るまではご容赦下さい。

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