Q.もし咲が鷲巣巌と邂逅したら?   作:ヤメロイド

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ドキッ!魔物だらけの県予選。ぐにゃぁ~もあるよ編。
出会い


不幸な事故だった。会場は人のざわめきだけが溢れかえり、卓には異様なオーラを放つ金髪の少女と、所謂レイプ目の少女達が座っていた。

「ありがとうねー」

淡の愉悦に満ちた「ありがとう」にやっと返事が出来たのは、彼女が去ってから五分後のことだった。

千曲東 45800

東福寺 58200

今宮 62400

清澄 233600

 

どうしてこうなったのか、という疑問が生じるが、原因は遡ること一時間前に存在する。

 

 

「取材?」

会場に訪れた淡達を待っていたのは、意外にも雑誌記者達達だった。

「ええ。大星さんはアメリカでとても素晴らしい成績を残していましたので」

それは事実で、その実績があったから淡は白糸台に推薦されたのだ。

(よく覚えてないんだけどな……あの試合。退屈で途中で帰っちゃったし)

いや、帰んな。

そこから清澄の面々、当然咲も無視してシャッターが淡にきられた。咲も無視して……これ重要。

 

 

あわあわ怒りゲージ レベル1

 

 

「……で、大星さんはどのくらいまでいけると思います?長野のレベルは高いですし、大星さんだけではキツいと思われますが?」

大星さんだけ→他は戦略外→咲が戦力外

(キレちゃダメだ……キレちゃダメだ……)

シンジ君風に言うな。セリフも物騒になっているし。

 

 

あわあわ怒りゲージ レベル2

 

 

 

 

原田・鷲巣怒りゲージ レベル5

 

 

……っておい!あんた等が先にキレるな!

「おどれら……!」

「覚悟は出来ておるんじゃろうな……!」

ここから先は大変見苦しいシーンが続いたので、想像だけでお楽しみ下さい。

「クク……アイツ等、まだまだ現役じゃねーか」

付き添いといった感じで付いてきている赤木がおかしそうに二人を見ている。そして、そんな赤木を、咲は疲れたように諫める。

「お願いだから赤木おじちゃんまで暴れないでね。吉岡さんも止めるの大変なんだから……」

因みに他の三に……四人は目を逸らしていた。

(いやいや!咲は本当に気付いてないみたいだけどあの人達絶対堅気じゃないから!)

二日間も一緒にいれば大体そういうことは解るものだ。流石に原田がうっかり落としてしまったドスを大人のおもちゃと言い張るには無理があった。

「あ、あれやアレ!SM用の刀や!」

んなもんねーよ。

さて、会場に突如白服と黒服の混合部隊が突入するハプニングもあったが、何とか死人だけは出ずにインタビューは終わった。

「ふー。サキー、お待たせ」

ひしっと抱きつく淡。赤木、鷲巣、原田の前でこんな事が出来るのは淡くらいなものです。原田の顔がマスクメロンになっているのも、きっと気のせいである。

さてその淡だが、彼女の口から出たのは愚痴だった。

「もー、何なのアイツ等。私以外アウトオブ眼中?ふざけんな皆強いよ!全国とサキ狙ってるよ」

ぷんぷんと怒った顔でさらりと抱負と野望を口にする淡。かわいい。

しかし、改めて見ると身の毛のよだつような顔ぶれである。清澄の面子は総じてレベルが高いが、その中でも二人は頭何個か飛び抜けていた。力の麻雀、大星淡。華やかな麻雀、宮永咲。正面から挑むことだけは絶対にしたくない二人だが、彼女達がいるチームに喧嘩を売るような人物なんて……

 

 

「聞いたー?次の対戦校」

「ああ、東福寺に清澄だっけ?何それ、知らねー」

「そもそもちゃんと麻雀出来る奴居るの?」

 

 

「……おい、大星」

原田の嫌に冷静な声が、周囲で蜷局を巻いた。

「……解ってるよ、ハラダ。幸いな事に私は先鋒だから……最初から全力でいく……!」

そして、物語は敷かれたレールを辿るように最初に移る(意訳 伏線回収ご愁傷様様です、今宮女子)

 

 

結局、清澄の初戦は中堅で幕を閉じた。当然、咲の出番っ……無し!

「お嬢様ー!」

白服、涙っ!咲の初舞台を見るために有給を使ったので、当然涙!

一方、清澄はというと……

「あちゃー」

完全に予定が狂った久は、頭を抱えてうずくまっていた。

(ここまで派手にやったら流石に淡が警戒されちゃうわね……)

久の考えたシナリオは、大将に咲を据えて温存しつつ、中堅の久が暴れて勝ち上がる作戦だった。こうすれば決勝で警戒が薄くなった淡が暴れられて、咲の負担を減らしつつ天江衣の相手をさせられるという考えだった。

「全てパーじゃない!」

この先の事を考えると、初っ端から暗雲立ちこめる勝利だった。

 

 

しかし、そんな勝利も、外から見れば華々しい勝利にしか見えなかった。ロビーに溢れかえるのは、清澄高校の噂ばかりだった。

「おい、見たかよあの試合!」「見た見た!大星淡でしょ!凄かったよね!」「一人で十万点以上稼ぐなんて宮永照みたいじゃね?」「清澄どこまでいくんだろ?」

しかし、この状況を好ましく思わない人物が一人居た。

「き、清澄高校!よくも私達の目立つ邪魔をしてくれましたわね!」

もんぷち透華である。

「誰がもんぷちですの!?」

龍門渕透華である。

「あの大星って奴と相手をするのは俺か……骨が折れそうだ……」

やれやれといった風に井上純が男らしく肩をすくめる。その、あんまり気負っていない態度が意外だったのか、国広一が口を開いた。

「あれ?もうちょっと緊張するものかと思ったけど」

「別にどうってことないぜ。俺の後ろには国広君や衣がいるからな」

それもそうかという具合に、一の顔にも笑顔が戻った。

「ま、一番の問題は衣が朝起きてくるかどうかっていうことなんだよな」

そんな折だった。透華の「清澄!」という声が聞こえたのは。見ると、丁度階段を降りようとしている人影に、話題となっている清澄高校の制服を見た。

「お待ちなさいませ!」という透華の声に、ショートヘアーの少女はゆっくり振り返った。

「はい?」

「なあ、あんた。清澄高校の奴だろ」

純は冷静にその少女を観察する。

(オーラは感じない。至って普通の女子高生っていう感じだ……)

期待外れ感否めないながらも、純は一番の関心事を聞く。

「あんた……名前を聞いていいか?」

「宮永です。宮永咲。淡ちゃんじゃなくて残念でしたか?」

「あ、いや……そういう訳じゃ……」

ニッコリ笑う咲にしどろもどろになる純だが、事実なので否定出来なかった。

「ごめんね。純は初対面の人に少し失礼なところがあるんだ」

一が苦笑しながら、フォローを入れる。その少女は終始笑顔だった。

「いえ、私の方が年下だから構いませんよ」

「あれ、僕達のこと知ってるんだ」

透華の機嫌が少しは良くなるんじゃないかと思って一の声が弾んだ。

「はい。全員一年生ながら去年の全国大会では大暴れ。全国屈指の実力を持ち、王者白糸台の対抗馬としても名高い。知らない訳がありませんよ」

(良し、目立っている)

一自身は目立つのは好きではないが、さっきから清澄のせいで透華の機嫌が悪かったのだ。ここは素直に喜んでおく。

「じゃあ要らないと思うけど自己紹介……」

「大丈夫ですよ。皆さんの名前は知っていますから」

そういうと咲は順番に諳んじ始めた。

「右から順に……井上純さん。沢村智紀さん。あなたが国広一さんで、金髪の方が龍門渕透華さん……天江衣さんはいないみたいですけれど、みんな知っていますよ」

思わず頬が熱くなる。人から誉められるというのも、案外悪くはないと。

「それじゃあ、私はこれで」

そう言うと、彼女は階段を降りていった。後に残った三人は、零れる照れ笑いを堪えていた。

「なんて言うか……意外と柔らかい感じのするヤツだったな……」

「うん。先鋒だけで十万点以上稼ぐなんていうチームの人だからもっと怖いイメージが在ったけど……透華?」

そのとき、一は透華が黙りきっていることに気付いた。

(あれ?ああいう話題なら真っ先に食らいつきそうなものなんだけど)

「どうしたのさ、透華?」と振り返った先に居たのは

「キンキンに冷えてやがる!?」

一発で冷えてしまった龍門渕透華だった。

(え?どういうこと?さっきの子が原因?でも、透華がこんなに一気に冷たくなるなんて前に小鍛治プロとたまたま出会ったときくらい……まさか!?)

ある一つの考えに行き着き、思わず純と智紀の顔を見る。純も、同じ結論に行き着いたのか顔を真っ青にしていた。

「国広君も同じ考えか……智紀はどうおも……智紀?」

しかし、智紀はそれどころじゃないといった風に、ただパソコンを弄っていた。思わず苛ついて怒鳴ってしまう。

「おい!少しは話を--」

「壊れた」

しかし純の怒声を、智紀の絶望に満ちた声が遮った。

「は?」

「ここに来てからパソコンの調子がおかしかったけど……あの子と出会った瞬間に壊れた」「え……ちょ……」

「嘘じゃない。本当」

差し出されたパソコンからはゆっくり黒煙が立ち上っていた。

「う……嘘だろ」

思わず、背中に氷を押し当てられたような感覚を覚える。今まで安全だと思って歩いて来た道が実は地雷源で、気付かないうちに足が既に地雷を踏んでいた。そんな、後から急に襲い掛かる恐怖だった。

もしかして、清澄で一番ヤバいのって……

「宮永咲じゃね?」

そんな純の声は、大将戦を知らせるブザーでかき消えた。

 




咲さんの危険度を上げてみました。一応普段は美少女なので悪しからず。

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