時系列ははっきりいってぐちゃぐちゃです。まあ、咲とコラボの時点でお察し下さいという話で……
主体となる時間。咲-saki-
鷲巣に流れる時間。アカギに登場した時点での鷲巣が参加。
赤木に流れる時間。天に登場した時点での赤木しげるが参加。
愉快な裏プロの皆さん。電導体質の方を除き、適宜対応。
運命の出会い(ただし鷲巣に限る)
それは何年も前のこと、人影が薄い東京のアスファルトを一人とぼとぼ歩く少女がいた。年は多分小学生くらいだと思われる。
その少女の名は宮永咲といい、長野の某所に住んでいる。彼女は数年前に喧嘩別れのように東京に行ってしまった姉、宮永照に会いに来ていた。出来れば仲直りがしたい、そんな希望を抱いて。
結論を先に書くと、咲は姉と会うことは出来なかった。扉越しに聞いた辛辣な言葉は、咲を傷付けるのには充分鋭かった。後は逃げるように、そこから逃げ出した。
「ひぐっ……なんで……」
よほど姉に拒絶されたのが悲しかったのか、咲の目には涙が
「どうしていつも迷子になっちゃうの……」
訂正。見知らぬ土地で迷子になって泣いていた。心配して損した。しかし、彼女が迷い込んだ場所少しまずかった。そこは知る人ぞ知る共生コンサルタントの代表が住む別荘があった。別名、鷲巣邸。そこには老いの恐怖に耐えきれず、化け物とかした老人が--
「ええい、離せ吉岡!」
「なりません、鷲巣様!もうお若くはないのですから!」
「黙らんか!長生きの秘訣は健康な生活にこそあるのじゃ。例え神でも日課のジョギングを妨げる輩は許さん……!」
……狂気にとりつかれた老人が住んでいた。嘘だろ。
鷲巣巌というのは、僅か一世代で巨万の富を築き上げた天才である。若い頃は才能とプライドに溢れ、数々の敵を葬ってきた。しかし、そんな鷲巣も老いの恐怖には勝てなかった。日々衰えていく肉体、消えていく過去の記憶。今や、鷲巣は才能の無い若者を憎むようになっていた。
--なぜ、儂は死ぬ?許せん、許さぬ……!
気付けば、彼は鷲巣麻雀という超高レート麻雀をするようになっていた。もう一歩、あともう一歩踏み違えれば、彼は完全な狂気に取り付かれる。そんな淵に立たされていた。事実、それに近いことは既にやっているのだ。
ジョギングの為に鷲巣邸を出る狂人。そして、何気なく泣きながら歩く少女の前を通り過ぎたときのことだ。
「ここどこ……」
「……ん?」
鷲巣に電流走る。
(なんじゃ、あの小娘は。ただの凡夫だと思ったが、今走った感覚が告げおった……こ奴はバカな若者とは違う。儂と同類だと……)
しかし、次の瞬間鷲巣は苛立ちにかられた。
(馬鹿な……儂は王だぞ!儂の同類など……!)
「おい、そこの小娘」
結果、鷲巣は何かに導かれるように少女に声をかけた。
「ひっ……は、はい」
恐る恐るといった風に振り返る咲。しかし
「ぐふっ……!」
鷲巣に電流走る。
(なんだ、これは……愛らしい……!)
別にナボコフが囁いたわけではないが、鷲巣の脳内に様々な思いが駆け巡った。
(なぜか儂は今まで女と会ったことが無かった……!しかし、もし儂に家族がおって孫がいたら……)
きっとこんな気持ちになれたのだろうか。狂気に走らずに済んだのだろうか……
いつの間にか、鷲巣の顔からは狂気が去っていた。
「この辺りは何かと物騒じゃ……家に来なさい」
そう咲の頭を撫でながら、鷲頭は久しぶりに表情を崩した。
「あ、あの……おじいちゃんは誰なの?」
「儂か?」
本来なら「頭か高い」など気の利いたセリフの一つや二つも浮かんだだろう。だが、
「儂の名前はな、鷲巣巌と言うのじゃ」
「わ、私咲って言います。宮永咲」
すっと鷲巣の目が細まる。
「いい名じゃな。咲く、山の上に花咲くか」
「あ、私の名前……」
鷲巣は小さい咲の手を優しく握ると、歩き出した。咲も黙って歩く。これが、本来宮永咲が通るはずだった道を逸れた瞬間だった。
※
「鷲巣様!良かった、直ぐに戻られて」「ふん、野暮用が出来たのでな」
そう言うと、手をつないだ咲の手を見せた。
「鷲巣様!まさかそのような子供も……!」
「アホ!鷲巣麻雀はせん。道に迷っていたから連れてきただけだ」
この辺りの察はあてにならんからな。そう吐き捨てると、白服に咲が止まるのに必要なモノを買いに行かせた。
「いったいどうされたというのだ?」
「さあ、鷲巣様の考えることは我々では想像もつかないからな。まあ最も、こんな御命令なら楽なものだけどな」
ハハハと笑いながら買い物リストを見る白服。上から下まで見て、品物を見る。
子供用の服。
子供用のパジャマ。
肌に優しい石鹸。
小さめの枕。
その思いの外行き届いた気遣いに流れる涙。
………
……
子供用の下着
ps 下着に触れたら愛の献血。
「どうしろと!?」
鷲巣の闇は深い。
結局白服達が町を駆けずり回って品物を買い揃えたとき、日は暮れかかっていた。
「申し訳ありません、鷲巣様。何分このような品物は不慣れなもので」
「構わん構わん。お陰で面白いものが見れた」
しかし、鷲巣から怒声がとばされる事はなく、好好爺然とした返事が返ってきた。見ると、咲、鷲巣は卓について麻雀をやっていた。それもガラス牌を使っての。一瞬、白服の頭には「ヤメロー!シニタクナーイ!」という絶叫が再生されたが、直ぐに脇に積まれたお菓子の山に気付いた。どうやらお菓子を取り合ってのゲームらしかった。
「ツモじゃ。リーチ一発ドラドラ。満貫じゃからうまい棒160本か」
「桁がおかしいいいい!?」
多分照だったら血抜きとか関係なく死ぬ気で勝ちに来ただろう。しかし、今差し馬を握っているのは咲。そうはいかない。
「あ、ツモです。嶺上開花、300.500」
「嶺上開花か……珍しい役だな」
目聡く鈴木が卓を覗いた。しかし、次の瞬間顔が歪んだ。
(なんだ、この手牌?九萬を鳴いて打六萬?わざわざ門前とタンヤオを消して……)
「それだけでは無いぞ、鈴木。この子は、咲は五回の上がり全てが嶺上開花じゃ」
思わずむせかえる鈴木。しかし鷲巣は至ってご機嫌だった。
「はは、何も驚く事は無い。咲は儂と同じなんじゃ。ならば、これも当然の結果じゃ」
鷲巣は、咲がイカサマをしているという可能性は最初から捨てていた。鷲巣麻雀においてはイカサマの発覚は容易いし、なにより今回に限ってはする必要が無かったからだ。賭けているのはあくまでうまい棒。サマをするほどのことでもない。第一、咲はプラマイゼロなのだ。どちらにしろ、勝つためのイカサマでないなら無視してもいい。最も、鷲巣は咲のプラマイゼロに関しては気になって仕方が無かったが。結局、半荘二回の勝負は引き分けで終わった。鷲巣は一回だけプラマイゼロを阻止して終了。咲は、その差し込みで一位抜け。両者痛み分けで終わった。
夕食後、咲は予約したホテルには戻らず、鷲巣邸に残った。理由は単純で、鷲巣が泊まっていけと言ったからだ。咲自身、誰もいないホテルに一人いるのは寂しかったので素直に頷いた。
※
夕食後、鷲巣は自分の書斎に一人籠もっていた。
「家族麻雀が原因か……」
咲がプラマイゼロの得点調整をするようになった経緯は、夕食のときにそれとなく聞いてみた。聞いてみて、正直呆れてしまった。
「そんな理由であんな芸当が出来るとはな……」
鷲巣と言えど、そこまで完璧な点数調整は不可能だ。確かに咲も人外の者だった。しかし、鷲巣はそれが悔しくてたまらなかった。
(なぜあれほどの才能を持ち合わせながら、バカな若者共にたかられるような打ち方をする……気に喰わん、気に喰わん……!)
本来、鷲巣はこういう男だ。身分というかプライドが高く、思い通りにならない事に関しては非常に短気。だから、鷲巣がこんな考えを持ってしまっても、なんらおかしいことは無かった。
「……吉岡。引っ越すぞ」
「はっ……はあ?左様ですか。行き先は?」
「長野じゃ。そこで麻雀教室を開く。そのように手配しろ」
「よろしいのですか?東京から離れてはもう鷲巣麻雀は……」
彼がこんな遊びをして来れたのは、東京に強い影響を持っていたからだ。長野に行ってしまっては、もう無闇に人は殺せない。しかし、鷲巣は寂しげな表情を浮かべただけだった。
「咲に…………あんなものを見せる訳にはいかんからの」
そこからの鷲巣の行動は異常に早かった。涙ながらに咲を見送った後、東京の別荘を売り払い長野に引っ越し。その際、宮永家周辺の土地を押さえることも忘れない。次に麻雀教室を開くための人員を確保するために動く。
(鈴木も悪くないが、儂と同等の打ち手がいなくては話にならん……ん?そういえば、確か昔、裏プロ市川を破った小僧がいたと聞くな。確か、あか……アカギしげるじゃったか)
そいつも確保と。
こうして長野の某所に小さな麻雀教室が誕生した。その麻雀教室は外装内装共に不気味だったので、入塾希望者は一人しかいなかったという。しかし、鷲巣の描いた理想はほぼ実現した。それは、麻雀を嫌いになってしまったある小さな女の子に、もう一度麻雀の愉しさを思い出させるという夢だった。今では、その少女も一緒に麻雀を楽しんでいる。
……ただ、「ほぼ」と言ったのは、少し理由がある。鷲巣もそうなのだが臨時講師で雇った男があまりに強すぎたこと。鷲巣とその男に対抗するために少女もまた強くなり……結果、神域の領域に片足を突っ込み始めたのだ。
七年後、その少女はその年の麻雀界に一つの歴史を作ることになる。森林限界の先の華、「宮永咲」として……
Q.もし咲が鷲巣と邂逅したら?
A.咲もざわざわ勢に殿堂入りします。
コンセプトは「ぼくのかんがえたさいきょうの宮永咲」という頭の悪い設定となっております。
咲の能力+鷲巣の剛運+アカギの理外のセンス→最強じゃね?
何はともあれお付き合いお願いします。