FAIRY TAIL 波地空の竜   作:ソウソウ

56 / 65
 更新が遅れると言ったな?
 あれは半分嘘だ。これから遅れる予定だ。(予定なら、早くしろよ!!)

 ということで!!
 熱が冷めない内に、試合に蹴りをつけたいと思います。感想カモン!!
 あ、それと………ウェンディ、サンディー、シェリアがアイドルグループを結成するとなったらグループ名は何が良いのだろう?と日々三分ぐらい考えています。もしもの話なんですけどね。
 皆さんのオススメを感想等で教えてとは言ってないからね!!(ツンデレ風)

───では、始め!!


第ac話 小さな拳、大きな心

 試合が開始と同時にウェンディはポツンと一人取り残された。目の前では自分と同じくらいの少女達が意気揚々と魔法を、己の信念をぶつけている。

 それはもう、驚嘆せざるをえないほどの白熱した試合展開へと繋がっていく。

 どちらも一歩も恐れることなく、シェリアは魔法の力で、サンディーは手数によって目の前の相手に勝とうとしている。

 

「はわわ………!!」

 

 特等席とも言える戦場から、余波に巻き込まれないようにしているウェンディは必死に自分の方に飛んできた魔法から逃げていた。

 本来なら、あそこに私も参加しなくちゃいけないのに………と、ウェンディは思っていた。

 けれど、戦いなんてものは正直あまり好きではない。お互いを傷つけあうのは心が痛む。

 

「でも………」

 

 ウェンディは二人の顔を見た。

 彼女達は楽しそうに笑っていた。

 何故そんな過酷な状況の中で笑っていられるのか。ウェンディは不思議で仕方なかった。

 答えはすぐに見つかった。

 

「闘いを楽しむって………傷つけ合うのじゃなくて、競い合うってこと………?」

 

 そんな答えが出た。

 彼女達を見てるとそんな気がした。

 どっちが強いか。そんなことではなく、ただ純粋に真正面から勝負をする。結果が何であれ、互いが正々堂々とぶつかりあうことに意義がある。

 闘いに魔法を使うのは自身の気持ちの表現を形にして表すため。相手にそれを見てもらうため。だから、魔法はいくらでも弱くなり、強くなるのではないのだろうか。

 

「私は………」

 

 ウェンディの顔が下を向く。

 ………分からない。自分の出した結論に確証が持てない。

 なら、今の私はどうだろうかとウェンディは自身を見つめ直す。彼女達みたいに強い魔導士なのだろうか。

 結局………ずっと逃げてばかりなのだ。大抵誰かの背中に隠れて難を逃れてきた。無意識に誰かに救いを求めてしまっていた。

 闘いの意味を見ようともしなかった。

 ………変えたい。変わりたい。

 

 ────今がその時………?

 

 ウェンディの瞳の色が変わる。

 

「………攻撃力強化(アームズ)

 

 優しい光が体を包む。

 ここは戦場。一緒に居てくれる味方はいない。代わりに自分を蝕んでくる敵がいる。

 ───だから、全力で抗うのだ。

 

「………速度上昇(バーニア)

 

 まだ闘いという行為に気持ちの整理は付いていない。だけど………今はそれで良いのかもしれない。

 今はギルドという自分の存在を快く迎え入れてくれる者達の期待に答えれば良いのだ。闘いの楽しみを理解するのは二の次でも構わない。

 後は頼むと、託してくれたエルフマン。妖精の尻尾に大勝利という革新を起こしてくれたエルザ。応援してくれている仲間達。

 そして、何よりウェンディには譲れない目標がある。ここで逃げてはその目標を達成するのは到底不可能だ。

 目標、それは───兄に魔導士としての私は弱くないって認めてもらうこと。兄の隣に立って一緒に次の世界へと歩むこと。

 

「………付加(エンチャト)

 

 ギルドの為。兄に認めてもらう為。

 戦いは好きではないが、その理由がついてくるのであれば────

 

 ────本気でいくしかない。

 

 ウェンディの瞳に決意の灯火が映る。

 

「天竜の………」

 

 息を大きく吸い込む。

 これをしてしまえば、もう後には戻れない。誰かの背中に隠れて怯えるなんてことは出来ない。

 全てを承知の上、ウェンディの覚悟は揺らぐことはなかった。

 

「咆哮ぉぉ!!!!」

 

 ウェンディの口から放たれた白い竜巻。

 

「「───っ!!」」

 

 その竜巻は二人の少女の足を止めるのには十分すぎた。

 シェリアとサンディーは驚いた様子でこちらを見てくる。

 

「私も………入れてください!!」

 

 ウェンディは心の中でこう願う。

 

 ───お兄ちゃん、今の私をちゃんと見ていてね。じゃないと後悔するよ。

 私は………妖精の尻尾の魔導士。この大魔闘演武でお兄ちゃんを倒すギルドの一員なんですから。

 

 天空の滅竜魔導士がいざ空を舞う。

 

 

 

 

 ◇

 

 戦場をまっすぐ風が横切る。

 

「ウェンディ………?」

「びっくりした~」

 

 サンディーは不思議そうな表情。

 シェリアはまだ跳び跳ねた心臓が収まらない。

 

「二人とも私のことを忘れてませんか?」

「「───っ!!」」

 

 ギクリ、となる二人。

 すっかりウェンディも参加していたことは二人の脳内から抜けていた。

 けれど彼女にとってはそっちの方がありがたいのではないのだろうか、と疑問に思ったサンディー。

 

「なんで私とシェリアの決着がつくまで見てなかったの?その方がウェンディは有利になったと思うよ」

 

 共倒れという可能性もあった。

 となると、勝者はウェンディとなり漁夫の利としてギルドに貢献出来るはずなのだ。

 だが、ウェンディはそれをしなかった。

 

「ここに立つということはギルドを背負っているということ。私だって、二人に負けていられないんです」

「いい目をしてるね………その意気だよ」

「うん、そうだね。変な質問をしちゃった。ごめんね、ウェンディ」

「ううん、気にしてないよ」

 

 サンディーは嬉しそうな笑顔になる。

 

『おおっと!!ついに三人同時の戦闘が見られるようですよ!!さらにウェンディたんはシェリアたんと同じ風の魔法の使い手!!今後の展開がどうなることやら!!』

『シェリア………たん?』

『ただスくは“天空魔法”な』

 

 観客達も期待が募る。

 サンディーとシェリアは場所を変更。二人と同じ距離をとれる位置へと動いた。

 

「初めから本気で行きます!!」

 

 ウェンディは大きく息を吸い込む。

 彼女の姿を見たシェリアは納得するような顔になる。

 

「リオンから聞いてたんだ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)にアタシと同じ魔法を使うコがいるって。ホントだったんだね」

 

 シェリアの瞳が鋭くなる。

 

「となると………やっぱり“空気”を食べるんだ。じゃあアタシも………いただきまふぅ」

 

 シェリアも息を吸い込み始める。

 二人の周りに空気の歪みが起こる。

 ポツンと残ったサンディーは何度も目をパチクリさせる。

 

「え!?ずるくない!?私、海水しか食べられないんだけど!?………あ、今のうちに………」

『こ………これはウェンディたん、シェリアたん、何をしているのでしょう。サンディーたんも呆然としているようです。ん?………気のせいか酸素が少し薄くなった気がします』

 

 サンディーは密かに動きだす。

 ウェンディとシェリアの行動の意図が全く読めない観客達からしてみれは、この空白の時間は長い。

 と、ウェンディが体力、魔力を全快にして準備万全な状態になる。両手を大きく広げて構えた。

 そして、信じがたいことを口にする。

 

「滅竜奥義!!」

 

 

 ───妖精の尻尾、応援席───

 

「ウェンディが奥義だと?」

「すごいんだよ!!」

「勝ったわね」

 

 勝利を確信したハッピーとシャルル。

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

「もう覚えていたのか………」

「あれ?ソウは知らなかったの?」

「あぁ………初めて見る」

 

 ソウも驚かざるをえない。

 これで少しは自分の強さを認めてくれるはずだというウェンディの作戦は見事に成功した。

 隣のジュンがソウへと戦場のある異変について尋ねる。

 

「気づいてるか、ソウ」

「………あれか?霧がゆっくりと発生していることか?」

「まぁな。これをしているってことはサンディーの奴もやるみたいだぜ」

「何を?」

「まぁ、見てたら分かるぞ」

 

 ジュンの表情は彼女に対する信用が高いことを示していた。

 

 

 ───戦場───

 

「っ!!」

 

 シェリアを囲むように出現したのは風の壁だ。吹き荒れるようにして包むそれにシェリアは逃げ場を失う。

 

「風の結界!?」

「ありゃ、閉じ込められちゃったね」

 

 シェリアの背中に現れたのは同じようにウェンディの魔法によって閉じ込められたサンディーだ。

 

「サンディーは余裕そうだね」

「そう言うシェリアこそ」

「アタシは頑丈だからだよ」

 

 その瞬間、一部が歪む。

 

「来た!!」

 

 シェリアがそう叫んだ瞬間、巨大な嵐の矛が襲いかかってきた。

 

「照破・天空穿!!」

 

 ウェンディから放たれた渾身の一撃はシェリアとサンディーを軽々と吹き飛ばした。

 身を投げ出された二人は抵抗することなく地面へと倒れ伏す。

 

『シェリア、サンディー、ダウーーン!!』

 

 マトー君によるダウン宣言が会場一帯に響き渡る。

 二人同時にノックダウンによる劇的な逆転勝利となろうとしていた。

 

「はぁ………はぁ………」

 

 魔力を全部振り絞っての一撃。

 体は一気に疲労感に襲われ、この体勢を維持するだけで限界だ。

 もう片方の滅竜奥義はまだ未習得のウェンディにとって、これで蹴りが付いて欲しいと心の中で願う。

 ───だが、彼女の願いはあっさりと壊れる。

 

「あぅ~ゴメンね!!ちょっと待って、まだまだこれからだからっ!!」

 

 凛とした声が聞こえる。

 ウェンディが声の主の方へと顔をあげるとそこには目を疑う光景があった。

 

「ふぅー、すごいねウェンディ!!」

 

 目立つキズが一切なく、満面の笑顔で堂々と立っているシェリアの姿がそこにあった。

 

 

 ───妖精の尻尾A、選手待機席───

 

「なんだ………あいつ」

「見て、キズが回復してる」

 

 ルーシィの指摘通りシェリアのキズが跡形なく消えているのだ。

 と、隣のギルドの待機席にいるリオンが口を挟んできた。

 

「天空の滅神魔法はウェンディができなかった自己回復ができる。悪いが勝ち目はないと思え」

 

 不敵な笑みを浮かべたリオンがそんな説明を口にする。

 

「なんという少女だ」

「リオンめ………こんな隠し玉を」

 

 エルザは慄いたように呟いた。

 グレイはリオンに対して忌々しげに舌打ちをする。

 

「思い切りやれと言ったのにな」

「まだ全然本気だしてねぇな、あいつ」

「どんだけ強ェんだよ!!」

「流石は私の従妹ですわ!!」

 

 ウェンディは完全に劣勢となる。

 だが、まだ希望はある。

 

「一先ずサンディーを倒せたのは良かったと言えるんじゃない?」

「あぁ、取り敢えずポイントはゲットだな」

 

 サンディーは起き上がる気配がない。

 エルザは真剣な顔となる。

 

「これでサンディーが脱落すれば良いのだが………何かある」

 

 

 ───戦場───

 

「嘘………」

「大丈夫?降参しても良いんだよ?」

「まだいけます………!!」

「降参しないの………かな?」

 

 シェリアは困った。

 ウェンディは大技の疲労が大きいようだ。

 

「アタシ………戦うのは嫌いじゃないけど、勝敗の見えてる一方的な暴力は愛がないと思うの」

「………」

「降参してもいいよ。ね?」

「………できません」

 

 きっぱりと拒絶したウェンディ。

 妖精の尻尾の仲間と蛇姫の鱗のメンバーが驚く。

 

「私はもう逃げないって決めたんです」

「どうして?」

「認めてもらいからです。いっつも彼の背中に隠れてばかりで、守ってもらってばかりで………迷惑ばっかかけてました」

「うん」

「でも!!もう私は決めたんです!!守ってもらうんじゃなくて、これ以上迷惑をかけるんじゃなくて、私自身が一緒に隣を歩いていきたいって。彼と同じ景色を一緒に見てみたいんです。だから、私は逃げません。最後まで諦めずに勝利をもぎ取りに行きます!!」

「分かった………あなたの覚悟は無駄にしない」

 

 シェリアは彼女の覚悟を裏切ることはしない。全力をもって、彼女を倒すことを決めた。

 

「………サンディーは倒しました。後はあなただけです」

「残念だけど、それは違うかな」

「え?」

 

 シェリアの意味深な発言にウェンディは思わず声を漏らしてしまった。

 ───と、ここでサンディーの安否を確認しにいっていたマトー君が声をあげた。

 

「これは偽者カポ!!魔法によって作られた水だカポ!!」

 

 ウェンディは目を見張る。

 その瞬間、サンディーだった物は水の塊と変化したかと思えば形を崩してじめんへと浸透していった。

 

「そんな!!じゃあサンディーはどこに!?」

「───ここだよ」

「っ!!」

 

 ウェンディの背後にサンディーはいた。

 咄嗟にウェンディはその場を飛び退き、彼女から距離をとる。

 

「シェリアにはバレちゃってたみたいだね」

「うん。だって、あんな余裕な態度を見せつけるんだから。それに一度間近で見たからね」

「これ、結構疲れるんだよね~」

「そんな………サンディーまで………」

「ウェンディは魔法を当てることに意識しすぎて私の水分身の存在を忘れていたみたいだね」

「………迂闊でした」

「ウェンディがそうなるのも仕方ないよ。サンディーに聞きたいことがあるんだけど良い?」

「ん?何かな?」

「さっきまでの()はサンディーが起こしたものでしょ?」

 

 ウェンディははっきりと今気付いた。

 試合序盤と比べて、先程まで霧が発生していたのか、視界が徐々に悪くなってきていたのだ。

 だが、ウェンディの魔法によって一掃されており視界がある程度晴れている。密かに感じていた違和感の正体はこれなのだ。

 

「うん、正解だよ。視界が悪いから分身を出しても気付かれないんだよ」

 

 サンディーはニヤリと笑う。

 

「でも、他にもうひとつあるんだ~」

 

 ウェンディは感じた。

 サンディーの魔力の質が上がっているのだ。この上昇の仕方はまさに先程の自分と同じ。

 つまりは───

 

「ウェンディ、さっき言ったよね。それが嘘じゃないんだったら私やシェリアだって全力で相手をするよ。私だって敗北という恥ずかしい姿は見せられないからね!!」

「サンディーまで使うの!?」

「ごめんね、シェリア。二人とも頑張って避けてね、期待してるよ」

「そんな………サンディーも私と同じように………」

 

 サンディーのオーラが変化。

 彼女の両腕に、これまで以上の水が取り囲む。

 大きく両手をつきだし、宣言。

 

「行くよ!!滅竜奥義!!」

 

 

 ───妖精の尻尾A、選手待機席───

 

「やはり、ウェンディの魔法は避けていたか」

「しかもさっき、滅竜奥義って………」

「さっきので魔力が一気に減ったウェンディには危険だな」

「いけいけ、負けんじゃねぇぞーー!!」

 

 ルーシィは不安そうに見つめる。

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

「練習の成果が出たみたいだね」

「そうね。随分と練習してたから、それなりに気合いが入ってるんじゃない?」

「空回りしないと良いんだけどね」

 

 アールとルーズは彼女が余計な失敗をしないようにと願っていた。

 

 

 ───戦場───

 

「あれは………」

 

 サンディーの腕に徐々に水が集結。

 その水はやがて鋭い牙を持つ水龍へと変貌をとげた。

 

「双竜・海尾拳剏!!」

 

 と、サンディーが二体の水龍を投下。

 その内の一体がウェンディの方へと接近してくる。

 ウェンディは冷静に回避行動へと移るが、龍はそう簡単に諦めてくれない。

 

「っ!!」

 

 水龍が急な進路変更を通して、ウェンディの後を追い掛けてきたのだ。慌てて逃げるように戦場を駆け巡る。

 だが、ウェンディの走るスピードよりも水龍の移動速度の方が早い。

 

「がはっ…………!!」

 

 数秒後、水龍の大きな口へと呑まれた。

 そして、水龍の体中で待っていたのは目が回るほどの激しい螺旋状の渦巻きだった。

 サンディーはターゲットを変更。

 

「よし、後はシェリア!!」

「アタシは捕まらない!!」

 

 水龍はしつように追いかける。

 シェリアは風を利用して逃げる。

 サンディーは必死に操作して彼女を捉えようとするも、規則性のない彼女の動きに惑わされなかなか定まらない。

 

「あっ!!」

 

 刹那、サンディーが失態を犯した。

 シェリアの静かな誘導によって二体の水龍が正面衝突をしてしまったのだ。

 バシャン、と辺りに水飛沫を散らす。

 

「あぁぁぁ~」

 

 水龍は一度動きを止めると、形を維持できなくなる性質を持つ。常に動かす必要があるのだ。

 その為、シェリアを捕まえることなくサンディーの魔法の効力は消滅。

 

「ごほっ………ごほっ………」

 

 水浸しになったウェンディ。軽く咳をしている。それでも彼女は立ち上がる。

 ウェンディはへろへろな状態になっても、笑顔を忘れない。

 

「塩辛いですね………」

「あはは!!私のとっておきを受けて、立ってられるってちょっとショック!!」

「私だって負けてられませんから」

「もっとこの魔法は実戦形式で練習すべきだったね」

 

 サンディーは笑顔で反省。

 そこにシェリアの不吉な笑みが割り込む。

 

「でも、サンディー。その前にアタシの大技にも付き合ってもらうからね」

「うん、バッチコイ!!」

「全力の気持ちには全力で答える!!それが愛!!」

 

 シェリアが構えた。

 

「滅神奥義!!」

 

 

 ───蛇姫の鱗、選手待機席───

 

「よせ!!シェリア!!」

「それはいかん!!」

「相手を殺すつもりか!?バカタレ!?」

 

 仲間からの決死の呼び掛け。

 だが、それでもシェリアが中断する選択を選ぶことはなかった。

 彼女のあの魔法は危険なのだ。

 

 

 ───戦場───

 

 シェリアの魔力が一気に膨れ上がる。

 あまりのすごさに、ウェンディとサンディーは気圧されそうになるものの警戒心を強めて身構える。

 

天ノ叢雲(あまのむらくも)!!」

 

 まるで黒い翼の集合体が、牙を向く。

 それらは途中で分裂したかと思えば、片方はサンディーへと。もう片方はウェンディへと向かう。

 

「っ!!」

 

 だが、シェリアに誤算が発生。

 ウェンディへと放った一撃が軌道を逸れたのだ。

 お陰で彼女の頭上を見事に通過。ウェンディは無傷となった。

 

「避けた!?」

 

 シェリアはもしもの場合を危惧する。

 だが、軌道が上へと変わったことが吉と出る。サンディーはジャンプして避けようとしていたのだ。

 よって、サンディーへは命中。

 

「きゃあああ!!!」

 

 彼女の悲鳴が上がる。

 

 

 ───妖精の尻尾B、選手待機席───

 

「シェリアの魔法は自己回復ができるようだけど、それは“傷”の回復。“体力”の回復はできないみたいね」

「えぇ………」

 

 

 ───妖精の尻尾、応援席───

 

「逆にウェンディの魔法は自己回復はできないけど、相手の“体力”を回復できる」

「なるほど………って、え?」

「ってことは………相手の体力を回復させた?」

 

 シャルルの呟きにハッピーとロメオが驚愕。

 

 

 ───妖精の尻尾A、選手待機席───

 

 隣のリオンから驚きの声が聞こえる。

 

「そのせいで、シェリアの魔法に勢いがつきすぎた!」

「外させた………!? 敵の体力を増加させる事で!?」

 

 全員がウェンディの咄嗟の対応に度肝を抜かれた。

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

「自分を回復できるシェリアに対して、相手を回復出来るウェンディ。その特性を上手く活用したみたいだね」

「そうね。ある意味賭けに等しいけど………そうなったのは仕方ないわね」

「ソウはどう思ったの?」

「どうって?」

「今のウェンディの奇策についてだよ」

 

 ソウの目が少し泳ぐ。

 アールは何を言わせたいつもりなのだろうか。既にソウがウェンディに対して思っていることは知っているであろうに。

 どうにかして、話をそらす。

 

「それよりも、サンディーの心配はしなくて良いのか?」

 

 シェリアの奥義を半分とはいえ、まともに直撃しているのだ。

 

「心配いらないと思うよ。彼女の魔法にはまだ奥の手が存在するからね」

「奥の手?」

「あぁ。分かりやすくいえばこうだ」

 

 ジュンはきっぱりと告げた。

 

「サンディーの持つ魔法は“深海魔法”。あの二人と違い、体力と傷の回復さらに魔力の回復、その他諸々を行うオールラウンダー。さらに回復させるのにサンディー自身とか相手とか関係ない。あそこの二人の利点のみを重ね合わせた魔法だ」

 

 

 ───戦場───

 

「なんて戦法!?凄いよ、ウェンディ!!」

 

 シェリアはたまらず興奮する。

 彼女はある意味、シェリアの期待をあらゆる方法で上回ってくる。

 それがシェリアの闘争心を駆り立てていた。

 ───と、倒れていたサンディーが動き始める。

 

「………っしょと」

「サンディーもまだ立ち上がるとは、凄いよ」

「サ、サンディー………それは?」

 

 ウェンディはたまらず声を上げる。

 ボロボロなまま立ち上がるサンディーの体に謎の物体が纏わっていたのだ。

 それは神秘的な模様のベール。

 軽く砂を払う仕草をしてから、サンディーは笑顔で説明した。

 

「んとね。分かりやすく言えば、これが人間のもつ本来の治癒能力を刺激して、二人と同じように体力や魔力が回復出来るんようにするんだよ。でも、回復量は圧倒的に二人よりは劣るけどね………塵も積もれば山となるかな。因みにシェリアの魔法を受けた時には防御力を上げるベールを付けていたよ」

 

 ウェンディはいつの間にか彼女の神秘的な姿に見とれていた。

 ウェンディの場合、相手の体力回復。

 シェリアの場合、自己回復。

 サンディーの場合だと自然回復なのだ。

 

「その姿………もしかして、サンディーは深海のお姫様?」

「あ、それも私に勝ったら教えてあげるに追加しておいて」

「了解だよ」

 

 静寂が襲う。

 

「「「…………」」」

 

 そして───瞬く間に衝突。

 三人の少女が全力を持って、敵を喰いにかかる。

 

『これはすごい展開になってきた!!全員一歩も引かず!!ぶつかり合う小さな拳!!その執念はギルドの為か!?』

 

 凄まじい気迫で小さな拳をぶつけ合う3人の少女たち。次第に観客席の人々は魅了され、あっという間にのまれていった。

 

「天竜の砕牙!!」

「天神の北風!!」

「海竜の鉤爪!!」

 

 サンディーがウェンディに一発攻撃を当てたかと思えば、シェリアがサンディーへと追撃。さらにはウェンディがシェリアを吹き飛ばすという試合展開が高速で繰り広げられている。

 

「はぁぁーー!!」

「やぁぁーー!!」

「とぉぉーー!!」

 

 止められない。

 彼女達の小さな拳に秘められた大きな心。

 彼女達のみでしか決着は付かない。

 

「ていやぁ!!」

「まだまだぁ!!」

「今ですっ!!」

 

 刻々と時間が過ぎて、彼女達に疲労の様子が見える。それでも瞳の色だけは変わることはなかった。

 

 やがて───

 

『ここで時間切れ!!』

 

 試合終了の合図が鳴り響く。

 最後まで決着は付かなかった。

 

『試合終了!!この勝負、引き分けドロー!!』

 

 三人全員が5ポイントをそれぞれ獲得。

 観客からは鳴り止むことのない拍手が惜しみ無く送られる。

 

「痛かった?」

 

 一気に疲れが押し寄せる。

 息を整えながらも、シェリアはウェンディに優しく話しかける。

 

「それ………ばっかりですね」

「楽しかったね」

 

 すると突然、二人の体を優しい光を放つベールが包んだ。

 これはサンディーの魔法だ。

 

「サンディー、これは?」

「私からのプレゼントだよ、シェリア───友達の証としてのね」

「え………?」

 

 キョトンとした彼女にサンディーは手を差し出す。

 シェリアは迷いなく彼女の手を握り締めた。

 

「よろしくね、サンディー」

「うん。こちらこそ、シェリア」

「二人とも良かったですね」

「ん?なに言ってるの?ウェンディ」

「そうだよ」

「え?あ、キズが………」

 

 呆然としているウェンディにシェリアがキズを回復させた。

 

「友達になろ!!ウェンディ」

「は………はい………私なんかでよければ……」

「違うよ!!そこは友達同士の返事!!」

 

 サンディーの葛が入る。

 

「友達になろっ!!───ウェンディ」

「うん!!シェリア!!」

 

 ウェンディはシェリアと握手を交わす。

 今、ここに新たな友情が誕生した。

 

『なんと感動的なラスト!!オジサン的にはこれで大会終了ーーーーっ!!』

『これこれ………3日目終了じゃ』

『みなさん、ありがとうございました』

 ───大魔闘演武三日目、全競技終了。

 

 

続く────────────────────────────




裏設定:深海魔法

 天空魔法と並び立つ魔法の一つ。
 相手の魔力や体力を回復させることも可能であるが、ウェンディやシェリアよりも効率はいささか悪い。
 その代わりに一定時間、効果を持続させる“ベール”を纏わせることで回復しながら動き回ることが出来る。ベールには種類があり、それによって効能が変化する。
 今のサンディーには一つのベールだけで限界だが、彼女に魔法を教えたドラゴンから、サンディーは三つ同時使用出来る逸材だと言われている。


 アンケート募集、続行中!!【ここ重要】

 今のところ、竜王祭編が最有力候補となってますがまだまだアンケートは引き続き募集してますのでバシバシと協力お願いします!!

オリジナルの敵キャラってあり?(無しの場合だと、原作に出てきた敵キャラのいずれかを主人公が奪い倒す形となる予定)

  • あり
  • なし
  • ありよりのなし
  • なしよりのあり
  • どっちでも

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。