でも、タイトルから察するに2話に分けてしまいましたね……(´д`|||)
色々と書いていると、長くなりそうだったのでこのような決断に至ったのですが………最後までお付きあいください。
───では、よいお年を!!
『おぉっ~と!!今回は竜虎対決となったぁ~!!』
会場一体に響き渡るアナウンス。観客がより一層熱気を放ち、盛り上がりを見せていた。
その少し前にユキノは同じチームの仲間と言葉を交わしていた。
「どっちが勝つと思う?」
「ユキノさんに決まってるでしょ!! 何でそんな事もわからないんだよフロッシュは!!」
「フローもそーおもう」
「誰かさんのおかげで競技パートでの点数……とれなかったからなァ」
「クス」
こちらを見て笑われたことにスティングは不機嫌となる。
「ケッ」
「いいえ………スティング様は不運だっただけ。乗り物の上での競技だと存じていれば………」
「んな事はいーよ。お前がこのチームにいるって意味……わかるよな」
「はい。剣咬の虎の名に恥じない戦いをし、必ずや勝利するという事です」
ユキノの決意は固い。
───三首の竜、選手待機席───
対する、ソウも同じように舞台に上がる前に仲間から色々と言われていた。
「ソウ、頑張ってね」
「頑張ってこいよ」
「………負けたら承知しないわ」
「はは………覚えとく………」
「ウェンディにもソウがこのギルドにいるってのはもうバレバレなんだから、カッコいいとこ見せつけてね」
サンディーの助言に彼は仲間に背を向けて、ただ手を振ってこたえるだけだった。
───そうか。たまには兄としての威厳も見せつけないといけないのかもな。
ソウの気合いも十分である。
───戦場───
『両者出揃いました!!』
地表に降り立つ二人の魔導士。
───蒼色のマントに身を隠し、緊張感なしで場を構えている少年。
───水色のショーとボブヘアーに、薔薇の髪飾りが印象的な少女。
少年少女の名は“ソウ”と“ユキノ”。
『両者とも初参戦。ソウ選手の強さは未知数。だが、今回のダークホース、三首の竜のリーダーでもあるのでその実力には期待したい所です。対するユキノ選手はあの最強ギルド、剣咬の虎に所属しているのでこちらにも期待が寄せられます』
簡潔なアナウンスが流れる。徐々に会場一体にはピリピリとした緊張感が生まれ、人々の心境が高ぶっていく。
───妖精の尻尾A、選手待機席───
「剣咬の虎………」
「よく見ておくんだ。私たちが越えるべきギルドを」
「ああ」
「お兄ちゃん………」
妖精の尻尾にとっては必ず超えなければならないチームである剣咬の虎と三首の竜の戦い。その実力を改めて確認する為に、彼らはこれから始まる試合を緊張した思惑で凝視する。
そして───聞き出すのだ。ソウの隠している事実を。
ウェンディにとっては兄の見逃せない大事な勇姿でもあった。今の彼の背中はウェンディにとっては逞しく見えた。
『それでは試合開始ぃぃい!!』
幕を下ろした本日の最終試合。固唾を飲んで二人の勝負の経緯を誰もが黙って目撃しようしていた。
───激戦の開始だ。
───戦場───
「………」
開口一番に先手を仕掛けようとしていたソウだったが、相手の様子や態度から感じる雰囲気から試合開始合図の銅鑼の音が響くと同時にその方法は止めた。
どうやらユキノと言う少女はソウとの会話を望んでいるようだ。彼も素直に応じる。
「よろしくお願いいたします」
「あぁ………こちらこそね」
律儀に挨拶をしてきたユキノに、ソウも丁寧に応じた。
ユキノはさらに話を続ける。
「あの……始める前に私たちも『賭け』というものをしませんか」
「賭け………ねぇ。あんまりそういうのは好きじゃないんだよ」
「敗北が恐ろしいからですか?」
彼女は挑発をしてきている。
ソウはあえてそれに乗った。
「別にそんなことを言ってる訳じゃない。そんな軽々しく自分の物を相手にみすみすと差し出すのは俺の性分ではないんでね」
「では重たくいたしましょう」
賭けは遠慮願いたいと言ったソウに対し、ユキノはとんでもないことを言い出した。
「
たったの一試合に自分の今後の運命を賭けると、呆気なく告げたユキノの姿に会場は唖然とした。
………分かってるのだろうか。
腕に相当の自信があり、必ず勝てる余裕からの発言なのか。ただ、彼女の大口を叩いているつもりなのか。ソウは慎重に見定める。
ソウは彼女をジッと見据えると、問いかけた。
「自分の言っている意味は分かってるだろうな?」
「はい、勿論」
「そうか」
ユキノの即答にソウは苦笑いを浮かべた。
彼女の覚悟は相当。彼女はこの試合に全てを何もかも注ぎ込むように自分との試合に挑むつもりでいる。ソウはそう感じた。
だったら………こちらも逃げる訳にはいかなかった。妹の前で恥を晒すのも理由の一つだが、本気の相手に本気で答えないとは失礼に値する。
ソウはポケットに突っ込んでいた両手を外へと出すと、拳を前へと高々とつき出す。
「面白い。俺は君の提案した賭けを承諾するよ」
「ありがとうございます」
「ただしだ───」
ソウは拳を下ろし、代わりに笑みを浮かべる。
それに呼応するかのように、会場がグラリと揺れたかのような錯覚を会場にいた全員が覚えた。
『地震でしょうか?………そんなことより、こ…これはちょっと…大変な事に……』
『う~む』
『COOL……じゃないよコレーーー!!』
観客席、実況席でも混乱が発生していた。誰も予想できない事態だ。
一体何を言うつもりなのか、彼を見つめるユキノ。ソウははっきりと言った。
「君のそこまで賭ける覚悟をしっかりと証明することだ。俺も中途半端な覚悟では本気になることは出来ないからな。それでも構わんと言うのなら───」
ソウは一区切り置くと───続けた。
「かかってこい。いざ、尋常に───」
会場内がごくりと息を飲む。
ソウはローブをバサリと大きく広げた。
「
───三首の竜、選手待機席───
サンディーは疑問を口に出す。
「ねぇ、ソウはあっさり受けたけど良いの?」
「貴方がさっき彼にカッコいい所を見せなさいって言ったからでしょ」
「え!?嘘ぉ!?」
ルーズに指摘されてサンディーは飛び退く。実際はそうではないのだが、純粋な性格のサンディーは疑うことを知らずに信じこんでしまった。
だが、ジュンとアールは別に彼が賭けを受けたことを何とも思っていないのか、こんなことを口に出した。
「別に良いんじゃないのか?ソウは負けねぇ、絶対にだ」
「うん。僕もそう思うよ」
心配………いや、今後の展開を楽しそうにソワソワしている二人は呑気なものであった。
もう少し緊張感をもってほしい。そんなことを思い、ルーズはため息をついた。
───戦場───
ソウはユキノの実力を見極めてから、攻撃を仕掛けることにした。
彼は内心、とても興奮していた。あそこまできっぱりと言い放ったユキノに対して、自分をどこまで追い詰めるのか。ましてや、どうやって自分を倒してくるのか期待していたからだ。
「
彼女は自身の服の懐を探ると、あるものを取り出してそれを突き立てて握る。
───鍵だ。
一見、よく見る変鉄もない鍵だが、ソウにはその代物には見覚えがあった。
「へぇ………」
彼は面白そうにユキノを見守る。
「開け“双魚宮”の扉、“ピスケス”!!」
彼女の目の前に魔方陣が出現。そこから飛び出てくるように姿を現したのは二体の長い体を持つ魚のような生き物。
一体は白で、もう一体は黒。
ただその大きさはソウが見上げるほどの巨体を誇っており、そこらにいる並大抵の魚とは比べならないほどだ。牙も鋭く尖っており、ソウぐらいはあっさりと飲み込めそうな程の口を開いている。
その二体の魚の正体は星霊。証拠はあの彼女が先程手にしていた鍵だ。
精霊を呼び出すアイテムでもあり、さらにこの魚の星霊を呼び出す際に使用したのは金色の鍵。王道十二門の鍵。
どれもが強力な力を所持しているとされている世界にたったの十二本しかない鍵。彼女はその稀少な星霊を呼び出したのだ。
───ユキノは星霊魔導士。
なるほど、とソウは納得する。彼女があそこまで大口を叩けるのもその今となっては珍しいとされる星霊魔導士だからだろうか。さらに言えば王道十二門の星霊とも契約をしている。それも勝利の自信に繋がっているのだ。
───妖精の尻尾A、選手待機席───
「星霊魔導士!?」
ルーシィはもう一人の同じ魔法使いの担い手に驚愕していた。何度も目を擦り、確かめるがあの巨体な二体の魚は確かに星霊だ。
───妖精の尻尾、応援席────
「魚ぁ!!」
ハッピーは一人興奮していた。理由は目の前に大好物が突如として出現したためである。
じゅるり、と食欲を注がれたハッピーは涎を垂らす。隣のシャルルは怪訝そうに横目で見ていた。
───戦場───
巨体を見せびらかすように二対の星霊はくねくねと体をうねらせる。
ソウはそれを無関心そうに傍観していた。ただ、彼が自然と向こうを見上げる感じになってしまっているのは悔やめない。
「行って、ピスケス」
ユキノの指揮が出ると同時にピスケスは彼へと猛烈な牙を向けて襲い掛かる。巨大ならまだしも二体居るために彼へと伝わる威圧感は倍増となっている。
ソウは足を折り曲げ、指先を地面へと触れる。続けざまに魔法陣が彼の足元を取り囲むように出現した。
───次の瞬間、彼が失踪。
彼の居た場所に残されたのは、砂埃と地面に入った亀裂のみ。ピスケスはあまりの事態に彼を見失う。
「ピスケス、上」
キョロキョロと辺りを見回していたピスケスにユキノは指示を出す。
そこには消えたはずのソウが遥か上空を跳んでいた。彼は苦笑いを浮かべている。
「やっぱ、すぐにバレるよな」
離れた場所から見ていたユキノにとってはソウの動きを追うことは簡単ではないと言え、不可能と言うほどではない。
衝撃による跳躍はあくまで最高速度に達する時間が極端に短く、その瞬間を近辺で目撃をすれば、まるで瞬間移動となるがユキノのように遠方からなると移動距離があまり大きくないためにすぐに発見される。が、そこまでに拘るほどの本来の用途とは違っているので、あくまで騙すだけにしか過ぎない。
『おおっーと!!ソウ選手がいつの間にか空に!!だが、空中だと身動きがとれません!!ピンチに追い込まれたか!!』
ユキノはチャンスだと感じた。
人が宙に放り出されば身動きが取れず、確実にこちらの攻撃は相手に命中するからだ。
ユキノの思考に呼応するかのようにピスケスが猛速度でぐるぐると渦巻きを描くように昇ってくると、彼へと突進をかました。
『え………今、何が………起こったのでしょうか………?』
刹那、会場一体は目を疑った。
「その攻撃は目が回りそうだな」
ソウは巨体をさらりと避けたのだ。驚くことに軽口を叩きながら。
観客が目を見張ったのは、彼の動きが逸脱していたからだ。
まるで、宙を土台に跳躍したかのように見えたのだ。事実、彼が先ほどまで居た空間から、今彼がいる場所は分かりにくいとは言え確実にずれている。
───つまり、彼は
普通ならピスケスの突進にまともに正面から激突するのが相場のはずなのだが、彼が選んだのは回避という有り得ない選択肢だった。
『ままま、まさかの!!避けたぁ~!!一体ソウ選手はどうやっているのでしょうか!?』
ユキノも意表を突かれたのか、少し驚きの表情へと移り変わる。
「そんなに騒ぐほどでもないだろ………」
再び彼は宙を蹴ると、身軽な動きで地面へと着地をする。それだけで会場が盛り上がりを見せていることに、彼の反応は冷たくなっていた。
───『波動式十三番』宙間歩行。
足裏に魔力を集中、衝撃を内部から外へと放つことで推進力を得ることで変幻自在に動くことが出来る。これは地表では勿論、宙に浮かんだ状態でも可能である。
言わば、彼に足場など不要となる存在なのだ。
「おっ!懲りないな」
あっさりと攻撃を避けられたことが、癪にでも触れてしまったのかピスケスの追撃が続く。
一体が彼の頭上からの突進。後ろへとジャンプしてそれを避けるソウ。
───が、ピスケスの片方は自慢の魚の肉体を利用して方向転換をして突進を再開した。
ソウは感嘆の声を上げる。
「スピード勝負ってか?面白い」
白のピスケスが彼をしつこく追い回す。
彼も負けじと宙間歩行を駆使して、逃げ回る。
しばらくして、彼は気付く。
───誘導しているのか………?
途中から、ピスケスの動きにちょっとした違和感を感じた。まるで、何処かへと導こうと道を塞いでいるような感覚だ。
ソウは宙を止まることなく動き回りながら、考える。
そして───勝負を仕掛ける───のではなく、向こうから仕掛けて貰うことにした。
「───っ!来るか!」
空中で、白のピスケスの突進を紙一重で避ける。そこに彼の背後から重いプレッシャー感を放ちながら、黒のピスケスが迫ってきていた。
さらに白のピスケスも長い巨躯を曲げて、ソウの頭上へと位置とる。
黒のピスケスはソウに襲い掛かると思われたが、別の行動をとった。
「おー、そう来るか」
ソウを取り囲むようにしてぐるぐると囲んだのだ。これで、彼が抜け出すのには上と下からのみになる。
確実に敵の逃げ場をなくし、味方が有利になるように誘導する。
この場合、ソウの選択肢は二つ。
頭上から宙間歩行で突破するか、もしくは足元から同じようにするか。
前者はともかく、後者をソウは選べなかった。足裏から衝撃を発しているために下へ移動するとなると、頭を地表に向けないといけないからだ。あえて彼をこの状況に追い込んでいるピスケスを操るユキノが宙間歩行の短所を気付いたのだろう。
となると、残された選択肢を実行しようとするのだが───
「やっぱ、そう来るよな」
唯一の突破口である天辺からは白のピスケスが猛突進を仕掛けており、彼の視界に写ったのは徐々に迫り狂う巨体の魚だ。
完全に抜け道を失った彼は、そんな窮地に立たされながらもある行動をとる。
───笑ったのだ。
囲いの外からは見えないので、誰も気づくことはなかった。ユキノもだ。
やがて、急下降してきたピスケスがソウの目前まで迫ってくる。
刹那───衝突。
ようやく、彼の身体に攻撃が命中した。
ピスケスは勢いを緩めることなく、どんどんと地面へ垂直に降りていく。
囲いから脱け出したことで、観客からも彼の姿がピスケスの口元の先で確認出来た。
ピスケスを止めようと両腕を伸ばしてはいるものの、ピスケスの突進に力勝負で負けているために急接近で彼の背中と地面の間の距離が狭まる。
そして────
『ああっーーとっ!!ソウ選手が地面へと叩きつけられてしまったのかぁ!?』
会場からはソウとピスケスにより発生した戦場を覆うほどの砂埃で状況が目視出来ない。
しばらくして、砂煙がゆっくりと晴れると戦場が露となる。
『ななな、なんと!?ソウ選手!!受け止めています!!』
そこにはひび割れた地面に両足を踏み締めてピスケスを押し返そうとしているソウの姿があった。
ピキッ、と地面に亀裂がどんどん入り深くなっていく。
「俺に触れない方が賢明だと思うが」
そのまま均衡状態が形成されるかと思いきや、数秒もせずに戦況が変わった。
ピスケスの巨体が浮かんでいるかのように動きを止めた。
かと、視えたのは一瞬。気がついた時には、既に白のピスケスは───吹き飛ばされていた。
彼が行ったのは単なる衝撃波を両手から起こしただけにすぎない。ピスケスが吹き飛ばされる程度に威力の調節はしてある。
「よし、やってみるか」
飛ばされる白のピスケスを見上げながら、横目でユキノの様子を探る。ここからでは彼女の表情を伺うことは難しく、さらに感情をあまり露にしない彼女から心境を探ることは出来ないがそれでもピスケスの攻撃が通用しないことに、内心少しでも焦りを感じてはいるだろう。
ソウは片手を広げ、彼女の方へと向けると掌から青の球体を形成した。
それは衝撃の塊───波動がぎっしりと詰められている。
───『波動式二番』波動弾。
ソウの十八番の魔法。使い勝手が良く、多用している。
彼はその波動弾をユキノに向けて放つ。
ユキノはその場を動かない。
波動弾は真っ直ぐ彼女へと一直線に飛んでいくが、彼女は避ける素振りすら見せない。
───否、避ける必要がないのだ。
ユキノに当たる直前に入り込んだ巨大な影によって波動弾は弾かれた。
黒のピスケスだ。
星霊が主人を守るのは当たり前。そうでないと、星霊が顕現できるのも主人の魔力によって出てきているから出来なくなるからだ。
逆に言えば、その主人は星霊魔導士の短所とも言える。身を守る術が普通の魔導士に比べれば些か劣る。その為、ルーシィも短所を少しでも補うために鞭を所持したりして、対策をしている。
ソウは思考を巡らせた。
このままでは、一方的に時間が過ぎていくだけで状況は変わらない。それは向こうも同じだが、ユキノは星霊を操っているだけに対してこちらは空中をあちこち駆け巡っているので魔力や体力の消費が最後まで持つか怪しくなってくる。
彼はボソッと呟く。
「やっぱり、
続く───────────────────────────
裏設定:波動壁
ソウの“反撃防御”と呼ばれる魔法であり、周りに気を巡らせている時に常に発動している。ギルド内や味方には影響しないように制御するため、実際には発動していないことが多い。
戦闘の際には大抵解除している。理由は波動壁を発動しながら他の魔法を発動するとなると通常の数倍は余分に魔力を消費してしまうためだ。
オリジナルの敵キャラってあり?(無しの場合だと、原作に出てきた敵キャラのいずれかを主人公が奪い倒す形となる予定)
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あり
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なし
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ありよりのなし
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なしよりのあり
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どっちでも