───予選、スタート~!!
スティングとローグは相当の自信を持ち合わせているみたいだった。
一体どこからそんな自信が涌き出ているのかアールには気になるところだった。
「私が説明しましょう」
名乗りを上げたのはレクターと呼ばれた猫だった。
「ナツ君などはドラゴンから滅竜魔法を授かった、いわゆる第一世代と言われています」
そんなことは初耳のアールとルーズ。
「お宅らのラクサス君やオラシオンセイスのコブラ君は竜のラクリマを体に埋め込み滅竜魔法を使う第二世代」
今度、ソウに聞いてみようと心に決めたアール。
「そして、スティング君とローグ君はあなたのように本物のドラゴンを親に持ちつつ、竜のラクリマを体に埋めたハイブリッドな第三世代!」
「第三世代!?」
ナツが復唱した。
「僕たちはどれだろう?」
「第一世代なんじゃない」
竜のラクリマなんて体に埋め込んでいないので、必然的にそうなる。だが、それと強さの秘訣とは関係ないような気がする。
「つまり、最強のドラゴンスレイヤー!」
「最強のドラゴンスレイヤーだと………」
「第一世代と第三世代とではその実力は雲泥の差。お話にもなりませんよ」
「お前達も777年にドラゴンが居なくなったのか?」
因みにアールとルーズの親のドラゴンはナツの言った年にいなくなっている。
「まあ、ある意味では」
「はっきり言ってやる」
ローグは一端、区切りを付けると続けた。
「俺達に滅竜魔法を教えたドラゴンは自らの手で始末した。真のドラゴンスレイヤーとなるために」
「ドラゴンを始末した………!?」
「人間がドラゴンを………!?」
「親を…殺したのか!!」
それは嘘のような言葉だった。
ドラゴンを殺すのは勿論、親を殺したとなるとどんな心境で手を下したのだろうか。
「そんなことはあり得るの?アール」
「う~ん………見た感じ、あの二人の実力では難しいと思うけどね。言っていることが事実なら、ドラゴンが無抵抗で殺された、むしくは病気か何かで瀕死に近かったのかもしれないのかな?」
ルーズは何も言わず頷いた。
すると、ナツが鼻を嗅ぐように動かして辺りを見回し始めた。
「ルーズ、行くよ」
「分かったわ」
二人はその場を離れた。ナツに匂いで気づかれそうになったからだ。
「ナツ、どうしたの?」
「なんか、また別のドラゴンの匂いがしたような気がしたんだが………」
「別のドラゴンスレイヤーがいるって言うの?」
「分かんねぇ………」
今のは気のせいだったとナツは気を引き締めるのだった。
◇
時刻は11時35分。
トライの宿には、ソウと観光を楽しんできたジュンとサンディーがいた。
「ヤッホーーー!」
そんなことを叫びながらサンディーはベッドの一つにダイブした。
それを苦笑しながら見ているソウとジュン。
「元気だな」
「あいつに体力の底はあるのか、本気で悩んだほどだ」
そんな他愛もない会話している二人。サンディーはベッドの上でゴロゴロ回転している。そして、落ちた。
「いたぁ!」
「何やってんだよ………」
いい加減に大人しくして欲しいとジュンは願っていた。
ソウは明後日の方向を向いていた。
「どうした、ソウ?調子でも悪いのか」
「いや………なんか、悪い予感がして」
窓から外の景色を眺めながら答えた。
その時、アールとルーズが宿に戻ってきた。
時刻は11時50分。
「戻ってきたよ」
「おう、楽しんできたか?」
笑顔で肯定するアール。と、ルーズが何かに気付いたのか顔をしかめた。
「もしかして、部屋は同じなの………」
「悪いが、我慢してくれ」
「いいじゃん!皆と一緒で楽しいよね~!」
なんとも暢気なサンディーにルーズはため息を付いた。
どうにか、納得してもらえたようだ。
「だけど、何で夜の12時には宿に居らんといけないんだ?」
「さあ?主催者からの命令だからね」
「もしかしたら、その時間に何かが始まるのかも」
「その可能性はあり得るわね」
「後、5分だな」
時計は11時55分を指していた。外も暗闇が包み、静かになっている。
「何をするんだろう?」
「取り敢えず今年は参加チームが多くなっているから一気に絞ってくるだろうな」
「なんで、分かるんだ?」
「今年から同じギルドから二つのチームまで出れるようになったんだ」
「なるほど、だったらライバルも多くなるんだね」
「三人に勝てる魔導士っているのかな?」
「私は見たことがないわ」
サンディーとルーズは変な目線を浴びせてきた。まるで三人が悪いように見える。
「そういえば、レモンはどこ行ったんだ?」
「レモンちゃんなら、僕とルーズが途中で見かけたよ」
「師匠と一緒に行動するって言ってたわ」
「まあ、一人で応援するのも寂しいだろうしな」
「あ、もう12時になるよ!」
サンディーが時計を指差した。
長針がゆっくり動いていきやがて、12の数字を通り過ぎた。
すると、突如何処からか鐘の音が広がり、ソウ達の耳にはいる。
サンディーは首を傾げた。
「鐘?」
「どうやら、外にモニターが映り出されたみたいだね」
ソウ達は、ベランダへと移動した。そこには空中に巨大なモニターが映り出されており、モニターにはカボチャのようでマスコット的な人物がいた。
『大魔闘演武に集まりの皆さーん、おはようございまーす』
「モニターってより立体映像みたいだな」
「いや、立体映像だから」
ジュンの呟きにソウが突っ込んだ。
カボチャはなんとも陽気なしゃべり方で話を進めていく。
『これより~参加チーム114を9つに絞るための予選を開始しま~す』
「参加チーム多い!」
「サンディー………さっき、ソウが言ってたでしょ………」
「てへっ、そうだったね」
『毎年~、参加ギルドが増えて~内容が薄くなっている~との指摘を頂き~今年は本選を9チームで行うことにしました~』
予選をするとなれば、事前に通達でもしておれば良いものをわざわざ、いきなり始めるとは主催者側は何が目的なんだろうか。
それに夜の12時に指定したのも予選を始めるためなのだろうか。
というより、カボチャは躍りながら言うなよ。
『予選は簡単』
「ソウの仕業か?」
「ん?俺は何もしてないが?」
次の瞬間、宿が揺れた。
何事かと思っているとどんどんと自分達の視線が高くなっていく。
地震ではない。宿本体が変形して上昇しているのだ。ジュンはこの揺れをソウの魔法によるせいだと勘違いしたのだ。
「わーわー」
「何、楽しんでんのよ」
はしゃいでいるサンディーに呆れているルーズ。そんな彼女も落ち着きすぎではないかと思う。
他の宿も同じように変形して上昇している。
『これから皆さんには競走してもらいます。ゴールは会場ドムス・フラウン。先着9チームの本選出場となります』
ソウ達の目の前に道がどんどん現れていく。空中に浮かび上がるように道が出来ていく。
「道だ」
「ジュン、見たら分かるよ」
次の瞬間、サンディーの一言でジュンは四つん這いになってしまった。
「そうだよな………誰だって分かるよな……」
「なんか、テンション低いな」
「いつものことじゃない」
「そうなのか?」
「まあね」とアールは答えた。ジュンは後先考えずに物事を進めていくから、こんなことがよくあると言う。
『魔法は自由。制限時間はありません。先着9チームのみ予選突破となります。ただし、5人全員で揃ってゴールしないと失格~』
「そりゃ、そうだろうな。ってジュンとアール、どうしたんだ?」
「少し酔い気味だって~」
サンディーが代わりに答えた。ソウは顔をしかめた。
時間差で来るものなのか、それ。
あぁ………だから、さっきからジュンはテンションが低くなってきていたのか。アールは限界までポーカーフェイスをしていたらしい。
「ホント、頼りないわね」
ルーズの一言に酔っている二人は肩をびくっ!と震わせた。
『ただし~、迷宮で命を落としても責任は取りませーんので、悪しからず』
迷宮とはあれのことだろうか。
空中に浮かんでいる巨大な球状の物体。道もあれに向かって出来ているみたいで、予選会場はどうやらあそこみたいだ。
『大魔闘演武予選“スカイラビリンス”開始ーー!!』
「ほら、行くよ二人とも」
どうにか、酔いから冷めた二人はなんとか、迷宮のほうへと走っていく。
ソウとルーズも後を付いていき、迷宮の中へと入っていった。
“空中迷宮”通称“スカイラビリンス”
目的は参加チーム114を本選に出場する9チームまで一気に絞ることにある。
ルールは簡単。宿から予選会場を抜けて本選会場のドムス・フラウン。そこに先に着いた、いわゆる先着順で順位が決まると言うわけだ。
なお、迷宮の突破にあたって魔法の使用は自由。制限はなし。ただし、最後に迷宮内で命を落としても大魔闘演武委員会では責任を取らないらしい。
「ほほぉ~………」
迷宮へと入るなりソウ達を待ち構えていたのは迷路だった。それも立体的な迷路。とても入り乱れており一目ではどの道がどうなっているのか検討が付かなかった。
「さて、どう行こうか」
「取り敢えず進もうぜ」
「ジュンとアールは平気なの?」
「うん、何ともないよ。そういう魔法が組み込まれているみたい」
『説明しましょう!予選では乗り物酔い、高所恐怖症の方も公平に競えるようにスカイラビリンス全体に魔法を施してあるのです』
いきなり、モニターが出現して、中のカボチャもどきが説明し始めた。説明が終わると消えてしまった。
「……どうでも良かったな。さて、早く行かないと師匠に顔向け出来ないから行こう」
「でも、どの道を行くのよ」
ルーズの言うとおり、どの道を行けば良いか、分からない。よく見回すと天地がひっくり返っているように道が天井みたいになっている箇所もある。
あそこはどう歩けばいいのか、分からない。
「魔法の使用は自由だったな。だったら………」
「ソウの魔法で迷路を把握するんだね」
ソウは意識を集中させ、波動を発生。辺り一体に広がっていく。
波の反射である程度の地理を把握してゴールに近い道を選んで進んでいく作戦だ。
───見つけた。
「よし、大体は理解できた」
「後はその通りに進めばいいんだな!」
「なんだ、楽勝じゃない」
「なぁ、アール。皆を空中に浮かすことは出来るか」
「足場のあるところまでだったらワープみたいな移動をすることは可能だよ」
「充分だ。あそこまで頼めるか」
「了解、皆行くよ!」
ソウの波動とアールの空間移動によってトライはどんどん進んでいく。
順調に進んでいっているとアールの魔法で転移した先に見知らぬギルドがいた。
その内の一人が紙切れを片手に握っている。どうやら、こいつらは地図を書いて迷わないようにしているみたいだ。
「ねぇ、私がやってもいいかしら?」
ルーズが名乗りを上げた。特に反論することも無かったので任せることにした。
ルーズは魔法を発動すると砂を何処からか発生させた。
砂はルーズのつきだした右腕を伝って手のひら辺りに集まっていく。
それはやがて巨大な槍に変貌して右手で掴む。そして、見知らぬギルドの5人へと投合した。
「砂竜の巨槍!」
着弾点で砂が巻きほこる。
砂煙の勢いに巻き込まれて、うわぁーーと悲鳴を上げながら落ちていった5人。
何もしていないのに、あっという間に落ちていった。
トライのギルドと遭遇したのが運のつきと結論付けて次に進むことにした。
「次はあそこだな」
「分かった、あそこ───」
「ちょっと待ってくれ」
「どうしたの?ジュン」
ジュンが何か異変に気づいたようで、ワープを止めた。ソウとアールもこういう所ではジュンの勘は侮れないことは知っているので大人しく従う。
「回転するぞ」
ジュンが意味深な台詞を言った。
すると何か警報音に近い高音が鳴り響いたかと思うと、足場が揺れた。
そして、徐々に足場が傾いてきたのだ。
「足場が傾いて………いや、迷宮が回転しているのか」
ソウは咄嗟にてを伸ばして適当なところを掴んだ。他の皆も同じようにしたが、サンディーだけがそうはいかなかった。
「落ちるぅ~」
バランスを崩して落ちそうになるサンディー。
ここで、サンディーが失格になったら予選を突破することが出来なくなる。
「地道竜の巨腕!」
動いたのはジュンだった。
手をサンディーに伸ばすが後少しというところで届かない。なので、岩を体から発生させ、腕に纏うことでサンディーを掴む。
どうにか、ギリギリなところで掴んだジュンはサンディーを自分の胸元に引き寄せてサンディーを抱えた。
いきなりのことでサンディーは動転して顔を赤くしていた。
「あ……ありがとう……」
「お前がいなくなると困るからな」
ジュンのその一言により、サンディーは恥ずかしくなったのか、顔を隠した。
ジュンは大魔闘演武の本選に出場するために必要という意味で言ったのだが、サンディーは間違って別の意味受け止めてしまったみたいだった。
迷宮の回転が終わり、安定したの所でトライの皆は同じ足場に足をつけた。
「さて、次行きますか」
「そうだね、早く行かないと」
「あんた達は呑気よね………」
この二人は何事もなかったかのように続けようとしていた。ルーズはため息をついた。
「今度あったら……落ちてみようかしら……」
何か不気味なことを考えていたルーズだった。
◇
順調に迷宮を進んでいき、あっという間に次のステージとも言える場所へと着い
た。
が、そこは迷宮の中ではあり得ない光景だった。
そこは無人の古びれた町の中だったからだ。さらに上を見上げると青空が見える。今は真夜中なので見えるはずはないのだが。
「さて、場違いな場所へと着いたけど合ってるのかな、ソウ?」
「後は真っ直ぐ進むはずだけだが───ちょっとまて、誰かが来た」
ソウが指差した方とは逆───つまり、遅れて別のギルドの奴等が来た。
フェアリーテイルだったら危ないと内心焦りながらも確認すると、まったく違うギルドだったので一安心する。
後ろにいたのは男だけというむさ苦しい集団だった。
「誰がやる?」
「俺が行こうか?」
「いや、私が行く!」
先程の失態を挽回したいのだろうか、サンディーのやる気は万全だった。
「俺たちは」
「「「「「ワイルド………」」」」」
「海竜の爆水柱!」
何か自己紹介でもするつもりだったみたいだが、足下に水が出現して、やがてそれは巨大な水柱となり、真上に打ち上げた。
「フォー」と言いながら、飛んでいく様を見てなんという心掛けなのだろうかとソウは感心していた。
「あいつら、今何て言ったんだ?」
「分からん。それよりさっさと行こう」
どうでも良かったので今はゴールを目指すことにした。
途中で海みたいなのが広がっていくおり、道が浮き出ている構造になっていた場所があった。
その道の先には派手にゴールと書かれた看板の着いた扉があった。
ソウ達はゴール前に来た。
「ソウ・エンペルタント
ジュン・ガルトルク
アール・ケルニア
サンディー・サーフルト
ルーズ・ターメリット」
出てきたのはあのカボチャだった。
あのモニターに映し出されていた通りのカボチャが出てきて内心ビックリしていたソウ。
一人一人の名前を言っていくカボチャ。確認でもしているのだろう。
「おめでとうございま~す。予選通過決定で~す!」
「因みに俺らは何位なんだ?」
「なんと二位です!初参加のギルドでは凄いことですよ!」
「二位だって~」
「そんなに早く行ったかな?」
「まあ、順調過ぎるほどだったしな」
主にソウとアールの魔法のお陰だが、肝心の二人はあまり実感がないようだ。
「なんとも呑気なチームですね………」
カボチャが第一印象を呟いた。
聞こえないように言ったつもりだろうが、ルーズだけには聞こえていた。
「少しは緊張感もってほしいわ………」
想像してみたが、特にこの三人が緊張感を持っているなど有り得なかった。
ソウはいつもの余裕たっぷりの態度。
ジュンは後先考えないので、まずそんなことは感じない。
アールは笑顔を浮かべているだけ。
はぁ……とルーズはため息をついた。
◇
時は少し遡り、ハッピーとリサーナはクロッカス最大の建物の前へと来ていた。
「これがフィオーレ王国の王様の居城…」
「カトウキュウ・メルクリアス!」
「私、初めて見た!」
「おいらもだよ~」
見上げてもてっぺんがなんとか見えるほどの高さを誇っている城。二人は息を飲んだ。
早速中に入ろうとするのだが、階段の所で門番に阻まれる。
「こらこら、なんだ貴様らこんな時間に」
「すみません。実は大魔闘演武の予選に参加するはずのうちのギルドの者が行方不明で」
「クロッカス中、探したけど後はここだけなんだ」
行方不明となっているのはウェンディとシャルルだった。
二人で仲良く観光地巡りに行くと張り切っていたが、指定された12時になっても帰ってこなかった。
ナツ達は5人いないと予選通過出来ず、また早く行かないと先を越される可能性があったので代わりにエルフマンを入れてスカイラビリンスに挑んでいるのだ。
ハッピーとリサーナはその間、ウェンディとシャルルを探し回った。ギルドの皆に効率よく探してもらっているがまだ発見したという報告はない。
そこで唯一捜索していない城へとやってきたのだ。
もし、二人の身に危険が及べば特にソウが何をしでかすか分からない。
今はギルドの一員ではないことになっているので会う確率は低いが、応援に来ると手紙には書いてあった。
そんなのは関係なしにギルドの皆は必死に探してくれている。
門番の二人はひそひそ話を始めた。そして、二人に告げた。
「大魔闘演武は国王陛下も楽しみになさっておられるからな」
「城の中庭までならいいぞ」
門番の二人は横に開いて道を作った。
『なんだって!まじかよ、お前ら!』
『どうかしたんのか?』
ウォーレンにこのことを魔法で伝えると、驚愕しており彼の隣にいたマックスが尋ねた。
『ハッピーとリサーナが今、王宮に入ったってよ!』
『な………!俺だって入ったことねぇのに!』
「よく入れてくれたよね………」
「庭園あたりなら観光地として開放しているからね」
二人はしばらく歩いていると目の前に左右に道が別れているところに出た。
「ここらでふたてに別れよう」
「分かった。何か分かったらウォーレンを中継して」
「あいさー!」
『分かった。俺らもメルクリアスにすぐ向かう』
初日からトラブルとは気が思いやられる。
『さあ!9チームが出揃いました。大魔闘演武予選、スカイラビリンス終了~』
立体映像でクロッカスの町中のどこからでも見えるカボチャ。
中庭へと向かっているマックスが結果がどうなったのか、叫ぶがカボチャはなんなく続けた。
『どのギルドが本選に出場か~、それは開会式までのお楽しみ~』
「そっか、もう予選終わっちゃったんだ」
リサーナはそう言いながらも走り続ける。
するとリサーナの目にハッピーが固まっている姿が目にはいる。
「ハッピー、どうかしたの?」
「あ………あれ……」
「嘘でしょ……」
二人の視線の先にはバッグが落ちていた。
さらにあれはウェンディが所持していたはずのバッグなのだ。
兄と買い物に行ったときに買ってもらったと大事そうにしていたのが印象深い。
リサーナはバッグを拾い上げた。
「ウェンディのだ………シャルルは?ウェンディは?」
「落ち着いて、近くを探そう」
「そうだね………」
「行こう!」
「あい………」
二人は近くを探しに出た。
それを上から見ていた黒い影。さらにそれに近づく少女。
「お主の仕業か?」
少女───師匠は影を見上げて、問いかけた。すると黒い影はあっという間にその場を逃げていった。
師匠はただ見つめているだけだった。
その後、無事に二人は発見された。
『何だって二人を見つけたって!無事なのか!?』
「それが二人とも意識がないの。早く誰か寄越して、ウォーレン!」
ウェンディとシャルルは中庭のとあるちょっとしたスペースで倒れていた。
「シャルル!しっかりして!おいらだよ!」
ハッピーが涙目になって呼び掛ける。
だが、シャルルからの応答はない。
リサーナはウェンディを抱える。
「怪我はないみたいだけど………おかしいな………ウェンディから魔力が少ししか感じない!」
「シャルルからもだよ!どうすればいいのさぁ!」
すると、ウェンディがゆっくりと目を開けた。
「気がついた!」
「ウェンディ、何があったの!?」
だが返ってきたのはいや!と拒否する返事。ウェンディは首を横に振った。
先程のを思い出して怖がっているのだ。
「ウェンディ!私よ、リサーナよ!分かる?」
「おいらもいるよ!」
「………ハッピー…………リサーナさん………私………一体………」
「何があったの?」
「それが………」
まだ、状況が整理出来ていないようだった。
「お兄ちゃん………」と呟くとウェンディはまた、気を失ってしまった。
リサーナとハッピーは誰かが来るまでここで待機していないといけなかった。
「やっと来たのじゃな」
「「誰!?」」
何処からともなく声が聞こえてハッピーとリサーナは警戒する。
声の主は空中に浮かんでいた少女だった。
「そう、警戒せんでもよい。その子のことは妾も知っておる。ひとまず、応急処置はしておいたからのう、後は安静に寝かせておればそれでよいぞ」
「あなたは誰なんですか!」
警戒を解いてもらえないようで、少女は「どうするかのう………」と頭を掻いた。
ハッピーもまだ、警戒している。
だが、少女の言う通りウェンディとシャルルには処置が施されているようだった。魔力が少しあるのもそのお陰なのだろうか。
「治療は妾の分野ではないからのう。それぐらいしか出来んわい」
「そのことについては感謝します」
「ウェンディとシャルルを襲ったのはお前なのかぁ!!」
ハッピーは声をあらげた。
それを聞いて少女は何か納得したのか頷いた。
「そうか………お主らは妾が犯人だと思っとるのか………そやつらを襲ったのは妾ではないぞ」
「そんなの信じられないね」
「それもそうじゃのう………あやつは今、呼びに言っておるし………」
何かを考え始めた着物少女。
すると、少女の背後から「師匠ー!」と声がハッピーとリサーナにも聞こえてきた。この声には聞き覚えがあった。
「師匠、呼んできたよ~」
「そうか、ご苦労じゃったのう」
「レ、レモン!」
ソウと一緒にフェアリーテイルを離れたはずのレモンがいたのだ。
遅れて誰かがやって来た。ウォーレン達だ。
「ほれ、早く連れていかんかい」
渋々、ウォーレン達はウェンディとシャルルを抱えて運んでいく。
「師匠、私も付いていって良い?」
「構わん、あやつらにこの事は妾から伝えておくわい」
「ありがとー」とレモンは運ばれていくウェンディとシャルルの後を追った。
「レモン、あの人は?」
「あの人は悪い人じゃないから大丈夫」
レモンがそう言うなら大丈夫だろう納得するハッピーとリサーナ。
ふと振り返るとそこには誰も居なかった。
大魔闘演武本選まで後、少しだ。
続く──────────────────────────────
次回、ついに開催します!!
ここまでの道のり………長かった…………。
オリジナルの敵キャラってあり?(無しの場合だと、原作に出てきた敵キャラのいずれかを主人公が奪い倒す形となる予定)
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あり
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なし
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ありよりのなし
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なしよりのあり
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どっちでも