ピンからキリまでの評価や一日で沢山のお気に入り数が増加したり、ランキングにも載ってたそうですね。
ありがとうございます。
*1-2の最後に書きそびれたシーンを追加しました。
―――では、どうぞ。
◇◇◇
テンドウ山。洞窟。
「何をするんですか!?」
洞窟の中に連行されたシズク。
あの岩石兵士はその場で暴走する事もなく、シズクを肩に背負っただけ。他に目立った動きは見せなかった。
村で暴れられても困るので大人しくしていたシズクだったが黙々と何処かへと運ばれていき、やがてテンドウ山の中腹にある洞窟に連れていかれた。
雑に下ろされたシズクは不器用にキレた。
「うるせぇ女だな」
「誰ですか!」
ちゃらちゃらとした強面男が現れる。
辺りを見渡せば、ここは洞窟内部でも結構な広さを誇る空洞のようだ。いくつも通路へと繋がる穴が確認できる。
「てめぇが依頼主だな」
「………」
返答は睨み。
「まぁいい。オレ達が静かにしていたにも関わらず邪魔をするってのなら容赦はしねぇ」
「目的は何ですか」
「はぁ?決まってんだろ。この山に眠る財宝だ」
「なっ!?そんな事が許される訳が無いじゃない!!」
「勘違いも程ほどしい。許すもなにも、オレ達は闇のギルド"
「闇ギルド………!!」
別名、無法者集合地帯。
評議院から正規の手続きを得て、認可されたギルドとは違うギルド。悪人が集うギルドの象徴とされている。
今のシズクに"老狼の骨"というギルドがどれ程の規模なのか知る術はない。
「今のお前は単なる人質だ。それ以下でも以上でも利用価値はない。覚えておけ」
「くっ………」
「仕事に戻るか」
シズクは悔しく唇を噛む。
拘束された身の上、ソウにとっては邪魔な存在でしかならない。手助けをする一心で来たのに、逆の羽目になるとは。
「起動―――"
男の詠唱に呼応して地べたの岩が光る。
岩は段々と眩い光に包まれていく。光が収まれば、そこには岩石の兵士―――ゴーレムが鎮座していた。
「そんな………」
はっとして見渡す。
数えきれない大量のゴーレムが意思を持ったように行動していた。
通路を見張るゴーレム。荷物を運ぶゴーレム。採掘のみをするゴーレム。
他に人間は殆ど姿が見えない。男には仲間が居ないのか、他の場所で役目を果たしているかは不明。
「………誰かさんのお陰で急ピッチで作業を進める羽目になったからな」
「え?」
「おい!!お前ら!!とっとと回収して引き上げるぞ!!」
ゴーレム達にカツをいれた男。
最初の呟きの真意は分からない。だが、男自身もキリのない作業に焦りは感じているらしい。
宝石が眠るとされるテンドウ山。
だがしかし、発掘するとなれば地盤の固さがどうしても邪魔となり、余分に時間を要してしまう。
人間で無理ならゴーレムはどうか。
パワーは桁違いなので、作業スピードは大幅に上がる見込み。男はそれを分かっており、ゴーレムに全てを一任。他のギルドメンバー達は総動員してまで魔導士の行動を警戒していた。
目立つ行為は避けたいシズクはじっと大人しくその時を待つ。
―――と、そこに。
「マスター!!少し良いですか!!」
「おう。何か見つけたか?」
「他とは違った珍しい物が出てきたので是非ご確認をと」
「そうか。今行く」
男が空洞から離れる。
監視の目が外れたシズクであったが、ゴーレムの動向がどうも気にかかる。
何体かのゴーレムの動きが停止したのだ。
「もしかして………複雑な動きだと術者が離れると魔法が発動しない………?」
事実、幾つかのゴーレムは動いたまま。
いずれも単調に近い命令を実行するばかり。下手に刺激さえしなければ危険性はどれも低い。
チャンスがあるとするなら今。
「縄が………!!ほどきなさい………!!」
無駄にキツくやられた。
背中に回した手首を縄で何重にも括られたので誰かの助けがないと厳しい。
「………さん………!!」
聞き覚えのある声が微かに届く。
「姉さん………!!」
「セルジュ………!?どうしてここに………!?」
周りに警戒をしつつ気配を消しながら、シズクの背後にセルジュが現れた。
「見張りの人が全然居なくて………すんなり行けた」
「そうじゃなくて………!!何で来たの………!!危ないでしょ………!!」
「―――姉さんこそ危ないよ!!」
弟の滅多にない怒りの顔。
目にしたシズクは言おうとした言葉に詰まってしまう。
「………姉さんまで失うのはもうイヤだ」
セルジュの両親はもう居ない。
シズク達がまだ小さい頃、街へと出掛けた両親が何らかの事故に巻き込まれて還らぬ人となったから。
偶発的に発生したその事故は多くの死者を出し、世間でも大きな話題となった。評議院も絡むぐらいに。
シズクやセルジュ、シオネは事故当初、村で留守番をしていた。幸運にも一命を取り留めと言える。
だが、前触れもなく両親は居なくなる。父さん、母さんと呼ぶ日は未来永劫来ることが無くなった。
平穏な日常が一転。
―――辛い日々が続いた。
村の皆は優しく接してくれた。親代わりに思えるぐらいに親身になってくれる人もいた。村長はずっと家族の一員と言ってくれた。
シズクは長女として、二人に弱気を見せる訳にはいかない。故にその思いを胸に懸命に頑張り続けた。
シオネは持ち前の明るい性格が響いた。時折、見せる暗い顔に不穏な空気は感じつつも夢を見つけた彼女に普段通りまで立ち直るに時間はかからなかった。
セルジュだけは―――違った。
セルジュは両親の死と正面からぶつかってしまう。幼いセルジュに勝てる算段はない。結局、以前と比べてセルジュは口数が極端に減った。あまり感情を口にする事も無くなった。
そして―――魔法を恨むようになった。
何故なら。事故発生から暫く経過して、事故の原因に何らかの魔法が関与していると判明したからである。
勿論、魔法は人間の仕業。魔法自体に罪はない。使う者に責任があるとは承知の上。
だけど、幼いセルジュはその事実を知った時に魔法が両親を奪ったと解釈してしまう。そのまま己の心に呑み込んでしまった。
「………大丈夫よ、セルジュ。私は貴方の側から居なくならない」
「うん。警備が薄い今のうちに逃げないと」
「そうね」
「待って。ロープを切るから」
拘束していたロープもほどけた。
シズクも自由に動けるようになり、後はここから脱出するだけ。
空洞から小さな通路のような洞窟へ。
「Gagaga―――」
「っ!!セルジュ!!」
ゴーレム。徘徊する警備タイプだ。
シズクは瞬時にセルジュを胸元に抱え込み、身体を壁へと寄せて隠れる。
じっと身をこらえ、時が過ぎるのを待つ。
「………行った?」
「えぇ。にしてもここが何処なのか全く分からないわ。出口の目印があれば良いのだけど………」
―――ターゲット、ハッケン。
「なんで!?」
「っ!!別のやつね!!セルジュ、逃げるわよ!!」
別の個体に感知された。
シズクはセルジュの手を取り、走り出す。洞窟の構造が分からない以上、分かれ道は適当に決めて進むしかない。
がしがしと背後から追い掛けて来る音。
再び捕まってしまうなんて最悪な事態はどうしてと避けたい。
ひたすら逃げたその先は―――
「そんな………!!」
広がる空洞が眼前に。
「戻ってきたの………?」
見覚えのある景色。ついさっきまで。
何もない空間に投げ出された二人は小さな絶望にうちひがれる。
敵は待ってはくれない。ゴーレムが通路から出現した。
絶体絶命のピンチ。
シズクはゴーレムと向き合い、セルジュを背に隠した。
「姉さん!!」
セルジュが背中越しに訴える。
だが、二人のピンチはさらに続いてしまう。
「残念だったな。こんな事態もあろうかと簡単に逃げられないように通路が袋小路みたいになってんだよ」
強面男も別のゴーレムを配下に従え、登場。
「ガキが紛れ込んでじゃねぇか。あんの馬鹿ども。またどっかでやらかしやがった」
軽く舌打ちをした男。
じりじりと空洞の壁際に追い詰められるシズクに対して、男は不機嫌そうな表情を見せる。
「一発軽いお仕置きが必要か」
男は冷静にゴーレムに指令を告げる。
「やれ」
シズクの正面に携えるゴーレムが反応。
人間では一溜まりもない岩石の巨腕をがっつり握り締めて、引き絞る。
「セルジュ………ちゃんと私の後ろに居るのよ」
「そんな!!あんなの受けたら姉さんだって、ただじゃすまない………!!」
「大丈夫」
そんな訳がない。
セルジュは姉の嘘をすぐに見破る。ぶるぶると彼女の足が震えている。
ゴーレムのパンチが発射―――
「くっ!!………ごめんなさい!!」
その瞬間。
弟の謝罪する声と一緒にシズクは自身の身体がふんわりと浮かんだ感覚に捕らわれる。
何故か視界も横に向いた。
数コンマもせずして、地面に身体が激しく打ち付けられる。
―――セルジュに身体を押された。
そうシズクは理解する。
だけど、理解しても既に手遅れであって。手を伸ばすにも届くには程遠くて。
「―――っ!!」
無慈悲にもゴーレムの攻撃は―――
1-4 へ続く。
裏設定:魔法『人形兵』
岩石や石に魔法陣を描き、そこに魔力を注げば、自動的にゴーレムへと変貌させる魔法。
ゴーレムには簡単な指示などは永続的に働かせる事が出来る。自由自在に操るには、常に近くから魔力を継続して注入する必要がある。
*え?ヒロイン?………まだまだかなぁ。