FAIRY TAIL 波地空の竜   作:ソウソウ

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 前回までのあらすじ:
 ソウとウェンディの細やかなデートも束の間、メストの正体が遂に明かされる。シャルルとリリーも合流してようやくメストは重い口を開く。
 と、突如その場で爆発が発生。犯人は他でも無い闇ギルド"悪魔の心臓"のアズマ。目的が定かでない中、こいつは危険と判断したソウはウェンディ達を逃がして、アズマと対峙するのであった。



5-2『対アズマ戦』

 ◇◇◇

 

 天狼島。外周部。

 

「拉致があかんな………」

 

 戦闘が開始して、数分が経過。

 どちらも攻め手に欠けており、ジリ貧な状況が続く。このままだと不利となるのは間違いなくソウの方であり、いつもの余裕綽々な態度は既に失せていた。

 単独潜入を実行したアズマの魔導士としての強さは確かにお墨付き。戦闘も経験自体が十分積まれているのか、柔軟に対応されるのがその証拠。

 敵の応援が来る前にアズマを撃破、が妖精の尻尾側の最善な結末ではある。が、いざそれをするとなると魔力を集中して全力になる必要があり、探知魔法等は解除しなくてはならない。

 

「噂では"妖精の尻尾"最強と唱われるS級魔導士も実際はそんなものかね」

 

 アズマがあっけらかんと言う。

 彼がどんな期待を抱いていたのかはソウが知る由もない。だからと言って、その期待に答えるのはお門違いだ。

 足止めが成立しているのはアズマ本人がソウとのバトルを望んでいたから。となれば、アズマの戦闘本能を刺激すれば時間は稼げる。

 だが、稼いだところで利点はあり得るのか。

 ソウの脳裏にちらつく。

 正直、他の味方が相手するにしては目の前の強敵は余裕でもて余す強さがあると思える。エルザやギルダーツクラスでないと、奴に損害を負わすことさえ不可能だ。ミラは魔法の相性が悪い。

 やはり、自分が倒した方が得策か。

 神出鬼没の魔法を使えるアズマに魔導士として実力的に敵わない仲間達に一方的な襲撃をされるのが一番懸念すべき事態。早めに解決はしておきたい。

 

「俺に一体何をご所望で?流石に命を頂戴だとかは無理だけど、ちょっとぐらいの融通は効かすぞ?」

「では、正々堂々の勝負を」

「闇ギルドらしからぬ言葉が出たな。珍しい」

 

 行動理念は単なる戦闘意欲。

 欲するは強者との対峙であり、他は何も望まないと言葉にせずともアズマの意思はソウには分かってしまう。

 かつて同じ人種であったが故に。

 

「だけど、それはちょいと無理な相談だな」

 

 アズマの懐に飛び込む。

 右手に魔力を込め、解き放った。衝撃波として変貌を遂げた魔法は確執にアズマを捕捉する。

 対して、アズマも反応していた。

 

「【ブレビー】」

 

 両者との隙間で爆発が発生。

 衝撃波を緩和され、同時に姿も眩ませたアズマ。これがソウにとって厄介極まりない戦術であった。

 追撃は可能だが、アズマに対処される。無意味な動作を繰り返すだけとなり、不要な魔力の消費だけは避けたい。

 なら、思考を逆にしてシンプルにどちらが最初に力尽きるかという魔力比べも候補の一つにあった。

 無論、この案はボツ。こんな序盤で魔力全てを使いきる覚悟は流石に無い。まだまだ"悪魔の心臓"との戦争は続くだろう。仲間との情報の共有が不十分な現状、無闇に自分だけが早々にリタイアするのは避けたい。

 

「ふんっ!!」

 

 背後に音もなくアズマが出現。

 右拳をストレートに抜くが、ソウはその場にしゃがんで回避。左脇腹から出した右手から衝撃波による反撃をする。

 アズマも再び地面へと潜り、難を逃れる。

 

「ふむ、こうもオレの爆発から逃れるとは。流石、S級魔導士と言ったところかね」

「お褒めの言葉、どうも。とそうは言いつつ、そちらさんも俺の魔法はあっさり対処するからお互い様だと思うけど」

「"ソウ・エンペルタント"。滅竜魔導士であり、属性は"波動"。どんな相手だろうと木っ端微塵に破壊する戦闘を行い、数々の何故か闇ギルドを潰したと言われている」

 

 アズマが唐突に語り始めた。

 

「中々に調べてきたご様子で。有名人気分を味わえてちょっとだけ嬉しいぞ、この野郎」

「逆に言えば、判明した情報はたったのそれだけ。謎の多い存在とも言えるがね」

 

 出現頻度が低いせいかなとソウは考える。

 いや、余計なお世話だ。

 普段はクエストで人間とは無縁の環境に滞在する機会も多いし、あったとしても直接対峙する事がない。

 集団よりも単独を優先するソウの情報を、アズマが集めようにも集められなかったのは必然的だ。

 

「対して、オレの魔法は失われし魔法『大樹のアーク』。植物を自在に操れる魔法なのだよ」

「爆発もそのせいか」

「自然の力を使ってるのだよ」

 

 アズマの足元。地面に亀裂。

 にょきと植物の根っこが挨拶代わりに顔を出す。あれに拘束でもされれば、面倒だなとソウは思考する。

 全部吹き飛ばせば、何の問題もないが。

 

「ここまで付き合ってくれたお礼に一つ教えてあげよう。オレ以外にも近い内に"煉獄の七眷属"を筆頭にこの天狼島に到着するのだがね?お前には特別な待遇が待っているのだよ」

「おっと聞き捨てならんな。俺の存在は"悪魔の心臓"にとってそんなに警戒する必要があるのか?」

「いやはや、とある協力者がソウ・エンペルタントは任せて欲しいとマスターに進言したのだよ。どうやら、ある実験も兼ねてるらしいのだが………詳細は興味がなかったから省かせて貰うがね」

「………協力者ねぇ」

 

 ―――"煉獄の七眷属"ではない………?

 

 アズマの表現が引っ掛かる。

 同じ立場である他の魔導士を指すのであるのなら、そんなくどい言い回しは違和感しかない。

 となれば、第三者。それも目当ては自分。

 心当たりが無いので推測しようもない。今は大人しく後手に回ってしまうしか無いが、無碍に敵の罠へ飛び出てしまうのも不味い。

 もっと情報が欲しい。アズマ曰く、これ以上は持ち合わせてないとの事だが一方でアズマに嘘をつくメリットはほぼ無い。事実であるのは間違いない。

 

「そこまで親切にしてくれてもさ、俺からは何も教えられ無いぞ?」

「必要ないのだよ」

「そう………かい!!」

 

 後ろへジャンプしたソウ。

 その数コンマ後に爆発による砂埃が二人の視界を遮断した。

 

「【ブレビー】」

 

 ソウの正面。

 砂埃をものともせず、突っ切ったアズマはソウを囲む要領で小さな光の玉を散らばした。

 それこそが爆発の元。

 が、ソウもじっとはしていない。ソウを中心に全方位へ衝撃波が解き放たれる。

 

「【衝大波】!」

 

 爆発を除ける。

 と、爆発の二次被害により発生した砂煙がアズマの視界を奪った。アズマ本人には無害であるが、ソウを一瞬でも視界から外したのが問題だ。

 

「がら空きだ」

 

 低姿勢のまま懐に飛び込むソウ。

 ここに来て初めて見せたソウの高速移動にアズマの反応が遅れた。表情が驚愕へと染まる。

 ソウが右手を引き、放つ。

 

「【はっけい】」

 

 アズマの胴体へ着実に。

 だが、腕によるアズマのガードが咄嗟に間に合う。流石は"煉獄の七眷属"とだけあって、反射神経も人並みを越えている。

 

「くっ!【タワーバースト】!!」

 

 追撃を恐れてか、アズマは全身を炎柱が包んだ。上空の雲にまで届く勢いだ。

 あの中に飛び込む勇気は無いソウは体勢を戻して、一歩下がる。

 ガードはされたが、あの一撃はアズマの身体に確実に届いた手応えがソウにはあった。

 

 ―――【波動式七番】はっけい。

 

 人体へ魔力を送り、内部から壊す。

 蝕むかの如く襲われる内からの衝撃波はどんなに強靭な肉体であろうと無意味だ。

 

「見事なり。間一髪防御が間に合っていなければ、オレの身体は簡単に砕けていたのだよ」

「そこまでおっかない魔法じゃ無いんたけどな」

「だがしかし。この勝負、一先ずはオレの勝ちと言えるのだよ」

 

 ニヤリと笑みを浮かべるアズマ。

 形勢はアズマが劣勢の筈。なのに、そんな余裕っぷりを発揮するのは自覚していないのか別の理由があるのか。

 にしても戦闘が開始されてから、体感的に時間はどのくらい立ったのだろうか。

 

 ―――時間?………いや待て。この状況、俺が時間稼ぎされてないか?

 

 アズマの時間稼ぎ。

 それが今のソウの方針であり、アズマの目的の邪魔を果たせるかと考えていた。

 だが、アズマが強引に突破する様子はない。むしろバトルを楽しんでいる雰囲気さえある。自身のギルドから先行して潜入したのに、これはおかしいのでは無いだろうか。

 思考を逆にして考える。

 アズマにとって第一優先事項は味方を安全に天狼島まで送り込む事。となれば、真っ先に排除すべき障害は潜入する前に察知、対処してくる人物である。

 "妖精の尻尾"で一番に該当するとなればソウの名が上がる。波動による探知は逆探知が難しく一方的に情報を与える状況を作ってしまう。加えて、ソウ本人も易々と撃破するのは困難。

 と言いつつ、その対策は実にシンプル。最も有効的かつ簡単な方法はソウの意識を割くことだ。

 広範囲になればなるほど、ソウは探知魔法に集中する必要があり、そこに他者から妨害が入ってしまうと意図も簡単に探知魔法は効果を発揮しない。

 時間稼ぎをしていたつもりが、逆にしてやられたという事実。助長するかのようにソウが探知魔法を発動すれば、反応したのは遥か真上。

 

「………あれは?」

 

 上空を飛行する謎の物体。

 否、あれは人だ。それも背中に背負ったジェットパックに備えられている持ち運び用のスペースには十………百を越える魔力反応が検知された。

 いずれも性質が異なる。となれば、その数だけあの中には魔導士が存在していると意味しており、中には強大な魔力もちらほら。

 つまりは人の移送に特化した魔導士による襲撃。用途は想像すらしたくない。羊のような面をしている割には厄介な仕事をしてくれる。

 

「ふむ。楽しいと思える時間はあっという間なのだよ」

「逃がすと思うか?」

「いや、オレを逃がすの決定事項である」

「ん?いやいや、何処からそんな自信が生まれて………」

 

 アズマの心拍数に異常は無し。

 根拠が読めないので、断定はしにくいがアズマは何かしらの策を用意していると踏んだソウ。

 その時、ふと直感的に察した。

 

 ―――アズマの視線の先。

 

「ソウ~、マスターってどこにいるの~?」

 

 帰還したレモンの登場。

 本人的にヤル気満々で向かった癖に肝心の目的地を知らないと気付いたのだ。なら、とソウに尋ねる為に戻ってきていた。

 探知魔法も一応していたが、レモンの魔力が微力であるが故にそちらに意識を回していなかったソウが事前に発見するまでには至らなかった。

 

「レモン!?バカ!!逃げ―――!!」

 

 それも最悪のタイミング。

 

「【チェインバースト】」

 

 ソウの足元に亀裂が走る。

 それはアズマの攻撃を避けるのではなく、レモンの元へと駆け付ける為。

 悪人には珍しいずる無しの正々堂々とした戦闘を好む性格の持ち主だったが、その根っこはやはり変わらない。

 不利と悟るや否や、攻撃目標を即座に変更した。

 

「ソウ・エンペルタント。最後までやりたいものだったんだがね。今は時間が惜しい」

 

 人を飲み込む規模の爆発。

 レモンを標的としたその爆発はアズマの手によって即座に実行され、庇ったソウも巻き込まれる形となった。

 空中では身動きも取りづらい。あの一瞬での回避は不可能、確実にダメージは入ったとアズマは背を向けてこの場を悠々と離脱していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5-3 へ続く。

 




 *オリ敵キャラ、出演決定!乞うご期待!

オリジナルの敵キャラってあり?(無しの場合だと、原作に出てきた敵キャラのいずれかを主人公が奪い倒す形となる予定)

  • あり
  • なし
  • ありよりのなし
  • なしよりのあり
  • どっちでも

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