あの日から数日が経過。ソウの久しぶりの帰還により盛り上がりを見せていたギルド内もいつもと変わらない喧騒のある日々へと姿を戻していた。
そんなとある日。ルーシィはふと多くの魔導士に共通して落ち着きがないように感じ始めていた。
一体何が原因なのか分からないまま、ルーシィは今日その日を迎える事になる。
◇◇◇
妖精の尻尾、ギルド。
「魔力がそわそわ~って、してる~」
ぴしゃりとレモンが告げる。
酒場にある奥のステージに群がるように集まるのは妖精の尻尾の魔導士達。
誰もが共通して、何かを待つように落ち着きく各自で時間を潰していた。
「ミラさんが昨日言ってた事と関係あるみたいだけど………というか、なんでアンタは私の頭に乗ってるのよ」
「ソウにあっち行ってろって放り投げられて~、そこにルーシィの頭があったから~」
「はいはい。もう好きにして頂戴」
目上のレモン、動く気配無し。
ルーシィはそわそわ集団から一歩離れたテーブルからその様子を眺めている。
ふと、レモンは鼻をむずむずと動かした。
「ルーシィ、変な匂いする~」
「えっ!?嘘ぉ!?毎日お風呂入ってるのに!?」
「嘘~。良い匂い~」
「………。この猫ぉ!!」
ルーシィ、無理矢理に剥がそうとする。
ぴったりとくっついたレモンはぐぬぬ、と抵抗を続けるのでルーシィは結局諦めてしまった。
「相変わらずね」
「レモン、あまりルーシィさんに迷惑をかけないようにしないと駄目だよ?」
「冤罪だよ~。ルーシィが憩いの場所、奪ってくるし~」
「ずっと乗ってると頭が重いんだけど!?」
ウェンディの注意も特に効果無し。
せめてものばかりにルーシィはお得意のツッコミを発動。頭上で居眠りするレモンにダメージは無いようだ。
と、ウェンディとシャルルも合流する。
「ところで、これは何?」
「皆さん、最近からずっと落ち着きがありませんけど………」
「それが………私にもさっぱり?」
心当たりは特に無し。
あるのはむしろ周りの仲間達。やけに仕事に精を出し、無駄に張りきる始末。
ルーシィは既に事情を知っているであろうミラに尋ねたがその時は見事にこうはぐらかされた。
―――時期に分かる、と。
「あっ見てください!」
ウェンディが指差す。
その場所はギルド奥のステージ。舞台に下ろされた豪華な垂れ幕が印象的だ。
そして、ステージ中心に立つのは"妖精の尻尾"ギルドマスターの"マカロフ"。
加えて、その後ろに並び立つのは―――
「エルザ!それにミラさんとギルダーツと………」
「お兄ちゃん………」
「でもなんで?えっと、四人に共通する事と言えば―――」
「S級魔導士~」
「そう!!それよ!!」
そして、ステージに注目するのは他の者も同様。ギルドに所属する全員だ。
その証拠に次々と野次が飛び交っている。
コホン、とマカロフが咳を一つ。その瞬間、静寂が一気に場を制圧した。
「妖精の尻尾、古くからの仕来たりによって、これより開催する」
―――S級魔導士昇格試験。
「その出場者を発表する!」
突如、響き渡る雄叫び。
ルーシィの驚愕っぷりはあっさりと飲み込まれた。
と同時に納得も行く。
最近、多くの魔導士が仕事熱心な日々を過ごしていたのも、要はこの試験への出場券を得る為のアピールだったと言う訳だ。
マカロフの説明は続く。試験の舞台となるのは天狼島。妖精の尻尾の聖地となる場所だそうだ。
「試験って何するの?」
取り敢えず近くに居た人に訊いてみた。
返答はあったが、どうやら規則的なルールはないらしく、毎年の試験内容はランダムに入れ換わる、とのこと。
マカロフは早速、出場者の全容を公開する。
今年の出場者は以下の八名。
――"ナツ・ドラグニル"。
――"グレイ・フルバスター"。
――"ジュビア・ロクサー"。
――"エルフマン"。
――"カナ・アルベローナ"。
――"フリード・ジャスティーン"。
――"レビィ・マクガーデン"。
――"メスト・グライダー"。
次に正式なルール説明。任を受け継いだエルザとミラが担当して滞りなく進行していく。
選ばれし八人は準備期間、一週間の期限内にパートナーを各一人決めておくこと。また、パートナーは必ず妖精の尻尾所属かつS級魔導士以外の条件付き。
また、合格者は必ず一名のみ。無論、全員が不合格の可能性もまたある。
「そっか。エルザとかパートナーにしちゃうと無敵だもんね………」
「ルーシィ、ずっる~」
「ちょっと!?聞き捨てならないわよ!?と言うか、そもそも私出ないんですけど!?」
レモンに反省の色無し。
「それに合格するのは一人だけ………」
「当たり前よ、ウェンディ。単にS級魔導士になる為に必要な要素は目の前の試練だけじゃないのだから」
「う、うん。凄いね………私も頑張らなくちゃ」
改めて覚悟を決めたウェンディ。
その視線の先には兄として尊敬し、魔導士としても一足先にあちら側で威風堂々と立つソウ。
すると、ソウが小さく手を振る。
表情も少し緩んだ。どうやらウェンディの視線に気付いた様子。
ウェンディも返事に小さく頷いた。
「今回の試験でも貴様らの行く先をエルザが邪魔するぞ」
試験の内容も続々明らかに。
具体的な中身は試験当日までのお楽しみだが、少なくともエルザがその進路の妨害をすると判明した。
鬼、と呼ばれるエルザの参戦は試験に挑む者にとって脅威以外何物でもない。
「今回は私も皆のお邪魔係をしま~す」
だが、ミラもここで乱入。
ミラの笑顔がステージで咲く反面、ざわめきがギルド一帯を占める。
魔人の参戦。本番で相対した時には、勝機は一気に消滅すると思って良い。
「お前らブーブー言ってんじゃねぇ。S級に上がった奴全員が通った道だぞ」
ギルダーツの叱咤が入る。
これだけで察しの良い者は冷や汗を浮かべた。
ミラの件に関して、ギルダーツはノーコメント。むしろ、助長している感もある。
つまり―――
口に出すのもおぞましい事実に青ざめてしまっている者も既に続出している。
「ギルダーツも参加するのか!?」
「嬉しがるな!!」
例外ありだが。
「おう!今回はオレも妨害メンバーの仲間入りだ。容赦なしだから一切合切よろしく頼んだぞ♪」
にっこり、と笑うギルダーツ。
あまりの衝撃的な発言に、たまらず全員が「うわぁ………」と口から漏れる。
しばらくして、皆の注目先はまだ正式に試験に参戦するか公表していないS級魔導士であるソウに集まる。
「ん?皆揃って、何?俺の場合はどうって………よろしく?」
―――あぁ………終わった。
何人かが絶望の顔色に染まった。
"妖精の尻尾"最強と称される男と覇王と二つ名を持つ少年も試験に参加が決定。
どうしろと。圧倒的な力量の差などやる前から明確なのに。
「今回はパスで良かったかもしれない………」
「えぇ~、やっぱりルーシィはずる~」
「だって!?試験でソウかギルダーツが敵として登場する可能性もあるって事でしょ!?」
「そうね。本番で当たった人はドンマイとしか言えないわ」
「あはは………」
から笑いしか出来ない。
今回は出場しないルーシィやウェンディにとっては無関係な話でもある。が、将来的な観点から鑑みれば無視するのは駄目な話でもあった。
「試験は一週間後!!参加者とパートナーはハルジオン港に集まるように!!では解散!!」
―――心と魂と力と。
試験に挑む者もまた各々の誇りと魔法を胸に秘め、試験当日を待つのであった。
◇◇◇
妖精の尻尾、ギルド。
「なる………ウェンディも出るのか」
バーカウンターでのんびりしていた。
そこに現れたのは珍しくシャルル一匹であり、相棒のウェンディの姿はない。ちびちびとジュースを隣で飲み始めたので、黙って俺も座り続けた。
「私は反対したのよ。でも、あの子は………」
ポツリポツリとシャルルは語る。
内容は実にシンプル。ウェンディと意見のすれ違いが起きて、喧嘩に発展してしまっただけ。
その日以降、互いに口は聞いていない。
俺が驚いたのは喧嘩した部分ではなく、別の要素。
「メスト………知らん名前だな。俺が留守の間にまた増えたのか?」
ウェンディをパートナーに選んだ者。
シャルルはメストと組むのは容認出来ないと告げたが、ウェンディがそれを拒否。結果、二人の関係に亀裂が入った。
メストがミストガンの弟子と告げたのがウェンディにとっての決め手だったらしい。
ミストガンに向けてちょっとでも恩返しになれば、との事。
「心配か?」
「えぇ」
「試験は確かに厳しい。だからと言って、危険が伴う訳ではないから大丈夫。なんなら俺も試験中は警戒はしておくし」
「………お願いね」
「そこらへんは問題ない。俺が気になるのは………」
「何よ?他にあるの?」
「ミストガンの弟子………」
「え?」
「いや、今のはいい。忘れてくれ」
「アンタがそう言うなら………」
-4の2- へ続く。
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